あの日から9年が経ち。
「皆、分かっているだろうが、先程見た事を口外する事を禁ずる」
陽菜乃姉さんは、徐々に冷たくなって行くタケの頭を撫でながらそう告げた。
「・・・・・・」
獣医の皆は顔を見合わせると頷き合った。
「勿論ですよ陽菜乃さん。 タケちゃんにこんな怪我を負わせた人物が何処に潜んでいるのか分からない状況なんですから、さらに共也君が狙われるかもしれない情報を私達が漏らす訳無いじゃ無いですか……」
「そうだな、私も君達が情報を漏らすとは思っていない……。 だが情報は何処から洩れるか分からんと言う事は心得ておいてくれ。
それにまだ9歳の共也君を殺そうとした奴が諦める共思えん」
「それはそうですね……。 依頼されたと言っていましたし」
「そうだ。 そんな依頼を受けた奴なら、どんな卑劣な手段を用いて来るか分からないのだ、君達の身辺も気を付けてくれ」
「はい!」
陽菜乃姉さんは先程の現象を目撃した従業員全員に緘口令を敷くが、全員が元々言うつもりが無かった様で素直に頷くのだった。
「陽菜乃ちゃん。 そろそろ私達は神社に戻るよ。 タケをそろそろ休ませてやりたいんだ……」
「京谷お兄ちゃん、今度タケのお墓参りに行くよ」
「ああ、きっとタケも喜ぶはずだ」
「陽菜乃さん……。 タケを全力で助けてくれようとして、ありがとうございます!」
思いっきり下げた僕の頭に手を置いた陽菜乃さんは、タケを救えなかった事を悔いているのか申し訳なさそうな笑顔を向けて来るのだった。
「それが私の仕事だからな、気にしなくて良い。 先程の現象を引き起こした君はもしかすると特別な……、いや、止めておこう。 情報源は少ない方が良いだろうからな……」
「???」
「何故私が今ここで聞かなかったのか、その理由は君が大きくなったら理解出来るだろうさ……」
獣医さん達も陽菜乃お姉さんの言葉を聞いて深刻そうな顔をしていた。
何か理由があるの?
「共也。 タケを運ぶのを手伝ってくれ。 私と砂沙美だけでは重すぎて無理だ」
「あ、はい」
「また会おう、共也君」
こうしてタケを看取った僕達が病院から外に出た時にはすでに朝日が昇り、辺りを白く照らし始めていた。
そして僕達は冷たくなったタケを連れて帰ると、神社裏にある小さなお墓の隣に埋葬する事に決めたのだった。
養子に来た時からこの小さなお墓が気になっていたけど、誰のだっけ……? 僕にとってとても大切な人のお墓だった気がするけど、何度かお父さん達に尋ねても終ぞ教えてくれ無かったんだよね……。
痛っっっ!
深く考えると頭の片隅がチクりと痛むけど、やっぱりこの小さなお墓の人物を思いだす事が出来なかった。
僕達はタケの為の墓穴を掘ると、最後にお父さんとお母さんが神道式のお葬式を上げると、決意の言葉を口にした。
「タケ。 お前の仇は必ず取るからな……、安らかに眠ってくれ……」
「タケに助けられたこの命を意味のある物にするから……、天国で見ててね……。 グス」
「今まで楽しい日々をありがとうね。 タケ、さようなら……」
僕達は最後に1度だけタケの頭を撫でて上げた。
そして、タケを埋葬しようとして墓穴に入れようとした時だった。
「共也君! はぁ、はぁ……」
「木茶華ちゃん、どうしてこんな朝早くここに……」
「学校であなたが不審者に襲われたけど、タケが身代わりになって亡くなった学校の先生から聞いて、いても立っても居られ無くて学校を休んで駆けつけて来たの……。 共也君、そこに横たわって居るのはタケちゃん……?」
「うん。 今からお別れをする所だよ、木茶華ちゃんも最後のお別れをして上げてくれる?」
フラフラとタケの体に抱き付いた木茶華ちゃんは、目から大量の涙を流して別れを惜しんでいてくれていた。
「タケちゃん……。 タケちゃん……。 ううううぅぅぅぅ……、ごめん、ごめんなさい……」
最後の言葉は凄く小さくて聞き取れなかったけど、木茶華ちゃんがタケの死を悲しんでくれている事は少しだけ嬉しかった……。
「木茶華ちゃん、もう良いかな?」
「うん……」
「お父さん、タケを眠らせて上げよう……」
「ああ……」
お父さんと僕で掘っていた穴にタケを静かに寝かせると、土を被せて埋葬した。
僕達4人は最後に榊を墓に飾り、タケの魂が安らかに眠れるように祈りを捧げた。
「皆、くよくよしてばかりも居られないぞ。 タケの仇を取る為に、不審者の情報を急いで集めないといけないのだからな」
「そうだね……。 でも、命を懸けて守ってくれたタケに恥じない人生を送る為にも、僕自身が強くならないと……。 父さん……」
「ん? どうした共也」
僕は強くなりたい。 その一心で父さんに頭を下げた。
「僕に父さんの刀剣術を教えて下さい……」
「共也……。 お前に会得出来るか分からないが、それでも構わないのか?」
「うん。 命を懸けて守ってくれたタケに笑われない為にも、父さんの様な力を身に付けたいんだけど……。 駄目……かな?」
京谷父さんは僕に【神白流剣術】を教えて良いのかしばらく悩んでいたが、僕の真剣な眼差しを見て根負けした様に1度大きく息を吐いた。
「……分かった」
「父さん!」
「だが、神白流剣術を教えるのに1つ条件が有る! 必ず1日もサボる事無く1度でも良いから刀を振る事。 その条件を飲めると言うなら……、教えよう」
「ありがとう京谷父さん……。 必ず剣神と呼ばれている父さんに追いついてみせるよ!」
「言ったな!? 楽しみにしてるからな?」
「任せて!」
京谷父さんから神白流剣術を学ぶ許可を得る事が出来た僕は、将来自分だけじゃなくて沢山の人達を守れるくらい強くなる事を心に誓った。
木茶華ちゃんが心配そうにこちらを眺めていたが、僕は自分が強く鳴れると言う事に舞い上がり気付く事は無かった。
「共也君……」
===
タケが僕を庇って殺されたあの日から9年の月日が経ち、僕は18歳となった。
あの日、俺を殺そうとした男は結局この9年の間、1度たりとも現れる事は無かった。
そして、俺はいつもと変わらない平和な日々を送っていた。
いや、1つ変わった事があった……。
「共也、今日も油揚げを何個か買って来てくれ、あの味が忘れられないんだ!」
「共也ちゃん。 ……迷惑かけちゃうけど、私も何個かお願いして良いかな?」
そう、今俺の前には狐の耳と尻尾を生やして祭事服と巫女服を着て浮かんでいる、小学校低学年位の大きさの霊獣天弧と、同じく霊獣空弧の2人を両親から俺の護衛として紹介された事だ。
(俺が刀剣術を習い始めたタイミングで紹介されたんだけど。 地球、しかも日本で獣人だなんて最初は信じられ無かったから2人に耳や尻尾を触らせてもらったんだけど、ちゃんと触れたから幻覚では無かったし暖かかったから現実を受け入れるしか無かった……)
それ以降2人は俺の護衛として常に周りを警備する為に普段は姿を消しているのだが、たまに報酬として今回のように好物の油揚げを催促される事があるのだった。
「分かったよ。 明日の卒業式の準備が終わったらちょっと木茶華ちゃんの家に行く用事があるから、その後に2人の油揚げを買って来るよ。 他に必要な物ってあるかな?」
「ううん、油揚げがあればそれだけで大丈夫だよ。 共也ちゃんも気を付けて行って来てね」
そう言うと、空に浮かんでいる空弧は大きく成長した俺の頭を優しく撫でる。
その姿は弟を心配する優しいお姉さんで、もう明日で高校を卒業する俺を未だに子供扱いして来るので少し困っていた。
「ほら空弧。 共也も困ってるじゃないか、もう離れろって!」
「ああ~ん、共也ちゃん!」
天弧は以外にも常識人で、俺が嫌だと思う事は察してやらないでくれる頼もしい兄貴分だった。
「あはは、じゃあ2人とも行ってくるね」
「おう!」
こうして俺は鳥居を抜けると、明日卒業式が行われる高校に向かうのだった。
俺が高校に向かった事を見計らったかのように、京谷父さんが境内で俺を見送ってくれた天弧と空弧の前に現れた。
「共也は学校に行ったかい?」
「京谷か。 今向かった所だ」
「そうか、共也を引き取って早10年か……。 私も年を取る訳だ」
「京谷……。 明日で共也が高校を卒業する事になるが、真実を言うのか? お前の元の名は最上共也だと……」
「天弧、共也を養子に迎えたあの日に決めたじゃないか。共也が大きく成長して再び高校を卒業する時に、その時に真実を語ろうとな……」
空弧は高校に向かって走って行く共也の背を見て。悲しそうに呟く。
「共也ちゃん……。 記憶を取り戻したら、私達を恨むかな?」
「そんな事分かる訳無いだろ……」
「天弧の言う通りだよ空弧。 でも共也の過去を伝える事はお互いに必要な事なんだ。 千世の婚約を通して親友となった『最上親護』と『最上綾香』の忘れ形見を、このままにする訳にもいかないからな……」
「それは……、理解出来るけど……。 私は共也ちゃんに嫌われたくない……」
口を尖らせていじける空弧の頭を、天弧が撫でて落ち着かせた。
「お前がそう決めたのなら儂はもう何も言わないよ……。 過去の記憶を取り戻しても恨まないでくれると良いな。 京谷」
「あぁ、本当に、な……」
頭髪に白髪が混ざり始めた京谷は一度頭を撫でると、枯れ葉が舞う寒空を見上げるのだった。
===
高校の校門に到着した俺が見た光景。 それは黒塗りの高級車から降りて来る人物を避ける様に歩く、他の在校生達の姿だった。
その人物を目にした俺は、誰に憚る事無く手を振ってその人物に挨拶をした。
「あ、木茶華ちゃん、おはよう。 今日も来る時間が一緒になったね」
「共也君!! おはよう! うん、今日も来るタイミングが一緒になれて嬉しいわ。 じゃあいつも通り教室に一緒に向かいましょう!」
「行こうか」
他の生徒達は内心2人に突っ込みたい気持ちでいっぱいだったが、黄昏家の跡取りとして内定している木茶華の邪魔をすると言う事は破滅を意味している為、下手な行動は出来ないでいた。
そんな微妙な空気を意にも介さない木茶華は、幸せそうに共也と一緒に校舎へ入って行くのだった。
校舎に入った所で、他の生徒からの視線が隣で歩く人物に向かっている事に気付いた俺は、感慨深く立派に成長した木茶華ちゃんの姿を、いつの間にか眺めていた。
彼女は子供だった頃に比べると、とても綺麗な女性へと成長したが、木茶華ちゃんが黄昏家の人間と言う理由だけで、未だに俺しか友達が居ない状態は会った当初から変わっていなかった。
そして、今も廊下ですれ違った生徒達が、木茶華ちゃんの事を小声で話している。
「おい、あれ」
「ああ……。 黄昏家の……」
いつもこんな感じで、俺達の事を遠くからヒソヒソと噂する声が止む事はなかった。
噂話をするなら、木茶華ちゃんに聞こえない様に話せって言うんだよ!!
そんな噂話を耳にした俺が拳をきつく握り締めて我慢していた訳だが、実は皆が俺達を避けている訳では無い事を知るのは暫く後だった。
「なぁ、あの黄昏家の車って30分くらい前からいたよな……。 全然丁度じゃないじゃん……」
「し! あの2人はそれで良いんだろうから優しく見守ってやろうぜ……」
俺がジッと見ている事に気付いた彼女は頬を染めると、誤魔化すように人差し指を俺の目の前に突き出すと、今日の予定を覚えているか尋ねて来た。
「と、共也君、今日私の家に来る事は勿論忘れて無いよね? ね?」
「も、勿論覚えてるよ?」
強めに確認してきた木茶華ちゃんの言葉に、俺は素直に頷いた。
「でも龍樹さん達、俺に一体何の用事なんだろう? 俺って木茶華ちゃんの両親に何故か恨まれてる感じだし、ほとんど会えた事無いよね……」
「うん。 私も何度も2人に、共也君にその態度はあんまりじゃ無いのかって注意してるんだけど、お父さんとお母さんはその理由を何度尋ねても教えてくれないんだよね……。
でもお父様とお母様が、もし共也君に何かするようなら。 私、どんな手段を使ってでも絶対に2人を……す」
え? 最後聞き取れなかったけど……、まさかあの優しい木茶華ちゃんが、自分の両親を〇すだなんて……。 まさかだよね?
「まあ、それも行ってみないと分からないよね……」
うん。 さっきの木茶華ちゃんの台詞は気のせいだ思いたいし、実現して欲しく無い……。
そう思って廊下を歩いていると、自分の教室へと到着したようだ。
「教室に着いたみたいだね。 それじゃ木茶華ちゃんまた放課後に」
「うん、また後でね」
自分の教室へと入った俺は、明日体育館で行われる卒業式に向けて、椅子を並べるなどをしていたけど終わった頃には昼を大きく過ぎていた。
「良し。 これで明日の準備は終了だ、皆お疲れ様! 後は各自帰って良いぞ! 明日の卒業式忘れるなよ!」
「忘れる訳無いじゃ無いですか、先生!」
笑い声が体育館で巻き起こる中、俺達は明日の卒業式に向けて早めに帰宅する事にするのだった。
そして、俺は他の生徒の視線に晒されている中、校門の前で木茶華ちゃんが来るのを待っていた。
「共也君、遅くなってごめん、ちょっと先生と話し込んじゃった」
「大丈夫だよ木茶華ちゃん。 それじゃ行こうか」
木茶華ちゃんの姿を確認した事で校門の前に車が横付けされると、運転手の人が出て来ると後部座席のドアを開けてくれた。
「ありがとう。 いつも通り黄昏家までお願いします」
「はい、お嬢様」
俺と木茶華ちゃんを乗せた高級車は、一路黄昏家に帰宅する為に進んで行く。
バックミラーで俺の事を監視する運転手さんの圧に耐えていると、10分ほど走った所で立派過ぎる門の中へと入って行った。
良く黄昏の家を遠くから見て凄い家だなとは思っていたが、想像の10倍以上は凄かった。 庭にはドーベルマンなどの犬が何匹も庭をうろついているし、ガタイの良いボディーガードらしき人も複数人物陰に隠れているのがチラホラと見えた……。
木茶華ちゃんは涼しい顔をしているけど、俺って生きて帰れるよね?
戦々恐々としていると大きな家の前に車が止まると、運転手に空けられたドアから木茶華ちゃんが先に外に出ると、俺に手を差し出した。
「さあ共也君、お父さん達が待ってるわ。 どうしたの呆然として、行きましょう?」
「あ、ああ、ちょっと木茶華ちゃんの家が凄すぎて唖然としてた……」
「ふふふ、ありがと。 お友達を家にお招きするなんて初めてだから嬉しい。 お父様達の所まで案内するわね」
『木茶華お嬢様、お帰りなさいませ!』
恐らく黄昏家に雇われている女十さん達なんだろうけど、何処の王族だと言うくらいの人数が左右に分かれてお辞儀をしていた。
そして、中に入ってからも俺は驚かされた。
綺麗に磨かれた廊下、装飾品、家具などを呆けた顔で見ながらを歩いて行ると、一つの部屋の前で木茶華ちゃんが足を止めた。
「お父様、お母様、共也君をお連れしました」
「……入りなさい」
「はい、失礼します。 共也君、どうぞ」
「失礼します」
鷹が描かれた襖を開けて中に入ると……。 待って! 今の襖って何処かの重要文化財に見えたんだけど!?
内心パニックに陥っていると、俺の目の前には会った当初とは違い少し白髪が混じり始めている龍樹さんと、政子さんが座布団に座ってこちらを鋭い視線で見て来ていた。
その後ろの壁には、とても大きく立派な額縁に木茶華ちゃんの顔立ちがよく似ていて、俺と同年代らしき男の人の油絵が飾られていた。
「龍樹さん、政子さん、お久しぶりです」
「ああ、共也君、良く来たね。 まずは座りなさい」
「2人に座布団とお茶を用意して上げて?」
「はい、奥様」
そして、座布団に座る事となった俺と木茶華ちゃんの前にお茶が用意されると気まずい雰囲気の中、龍樹さんから話し掛けられる事になった。
「共也君、急な呼び出しに応じてくれてありがとう。 長年どうしても君に聞きたかった事があってね」
「俺に聞きたい事……ですか?」
「ああ、それでこうして時間を取ってもらった訳なんだが……」
俺はホッとした。
どうやら別に嫌われている訳では無かった様だ。
2人に嫌われているかもしれないと言う、長年の疑問が解消されてちょっと心が軽くなるのを感じた。
「そうだったんですね。 自分に答えれる事なら答えさせて頂きます。 お2人は何を自分に聞きたいのでしょうか?」
答えられる事なら、遠慮なく答えさせて貰う。
そう俺が答えた瞬間から2人の顔が一気に険しくなって行く。
「何でも……か、なら答えてもらおうじゃないか。 …………君に聞きたい事、それは私達の後ろの額縁に飾られている人物に見覚えが無いか? と言う事なんだよ」
後ろの額縁に飾られた人物を知っているか、だって?
「お父様! 何で行方知れずのゴミ光輝……。 じゃなくてお兄様の話しが共也君に関係してくるのですか!」
「木茶華、お前は成長した共也君の顔を見て誰かに似ていると気付かないのか?」
「え? 共也君の顔を……? あれ? もしかして、お兄様と同じように10年前に行方不明になって、今も所在不明となっている共也兄様にそっくり……?」
「そうよ木茶華。 私達も最初は他人の空似と思い、今までは表立って動こうとはしなかったわ……。
だけど、ここまで光輝の幼馴染の共也君にそっくりだとそうも言っていられないわ」
政子さんは、手に持つ扇子を今にも折りそうな程興奮している様子だった。
「共也君、あなたは本当は行方不明とされている「最上共也」で、同じく行方不明とされている光輝が何処にいるのか知っているのではなくて?」
俺は2人に詰め寄られるが全く記憶が無いのだから『光輝の居場所を』と言われても答えようが無い。
だから俺は目を血ばらせて必死に質問してくる2人に対して、正直に神白神社へ養子に来てからの事を説明した。
もちろん自分の子供時代の記憶が曖昧な事もだ。
「そう、なのね記憶が……」
どうやら俺の答えに納得してくれた様で、先程の様なトゲトゲしい雰囲気は無くなった事にホッとした。
「私達は何を考えていたんだろうな。 始めて会った時、君は木茶華と同じ9歳だったのだから、普通に考えたら光輝の事を知っている訳がないのにな……。 政子、これで満足かい?」
「ええ、私も意固地になっていたわ。 ごめんなさいね共也君」
「済まなかった共也君、呼び出した上にこのような無礼な物言いをしてしまって……」
「いえ。 大事な人が見つからなかったら、可能性のある事は試して見たくなるのは家族なら当然だと思いますので、頭を上げて下さい」
真摯に謝罪してくれたので、俺はもう気にしていない事を2人に伝えた所、何が可笑しいのか彼等は大きく笑い始めた。
「アハハハハ! 儂等2人を前にして君は恐れる所か普通に会話している。 なかなか出来る事では無い、気に入ったよ!」
「オホホ、本当にそうよね。 議員達にあなたの様に骨のある者が少しでも居るなら、私達がシャシャリ出る事も無いのにね……」
長年の疑問が解消されたのか、2人はとても優しい顔で笑っていた。
「もう、お父様ったら。 名前と顔が似ているからと言って、共也君が共也お兄様の訳無いじゃないですか!」
「分かった! 分かったから、木茶華そう怒鳴るな。儂等も反省しているのだからな……」
「あなた。 反省ついでに、こういうのはどうかしら?」
―――ごにょごにょごにょ
政子さんに耳打ちされている龍樹さんの顔が綻んで行く……。 何を密談しているんだか……。
「それ良いな!」
龍樹さんと政子さんの密談は終わりを迎えると、詫びとしてある条件を提示して来た。
「共也君」
「はい」
「詫びと言っては何だが……。 その……。 木茶華と結婚を前提に真剣に付き合ってみないか?」
「あら、良いじゃない! 木茶華も良いわよね!?」
政子さん、あんたが龍樹さんに提案したんじゃないのか!?
「お父様!? お母様!? 何を勝手に話を進めようとしているのですか!!」
「あら共也君と結婚を前提に付き合う事の何処が不満なの?」
「不満とかそう言う話しじゃなくてーーーーーー!!」
木茶華ちゃんは顔を真っ赤にしながら、両手を小さく上下にブンブンと振って抵抗していたが、2人に揶揄われてさらに真っ赤になっていた。
そんな家族の会話を微笑ましく見ていた俺だが、木茶華ちゃんと話している2人はとても柔らかい表情をしているのだが、結婚を前提にと言いながらも未だに俺には鋭い視線を向けて来ていた。
あの目は俺の言った事を完全に信用していない目だよね……。 天弧と空弧の油揚げを買いに行くの遅れそうだな……。
そんな的外れな事を、俺は考えていた。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
天弧、空弧が登場し地球編の話しも終わりを迎えそうです。
次回は“2回目の卒業式”で書いて行けたら良いなと思っています。




