表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
152/291

女神ディアナの願い。 そして……。

 スキルを得た他の転移者達を地上に送り届けたディアナ様は、光る板を出現させると戦乙女の7姉妹と私達を乗せると奥に見える神殿へと案内するのだった。


「どうやらあそこに見える神殿に向かう様だな。 共也達の事でどんな内容が語られるのか……」


 共也……。


「そうだねどんな内容が語られるか分からないから鉄志も覚悟しておいて………って鉄志!? あんた居たの!?」

「ずっと居ただろ!! お前も俺に気付いてたじゃないか!!」

「ちっ! バレてたか……」

「分からない方がおかしいだろ! 小姫ちゃん達も残ろうとしたが、ディアナ様から聞いた事を彼女達に伝えると約束したから地上に帰って貰ったんだよ!!」


 風ちゃんや冷ちゃんも居たから、何となくこれから語られる話を察していて、彼女達に聞かせたく無かったんだろうね……。


「鉄志にしてはナイスな判断じゃない。 これから語られる内容は幼少組の彼女達には刺激が強すぎるでしょうからね……」

「柚ちゃん、やっぱりディアナ様から語られる内容は……」

「魅影、まだ共也達がどうなったのかディアナ様の口から聞いて無いんだから、気をしっかり保って……」

「うん……。 でも、創造神であるディアナ様があれだけ言い淀むって事は、きっと良く無い事が起きたんだと思うの……」

「魅影……」


 今にも泣き出しそうな魅影に肩を貸して立たせると、ディアナ様が目的地に着いた事を告げられる。

 

「皆さん、到着しました。 どうぞ神殿の中にお入り下さい」


 到着した神殿にキャロルさんの案内で中に足を踏み入れると、そこには巨大な円卓が有り、何やら大鎌を携えた上にとても立派なローブを纏っている1体の人骨が、私達全員が座れるだけの椅子を用意してくれている所だった。


 私達が初めて見るその存在に怯えていると、こちらに気付いたその人骨が嬉しそうに微笑んだ。


「おや、ディアナ様お早いお帰りで。 すでに連絡を頂いた人数分の椅子は用意してあるので、すぐに話し合いを始められますぞ」

「デス、ありがとう。 復活したばかりなのに用事を言いつけてごめんなさいね」

「良いのですよ、私はディアナ様の家族なのですから」


 眼窩で揺らめく炎を歪めてニッコリと微笑むデスは、こちらに歩いて来るとルナサスの前で立ち止まった。


「ルナサス、さっきぶりだな」

「ふふ、こんなに早く再会するとは思って無かったわ。 デス」


 和やかに話している中、ディアナ様が正面に設置されている豪華な椅子に座ると、デス、7人姉妹、私達と座ると、共也達がどの様な顛末を辿ったのか聞く事にした。


 そして、ディアナ様は前置きをするとユックリと語り始めた。


「さて、これから話す内容はあなた達に取って、とても辛い内容になります……」

「はい。 覚悟してここまで来たのです。 ディアナ様、聞かせて下さい。 共也達がどの様な道を辿ったのか……」

「良いでしょう……」


 そこから共也達の身に起こった事をディアナ様から聞く内に、やっぱりか……。 と言う思いと共に、幼い頃からずっと一緒に過ごした人達を失った喪失感は凄まじかった……。


「菊流ちゃん、与一ちゃん……。 ううぅぅぅぅぅ」


 魅影ちゃんに至っては大粒の涙を流しながら、余りの悲しみに胃の中の物が逆流しそうになるのを口を押えて必死に耐えていた。


「ディアナ様……。 じゃあ菊流ちゃんと与一は……」

「ええ、菊流さんはすでに生命活動が停止しているから……。 それと、与一さんが受けた永久氷結もこちら側から解除するのは困難だわ……」


 私達はもう何も聞きたく無くて耳を塞ぎたかった。 だけど、そんな絶望的な中でも柚ちゃんが手を強く握り締めて心を奮い立たせると、ここに来てからずっと疑問に思っていた事をディアナ様に尋ねた。


「ディアナ様……。 共也が生きているか分からない、そして一縷の望み抱いて地球に送還された事は分かりました。 ですが何故エリアも一緒に……?」

「彼女の回復魔法が呪いの浸食を抑える効果があったのが1つと……、彼女はあなた達が地球で知る人物の転生体だから……と言うのも有るのかもしれませんね……」

「「「「え!?」」」」


 ディアナ様は1拍置いて、その名を口にした。


「【神白 千世】この名前をあなた達は知っているのではないですか?」

「「「「!!?」」」」


 私達はあまりにも予想外だった名前がディアナ様の口から出て来た為に、暫く一言も発する事が出来なかった。


「…………え? ……ちょ、……ディアナ様、それは本当の事なのですか?」

「ディアナ様の悪い冗談では無くて?」


 ディアナ様は1度目を閉じると、何故知っているのか告げた。


「ええ、2人が送還される直前に、菊流さんがエリアさんの正体が神白千世の転生体だと言い当ててたわ」


 神白千世。


 ずっと忘れたくても、決して忘れられ無かったその名を聞いた全員の目から涙が溢れ出て止まらなかった。


「何で……。 何で言ってくれなかったのよ……。 自分が千世ちゃんの転生体だって……」


 柚葉は円卓に肘を付いて項垂れると、彼女の長い髪が机に垂れ下がった。


「言いたくても言えなかったのだろうな……。 考えても見ろ、彼女はシンドリア王国の王位継承権第1位の王女様だからな、自分が千世ちゃんの転生体だと告げた所でどうしようも無いと思っていたんだろう……」

「でも室生! 私達があの時どれだけ悲しんだか分かってるでしょう!? 他の人達には言えなかったかもしれないけど、あの保育園で一緒だった私達には言ってくれてもよかったじゃない!!」

「落ち着け愛璃。 ……正体が分かった今思い返すと、彼女の発言には所々自分が転生体だと匂わせる発言があったよ……」

「千世ちゃん、何で言ってくれなかったのよ!! あああああああああああ!!!」


 鈴は顔を覆いながら泣き続けていた。


 女性陣達が抱き合って悲しんで居る中、室生が再びディアナ様に質問をした。


「ディアナ様……。 共也とエリアいえ、千世ちゃんが地球に帰って行った事は分かりました……。 だが、何故光輝は共也を殺そうと凶行に及んだのか聞いていません……。

 あいつは確かに自分が惚れている菊流が想いを寄せる共也の事を心良く思っていませんでしたが、殺そうとまでは思っていなかったはずだ。 教えてください、あいつの身に何が起きたのかを……」


 俺がそう質問をすると、彼女は頷き右手を愛璃の背で眠り続けているジェーンに向けた。


「…………分かりました、何故そうなったのかお伝えしましょう。 ですが、その前にジェーンと言う娘にも現地で何があったのか語ってもらいましょう。 【アストラルヒール】」


 優しい光がジェーンちゃんに降り注がれ吸い込まれて行くと、微かに動きを見せた。


「ん……。 こ、ここは……」

「ここは天界だよジェーンちゃん。 後で説明するから起きたばかりで悪いんだけど、リリスちゃんを救出しようとした現場で何が起きたのか話して貰って良いかな……」

「魅影さん……、はい……」


 デスがいつの間にかジェーンが座る為の椅子を用意してくれていた。


「これに座ると良い」

「あ、ありがとうございます……。 え?」

「何かな?」

「いえ……。 何でも無いです……」


 椅子に座ったジェーンが、デスの姿に困惑しながらもポツリポツリと現地で起きた事を語り出した。


「……私達がオートリス城に潜入した所で魔王グロウと遭遇してしまい戦闘となってしまい苦戦していたのですが、光輝と言う方が突如として乱入して来たんです。

 そして彼が手に持っていた黒く呪われた剣でグロウの胸を背後から貫くと、苦しみながらどこかに転移していったのでグロウに関してはその後の事は分かりません」

「なるほど、グロウは最初お前達達と戦っていたのか。 それで? そこで終わりと言う訳では無いんだろう?」


 ジェーンはダグラスの言葉に頷くと、その後を語り出した。


「ええ。 光輝の1撃でグロウを撃退出来た私達は、リリス姉の救助に向かったのですが……」

「ジェ、ジェーンちゃん!? 顔が真っ青だよ!? 一旦休む!?」


 鈴が慌てて休憩を挟もうとしたが、彼女は右手を前に突き出して拒絶した。


「い、いえ。 大丈夫ですから、最後まで言わせて下さい……」

「分かった。 だけど無理だけはしないでね、ジェーンちゃん」


 ジェーンが1度頷くと、話しの続きを語り出した。


「……そして、魔王の間でリリス姉を発見しましたが、あまりにも酷い怪我でとても動かせそうに無かったのでエリア姉が慌てて回復魔法をかけている時でした……。 光輝が呪われた剣で、共兄を背後から……、襲撃して……。 はぁ……はぁ……」


 その場面を思い出したのか、両手で小さな体を抱きしめるジェーンちゃんの姿を見た私達は、もう無理だと判断して止めさせようとしたのだが、彼女はそれでも必死に唇を噛みしめて首を振ると、その後の事の成り行きを涙を流しながら必死に語り続けた。


「そう……。 菊流どころかディーネちゃんやマリちゃんまで光輝の手で……」

「はい、それに途中まで一緒だったヒノメちゃんも『お父さんの気配が遥か遠くに……』と言って何処かに飛んで行ってしまいました……」

「それで合流した時にスノウちゃんしか居なかったのね……。 ジェーンちゃん、辛かったわね……」

「愛璃さん……。 私だけ助かってしまい、申し訳ないです……」

「そんな事言わないで。 共也達もあなたが生き残ってくれた事に絶対に感謝しているはずよ?」

「ううう………。 共兄……、私は……」


 そこでルナサスは、リリスの名前が出て来ない事に気付いた。


「待って、じゃあリリスはどうなったの!?」


 そこから先はディアナ様が答えてくれた。


「彼女は最後の力で自身の魔力が詰まったタンクを自爆させて、光輝を道連れにしてから今は行方不明です……」

(精神体は天界に招きましたが、この事を今言う訳にはいかないのです。 皆さんごめんなさい……)


 ルナサスは戦闘中に立ち昇った光の柱を思い出した。


「あ、じゃああの時の光りの柱はリリスの最後の……」


 ルナサスは肩をガックリと落とすと、深く椅子に座ると力無く天井を見上げるのだった。


「ディアナ様、私なりの結論を導き出したのですが……。 言っても良いですか?」

「柚葉さん、どうぞ」

「もしかして光輝は暗黒神と言う奴に浸食され続けているのではないですか? この世界に来てからの光輝はあまりにも不自然でした。 ここまで来ると、そうとしか考えられないのです」


 少しの間を空けた後に、ディアナ様は柚葉の問いに静かに頷いた。


「そうです、彼は暗黒神に憑依されかけています。 だから彼は聖剣召喚も使えなくなり、呪われた剣を持っているのです……。 彼を地上に降ろす前に、私がもう少し気をかけていれば……」

「ディアナ様……」


 ディアナ様はしばらく悲しい顔をしていたが、何か意を決したのか私達に向き直った。


「皆さんにこんな事をお願いするのは間違っていると言うのは分かっています……。 ですが、あなた達に頼る事しか今の私には思いつかないのです……」

「ディアナ様、あなたのお願いと言うのは?」

「……もし光輝さんと対峙する様な事があったなら……。 殺してあげてください……」


 その言葉を私達は聞き間違いか? と思うほどその願いは到底聞き入れる事の出来ない内容だった。


 光輝を……、殺せ……?


「ふぅ……。 ディアナ様、皆が怒る前に理由をお伺いしてもよろしいですか? その言葉は俺達に取って、とても聞き入れる事の出来ない内容だと分かった上で口に出されたのでしょう?」

「室生さん……。 はい、あなた達が幼馴染達をとても大切にしている事は知っています……。 ですが、あそこまで浸食されてしまった人と暗黒神の魂を分離させる事はもう不可能なのです。 もし完全に侵食が完了した場合、光輝さんは未来永劫暗黒神によって苦しみ続ける事になるでしょう。 ですから……そうなる前に、いっそ……」


 その後の言葉は、流石のディアナ様も言葉が詰まってしまい語られる事は無かった。


「そう言う事ですか……。 分かりました」

「室生、ディアナ様のお願いを聞き入れるの!? 光輝を、私達の幼馴染の1人を殺すんだよ!?」

「鈴、他の奴に光輝を殺させる位なら俺達が手を下す。 それがあいつと昔から一緒に遊んでいた俺達の役目だろう……。 良いかな、皆……」

「そう、か……。 ずっと苦しみ続けるよりは私達の出てって事ね……。 相変わらず光輝の馬鹿は手が焼けるわね……。 そうね……、もし光輝と対峙する事が有ったら、せめて私達の手で……」

「皆さん、あなた達に辛い役目を押し付けてしまい申し訳ありません……。 そして、ありがとうございます……」


 そこで、ずっとディアナ様の横に立っていたデスが、彼女に何か耳打ちをしていた。


「デス、そうですか……。 皆さん、そろそろ地上に戻らないといけない時間のようです。 もっとあなた達と話しをていたかったですが残念でなりません。 また天界にお招きする機会があればお話ししてくれますか?」

「はい、喜んで」


 ディアナ様は私達の即答に優しく微笑んだ。


「皆、此度の働き、本当に助けられた。 我々戦乙女7姉妹は、君達が本当に困った時が来たら何を置いても駆けつける事を約束しよう」

「そうね、もう知らない仲では無いのだしね」

「うん、でも手伝ったら、報酬としてお菓子くらいは頂戴ね!!」

「分かった、イリスちゃんが来てくれた時は沢山お菓子を用意しておけば良いかな?」

「やった! ありがと鈴姉!」


 そうしてディアナ様が私達の希望するスキルを順々に付与して行くと、別れの時が来たようだ。


「皆さん、地上の事、光輝さんの事をどうぞよろしくお願いいたします……」

「はい。 頑張って見ます!」

「では、また何時か会いましょう、皆さん」


 とうとう時間が来たらしく、最後にディアナ様の笑顔で見送られて私達は天界から完全に消え去ったのだった。


 私達を見送ったディアナ様は、誰に聞かせる訳でも無いが呟いた。


「【永遠(とわ)】、あなたと長く続いた戦いもそろそろ終わらせる時期が来たのかもしれないわね……」

「ディアナ様………」


 ディアナはそう呟くと、遥か彼方で眠りに付いている暗黒神の本体を睨みつけるのだった。


 ===


【地上・混成軍本陣跡地】


 唐突な天界への招待も終わりを告げた私達が地上に戻って来ると、シグルド大隊長が撤収の指示を出している最中だった。


「お? お前等戻ったのか」

「シグルド大隊長、撤収準備をしているのなら手伝いましょうか?」

「いや。 詳細は力也殿から聞いているし、撤収作業と言っても後はテントを片付けるだけだから、お前達はユックリしていて良いぞ?」

「力也さんから?」


 辺りを見渡すと、天界でも見かけた人がこちらに手を振っていた。


 なるほど、あの人が力也さんか。


「それにしても、まさかお前達が女神ディアナ様に招かれて天界に行くとはな……。 今まで全く信仰心が無かった俺だが、実際に存在している方だと信仰しても良いと思えるな!」

「どうやらこれから女神ディアナ様の名を世界に広めて行くみたいですから信仰しても良いのかもしれませんね?」

「ほう? それは良い話しを聞いた!」


 色々頭の中で今後の事を考えていたシグルドさんだが、後ろから聞こえた声に驚いて肩を跳ね上げた。


「隊長!! 撤収作業をサボって無いで、さっさと片づけを手伝って下さいよ!!」

「ク、クルル!? ま、待て! 私はたまたま天界から地上に戻って来たダグラス達と話をしていただけで!!」

「言い訳は良いですから、早く動いて下さい!!」


 そうクルルさんに言われたシグルドさんは、襟首を掴まれてテントが立つエリアへと連れて行かれてしまった。


「お、お前達は元々軍隊の者じゃないから、気が向いたらシンドリア王国に帰還すると良い。 お前達の報酬も冒険者ギルドで受け取れるはずだ。 それじゃ、また会おう皆~~!!」


 引きずられて行くシグルドさんの姿を見ながら、俺達はディアナ様のお願いを思い出していた。


 光輝……。 お前今何処に居るんだ? まだ俺達が知っている幼馴染の光輝の意識は残ってるのか?


 ダグラスは、地球にいる時に黄昏家の金目当てで言い寄って来る女には目もくれず、只一人の女性を追い求める光輝の事が嫌いでは無かった。


 そして、皆で相談した結果1日ほど別の場所で野営する事にした俺達だったが、朝になると本隊とはかなり離れてしまっていた為、もうこのまま寄り道をしながらシンドリア王国に帰ろうと、皆で相談して決まっていた。


 その為俺達が収納袋に様々な物をユックリと時間を掛けて収納していると、世話になった人物に挨拶をして来ると言って離れて居た柚葉が戻って来た。


「みんなお待たせ。 ノクティスさん達には、お礼を言って別れて来たわ」

「柚ちゃんお帰り。 今皆と一緒にこれからどう通って帰ろうか話し合ってた処だから、柚ちゃんも意見言って?」


 寄り道して帰還すると聞いたルナサスも、俺達と一緒に付いて来る事にした様だ。


「観光ですか? 観光ですね!? タナトス、私も皆に付いて行こうと思うので、少しの間ですが国の事は任せましたよ!!」

「はい、ルナサス様。 皆さまとごゆっくり楽しんで来て下さい」

「タナトス、ありがとう!」


 ルナサスも私達と一緒に旅行が出来る事に笑顔を浮かべながら、女性陣と和気あいあいと話しながらシンドリア王国への帰路を楽しんでいた。


 だが、私達が数日掛けて魔国と人族の間に掛けられている大橋に到着した時だった。


「あれは……。 ねぇ、室生。 あれって竜騎士隊の操るワイバーンだよね? 何処の誰だか識別できる?」


 遠くから1匹のワイバーンがフラフラと今にも墜落しそうになりながら、上空を飛んでいる姿が目に入った鈴は、所属が何処か確認して欲しいと室生に頼むとスコープを覗き込み所属を確認した。


「あれは……。 シグルド隊長の部隊みたいだな……」

「何でこんな所を飛んでいるの? 今頃シンドリア王国に凱旋しているはずじゃ……」

「分からん……」


 その竜騎士は私達を見つけると、墜落しそうになりながらも何とか着地に成功すると、背から見知った人物が疲れ切った様子で降りて来た。


「みんな……、良かった無事だったか……」

「ティニーさん!? あなたは人類軍の本隊と一緒に凱旋したはずじゃ!?」

「……やられたよ、アポカリプス教団だ……。 我々が人類全ての戦力をこの戦争に投入したのをチャンスと見たのか、シンドリア王国の王都に凱旋して来た私達を襲撃して来たんだ……」

「はぁ!? 王都で襲撃って、警備隊は何をしていたんですか!?」

「警備隊も、まさかこんな愚かな事をするとは夢にも思わなかったのだろう。 襲撃によって逃げ惑う人の波の影響で、警備隊も近づく事すら出来ない様子だったからな……」

「そんな……」


 今にも倒れそうなティニーさんを横にして休ませると、持っていた水筒を渡して水分を取って貰った。


「す、すまない、生き返った……」

「ティニーさん、他の人達は?」

「分からない……。 私達はまともな陣形を取る事も出来ず各個撃破されて行ったから、何処に誰が居るのかすら分からなかったよ……」


 ティニーさんはようやく魔族と人との戦いが終わってこれから平和に踏み出そうと言う時に、こんな理不尽な襲撃で全てが水の泡となってしまった事に対して、怒りと悲しみで唇を噛みしめていた。


「そんな……。 じゃあ都市にいる皆は……」

「分からない……。 私もアラン達が何とか逃がしてくれたから、ここに居る事が出来るんだ……。 一体どれだけの者が生き残っているか……」

「ごめんなさいティニーさん、私達ばかり質問してしまって……。 では私達が王都に向かったとしても……」

「殺されるか捕縛されるだけだな……。 私は魔国に落ち延びて、そこからケントニス帝国へ帰還出来る手段を探すつもりだ……。 君達はどうするのだ?」

「どうするって言われても……。 鉄志達がまだ王都に……」


 どうして良いのか分からず二の足を踏んでいた私達に、ルナサスが助言してくれた。


「皆、私の国に一度身を隠しなさい」

「ルナサス。 良いの?」

「ええ、ティニーさんの言う事が本当なら、まだ完全に占領している訳じゃ無さそうよ?」

「何でそんな事が分かるよ」

「ティニーさんが言ってたでしょ? 人混みに邪魔されていたけど警備隊が居たって。 本当に占領されているのなら、警備隊すら出て来ないはずよ」

「あ、そうか……」

「それに、今頃は本当に占領されているかもしれないけれど、都市にずっと入れない訳じゃないだろうから、鉄志の事は時間を置いて救出に行く様にすると良いわ。

 その時は私が船などを出して上げる。 ティニーさんも私の国に来ると良いわ、時間はかかるかもしれないけれど必ずケントニス帝国に送り届けて上げるわ」

「ルナサス様、申し訳ない……」


 また……、戦争が起こるの? 人類、魔族の戦争が終わってこれから平和な時代が来るって話しだったのに……。

 そして、王都に凱旋した人達は無事なの?


「クレアちゃん……。 小姫ちゃん達も、どうか無事でいて……もう大切な人が居なくなるのは嫌だよ……」


 ジェーンは仲良くなった友達の無事を遠くの地から祈る事しか出来ない現状に、苛立ちが募るのだった。


 ===


【シンドリア城・王家の執務室】


 ここは本来王の家族しか入れない場所なのだが、血に濡れて赤黒く染まった剣を持つ金髪の男が、王と呼ばれた男の首を切り落として殺した事を高笑いしていた。


「アハハハハハ! 最初からこうすれば良かったんだ、僕は何を迷っていたんだろうな!?」

「光輝!! お前だけは、お前だけは絶対に許さない!! いつか必ず殺してやる!!」

「いつかじゃなくて今やらないのか? 王も可哀想にな、こんな小娘の為に命を無駄に散らす事になったんだから!」

「貴様!!」

「クレア様、王が稼いでくれた時間を無駄にしてはなりません! ここは悔しいでしょうが逃げるしか無いのです!」

「離せ! 離してくれレイル辺境伯! 私は刺し違えてでも奴を!!」


 部屋の外から何人もの足音が近づいて来る……。 最早一刻の猶予も無い!!


「クレア様、御免!」


 ―――ゴッ!


「が! カバレイル辺境伯……。 何を……」

「あなたは死んではならないのです……。 小姫殿 風殿、冷殿脱出しますぞ!」


 カバレイルはクレアの首筋を打ち据えて気絶させると、クレアを肩に担いで脱出する事にした。


「おいおい、僕が獲物をおいそれと見逃すと思っているのか!?」

「ふ、思っていない……。 さ!!」


 レイルは黄色く輝く魔晶石を床に叩きつけると強烈な光が部屋を包み、気が付いた時にはすでにレイル辺境伯達はどうやったのか、逃げ出した後だった。


「ち、辺境伯如きが僕から逃げおおせるとは、やるじゃないか」


 その時、赤と白の手甲を装備している女性の人影が部屋に入って来た。


「来たか、ここから逃げ出した奴らを見つけ出して殺せ、良いな……()()

「はい、マスター……」


 こうして私達がやっとの思いで終わらせた戦争の先に待っていたのは、新たな戦いの時代の始まりだった。

 そして、これから始まる戦いは後世の人達に『神魔大戦』と呼ばれる事になるのだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

主要な仲間達も散り散りとなり、今後はアポカリプス教団が力を持つ事になって行く事となりました。


次回からやっと主人公である共也視点に戻ります。


次回は“神白 共也”で書いて行こうと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ