王都脱出。
エリアやクレアの父親であるグランク様を、俺の手で討伐する……。
いきなりグランク様からそんなお願いをされた俺だったが、どうして良いか分からず隣に立つエリアに視線を移すと、彼女も同じ考えだったらしく視線が合うのだった。
「グランクお父様……。 いくら理性を保つのが難しくなって来ているとは言っても、共也ちゃんにお父様を殺した業を背負わせると言うのですか? それは余りにも……」
「エリア……」
グランク様の想いに応えて上げたい気持ちはあるが、この世界に転移して来てからずっと良くしてくれた彼を切る事は……。
グッとカリバーンの柄を力を籠めて握り締めると、ずっと事の成り行きを見守ってくれていた京谷父さんが声を掛けて来た。
「千世、共也、その人の望みを叶えて差し上げるんだ」
「京ちゃま……。 でも、お父様の願いは自身の討伐なんだよ!?」
「だからこそだ……」
「そんな!?」
京谷父さんを俺達の護衛だと思っていたグランク様だったが、エリアに親し気に名前を呼ばれた事で只の護衛では無いと判断して名前を尋ねるのだった。
「そなたは?」
「グランク殿、お初にお目にかかります。 エリア嬢が転生する前。 地球で千世と呼ばれていた時に父親だった、神白京谷と言う者です」
転生と言う事を初めて気刺されたグランク様は、方眉を上げて訝し気に顔を歪めるとエリアに確認する意味も込めて話し掛けた。
「ほう、転生とな? そうなのかエリア」
「はい……。 召喚の儀式が行われた日に共也さんと再会した時に、千世として暮らしていた日々を全て思い出したのです。 今まで言う事が出来なくてごめんなさい……」
「ふむ、物心がついた頃からちょっと変わった娘だとは思っていたが……。 そうか、共也君の居た地球からの転生者だったか。
まあ15年間一緒に暮らしていたのだ。 お前を家族の1員として愛した事実は変わらんから、彼がどの様な主張をしようが今更だがな!」
そのグランク様の台詞の裏には『エリアは私の娘だ!』と言う主張が聞き取れる事に、ちょっとムッとした京谷父さんだったが、気付いた時にはすでに元に戻っていた。
「ふ、ふふふ。 私は彼女の転生前の父親だと名乗っただけなのに、随分な言い方じゃないですか、グランク様?」
あ、戻っていなかった……。
「ハハハ! 京谷殿、許してくれ。 もう私は死んでしまっているからな、生きてエリアの父と名乗っている貴殿を羨ましく思ったのだ」
「了解しました……。 それで、先程の話しの続きですが、何故共也にあなたを討伐させる様な流れに持って行かれたのですか?」
「おお、そう言う話だったな。 ゴホン! 共也君、どうして私を討伐させようとしているのかと言う話だったが、これはちゃんとした理由があるのだよ」
「あなたの言う理由とは一体……」
理由と問うと、彼は急に自身のスキルを発動した。
「スキル発動【金剛】。 共也君、この状態の私を1度攻撃してみたまえ」
「は、はい」
スキル【金剛】魔物達が会議室を襲って来た時に、グランク様のそのスキルを使用して戦っている姿を見ていたので俺は遠慮なくカリバーンを振り抜いたが、攻撃が彼に当たった瞬間に硬質な金属を叩いた様な手応えが返って来た。
「共也君、私を攻撃して見てどう言う感想を持った?」
「はい、金属の塊を叩いたんじゃないかと確認した程です……」
「そう、それが普通の感想なのだ。 だが奴、光輝はスキルを使ったこの状態の私の首を切り落とした。共也君、私が言いたい事が分かるね?」
「金剛を使ったグランク様を傷すら付けられない者は、さらに成長した光輝を倒せるはずが無い。 こう言いたいのですね?」
「そうだ。 10年前の時点で奴は私のスキルを突破して殺して見せた。 魔物となって強化されたが、私を討伐する事すら出来無い者は、決して光輝に届かない断言出来る……」
グランク様の言いたい事は分かる、分かるけど……。
「共也、グランク様は自分を光輝の実力に最低限追いついているかどうかの、試金石にしろとって言っているんだ。 そんな彼の想いを受け止めないでどうする」
「京谷父さん……。 でも……」
「共也君、君に知り合いを殺すと言う業を背負わせる事を大変申し訳なく思うが、今も暗躍する光輝を止める為に、私を武人として安らかな眠りに付かさせてくれないか? 共也君、いや義息よ、頼む」
「グランク様……」
俺の事を義息と呼んでくれたグランく様の想いに応えて上げたい……。 だけど、やっと再会出来たエリアの前で討伐するなんて……。
そんな悩む俺の右手を、エリアは両手で優しく包み込んだ。
「お父様の言動が世界の平和を考えての事なら、私からはもう何も言う事は無いわ……。 共也ちゃん、グランクお父様の最後の望みを叶えて上げて……」
グランク様を討伐する覚悟を決めた彼女は、俺の右手を包み込む手がカタカタと震えていた。
そんな彼女の想いに応える為に、俺は一度目を閉じてこの世界に来てからグランク様とのやり取りなどを思い出していた。
そして、目を開けた俺はグランク様に頷いた。
「分かりました……。 ですが、あなたの想いに応えて屠ると決めた以上、俺が今出せる全力で相手をさせて頂きます」
「あぁ、それでこそ私が認めた男の答えだ……。 最初に会った時はあれだけ弱そうだった君が、この10年前で立派な武人の顔をする様になったのだな」
「それは京谷父さんのお陰でしょうね……。 ちょっと何度か死ぬ思いもしましたが……」
非難の意味も込めて京谷父さんに視線を向けるが、彼は知らぬとばかりに視線を逸らすのだった。
父さんめ、後で覚えとけよ!!
「ふふふ。 それでこそエリアが選んだ男だ、では始める前にまずは……、金剛!」
グランク様がスキルを発動したと同時に、デュラハンの体が金色の光りに包まれた。
「これで10年前の光輝と私が戦った状況と同じになった。 後は君が私を超える事が出来るかどうかだ!! 来い、儀息よ!!」
そのグランク様の宣言を聞いて、俺は魔剣カリバーンを収納すると、雷切を腰に差して抜刀の構えを取った。
「む? 変わった構えだが、それは共也君達の故郷の技かね?」
「はい、抜刀術と言われている必殺剣です」
「ほう、良い響きだな気に入ったよ。 構えから見るにカウンター技か。 ふむ、本来なら私から攻める事はしないのだが、どうせこの1撃が私の人生最後の一振りとなるのだ。 その挑戦受けようじゃないか!!」
金色のオーラを纏うグランク様は心底楽しそうに笑うと、剣を振りかざしたまま俺に高速で切りかかって来た。
深く集中していた俺の目には、切りかかって来るグランク様の動きがスローモーションに見えていた。
(義父さん、あなたの仇は必ず取りますから、どうか安らかに眠って下さい!)
振り下ろされる剣が額に剣が当たるか当たらないかと言う距離まで来た所で、俺は雷切を鞘から抜き放った。
「【神白抜刀術・壱の太刀・無拍子】!」
―――チン
鍔鳴りを1度鳴らしてグランク様の横を高速で通り抜けた俺は、雷切を振り抜いたままの体制で立っていた。
「共也君、確かに君の動きは凄いが私には何も起きていな……。 ぐ! ゲホォ!!」
「お父様!!」
雷切を納刀した俺はグランク様の前に膝を付くと、地面に付きそうな程の角度で頭を下げた。
「み、見事だ共也君……。 これで私は武人として、そして人として眠りに付く事が出来る……」
「お父様………」
「泣くなエリア、私はこの結果に満足しているのだ。 今も暗躍する光輝を、倒す事が出来る可能性を持つ者の道標になれたのだからな」
「うう。 お父様ぁ~~」
「それとエリア。 最早シンドリア王国の王位継承権と言う下らない肩書に、固執する必要は無くなったのだ。 だから世界を平和に導いた時は、女王と言う肩書は忘れて共也君と幸せに暮らすと良い。
私はお前の幸せになる姿を、あの世でずっと見ているから頑張りなさい」
「お父様……。 今まで育ててくれてありがとう……」
エリアの頭に優しく手を置いたグランク様は、俺が切った場所から少しづつ崩れ始めていた。
「そうだ、忘れる所だった。 エリア、お前達への遺言をこの封筒の中に入れてあるから、クレアとミリアと再会した時に開封して中を読みなさい」
「はい。 お父様の遺言、確かに受け取りました……」
3通の遺言状をグランク様から受け取ったエリアは、大事そうに胸の前で抱き抱えるのだった。
「共也君、最後のお願いを聞いて貰って良いかな?」
最早、グランク様の体は大半が灰となってしまい、もうあまり時間が残されていない。
「はい、俺が出来る事なら……」
「言ったな? 最期の頼みとはだな。 ……私の事をもう一度お義父さんと呼んでくれないか!? さっきは戦闘に集中していたから実感が沸かなかったのだ!」
……最期と言うから、どんな無茶振りをされるのかと身構えていた俺が馬鹿みたいじゃ無いか!
「……最後の最後なのにグランク様らしいですね。 お義父さん、エリアは必ず俺が幸せにしてみせますから安心して見守って下さい」
「ああ、君達の事をこれからも見守っているよ。 さよならだ……。 ん?」
もうほとんど体が消滅しかけているお義父さんは急に目を見開き、何かを操作している様子だったがそれもすぐ終わり、彼が消滅した場所には大きな魔石が1つ転がっているだけだった。
グランク様の大きな魔石を拾うと、俺はエリアに渡し握らせた。
「エリア、この魔石は君が持っているべきだ……」
「うん……。 共也ちゃん、ありがとう……。 お父様……」
エリアに魔石を渡したと同時に、スキルシステムから機械的な女性の声が聞こえて来た。
『共生魔法による、グランク=シンドリア=サーシスとの繋がりを確認。 相手方の了承が確認出来たため、スキル【金剛】が神白共也へ譲渡される事となり、これ以降いつでも使用可能となりました』
「は?」
今はスキルカードが無いため確認する事が出来ないが、大変な事が起きている事は理解出来た……。
工房に戻ったら、イリスちゃんを介してディアナ様に確認して貰おう。
こうしてグランクお義父さんの最期を看取った俺達は、鉄志達の待つ工房へと帰る事にするのだった。
「共也、鯉口を切った音がしていたから、次からはそこを気を付けなさい」
「はい……」
京谷父さんの駄目出しを受けながら……。
===
俺達が工房に帰って来ると、菊流と鉄志がグランク様の事を聞こうとして慌てて駆け寄って来た。
「共也、エリア、あなた達が無事に帰って来たって事は……」
「うん……。 共也ちゃんが終わらせてくれたよ……。 これがグランクお父様の魔石……」
「千世ちゃん……」
菊流の顔を見て安心したのか、目から大粒の涙が流れ出して止められなくなっているエリアを、菊流が優しく抱きしめた。
「千世ちゃん、胸を貸して上げるから気が済むまで泣き続けなさい。 そして明日からまた頑張ろう?」
「う、菊流ちゃん…………、うああああぁぁぁぁぁぁぁ!! お父様、お父様!!」
菊流と目線が合うと静かに頷いてくれたのでエリアの事を菊流に任せると、俺と鉄志はドワンゴ親方の症状が落ち着いている事を聞いて安堵すると、今後の事を話し合う為に店の奥に向かう事にした。
「共也、お前達はダグラス達と合流する為に今後も旅を続けるんだよな?」
「そうなるな。 ディアナ様に神聖国ヴォーパリアを崩壊させると約束したが、俺達の今の戦力では無理ゲーだからな……。
一応ダグラス達が居る場所はディアナ様に聞いたから、そこを目指す予定だが……。 それがどうしたんだ?」
「……お前達が外でグランク王に会っていた時に、意識を取り戻した親父達と少し話したんだが。 お前達の旅に同行しようと決まったんだが、構わないか?」
「同行って……。 俺達はお前達が来る事に抵抗は無いが、手術を終えたばかりの親方達は動いて平気なのか? それにこの店はどうするんだよ」
鉄志にそう尋ねると、顔を天井に向けて何故その結論になったのかを話してくれた。
「共也、お前短い時間だが都市を歩いてみて気付かなかったか? 冒険者ギルドとオリビア雑貨店が無くなっている事に」
「気付いてたさ……。 だけど認めたく無かったと言う面が大きかったから気づかない振りをしてたんだ……。 オリビア雑貨店が無くなっている事もそうだが、冒険者ギルドまで無くなっているのは、やっぱりアポカリプス教団の奴等が関係してるのか?」
「あぁ、それと人魔大戦。 あの戦争に参加した人が居たせいで、沢山の人が亡くなったから破壊して無念を晴らしたって言うのが奴らの大義名分らしい……。 本当に意味が分からないし、馬鹿馬鹿しい理由だよ。 全ての人類の為に命を懸けて戦ったあの人達を悪者扱いだぜ?
だけどさすがのオリビアさんも一般人、しかも多勢に無勢……。 雑貨店が破壊された事でこの都市に見切りを付けた彼女は、この都市を出る事を決意したんだ」
そうか……。 オリビアさん、それにバリスさんまで……。
「だけど街を去る日に俺に会いに来てくれたんだが、もしお前達が生きて帰って来たなら『俺達冒険者ギルドとオリビア雑貨店は、クレアが匿われているカバレイル辺境伯領に移動する事にする、もしお前が俺達と会いたいと思ったのなら、何時でも良いから合流しに来い』と伝えてくれと頼まれてたんだ」
2人ともカバレイル辺境伯領に向かったのか……。
そして、冒険者ギルドで受付嬢をしていた女性エルフの話しが出て来ない事に、俺は気付いた。
「ん? 鉄志、ジュリアさんはどうしたんだ? 一緒にカバレイル辺境伯領に向かったのか?」
「いや。 冒険者ギルドでゴタゴタがあってからと言う物の行方不明だ……。 切り札として大戦に参加したミーリス魔法兵団も、凱旋してから同様だな」
「そうか、ミーリスどころか、アーヤやテトラも行方不明なのか……」
ミーリス、アーヤ、テトラも心配だが、まずは何処にいるのか分かっているオリビア、バリスを追いかける為に、俺はカバレイル辺境伯領に向かう事を決めた。
「分かった、次の目的地はカバレイル辺境伯領にしよう。 グランク様の遺言状を届けないといけなかったから丁度良い。
だが鉄志、親方達は旅に耐える事が出来そうなのか?」
俺がそう言うと、鉄志が苦笑いを浮かべたので、どうしたのかと思っていると、鉄志は親方達と話している時の事を語り出した。
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「親父、共也達の旅に同行するとか正気か!?」
手術には成功したが、未だに包帯を体中に巻かれている上にベッドで寝ている状態の親父達の申し出に、驚愕して声を荒げていた。
「俺はいつでも正気じゃ!! 考えても見ろ、この街では最早良い武具を作る為の良い素材も手に入らんし、それを求めて来ていた少し乱暴だが気の良い冒険者も、中の良かった知り合いもおらん……。
こんな場所で武具屋を開いていたとしても、近い内にヴォーパルリアの奴らに、儂ら一家は全ての家財を奪われた上で必ず殺されるだろう」
「それはそうかもしれないが……」
「鉄志、その様な悲惨な未来を孫であるレミリアに辿らせない為にも、ドワーフ族である儂とサラシナが耐えれば良いだけの話しだろうが!
これが最後のチャンスなのだ鉄志よ、儂等を心配してくれるの嬉しい。 だが、お前が守らないといけない存在はこんな老いぼれた儂等じゃない、分かるな?」
「そうだよ。 私等は必ずあんた達に付いて行くから、共也達の旅に同行させてもらう様に頼み込んでおくれ」
必死に頼み込んで来る2人の覚悟に、俺は最早何も言う事が出来ずに頷くしかなかった。
「分かったよ……。 あ~あ。 2人は本当に頑固者だから困るぜ……。 精々旅の途中でくたばらないように気を付けて付いて来いよ……」
「抜かしたな? 落ち着ける場所が出来たら、今まで以上にしごいてやるから覚悟しろよ?」
「あぁ、だからくたばるんじゃないぞ、親父。 今から店中にある収納袋に武具を詰め込んで来る、出発するまで体を休めてるんだぞ?」
「頼んだよ、息子よ……」
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「と、これがお前達が外に出ていた時にあった親父達との出来事だ。 すでに店にあった全ての武具は収納袋に入れてあるから何時でも行けるが……。 事後報告になったが、お前達と一緒にカバレイル辺境伯領へ同行して良いんだよな?」
「………今度から報連相はしっかりしてくれ……」
「す、すまん……」
「俺達もなるべく2人の補助をするから行こう。 オリビアさんやクレア達が居るカバレイル辺境伯領に」
「ああ!」
次の目的地は、レジスタンスを結成して神聖国ヴォーパリアと戦っている、クレアがいるカバレイル辺境伯領に決まった。
あれから10年、幼かった幼年組達も大きくなって立派になっているはずだ、成長した姿を見るのが楽しみだな。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
グランク王の遺言状とスキルを携えて、クレアの居るカバレイル辺境伯領に向かう事となりました。
次回は“成長した幼年組と再会”で書いて行こうかと思っています。
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