地上へ。
ディーネとタケに再会出来た事を喜び合っていた俺達だったが、1人の天使族が慌てた様子でディアナ様の前に飛び込んで来た事で中断させられてしまった。
「ディ、ディアナ様、緊急事態です!」
「何事ですか? この天界で緊急事態が起きる事など無いと思うのですが、それ程の事態が起きたと言う事ですね?」
「はい!」
「そうですか……。 皆さんすみませんが、まずは報告を聞いてもよろしいですか?」
「勿論です。 俺達の事は後でも構わないので気にしないで下さい」
「ありがとうございます」
俺達が頷いた事で、ディアナ様は報告に来てくれた天使族の人に向き直った。
「では報告をお願いします」
「はっ! 長年に渡り封印されていた魔王グロウの魂が何者かの手により盗み出されてしまったらしく、封印場所に見当たらないのです!」
「な、それは……。 魔王グロウの魂が行方不明となって、どれ程の時間が経っているのか分かる者はいますか?」
「分かる者は、いないと思われます……」
「何故ですか? あの場所は重要な場所だと言い含めていたはずですが?」
「重要な場所だからこそ、普段誰も立ち入る事が無かったのです。 その為、グロウの魂がいつ盗まれたのか正確には……」
余程グロウの魂が盗まれた事がショックだったのか、ディアナ様は肩を落としていた。
「そうですか。 よりによって魔王グロウの魂が……。 グロウの魂が盗まれているのを発見したのはもしやデスですか?」
「はい。 封印されている場所があまりにも静かだった為、中を調べるともぬけの殻だったとの事です」
「分かりました。 魂の行方は共也さん達を地上へ送り届けた後に調べてみます、あなたはデスと共に怪しい人物を見かけなかったか聞き取り調査を開始してください」
「はい。 ディアナ様、お手数をかけさせてしまい、申し訳ありません……」
ディアナ様は報告に来た天使族の人に優しく微笑むと、後で自分も魂が封印してあった場所に向かう事を言づけると下がらせた。
「皆さん、あなた達を招いておきながら、いきなりこのような騒ぎになってしまい申し訳ありません……。
後でその施設を検分してみないと何とも判断出来ませんが、グロウの魂はすでに地上へと持ち去られている可能性が高いと思われます……」
地上へ? でもこの天界に進入出来る奴なんて存在するのか?
「ディアナ様は何が目的でグロウの魂を持ち去ったのか、想像が付いているのですか?」
「恐らくですが……。 グロウの魂が得たスキルを、他者に移植する為だと思われます。 ネクロマンサーと言う強力なスキルを他者に移植する事が出来れば、また地上を混乱に陥れる事が出来ますからね」
予想より遥かに危険な状況になった現状に、ディアナ様は真剣な顔でしばらく考え事をしていたが、京谷父さん達が目に留まった様で、4人に名を尋ねた。
「えっと、共也さん達の周りにいるあなた方は……」
「これは申し遅れました。 私の名は神白京谷、共也の義理の父であり千世、今はエリアの転生前の父となります。 そして、その横に居る妻は砂沙美。 ごつい筋肉男は花柳冬矢と、その妻冷華です」
「おい! 京谷! 痛て!!」
冬矢さんが臀部を抓って来た人物を見ると、額に青筋を浮かべた冷華さんが笑顔を浮かべていた。
(今、余計な事を言ったら後が怖いわよ?)
(うう、分かった……)
そして、自己紹介は天弧達にも及んだ。
「俺は霊獣の天弧」「私は空弧です」
「「よろしくです」」
「わ、私は共也君の婚約『じ~~~』……友達の黄昏木茶華です。 血が繋がっているだけのクズ兄貴の光輝が、ディアナ様の世界に御迷惑をかけて申し訳ありませんでした……」
「あの人の妹さんですか。
光輝さんに思う所が無いかと言われれば難しいですが、あの人はあの人なのですからあなたが気にする事ではありません。
木茶華さん、惑星アルトリアに来てくれてありがとう、歓迎いたします」
婚約者と言いかけた所で、エリアから殺意の籠った視線が向けられている事に気付いた木茶華ちゃんは、慌てて友達と言い直していた。
(木茶華ちゃんが、もう俺に対しての想いを隠さなくなって来てるな……)
「あなた達の自己紹介ありがとうございます。 それで私から提案なのですが……。 共也さん達と共に惑星アルトリアを救うために戦って頂けないでしょうか?」
「私達がですか?」
「はい。 もちろんタダでとは申しません。 地球からこの星まで来た以上、スキルも付与させ頂くので、どうか世界を救う為にご助力をお願いできませんでしょうか……」
京谷父さん達7人は、その提案に驚いてお互いの顔を見合わせていたが、力強くディアナ様に向かって全員が頷いた。
「その申し出、お受けさせて頂きます。 あの惑星で私達も暮らす以上、この世界の住人の1人です。 であるのなら、創造神であるあなたのお願いを断る事はしませんよ」
その返事を聞いたディアナ様は、心底ホッとした顔で木茶華ちゃん達を見渡した。
「ありがとうございます……。 では、まず京谷さん、砂沙美さん、冬矢さん、冷華さんの4人は今の御年齢だと魔物がはびこる世界では厳しいと思いますので、全盛期の力を遺憾なく発揮する事が出来る年齢まで肉体を若返らせようと思いますがよろしいですか?」
「そんな事が出来るのですか!? 全盛期の力を振るえる年齢まで若返る事が出来るのなら断る理由はありません、むしろ私達の方がお願いしたいくらいです! 冬矢達も良いよな!?」
「俺は別にこのままでも……『「勿論!」』……受けます」
『若返る事が出来る!』 その一言に飛びついた砂沙美母さんと冷華さんの圧に屈した事で、冬矢さんも若返りを受け入れた様だ……。
「分かりました、ではあなた達の肉体を若返らせます【創造魔法・肉体回帰】」
京谷父さん達の体が光りに包まると、徐々に4人の体に変化が起き始めた。
「こ、これは」
そして、京谷父さん達を包み込む光が収まると、そこには若かりし頃の4人が立っていた。
「京ちゃま、砂~ちゃま……。 素敵! でもその姿って私が千世だった頃の?」
「と言う事は20代半ばくらいまで若返ったのか? 自分では見る事が出来ないから分からないが……」
「【水魔法・水鏡】どうぞお義父様、これで自分の姿を見る事が出来ます」
ディーネの京谷父さんの言い方に少し引っかかったが、まあ良いか……。
気を聞かせて水魔法で作り出した鏡を4人の前に生成すると、若返った自分の姿を丹念に調べ始めた4人は満足そうに笑顔で頷いた。
「いや~。 体の切れがやはり全く違うな! やはり若い体は良い!!」
「本当に全然違うな! 京谷落ち着いたら模擬戦をするぞ! 昔は負け越していたが、今なら勝ち越せる気がするぜ!」
「ほう……。 冬矢のそれは気のせいだと思い知らせてやるよ!!」
2人が今まさに模擬戦を始めそうな雰囲気だったので慌てて止めようとしたのだが、俺達が出る間もなく、横から底冷えするような声が京谷父さんと冬矢さんの動きを止めた。
「「あなた? 神様が居る神聖な場所で何をしようとしているのかしら?」」
「「あ……、えっと……」」
「馬鹿亭主達が模擬戦なんてものを始めようとしてしまい、申し訳ありません!!」
砂沙美母さんと冷華さんが、ディアナ様に深々と頭を下げた事で、京谷父さんと冬矢さんはバツが悪そうに頭を掻いていた。
だがディアナ様はそんな2人の行動も笑ってやり過ごしてくれたのだった。
「いいえ、若返った体を気に入って貰えたならそれで構いません。
だけど、これから地上に降りてからの予定を話し合いたいので、少しばかりお口にチャックをしていて下さいね? うふふ」
「「は、はい!」」
2人がようやく大人しくなった所で、ディアナ様と地上に降りてからの予定を話し合う事となったが、シャルロットと名乗る戦乙女の1人から戦力報告の話しが進むにつれ、こちら側の戦力が圧倒的に足りない事を思い知らされるのだった。
「やはり、神聖国ヴォーパリアを壊滅させる為にはダグラス達の力が必要ですね……。 ディアナ様、分かる範囲で良いので教えて欲しいのですが、俺の幼馴染達は今どこで活動しているのでしょう?」
「そうですね……。 アカシックブック」
ディアナ様は空中から1つの半透明のボードを取り出すと、指をなぞり何かを確認している様子だった。
「……えっと。 ダグラスさんは、ルナサスさんが治めているクロノスで修業をしている様ですね。
柚葉さん、室生さん、愛璃さんの3人は商業都市ボルラスへ。
鈴さんはノグライナ王国へ。
ジェーンさんや小姫さんは、クレアさんの指揮するレジスタンスの1員として活動しているようですね。
そして残った魅影さんはケントニス帝国に居る様です」
(結構みんなバラバラに活動しているんだな……。 まあ10年も立てば皆の環境も色々と変わってしまうものか)
「ディアナ様、鉄志が抜けてますがあいつは?」
「……鉄志さんは未だにシンドリア王都に残って活動しています。 ですがヴォーパリアの兵士達が無茶な要求などしてくるために、かなり危険な状況です」
鉄志……。
「ディアナ様、俺達が最初に降りる場所はシンドリア王都にしようと思います。
アポカリプス教団が活動している場所なら危険かもしれませんが、鉄志が危ない状況にあるなら見捨てられませんし、エリアも生まれ育った国を見たいはずですから……」
ディアナ様にかなり危険な状況だと告げられた鉄志を救う為に、俺達は10年ぶりに降り立つ場所をシンドリア王都に決めた。
そこでこれからの予定を聞いていた木茶華ちゃんが、疑問に思った事を尋ねて来た。
「鉄志兄さんもこの世界に来ていたのね……。
ねぇ共也君、もしかしてだけど菊流姉様の道場へ遊びに通ってた全員が、こっちに飛ばされて来てるのって偶然なのかな?」
「偶然だとは思うけど、花柳道場に集まってた全員が召喚されたと言う所はビックリするよね。 でも木茶華ちゃん良く気付けたね?」
「うん。 ちょっと共也君の知り合いが集中的に集まっている事が気になって……」
「う~~ん。 小学年くらいの子も沢山来ていたから、偶然選ばれただけだと思うけど何か気になるの?」
「うん……。 でも多分気のせいだと思うよ、気にしないで……」
木茶華ちゃんはそれ以降何も言わなくなり、腕を組んだまま何かを考えている様子だった。
「では皆さん、世界をお願いいたします。 シンドリア王都に転移させますが準備はよろしいですか?」
「大丈夫です。 ディアナ様、今度こそ皆が笑って暮らせるように、世界を平和にしましょう!」
「は、はい……。 何卒……、何卒我が子達が幸せに暮らせる様によろしくお願い……、します……」
頭を深く下げたディアナ様の目から数滴の涙が地面を濡らしていた。
「では皆の者一時の別れだ。 イリス、地上に降りても自分の役割を忘れずにな!」
「五月蠅いな~~、何度も言わなくても分かってるよキャロル姉……。 でも……、私は地上にある様々な甘味を楽しんで来る! これが私の役割!」
「お前は……。 まあ自分の役割を忘れないのなら少し位なら……。 だが定期連絡だけは決して忘れるなよ!! 転移陣発動!!」
「あ~~い!」
キャロルさんの声と同時に俺達の足元に青白く光る魔法陣が現れると、俺達は天界から地上へと転移して行った。
「共也さん、どうか世界を頼みます……。
キャロル、魔王グロウが封印されていた場所に案内して下さい。 私も世界の為に、出来る事から始めてみます」
「はい! 妹達よ行くぞ!」
『はい!』
光りに包まれて地上に降下する俺達は幼馴染達に再会して、神聖国ヴォーパリアを壊滅させる事が出来るのだろうか……。
俺達が地上で活動する事によって、世界は再び動乱の時代へ突入する事となる。
=◇==
【シンドリア王都の近くにある共同墓地】
地上に降り立った俺達は、背の高い草が風によって靡いている小高い丘の上に立っていた。
(辺りには誰も居ないか……、ヴォーパリアの兵士達に遭遇しなくて安心したが、ここは……、そうかリディアが眠る共同墓地か。
でも誰も手入れしていないのか、草が生え放題だな……)
「エリア、ここからならすぐ王都に降りる事が出来るし、すぐに向かうか?」
「……………………」
「エリア?」
返事が返って来ない事を不思議に思った俺は彼女に視線を向けると、エリアは両手を頬に当てて翠眼を思い切り見開いてある方向を凝視していた。
「いや、嫌よ! 何で……、何でこんな……。 ゲホ!」
「エリア!!」
「共也ちゃん、わ、私の生まれ育った街が……。 う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の胸の中で号泣しているエリアが先程まで見ていた方角を見ると、そこにあったはずの綺麗な王都の街並みは消え去り、僅かに都市が存在していたと分かる残骸が沢山積み上げられた光景が、俺達の居る丘の下に広がっていた。
「これは酷い……。 外壁が跡形も無くなっているし、王城もかなり崩れ落ちてる……」
「こんなの……。 こんなの酷すぎるよ……」
「エリア……」
胸の中で泣き続けるエリアの肩を優しく抱き締めるが、ずっとここに居る訳にもいかない。
何時巡回して来たヴォーパリアの兵士と遭遇するか分からないからだ。
「エリア、取り合えずここを移動して街に入ろう……。 鉄志と合流して今後の事を話し合わないと……。 立てるかい?」
「うん。 ごめんなさい……。 泣いたから少しは落ち着いたよ……。 グス……。 まだ旅は始まったばかりなんだから、こんな所で私が挫ける訳には行かないよね……。 共也ちゃん、行こう。 王都に」
「エリア、頑張ろう……」
「木茶華……。 ありがと……」
あれだけ最初はいがみ合っていた2人だったが、今は少しは和解した様で木茶華ちゃんがエリアの肩に手を置いて慰めていた。
=◇◇===
人数分の目深いローブを収納袋から取り出し全員が羽織ると、所々崩れ去っている外壁の隙間から街に入る事が出来たのだが、丘の上から見た風景とは全く違って見える以上に衝撃的な物が、都市の中央に設置してある掲示板に張り出されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
懸賞首 ダグラス=相馬 生死問わず
首を持って来た者に5000万G
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
懸賞首 上座 室生 生死問わず
首を持って来た者に4500万G
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
懸賞首 福木 愛璃 生死問わず
首を持って来た者に4000万G
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺の知っている人達の首に大金が掛けられている張り紙が、都市の中央に設置されている掲示板に何枚も張り出されている光景だった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
仲間を求めて今後様々な都市に向かう予定です。
次回は“残酷な現実”で書けたら書いて行こうかと思っています。




