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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
1章・異世界に、そして出会い。
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3日目、冒険者ギルドでの一幕ー前編

 チチチ……。 チュンチュン……。


 惑星アルトリアに来てから、3日目の朝となった。


 ベッドから起き上がって着替えた俺は、まず食堂に向かい朝食を食べ始めていた。

 兵士達も食堂に食べに来た事で活気付き始める中、昨日知り合ったばかりのジーク君が入り口から入って来るのが見えた。 彼は誰かを探しているらしく、キョロキョロと食堂の中を見渡していた。 


 ジーク君、誰かを探しているのかな?


 そんな彼の視線が俺を捉えるや否や否や嬉しそうに早歩きで近づいて来ると開口一番『共也さん、早速一緒に訓練しに、練兵場に向かいましょう!』と言い放った。


「えっと、ジーク君。 俺……。 今朝飯を食べ始めたばかりなんだけど……」

「大丈夫です! 朝練として、練兵場を10周するだけですから!」

「は、はぁ!? 練兵場を10周!? 練兵場って昨日俺達が会った練兵場で合ってる!?」

「はい!」


 あの広大な敷地面積の練兵場を、朝練として10周……。 昼には冒険者ギルドに行く予定も入っている訳だし断りたい。 断りたいが……。


『キラキラ』と表現出来そうな程、期待に満ちた顔で誘われてしまっては断る訳にも行かず……。


「う、うん。 すぐ食事を済ませて向かうから練兵場で待っててよ」

「いえ。 共也さんが食事を終えるまで待っていますので、一緒に行きましょう!」

「……分かった。 すぐ食事を済ませるよ」

「はい♪」


 残っていた料理を掻き込んで朝食を済ませた俺は、ジーク君の監視の元練兵場で汗を流すのだった。


 そして、太陽が真上に差し掛かった事で、エリア達と落ち合う約束の時間が迫っていたので、切り上げる事にした。


「ジーク君、今日は終わるよ。 これからエリア達と冒険者ギルドに向かう予定なんだ。 だから、また時間が出来た時にお願いして良いかな?」

「今日……ですか? あ、なるほどスキルカードの更新と申請ですね。 分かりました、また共也さんのを見かけたら誘う事にします!」

「あ、あぁ……。 また見かけたら……か」


 ジーク君と別れた俺は一度自室に戻って身支度を整えると、2人に合流する為に城の正面入り口に向かうと、そこにはすでにエリアと菊流が俺を待っていた。 


「共也、遅いぞ~?」

「ごめん、ジーク君と練兵場で訓練していたら遅くなった」

「へぇ、真面目に訓練してたんだ。 それなら少しくらい遅れても文句は無いわ。 ねぇ、エリア」

「そうですね。 それでは3人揃った事ですし、冒険者ギルドに向かいましょう」


 そして俺達はエリアの案内で王都の仲に移動し、現在冒険者ギルドの重厚な扉の前に立っていた。


「なぁ菊流。 異世界冒険物で定番の()()って起きると思うか?」

「どうだろう? 大体の作品の出発地点って地方のギルドの話しじゃない? だから流石にこの王都で馬鹿をやらかす奴はいない……と思うんだけど」

「そう願うよ……」


 菊流と「あれ」に関して話していると、会話の内容が分からないエリアが眉間に皺を寄せると「あれ」に付いて尋ねて来た。


「共也さん、菊流さん、さっきから会話に出て来る、その『あれ』とは一体何を指しているんです?」

「あぁ。 エリアに前話した異世界物の話しが流行ってるって言っただろ?」

「はい」

「その物語の中で、主人公が初めて冒険者ギルドに入ると、先輩冒険者に嫌がらせをされるってやつなんだ」

「そんな事を新人にして、何か意味あるんです???」

「ん~~。 新人を追い出して自分が受けられる仕事量を増やす為だったり、純粋に嫌がらせをしたかったりと色々かな? で、その先輩冒険者達からの嫌がらせされなければ良いな。 と菊流と話をしていたんだ」

「なるほど! でも、そんな事を私達にしでかした人物は、次の日から見掛けなくなると思いますから、安心して下さい!」

「安心出来無いわよ!?」

「そうですか? 王族である私と人類を救う為に動いている2人に対して嫌がらせをしておいて、王都で暮らせると思っている方がどうかしてると思いますよ?」

「「・・・・・・」」


 そのエリアの台詞に、心底この世界は命が軽いのだな、と再認識させられた俺と菊流だった。


 頼むからお互いの為に、絶対に絡んで来ないでくれよ……。


 冒険者ギルドの重厚な扉を祈りながら開くと、最初に目に入ったのは吹き抜けの大広間。 そして、沢山の受付嬢らしき人物達がカウンターで大勢の冒険者の相手をしていた。


「ここが……冒険者ギルド……」

「共也。 奥を見て見て」

「奥?」


 菊流が指さす先にはランク毎に区分けされている掲示板と、そこに張り出された依頼書を食い入るように眺めている冒険者達の姿があった。


「ラノベで表現されている場面と、ほぼ一緒だな……」

「うん……。 あそこがクエストを張り出す掲示板だとすると、あの綺麗な女の人達が立っている場所がクエスト受注などの窓口……かな?」


 俺と菊流が感動して入り口で立ち尽くしていると、受付嬢の1人が俺達の事に気付きカウンター越しに声を掛けて来た。


「あら、エリアちゃんじゃない。 また()()()の様に、お菓子や果物。 甘味の納品クエストの発注かしら?」

「ちょっ!!」


『いつも』その受付嬢の言葉に、俺と菊流は両手をワタワタさせて動揺するエリアに視線を移すと、彼女は顔を真っ赤にして受付嬢から発せられた台詞を否定し始めた。


「2人とも違いますからね!?」

「あら? 違うって言っても、つい先日も『わ~~~~~~!!』あらあら、そんな大声を出してはしたないわよ?」


 必死に続きを言わせないように大声を出して妨害するエリアの姿に、受付嬢の言う事が真実だと理解するのだった。


「そう思うなら【ジュリアさん】も、私がいつも甘味の納品クエストを発注してるみたいな事を、こんな大勢の人が居る前で言うのは止めて下さいよ!?」

「真実じゃない。 つい先日もクッキーの納品クエストの発注しに来たばかりじゃ……、むぐ」


 俺達と同じく入り口にいたはずのエリアが物凄い速度でジュリアと呼ばれた受付嬢のいるカウンターまで走って行くと、クエスト内容を大勢の前で暴露した彼女の口を塞いでいた。


「もう! クエスト発注者の名や内容を暴露するだなんて、何を考えているんですかジュリアさん!!」

「うぅ?」

「はぁ……。 今から手を退けますが、余計な事を言わないで下さいよ?」


 首を縦に振るジュリアさんを信じて、エリアはユックリと口を塞ぐ手を退けた。


「全くエリアちゃんは未だに恥ずかしがり屋さんなんだから」


 そのジュリアさんの言葉に、エリアはガックリと肩を落とした。


「今ここに残ってる冒険者は、あなたが小さい頃から知ってる人ばかりだから気にする事無いのに」

「そうだぞエリアちゃん、俺達は小さい頃からここに通ってるあんたをずっと知ってるからな!」

「ガハハ、その通り。 ここに居るおっさん達はエリアちゃんの事を実の娘の様に思ってるから情報を漏らすような事はしねえよ」

「そう思ってくれるのは嬉しく思いますが! 個人情報をギルドのホール内で暴露するのって、全く関係無いですよね!?」


 抗議し続けるエリアを見て、ある事に気付いて菊流に小声で話しかけた。


「なぁ菊流。 もしかしてだけど、エリアって、しっかりしてるように見えて実は少し天然入ってる?」

「あはは、私もそうなのかな?とは思ったけど、エリアも女の子なんだから、男の人に聞かれたくないって言う乙女心を共也も理解してあげなよ」

「そう言うものなのか?」

「そう言うものなの」

「分かった……」


 女同士通じ合うものがあるのか、エリアと菊流。 この2人は最初の頃と比べるとかなり仲良くなっている。 まさか会って数日なのに、菊流がエリアを庇うとは思わなかった。 


 甘い物か……。 あ、そう言えば。


「甘い物と言えば、菊流も良くケーキバイキングに『ん? ん? 共也、何が言いたいのかな?』……何でも無いです」


 額に青筋を立てて笑いながら顔を近づけて来る菊流に対して、何も言えなくなった俺は黙る事しか出来なくなっていた。


 蛇に睨まれたカエル。

 そのことわざがピッタリ当てはまる程、俺の前に立つ菊流に睨まれて動けなくなっていた。 だが、その間に、ジュリアさんとの会話が終わったエリアが手招きしていた。


「エリア、どうしたんだ?」

「共也さん、少しギルドマスターと話す事になったのですが……。 2人共、何かあったのですか? 菊流さんが、先程から目を細めて視線を共也さんに向けてますけど……」

「……いや、何でも無い。 何でも無いから、気にしないでくれ……な?」

「そうですか……」

「あと、ギルマスに会う件だけど、こちらがお願いしたいくらいだから会えるなら会っておきたい」

「分かりました。 ジュリアさん、そう言う事なのでお願いします」

「はいはい、じゃあこっちに来て頂戴」


 ギルドマスターに会いたい。 そう伝えると、ジュリアさんはカウンターを持ち上げると、俺達を奥に招き入れた。 


 そのまま小さな光が等間隔で灯されている通路の奥へと、ジュリアさんが先頭で歩き始めると通路の奥へと案内された。


「ここの通路の奥に、ギルマスの部屋があるわ」


 そのままジュリアさんに案内されて通路の奥へ歩いて行くと、金色の縁で彩られた豪華なプレートが嵌められている部屋の前で止まった。

 良く見ると、その無駄に豪華なプレートには『シンドリア王都・冒険者ギルドマスター・バリス』と記載されていた。


「ジュリアさん、この部屋にギルドマスターがいるのですか?」

「そうよ。 え~っと、エリアちゃんがわざわざ連れて来た男の人って言う事は……。 あなたは、彼女の良い人……って言う事かな?」

「ちょっと! ジュリアさん!」

「違います!」


 急に恋愛の話しになりそうだと悟った俺は、ジュリアさんの質問を完全に否定した上で自己紹介を始めた。


「俺の名は最神 共也と言います。そして、俺の横にいる赤髪の女性が花柳 菊流です」

「あら、ご丁寧にどうも。 共也君と菊流ちゃんね分かったわ。 自己紹介された以上、私も名乗らないとね。 私の名はジュリア。 そして、種族名はエルフよ。 ほらね?」


 髪をかき揚げた事で露になったジュリアさんの耳は、エルフの証明となる長く尖った耳だった。


 長い耳を見せられた俺と菊流は、興奮してお互いの手を取り合った、


「菊流! 生エルフだぞ生エルフ! あ~、異世界物語の定番種族に、こんなに早く会えるなんて感激だな!」

「ふふ、そうね。 私達の世界は肌の色違い以外は全てほぼ一緒の種族だものね。 私も生のエルフを見る事が出来てとても嬉しいわ!」

「なあ菊流、エルフがこの世界にいるって事はドワーフも存在すると思うか?」

「どうなんだろう? もし存在して居るようなら是非会ってみたいね!」


 異世界話しが大好きな俺と菊流はファンタジーの定番、エルフとドワーフの2種族に会える可能性が有る事に興奮する事を止める事が出来なかった。  


 だからエリアさん……。 テンションが上がっている俺と菊流を見てから困惑されるのは、何気に傷つくから止めて貰って良いかな?


「ふふ、異世界の人にとっては私達エルフに会えた事が嬉しいみたいね。 私も長く旅をして来たけど、未知に触れた時の子供達は、あなた達みたいに目を輝かせてたわ」

「え? 今ジュリアさん、俺達が異世界人だと言いました?」

「言ったわよ? あなたみたいに偶に召喚スキルを使われてこちらの世界に紛れ込んだ人の共通点として、私のエルフ耳を見て興奮するんですもの。 流石に見分けれるようになったわ。 うふふ」

「ジュリアさん、俺達の前に来た異世界人は一体何処に!?」


 前に来ていた人の話を聞こうとしてジュリアさんに詰め寄ろうとしたが、唇を指で押さえる感覚に驚き、慌てて確認するとジュリアさんが人差し指で俺の唇を触っていた。


 目線を離したつもりは無い。 でもジュリアさんに懐に入られた上に唇を指で触られた。 その事実に、俺は冷や汗が止まらなかった。

 

「これはお姉さんからあなたへの教訓よ」

「教訓……ですか」

「そうよ。 この世界には様々なスキルが存在するわ。 戦闘に特化したスキルもあるし、クラフトする為に便利な能力も沢山。 未だに確認出来ていない能力も沢山有るわ。 そして、他人の意識を操作するスキルもね……」

「やっぱりあるんですね、洗脳系の能力も……。 だからジュリアさんは親しい者でも一応警戒しろと……」


 ギルドマスターの部屋の前で重苦しい空気が流れるのが我慢出来無かったのか、エリアがそろそろギルドマスターの部屋に入ろうと話題を変えた。 


「その話題は終わりにして! ほらジュリアさん、早くギルドマスターに取り次いでくださいよ!」

「そうね、今はギルマスに会うのが先ね。 3人共また後でお話しをしましょう」


 先程と違い柔らかく微笑んでくれたジュリアさんは、一呼吸置くとギルドマスターの部屋をノックした。


―――コンコンコン


「誰だ?」

「失礼しますギルマス。 ジュリアですが、エリア様がいらっしゃいました」

「おう、今少し手が離せなくてな、部屋の中で少しだけ待っててもらって良いか?」


 部屋に入り声のした方を見ると、そこには机の上に高く積み上げられた大量の書類。 そして、必死に羽根ペンを動かす手と、キラリと見事に光る肌色の頭が見えた。


「少し待ってくれよ~~。 この書類が終われば一段落出来るっと、良し! これで終わりだ。 いやすまん待たせたな」

「いいえ。 アポ無しで来た私達に落ち度があるのですから気にしないで下さい」

「ガハハ、そう言ってくれると助かるぜ。 それでエリア王女、ここに来るのは珍しいが今回は何の用で来たんだ?」


 書類が山の様に積まれた机から出て来た人物は、立派な口ひげを蓄え頭がキラリと光る程完全に禿げ上がった頭。 そして筋肉がはち切れんばかりに盛り上がった男。 それがギルドマスターだった。


 その人物を見た時、俺と菊流は驚きで口から声が出そうになるほどであった。


冒険者ギルドに到着し受付嬢のジュリアさんに弄られるエリア王女でした。

次回はギルドマスター登場です。

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