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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
148/285

惨めな最期。

【オートリス城・上空】


 地上から立ち昇った強烈な力を宿した光の柱に巻き込まれた事で、至る所の部位が崩壊しかけているボーンドラゴンから一定の距離を保ちながら、私達3人は魔王グロウが出て来るのを待っていた。


「動きが無いですね……。 あそこまでボロボロとなってしまったボーンドラゴンは、もう使い物にならないのですから覚悟を決めて出て来るしか無いのに……。

 もしやこの期に及んで何かを企んでいるの?」

「あり得るわね。 先程まであれだけ強気だったグロウが出て来ないなんて、何かを待ってるとしか思えないわ」


 3人は未だに湧き続けているアンデットを消滅させる為に、早くグロウを倒したかったが、迂闊に近寄って奴のスキルを3人の誰かが受けても大変な事となるので、迂闊に近寄る事すら出来ない状態となっていた。


「シル様、私が魔法を撃ちこんでみましょうか?」

「……それでも良いですが、念の為に止めておきましょう。 奴が何かを狙っている場合、あなたの魔法が引き金となってしまう可能性も有るわ。

 早くあいつを倒さないと犠牲者が増えると思って焦ってしまうかもしれませんが、今はあいつがどの様な行動を取るのか見極めてから動く事にしましょう」


 シル、ジュリア、ルナサスの3人は崩壊し続けるボーンドラゴンの周りを旋回しながら、何時でも攻撃出来る様に魔力を高めて行った。


「でも、まさかあいつ。 ここまでの事を仕出かしておいて、急に死ぬのが怖くなったと思い始めて中に引き籠ってるだけ……。 って事は無いわよね?」

「ルナサスさん、さすがにそれは無いんじゃ……」

「だよねぇ……。 ジュリアさん、流石に無いか……。 無いよね?」



 ==


 ルナサスが適当に言った予想は当たっていた。


 グロウは自分が死ぬかもしれない場面が訪れた事で、ボーンドラゴンの中で頭を抱えていた。


「怖い……、怖い……、怖い……。 どうして僕がこんな目に合わないといけないんだ……。 そもそも転生してからここまで僕には良い事なんて全く無かった……。

 だから偶々知り合ったクダラから暗黒神との契約を持ちかけられた時、僕の心は踊った……。 罠かもしれないとは思ったさ。

 でもこの大して役にも立たない思考誘導のスキルを、変更する事が出来る魅力に僕は勝てなかった……。

 そして長い時間をかけてリリスを利用して、ようやく英雄に成れる可能性を秘めたこのネクロマンサーのスキルを手に入れる事が出来た。

 だからまずは暗黒神との契約を履行する為に、戦場に居る奴らの魂を手始めに捧げてやろうと思って降臨したのに、何で僕がこんな目に……」


 グロウは何故こんな理不尽な事が自分に起きるのか、本当に分っていないようだった。


「そうだ! 僕にはまだ魔将共のアンデットがいるじゃないか! 奴らを暴れさせている間に、どさくさに紛れて逃げれるはずだ!! 良し、そうとなったら奴らを操作して……」


 グロウが目を閉じて魔将達の反応を探すが、どう言う事か全く反応を感じ取る事が出来ないでいた。


「え……。 魔将達の反応を全く感じない……。 ま、まさか、この短時間で全員やられたのか!? ……あの役立たず共が~~!!」


 グロウが1人激怒している中、外からルナサスの声が隠れている場所にまで聞こえて来ている事に気付いた。


『グロウ、いつまでそのままでいるつもり? 何か考えがあってそうしてるつもりかも知れないけど、私達もずっとこのままって言う訳にはいかないのは分かっているわよね?

 後1分待っても出て来ない場合、あなた諸共その隠れ蓑を粉砕するわよ!!」


 その宣言を聞いてグロウは本気で焦り始めた。


 不味い不味い不味い……。 僕にはもう手駒と呼べる程強力なアンデットはいない、どうすれば!!


「残り10秒! 5…4…3…」


 えぇ~~い! 会話をして時間を稼ぐしかない!


「ま、待て! 今から出て行く……。 だから攻撃しないでくれ」

「分かったわ。 さっさと出て来なさい!!」


 ルナサスは、シルとジュリアの2人にグロウに聞こえないよう小声で指示を出す。


「2人はいつでも攻撃出来る準備をしておいて……、私が奴と会話をするわ」

「「了解」」


 するとすぐにボーンドラゴンの頭部からグロウが滲み出るように出て来たのだが、奴は両手を上げて戦意は無い意思表示をしていた。


「魔王グロウ、それはどう言う真似かしら? まさか私達があなたのその行動を信じるとでも?」

「ま、待ってくれ! 本当に僕は反省しているんだ! だからチャンスをくれ、いや、下さい!! この通りです!!」


 グロウは恥も外聞も気にせずにいきなり土下座した事に、ルナサスは驚きを通り越して呆れてしまった。


「あんた……」


 ルナサスがグロウの行動に呆れている中、この世界の住人であるシルとジュリアの2人は頭の中が疑問符で一杯だった。


「ルナサスさん、あの行為って何か意味があるんですか? ただ単に頭を地面に擦りつけてるだけの様に見えるのですが……」

「そうそう、もし何かの意味があっても彼奴がやって来た事を許すなんて事は無いと思うんだけど……」


 ルナサスは2人にそう言われた事で、土下座をしているグロウに少し同情的になっていた自分に気付いた。


(そうか……。 私は土下座の意味を知っているけど、この世界の住人の2人は分からなわよね……。 危なかった……、私も元日本人の記憶に引っ張られる所だったわ……)


「いや、2人は土下座の意味を知らない方が良いわ。 あれは私達が居た世界だから通用した行動なんですもの……。 だからこの世界に持ち込まない方が良いわ」


 そしてルナサスは拳に魔力を纏わせ、グロウに拳を突き付けて告げる。


「もう諦めなさいグロウ。 あなたが今までして来た事はすでに皆知っているし、許されるとも思っていないでしょう?

 魔国の代表にまで登り詰めた男なんですから潔く覚悟を決めて散りなさい!」


 土下座し続けるグロウに死刑宣告を告げたルナサスだったが、肝心のグロウは土下座をした格好のままずっとブツブツと呟いていた。

 その何も反応も示さないグロウに3人は頭を捻るしか無かった。


「あなた、さっきから何をブツブツと言ってるの、いい加減に……」


 ルナサスが言い切る前に顔を勢いよく上げたグロウのその顔は、何故か笑顔だった。


「ハハハハハ! 馬鹿め、俺の詠唱は完了したぞ、さっさと殺さなかった事をあの世で後悔しやがれ!!【魔将復元】」


 スキルの1つを発動させたグロウの横には、ジュリアが消滅させたはずの【死魔将グリムリーパー】が復活して宙に浮いていた。


「今更その魔将を復活させた所で何をするつもりですか? そいつは魔将の名が付いているだけで大した力を持っていませんでしたが?」


 ジュリアの疑問にグロウは含み笑いで答える。


「くくく、弱くて当然だ。 何故ならこいつ本来の力は強すぎて僕の命令を聞かない時があったからな。

 だから、わざわざ能力を封印してある程度まで弱くしていたんだよ。 それを解除する!!」


 やばい! 魔王であるグロウが強すぎると言う位だ、生半可な強さじゃない!!


「2人共、グリムリーパーの封印を解除される前に奴をもう一度倒すわよ!!」

「「分かったわ!」」

「【フレイムフェザーランス】」

「【神聖樹魔法・断罪】」

「【多重魔法・ホーリーランス】」


 3人が同時にグリムリーパーに向けて攻撃を撃つが、グロウは笑っていた。


「残念! 遅かったな【封印解除】!!」


 ―――パリン!


 ガラスが割れる様な音が辺りに響くと同時に、グリムリーパーを中心に魔力の嵐が吹き荒れた。 暴風雨の様な魔力に飲まれた3人の攻撃も打ち消されてしまい、呆然とするしかなかった。


「な、何なの、この魔力の圧は……」

「下手をすると私達と同等の力を有していますね……。 やっとグロウを仕留めれそうだったのに、今更こんな奴が出て来るなんて」


 3人が悔やんでいるとグリムリーパーの目に光が灯り、意識を取り戻した。


「わ、私は一体……」

「グリムリーパー、お前は僕のスキルを使って復活させたんだよ、お前の役目は僕が撤退する時間を稼ぐ事だ!! 良いな!?」

「グロウ! あなたここまで来たのに、まだ意地汚く逃げるつもりでいるの!?」

「そうだ! 生き足掻く事の何が悪い!!」


 4人が言い合っている中、復活したばかりで意識が混濁していたグリムリーパーが声を出す。


「そうか……。 私は1度そのエルフによって消滅させられて、今復活させられたのか……」

「そうだ! だから僕の盾となり撤退する時間を稼げ! 何度も言わせるな。 僕に作られたお前の使命を思い出せ、グリムリーパー!」

「使命……。 そうか……」


 グリムリーパーの反応に満足したグロウが、3人から逃げようと背を向ける。


「じゃあな! いつかお前等を殺してやるから、精々夜道には気を付け」


―――ドシュ!


「ガハ……!?」



 グリムリーパーに時間稼ぎをさせて逃げようとしたグロウの腹からは、巨大な鎌が生えていた。


「グ、グリムリーパー……貴様なんのつもりだ。 創造主である僕に反抗するなんて……カハ!!」

「グリムリーパー? 創造主? お前が何を言ってるのか分からんな」

「お前は何を言って……」

「一度そのエルフに消滅させられたお陰で、私に掛けられていたお前の思考誘導の状態異常も消え去ったのだ。 この意味、もちろんお前には分かるよな?」

「あ……」


 2人の会話に付いて行けない3人が成り行きを見守っていると、グリムリーパーがこちらを向いた。


「こいつをここまで追いつめたのは君達なのだろうが、私に止めを譲って貰っても構わないかな?」

「私達は構わないですけど……。 あなたは本当に私が1度消滅させた、死魔将グリムリーパーなのですか? あなたは先程自分でグリムリーパーでは無いと否定していましたが、ではあなたは一体……」

「ふむ、まずはそこからか……。 良いだろう、そもそも私は死魔将でもアンデットでは無い。

 私の名は【死神(デス)】。 女神ディアナ様に仕える魂の回収人だ。 あまりにもこの世界に混乱をまき散らすこいつの魂を回収に来たのだが、不覚にも思考誘導にかかってしまって今まで良いように扱き使われていてな……。 恥ずかしい限りだ」


 自身の名をデスと名乗った死神は、忌々しそうにグロウに突き刺している鎌をグリグリと上下左右に動かして痛覚を刺激していた。


「痛い痛い痛い!! グリムリーパーやめてよ!!」

「やかましい!! お前の行動のせいでどれだけディアナ様が心を痛められたか……。 その心痛の一旦でも味わうと良い!!」

「そんな! 僕はただ英雄になりたかっただけで!!」

「英雄か……。 本当なら正しいスキルの使い方を説明する事は天界の規定に抵触するのだが、死ぬ貴様になら言っても問題無かろう。

 良いかグロウよ、貴様が生まれ持っていたスキル思考誘導だがな、あのスキルは他者を傷付けずに戦争を起こそうとしている者達を思い止まらせる唯一のスキルだったのだ」

「え?」

「だが貴様は自分の利益の為のみにあのスキルを使用した……。 あのスキルを平和の為に使ってさえいれば、お前は自他共に認められる英雄となっていたのにな」


 あのスキルを正しく使えば自分が英雄に成れた……。


 すでに捨てたスキルにその様な可能性が有った事に、グロウは唾を飛ばして喚き散らした。


「どうして教えてくれなかったんだ! 教えてくれれば僕だってこんな回りくどい事はしなかったかもしれないのに!!」

「先程も言ったであろう、天界の規定に抵触すると……。 まあ今更だな、さらばだ愚かな魔王グロウよ」

「嫌だーーー!! 僕はまだ遊ぶんだーーーー!!」


 最後の悪足掻きで右手に膨大な魔力を集めたグロウは、デスを攻撃しようと右手を向けるが。


 ―――ドシュ!


 何処からともなく1本の矢が飛来して、グロウの右手を貫き魔力を霧散させた。


「あれは……。 ハンネちゃん!?」


 ジュリアの視線の先には、丘の上に立ち弓を構えているハンネの姿があった。


(これで私達もやっと先に進める……。 後は任せたよジュリアちゃん……)


 この後の結果は見なくても分かっているハンネは、ダークエルフ達を連れてノグライナ王国に戻る為に背を向けた。


「ハンネか! どいつもこいつも僕を裏切りやがって、役立たずがーーーー!!」

「それが貴様がやってきた事への顛末だ……。 死ね!」

「畜生ーーーーーーー!!!」


 そしてデスの漆黒の鎌の連撃によって、グロウは何個もの肉塊に切り分けられ絶命した。


 結局最後は魔王グロウに味方する者は誰も居ないと言う、何とも寂しい惨めな最期だった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。


これで魔王グロウ戦は終わりを迎えます。 次回は戦争が終わった後の事を書いて行きますので応援の程よろしくお願いします。


次回は“戦争が終わり”で書いて行こうと思います。


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