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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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戦争の終わり。

 デスがグロウを何個もの肉塊へと変えた事で、リリスの侵攻から始まった人族と魔族の長かった戦争も終わりを迎える事となった。


「アンデット達も、グロウの死によって存在が保てなくなって、次々に崩れて消滅して行きますね……」


 地上ではアンデット達が崩れ去って行く様を見て、グロウの死を知った人達が歓声を上げている所だった。


 だがグロウを葬ったデスは、私達から見ても分かり易く怪訝な顔を浮かべていた。


「デスさん?と呼べば良いですか? 何か気になる事でもあるのですか?」

「む? ああ、デスと呼び捨てにしてくれて構わん。

 3人にはこいつの討伐を譲って貰った恩があるから正直に言うが……。 グロウの魂を回収する事に成功したのだが、やはり穢れていると思ってな」

「穢れて……、ですか?」

「ああ、魂は様々な個性的な色を持っているのだが、こいつの場合は……。 いや、君達には見て貰った方が早いな、これだ」


 そう言うとデスは自身の手の平から真っ黒に染まった球らしき物を取り出したのだが、その玉からは黒い瘴気が立ち昇りながら、女性とも男性とも聞き分けられない怨嗟の声を叫び続けていた。


「これは……。 デス、そのグロウの魂をどうするの?」

「元々スキルの力はディアナ様の力の一部だからな、回収した魂はディアナ様に吸収してもらうのが通例なのだが、ここまで穢れてしまっているとそうもいかん……。

 長い年月がかかるかもしれんが、天界で1次的に封印して浄化されるのを待つ事になるであろうな……」

「ディアナお母様は天界にいるのですか!?」


 ディアナは天界にいる。 この言葉にシルが反応した。


「ぬ? そうだが……。 そうかお前はユグドラシルの精霊か、ディアナ様はお前の記憶を封印した事に対して涙を流されておったよ。 自分の娘に酷い事をしてしまったとな」

「ディアナお母さん……。 デス、天界に戻ったらお母さんに伝言をお願いしても良い?」

「構わんよ、聞こう」

「記憶を封印された当初は何故こんな事をされたのか分からなかったけど、共也と会えた事で様々な事が起こった事でお母さんの気持ちを理解する事が出来ました。 

 今は感謝の気持ちでいっぱい……。 あなたの娘として生まれて来て、これ程幸せな事はありません、ありがとう。 と伝えて貰って良いかな?」


 シルは胸に手を当てて感謝の意を示し、デスにディアナへの伝言を頼んだ。


「お前の兄として、ディアナ様にはお前の言葉を必ず伝える事を約束しよう」

「え? あなたは私の兄に当たるの? 弟じゃなくて?」

「ハハハ! 私がいつからディアナ様の側にいると思っているんだ、お前が生まれる遥か昔からだぞ?」

「そ、そうなんですね……。 デスお兄さん、伝言の方はお願いします」

「ああ、我が妹よ、元気でな。 3人共、皆がお前達の帰還を待ち望んでいるから、そろそろ行ってやれ」

「デス……」


 グロウが消滅した事で地上の骨達もただの骨に戻って行き、地面に吸収されて行く。

 長かった戦争もこれで終わりを迎えた事を知った人々は、人、魔族関係無く隣に居る者と抱き合い、涙を流しながら勝鬨を上げていた。


「ああ、そうだルナサス」

「デス、何かしら?」

「今回の戦争を終わらせる事に尽力してくれた転生者と転移者は、後で天界に招かれディアナ様から直接感謝の言葉が送られるだろう。

 地上に戻ったらその事を伝えておいてくれ。 では去らばだ」

「ちょ! そんな大事な事は自分で伝えなさいよ!!」

「ははははは! 去らばだーーー!!」

「デス! 待ちなさいってばーーー!!!」


 デスはルナサスの言葉を無視して、笑い声を残して天界へと帰って行った。


「はぁ……。 まぁ、それくらいのお使いなら心良く受けて上げましょうか。 シルさん、ジュリア、地上で皆が待ってる。 帰りましょう」

「そうですね。 胸を張って地上へ戻りましょう、私達の仲間の元に」


 そして私達は地上に降り立つと、人々に大歓声で迎えられた。


「3人が降りて来たぞ!! 世界の秩序を脅かしたグロウを倒した人達だ、まさに英雄と呼ぶに相応しい!!」

「そうだ! まさに3人の女英雄だな!!」

「良いじゃないかその呼び名!!」


 私達が地上に降りると様々人達から握手を求められたり、感謝の言葉を掛けられたりと、とても嬉しくはあるのだけれどさすがにあれだけの戦闘の後では疲れるので勘弁して欲しかった……。 


「皆静まれ、静まるんだ! シグルド大隊長から大事なお言葉がある、清聴するように!!」


 竜騎士アランの言葉に騒いでいた人達もピタリと静かになると、壇上に上がったシグルド大隊長の言葉を待っていた。


「……辛く、激しい戦いだった……。 人族、魔族問わず、卑劣な方法で世界を破滅寸前まで追いつめた魔王グロウは、今日討たれた。

 だが、奴を討つ為に私達は沢山の同胞や知り合いを失う事になってしまった。 しかし、今君達の隣にいる者を見て欲しい。

 あれ程命のやり取りをした人族、魔族が種族の垣根を超えてこの戦いも、そして先程のアンデット達の襲撃も互いに協力し合い、見事にこの厄災を乗り越える事に成功したのだ。

 我々はただ憎し見合うだけでは無く協力し合える、協力しあえるのだ!! だから皆に願う……。 今日から1歩で良い、お互いを理解する所から初めてみないか?」


―――ざわ……ざわ……


 シグルド隊長の言葉に最初は戸惑っていた人々も、隣に居る人の顔を見て意を決して同意する言葉を叫び始めた。


「シグルド大隊長、俺はあんたのその案に乗らせてもらう!! もう人だの魔族だの下らない理由で戦争する時代は終わりだ!!

 文句のある奴はまず俺に挑んで来い、相手をしてやる!!」


 大きな両手剣を携えて歩み出て来たのは、魔将として唯一生き残ったシュドルムだった。


「シュドルム様、そう言う事ばかり言うから脳筋だって言われるんですよ? シグルド大隊長、現在私達オートリス国は魔王リリス以下、魔将のほとんどが行方不明となっています。

 確認出来ている一番の上位者が、この脳筋のシュドルム様なので不安ですが……、まずは友好条約を結ぶ所から始めてみませんか?」


 怪我もすっかり良くなったクダラはシュドルムの副官として、まずは人族達との友好条約を結ぶ所から始める事にしたようだ。


「私はケントニス帝国のハーディ皇帝から条約を結ぶ機会がある場合、全ての権限を委譲する約束を取り付けている。 私達は結ぶと誓おう、友好条約を」

「わ、私達ノグライナ王国もその条約に参加しますよ……。 うぷ……」

「リリー殿、立ち上がって良いのか?」

「今私達は時代の分水嶺に立っているのです、魔力切れだからと言って寝ている訳にはいきません……」

「私達シンドリア王国もその条約に参加する、グランク王への報告が先になるだろうが、まず断る事は無いだろう。 長年望んでいた戦の終わりの時代が来るのだから……」

「デリック殿……。 良し! この編成部隊の締めくくりとして、最期に皆で勝鬨を上げてシンドリア王国へ凱旋するとしよう!! 皆の者!勝鬨を上げよ~~~~!!!」


 そして、皆は笑顔で剣、槍、杖を掲げる。


『「「えい、えい、お~~~~~!!」」』

「凱旋だ! 皆の者忘れ物はするなよ!!」

「アハハハハハ! 了解です大隊長!!」


 こうして長かった戦も終わりを迎え、集まった人達は帰国の途に就くために荷物を纏め始めた。


 ===


【宿営地から少し離れた森の中】


「あら、ガルボ。 同胞達に顔を見せなくて良いの?」

「オリビアか……」


 戦闘が終わり皆が集まって勝鬨を上げている中、一人抜け出したガルボは森の中を誰にも気付かれないように移動していたのだが、オリビアにはお見通しだったようだ。


「どの面下げてシュドルム達に会うって言うんだよ……。 俺が批判していたリリス様はグロウによって洗脳に近い状態だったと聞いている……、そして今は行方不明とな。 ……シュドルム達に会わせる顔なんてねえよ……」

「でも、リリスちゃんの救助には共也ちゃん達が向かってるはずだから、上手く行っていれば助け出せているはずよ?」


 やはりか……。 そして今だにリリスが見つかっていない事を考えると、きっと共也達は……。


「……オリビア、もしかしてだが、そのリリス救出メンバーの中に与一が入ってたりするか?」

「あら、良く知ってるわね。 あの娘、共也ちゃんにべた惚れだから離れる事は無いはずよ。 ガルボ、あなた与一ちゃんをどこかで見かけたの?」

「与一は『他人に氷漬けになっている姿を見られたくない……』いや、与一に似た人物を見かけたからもしかしてと思っただけだ」

「ふぅ~~ん? まあ良いわ、じゃあガルボあなたはこれからどうするの?」


 肩に荷袋を担ぎ直したガルボは、苦笑いをオリビアに向ける。


「しばらくはまた当てもない旅に出るさ……。 だが、今回は懺悔の意味もあるがな……」

(オリビアすまん……、与一との約束は破れない……。 いつか共也と会って、奴をあの場所に案内する時までは……)


 オリビアは会話の不自然さを感じながらも、ガルボはこれ以上言うつもりが無いのだと悟り会話を切り上げた。


「そう、じゃあこれは餞別よ、持って行きなさい」


 オリビアが投げて寄こした袋を受け取ったガルボは、その袋の正体を知って驚いた。


「これは魔法袋じゃねえか、こんな高価な物どうして?」

「ガルボ、あなたどうせ、前回と同じ様にまた食料持ってないんでしょう? 少し軍の保存食などをくすねて入れておいたから持って行きなさい」

「う……、すまねえ……。 お前にはまた借りが出来ちまったな、今度利子を付けて返させてもらうぜ」

「期待せずに待っておくわ、それじゃ元気でねガルボ」

「ああ、最後にお前の声を聞けて良かった……。 皆には上手く誤魔化しておいてくれ……じゃあな」


 こうして獣魔将ガルボは魔族の皆に別れを告げる事も無く、当ての無い旅を続ける事にしたのだった。


 ===


【ダグラス達、転移組視点】


 ダグラスは2本の剣を地面に突き刺し、あまりの疲労から地面に座り込んでいた。


「ふぅ……何とか終わったな……。 共也達は無事にリリスを救出する事が出来たんだろうか……」

「きっと大丈夫よ。 菊流や与一もいるんだから、きっと今頃はリリスちゃんを救助して、戦場から離れた処で休んでいるんじゃない?」

「そうなら良いですが……。 共也君の事心配ですね……」

「あれ? 魅影ちゃん共也の事だけが心配なのかな!? おやおやおや~~?」

「鈴ちゃん! 違いますから!! 皆! そう!皆の事を心配してるんですから!!」

「そう言う事にしておいて上げるよ、全く魅影ちゃんは何時まで経っても奥手なんだから」

「もう! 鈴ちゃん、いい加減にしつこいですよ!!」


 魅影と鈴がキャットファイトを始めたタイミングで、近くの草むらが微かに揺れたので皆が残党かと思い、一瞬で警戒した。


「誰だ! 出て来い!!」


 室生が銃を構えた体制で警告を発すると、草むらから出て来たのは顔が涙と鼻水でグシャグシャになっている上に、全身が泥だらけになりながらもスノウを守ろうとして一生懸命抱きしめているジェーンだった。


「ジェーンちゃん!!」

「魅影さん、皆さん……。 私は……」


 見知った顔を見た事で緊張の糸が切れたのか、ジェーンは意識を失い前のめりで倒れ始めた。


「おっと……。 ジェーンちゃん気を失っているな……」

「ナイスダグラス。 ジェーンちゃん、何処をどう通ったのか分からないけど、全身傷だらけだね……。取り合えず今の内にポーションで癒して上げよう……」


 討伐部隊から預かっている魔法袋の中からポーションを何個か取り出した鈴は、気絶しているジェーンに振りかけた。

 するとみるみる傷は癒えて行くが、ジェーンが意識を取り戻す事は無かった。


「でも、何でジェーンちゃんだけがここに? 共也達と一緒に行動していたのに……。 まさか……」


 鈴が不吉な事を口走ろうとした所で、いつの間にか白い空間に全員が飛ばされている事に気付いた。


「な、何が起きたの!?」

「鈴ちゃん周りを見て!」


 近くにはルナサス、力也、鉄志も居る。 どうやらこの戦争に尽力した転移者や転生者がこの空間に集められた様だ。


 だけど……。 与一、菊流、共也の姿が白い部屋の何処を探しても見当たらない……。 鈴達は嫌な予感はどんどん膨らんで行く……。


「皆様天界にようこそ。 どうぞこちらに、女神ディアナ様がお待ちになっています」


 声がした方を慌てて見ると、そこには真っ白い翼を背に生やした翼人の女の人が、綺麗なお辞儀をして私達を出迎えてくれるのだった。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

今回で戦争自体は終わりを迎え、その後の話しに移ります。


次回は“女神ディアナ”で書いて行こうと思っています。

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