過去の真実。
「おい、危険だぞ! 戻れ!」
「共也ちゃん、危ないわ、戻って!」
危険だと忠告してくれた消防士や近所のおばちゃん達の制止を振り切った俺は、登り慣れた階段を全力で駆け上がった。
「はぁ、はぁ、はぁ、父さん、母さんどうか無事でいて!!」
そして階段を駆け上った俺は、眼前に広がる光景に愕然としてしまった。
10年間暮らして来た神社の本殿は燃え上がり、いつ崩れてもおかしくない状態となっていた。
陽が沈み暗くなり始めている事で炎に照らされて赤く染まる神社の境内を見て、俺は父さんと母さんの姿が見えない事に気付いた。
「俺は馬鹿か、呆ける前に父さんと母さんを探す方が先だろう!」
俺はいつ崩れてもおかしく無い程燃え盛る本殿に気を付けながら、2人を探す為に全力で走った。
「京谷父さん! 砂沙美母さん! 天狐、空弧、何処にいるんだ!!」
燃え盛る神社を目にした俺は、まるで別の場所ではないかと思う程に見た目を変化させてしまった本殿を前にして、現実だと受け止めたく無かった。
俺は諦めずに必死に神社の敷地内に居るはずの2人を、声を張り上げて探し続けた。
「父さん! 母さん! お願いだから返事をして! 何処に居るんだよ!!」
自分が泣いている事も気づかない程に、俺は燃え盛る神社の周辺を探し続けた。
そして、いつも生活している母屋に近づいた時だった。 燃え盛る炎に紛れて微かな声が聞こえて来た。
「とも…や……。 ここ……だ……」
「父さん!? 今行くから待ってて!!」
京谷父さんの声が聞こえて来た場所に行く為に、俺は燃え盛る瓦礫を蹴り飛ばして道を作った。
そして、いつも父さんから刀剣術を習っていた場所に到着すると、そこには背中から血を流して倒れている2人を発見した。
「父さん! 母さん!」
「共也、間に合ったか……。 お前に渡す物……が……」
「話は後で聞くから、まずは止血をするよ!」
鞄から包帯を取り出して父さんの体に巻き付けるが、鋭利な刃物で背中を切り裂かれた様で傷が深い為出血が止まらない!
側にあったタオルで父さんの傷口を塞ごうとしていると、同じく背中から出血している母さんが気付いた様で躰を起こした。
「父さんの話を聞いて上げて、これが最後になるかもしれないから、これから言う事をしっかりと聞いて頂戴……」
「母さんまで! 後で話を聞くからまずは止血をしてくれ!!」
自分が着ていたシャツを細く噛み切って包帯の代わりとして母さんの体に巻き付けて止血した。
「共也、すまない……。 まずはこれをお前に返す受け取ってくれ……」
「これは……。 柄の所に石が嵌められている両刃の剣? 返すって言われても俺は初めて見るんだけど……」
「それは元々お前が持っていた物だ……」
「これを俺が? 言ってる意味が分からないよ父さん!!」
結局父さんに手渡された両刃の剣だが、俺はあまりにも唐突の話しに付いて行けていなかった……。
「そして、これをお前に託す……。 我が神白家に代々受け継がれて来た刀『神刀・雷切』だ……」
その刀の刀身は赤く染まり、そして金属で出来ているはずなのに僅かに向こう側が透けて見えると言う不思議な刀だった。
「まだお前に教えていない事が沢山あるのにな……」
「父さん!」
「共也、お前なら何時か必ず私を超える事が出来ると信じて、それを免許皆伝の証として託す……。 ゴホ!」
「父さん! 今から病院に連れて行くからもう喋らないで!!」
俺は肩に父さんと母さんを担ぐと、必死の思いで今にも崩れ落ちそうな母屋を脱出する事に成功するのだった。
===
【神社裏にある倉庫内】
―――カタカタ……。 ガコン
倉庫の中にある白い箱が内側から開けられると、その中から白髪の美少女がユックリと体を起こした。
「おおおお、よくぞ、よくぞ試練に打ち勝ったな!! 千世!!」
「千世ちゃん、お帰り。 良かったよ~~~!!」
「天ちゃん、空ちゃん……。 そうか、私は……」
「10年、10年間お主は呪いによって人形にされておったのだ。 だがそれも今日完全に浄化されたのだ。 頑張ったな……」
天弧と空弧は、10年と言う歳月であの強力な呪いを完全に浄化してしまった、千世の事を褒めたたえた。
「そうだ! 共也ちゃんは!?」
「分からん……。 今神白神社が火事になっておってな……。 儂達は偶々用事が有ってこの倉庫に来ている時に火事に気付いてな、動けないお主を守ろうと結界をこの倉庫に張っていたのだ」
「神社が火事って、大変な事が起きてるじゃない! 京ちゃまと砂~ちゃまは!?」
「無事だと思いたいが……。 だが千世が目覚めた以上ここに居る理由も無いからな、探しに行くか?」
「行く!!」
倉庫の扉を開けた私達を熱風が襲って来たが、2人が結界を即座に張ってくれたお陰で何事も無く外に出る事が出来た。
「まずは母屋の方から探した方が良いかな?」
「うむ。 京谷達が火事に巻き込まれているかもしれないからな」
目の前で燃え盛る神社は炎の勢いが衰えるどころか、私の目にはむしろ勢いを増している様に見えた。
そして、火に巻かれる神社は今にも崩れ落ちそうになっていた。
===
俺は何とか2人を母屋から運び出す事に成功したので、安全な場所を求めて鳥居の側にある手水舎を目指して移動していた。
「父さん、母さんしっかりして、神社の下に消防車も来ていたから、今は救急車も来てるはずだから」
だが、俺達はこれ程の火災現場にいるにも関わらず、2人の体から徐々に温もりが失われて行く……。
「共也……。 私が今から言う事をしっかりと心に留め置くんだ……」
「父さん、話は後で必ず聞くから今は体力を温存して……」
「聞くんだ!!」
「!?」
普段とても温厚な父さんがここまで声を張り上げたのを初めて見た俺は、何も言えなくなり足も止まってしまっていた。
「お前の本当の名前は【最上共也】と言い、本来の年齢は28歳なんだ……。 ぐ!」
「父さん!」
「良いからこのまま話させてくれ……。 どうして記憶が無くなっているのか、それは天弧と空弧が詳しく知っているから詳細は彼等から聞いてくれ……」
「俺が本当にその最上共也だとして、何で父さんと母さんは俺を引き取って育ててくれたんだよ! 訳が分らないよ!!」
「それはな親友であった最上親護と綾香の忘れ形見と言うのもあったが、1番の要因はお前が千世の認めた男だったからだ……」
「千……世……ちゃん?」
俺は千世と言う名を聞いて、タケのお墓の横にある小さなお墓が、誰の物なのか今ハッキリと思いだした。
「神白……千世……」
「そうだ、その墓は千世の。 共也、君が愛してくれた私達の娘である神白千代の墓だ!!」
そうだ。 俺が子供の頃に愛した女性の名は神白千世。 そして、彼女は僕を庇って暴走車に……。
「あ、あ……。 千世ちゃん……。何でこんな大切な事を俺は忘れていたんだ…………」
「お前の記憶が曖昧なのは私の責任でもある。 だから共也、自分を責める事は止めるんだ」
「そうよ、私達はそうなるかもしれないと言う可能性を知っていた。 だけど、それでもあなたに掛けられた呪いを解除する為には強硬せざるを得なかったのよ……」
「俺に掛けられた……、呪い?」
「そう、強力な呪いだったわ……。 もし解呪する為にあなたの記憶や時間を奪った事を許せないと感じるのなら、私達を怒っても構わないわ」
顔を下げている2人は、俺が罵詈雑言をぶつけるのだと思っているのか、覚悟を決めた表情をしていた。
だが、俺は……。
「父さんと母さんを怒れる訳無いだろ……」
「共也……」
「ここまで立派に育ててくれた父さんと母さんは、俺を実の息子の様に扱ってくれたじゃないか……。 そんな2人に怒りを向けるなんて、そんな親不孝な事出来る訳が無いじゃないか……」
「「共也……」」
俺は大粒の涙を流しながら2人を境内に設置されている手水舎が見えて来る、そこにはこの街に住む様々な人達が消火活動に参加してくれていた。
そんな中、見知った2人の男女が俺達に気付いた様で、慌てて救助活動に参加していた人達に発見報告をするとこちらに駆け寄って来た。
「おい! 京谷と砂沙美さんと共也君だ! 3人は無事だぞ!!」
「冬矢と冷華さんか……」
「ちょっと、京谷さんと砂沙美さん、背中を刺されているの!? 誰なの、誰がやったの!?」
「それは……」
そこに消火活動の指示をする消防士とは違い、これだけの火事を見ても落ち着いた声が燃え盛る神社の境内に響き渡った。
「おや。 京谷と砂沙美さん、怪我でもしているのか? 大変だな~、神社も盛大に燃えているしこれからの生活はどうするんだ~?」
「龍樹……」
黄昏家の当主である龍樹さんと政子さんが、沢山の人を引き連れて未だに燃え続ける神社の境内にやって来たのだった。
「京谷、砂沙美さん良くこの燃え盛る神社から脱出出来たな、心配していたんだよ。 共也君、2人は私達が責任を持って病院に連れて行こうじゃないか。 さあ、こちらに2人を連れて来てくれ」
龍樹さんの元に2人を連れて行こうとすると、京谷父さんと砂沙美母さん両名が俺の服を思いっきり掴んで来た。
未だに苦しそうに項垂れているが、未だに強く俺の服を握る2人からは『その提案を受けるな!』と言ってるような気がした。
2人の意思表示を受けた事で改めて龍樹さん達を見ると、力無く項垂れる父さんと母さんを見て不気味な笑みを浮かべている様に見える。
そんな人に俺の大切な人を任せるなんて出来る訳が無い。
「お断りさせていただきます」
断られると思っていなかったのか、俺の台詞を聞いた竜輝さんの笑みが凍り付いた。
「何だと?」
「2人は俺が下まで運んで、救急車で病院まで付き添います。 それではいけませんか?」
「……貴様」
龍樹さんと政子さんは、眉間の皺が徐々に深くなって行き、今では般若のような顔になって行った。
「ゲハハハハハ!! 龍樹さん、政子さん、だからさっさとこいつを殺すべきだったんですよ!」
「下平……。 こんなに人が集まっている場所で余計な事を言うとは……。 貴様もここで殺されたいのか?」
「おお怖い! だけどですねぇ、散々俺を利用して来たあんたが今更俺との関係を切れると思ってるのですかぁ?」
「貴様……」
2人はこんな何時火事に巻き込まれるのか分からない状況なのに、睨み合いを始めてしまった。
下平。 俺はその名を聞いた瞬間に頭が痛んだ事で、その人物の事を思い出した……。
「あんた……。 下平陸男の父……葛生か……。 やっと思い出したよ、その下品な笑い声も本当にあいつにソックリだな」
「手前……。 俺をあんな腰抜けと一緒にするんじゃ……、あん? 何でお前が陸男の事を知ってるんだ?」
俺はしまった! と思いすぐに口を噤んだが、それを見逃してくれる黄昏龍樹と政子では無かった。
「まさか共也君、君は本当にあの最上共也君なのか!?」
「光輝は! 光輝は何処に居るの!?」
「おっと。 お2人共、それ以上迂闊に近寄らない方が良いですぜ、格闘術の道場主と師範がずっとこっちの隙を伺ってますからね」
「何だと!?」
冬矢さんと冷華さんが拳をいつでも振り抜けるような構えを取っている事に気が付いた龍樹さんと政子さんは、慌てて葛生の後ろに逃げ隠れた。
「ち、もう少し近づいて来ていたら1撃入れる事が出来たのにな……。 余計な事を言いやがって……」
葛生は冬矢さんと冷華さんの不意打ちを防いだ事に気を良くした様で、俺に蔑んだ視線を向けて来た。
「あ~あ。 こんな面倒な事になるなら黄昏家の指示を無視してでも、お前を殺しておけば良かったぜ。 お前の本当の両親である最上夫妻のようにな!!」
葛生の言葉に、この場にいる全員が氷付いたように動きを止めた。
そして、父さん達4人が怒りの形相を葛生に向ける。
「下平……。 私達を襲撃しただけじゃなくて、お前が親護と綾香を殺したのか!!」
「今言ったじゃねえか。 俺があいつ等を殺した……とな?」
葛生はようや分かったのか、と言う様な嫌らしい笑顔を俺達に向けていた。
そこに先程の言葉を聞いて動きを止めていた龍樹さんが、葛生に事の真相を尋ねた。
「下平、お前何を言ってるんだ! 俺は京谷達を襲撃しろとは命じたが、最上夫妻を殺せだなんて指示を出した覚えは無いぞ!」
「そうだな。 あんたからは、2人の殺害に関する依頼を受けてないさ」
「なら誰がお前に依頼した!! 我が家にそんな人間など他におらんぞ!!」
その言葉を聞いた葛生は何が面白いのか、含み笑いが止まらない様子だった。
「クックック、いるじゃないか、お前達の大事な大事な光輝君がなぁ!!」
「光輝? お前は何を言ってる……、確かに少し暗い部分が見え隠れする時のある光輝だったが、あいつがそこまで残酷な依頼する訳が……」
「お前等はどんだけ頭がお花畑なんだよ! あいつはハッキリとこう言ったぞ『菊流ちゃんを惑わす最上の両親を殺してくれ』ってなぁ!!」
「………」
「本来なら子供からの依頼なんぞ受けるつもりは無かったんだが、あまりにも憎悪に燃える光輝の目を見てしまったんでな。 面白そうだから受ける事にしたんだわ!! ゲハハハハハ!!」
龍樹さんと政子さんは、葛生の衝撃の告白に腰砕けとなり座り込んでしまった。
そして、冬矢さんと冷華さんは、今のも飛び掛かりそうな程怒気を孕んだ視線を葛生に向けていた。
「お前が俺の本当の両親を……。 ぐ! こんな時に頭痛が!! がああああ!!」
このタイミングでこの痛みは不味い、
例え本当の両親の事を思い出そうとしてる最中であっても、隙だらけになってしまっている……。
その時だった。
「京ちゃま、砂~ちゃま! それに共也ちゃんも!! 待ってて、すぐ回復魔法を掛けて上げる!」
倉庫で見かけた人形に良く似た白髪の絶世の美少女が、天弧と空弧を連れて俺達の目に現れた事に驚きを隠す事が出来なかった。
「君は倉庫に安置されていた人形?」
「もう、まだ私の事を思い出してないのね! この指輪を見てもまだ思いださない?」
俺は彼女の左手の薬指に嵌められた薄く緑色に輝く指輪を見せられた途端に、すっと彼女名前が口から出て来た。
「エリ……ア? エリアか?」
「そうよ! あなたの愛する妻であるエリアです! 思い出した?」
俺の頭の中に、惑星アルトリアに召喚されて地球に帰還するまでの出来事が走馬灯の様に駆け巡った。
「思いだして来た……。そうか俺は異世界に召喚されて君に……」
―――キイイイィィィィーーーーーン
「おい! 空から何かが落ちて来るぞ、逃げろ!!」
冬矢さんの言葉に空を見上げると、確かに炎の塊の様な物がここを目指して猛スピードで落下して来ている事を確認出来た。
「エリア、こっちに!」
「共也ちゃん!?」
俺は慌ててエリアや父さん達の頭を抱き抱えた所で、その物体は燃え盛る神社に突っ込んで大爆発を起こすのだった。
大爆発の影響で、辺り一面燃え盛る神社の木片が散乱してしまい、至る所で小規模の火災が起きてしまっていた。
爆発が落ち着いた所で、エリアは俺の腕の中から顔を出した。
「エ、エリア、無事か?」
「大丈夫です! それより一体何が……」
神社が在った場所には先程落下してきた赤い物体が蠢いていたが、あれだけ燃え盛る炎の中で徐々に体積を広げて行くと、長い首を空に向けた。
『ピュイイイィィィィィィィィーーーー!!!』
火の中から咆哮するそれは、神話で語られる『火の鳥』そのものだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
あああああああああ! 地球編終わらなかった、申し訳ない!! あと1話で何とか終わらせるのでお付き合いの程何卒よろしくお願いします。
次回は“エリアの新魔法”で書いて行こうかと思っています。




