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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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送還後の戦場②。

 ボロボロになったリリスの体を抱きかかえているトーラスは、とっくに枯れ果てたと思っていた大粒の涙が眼窩から溢れ出して彼女を濡らした。


「私は先代の魔王様にリリス様をお守りすると誓ったのに、守り切る事が出来なかった……。 私は一体何の為に存在しているのだ……。 こんな、こんな惨い結末を見る為に私は生き永らえて来たのか……」


 トーラスは後悔していた、リリス様によってシンドリア王国に転移させられた時に、彼等の準備が整うのを待たずに戻ってくれば良かったと。

 そうすれば、最低でも自分がリリス様の盾となる事が出来たはずだ……。


 私は……。 リリス様を……、守れなかった……。


 その時、何処かからか小さく笛が鳴るようなが音が聞こえて来た。


 ひゅ~、ひゅ……、ひゅ~。


「この音は何処から……。 ……まさか!」


 トーラスは小さく鳴る笛の様な音に、まさかと思い耳をリリスの口元に近づけた。

 すると、か細い呼吸だが彼女がまだ自力で呼吸をしている事にトーラスは気付いた。


「リ、リリス様!? まだ、まだ生きておられる!!」


 だが、余りにも酷い怪我だ……。

 今すぐにでも治療を開始しなければ、彼女の命の火は消えてしまうだろう……。


「私は少しの治療魔法なら出来るが、これほどの怪我を治すとなると……。 だが苦手だ何だと言ってる状況では無いな……」


 トーラスは瓦礫の中から毛布や布を引っ張り出すと、リリスを包み込み治療魔法を発動させた。


「く、私の治療魔法は確かに効いている……。 効いてはいるが、治療の効果が間に合っていない……。 どんどんとリリス様の生命力が小さくなって行く!!」


 時間が無い事に焦るトーラスは抱き抱えているリリスを暫く眺めていた。


「ふぅ……。 覚悟を決めるか……」


 するとトーラスは、ふっと一度優しく笑うとリリスの額に掛かっていた金髪を左右に分けた。


「リリス様、例えあなたが生きている事で非難する者達がいたとしても、あなたは死ぬべきではありません……。 例え何年かかっても……、私の命を捧げる事になったとしても……あなただけは必ず助けてみせる……」


 するとトーラスは浮遊魔法を発動さて空に飛び上がった。


「カカカ、アンデットの私が……。 本来なら生きている者を憎む者が、死に瀕している者を命懸けで救おうとしているのだ、こんな滑稽な話しがあろうか……」


 トーラスはこれまで生きて来た人生を思い浮かべながら、自虐的な笑みを浮かべた。


「リリス様……。 前魔王様にあなたを託された時は、どうしてリッチの私が子供を育てないといけないのか理解出来無かった……。

 だが、あなたの屈託の無い笑顔を見せられた時、稲妻に撃たれたような衝撃が骨の私に流れたのを覚えていますぞ……。

 こんな事を言うのは不敬になるのかもしれないですが……。 私はあなたの事を……『娘』と思って接していましたよ……」


 トーラスは生命反応が弱弱しいリリスの体を抱き締めると、自身の魔力を生命力に変換してリリスの体に流し込み始めた。


「例え何年かかったとしてもあなたを助けてみせる……。 【魔力変換→生命力】対象はリリス様に……。

 さらばですリリス様……」


 白く輝き始めたトーラスはリリスの体を包み込み、治療の邪魔が入らないどこか静かな場所を目指して、空を駆けて行った。

 何人かに白く輝く球体が空を移動しているのを目撃されながら……。


 そして人族と魔族の戦争が終わった後に様々な人達が2人の姿を必死に探したが、遂に見つかる事は無かった。



 ======


【人族、魔族混合部隊の視点】


「竜騎士部隊、火炎ブレス一斉射……放てーーー!!」


 ―――ゴオオォォォ!!


 ティニーの指揮で、竜騎士達が騎乗するワイバーン達がスケルトン達に対して炎を浴びせていたが、未だに湧き続けるこいつらには効果が薄かった。


「も、もう駄目だ! 俺達はここでアンデット達の仲間にされてしまうんだ!」

「何でこんな事に!! 俺達はグロウに脅されて参加させられていただけなのに、こんな訳の分からない事で死ぬなんて嫌だ~~!!」


 叫んで逃げ回っているのは、オートリス国の兵士達だろうか?


 アンデット達に殺されて奴らの仲間にされた()()()を見てしまった事で弱腰になってしまい、喚き散らして逃げ惑う……。

 むしろ軍隊としては邪魔な存在になりつつあった。


 だが、シグルド大隊長が前に出て来ると、剣を抜いて掲げると声を大にして檄を飛ばした。


「オートリス国の兵士達よ、我々は君達を見捨てたりは絶対にしない! だから今は自分の身を守る事に専念するのだ!」

『う、嘘を付くな! どうせお前等人類は危なくなったら俺達を盾にして逃げるに決まっている!!』

『そうだ! 人類に戦争を仕掛けた俺達を、お前達は憎んでいるはずだ! みすみす殺されるくらいなら、お前等を道連れに!』


 自暴自棄になった兵士達がアンデット達に背を向けると、近くで戦っていた人族達を襲おうと武器を振りかざした。


 まずい! 今陣形が崩されると、それこそ勝てる要素が無くなってしまうぞ!?


 シグルドが焦燥感を感じ始めた所で、怒号が響き渡った。


『手前ら! 魔国オートリスの兵が下らねえ事でピーチク叫んでんじゃねえぞ! 貴様等がどんな想いで兵士になったのか知らねえが、この国の為に戦っている兵士なら覚悟を決めやがれ!!』

「シュ、シュドルム様……」


 前線に躍り出たシュドルムが、アンデット達を粉砕したお陰で少し冷静になったオートリス兵はバツが悪そうな顔をすると、再びアンデット達に向き直った。


「怖気づくな! 確かに数は多いが所詮動きの緩慢なアンデット共だ! 3~4人で臨時の隊を作り、常に一緒に行動する事を心掛けるんだ!」

「そ、そうか……。 そうだよな……。 しょせんはアンデット、複数人で掛かれば恐れる事なんて……」

『そこのお前! 後ろだ!』

「え? う、うわ!」

『ウヴァァァァァァ!』

 

 兵士の1人が今まさにアンデットに噛みつかれそうになった所で、ミーリスの放った魔法がアンデットの頭を破壊すると、活動を停止した。


「どうじゃ!? このように頭を砕けば活動を停止するし、奴等はちょっとした物理で砕けるアンデットなんじゃ。

 儂の様な子供に助けられて恥ずかしく無いのか!? オートリスの兵士達よ、お主等の実力を儂に見せて見ろ!! 『この世界を作りし女神ディアナよ、彼の物達に祝福を【広範囲支援魔法・ホーリーブレス】』


 リリーの補助魔法が戦場を覆う中、さらにミーリスの支援魔法を重ね掛けした事により、味方の戦闘力が目に見えて上昇した事で落ち着きを取り戻したオートリスの兵が、人族の兵と協力して骨達を倒し始めていた。


「全く、世話の焼ける!」

「でもミーリス隊長って、そうやっていちいち文句を言うのに、最終的にこうして付与魔術を掛けて上げるんですから優しいですよね♪」

「な、何を言ってるのじゃアーヤ!!」

「顔を赤くして照れちゃって~。 可愛いですねーー!!」

「キィーーーーーー!! アーヤ、お前は儂と同い年であろうが! 儂を子供扱いするで無いわ!!」


 ミーリスの頭を撫でていたアーヤの近くに湧いた骨が彼女に嚙みつこうとしたが、姉のテトラが一瞬にして頭蓋骨を粉砕した。


「ほら、アーヤ。 ミーリス隊長で遊ばないの! デカいのが来たわよ!!」

「ギルガメのアンデットか……。 でっかいね~~~」


 バリスとオリビアによって討伐されたギルガメが、地響きをさせながらこちらに向けて進軍して来ていた。


「しょうがない……。 本当なら疲れるから嫌なんじゃが、儂がやるしか無いじゃろうな……」

「ミーリス隊長、倒せそう?」

「さっきまでなら無理じゃったが、トーラスから()()()この杖があれば可能じゃ」

「あれ? トーラス様は確か、あずけ『これは儂が貰ったんじゃーー!! もう返さん、返さんぞ!!』えぇ~……。 ミーリス隊長それはさすがに無いですよ……」


 アーヤは子供の様な癇癪を唐突に起こしたミーリスを、ドン引きした顔で見ていた。


「…………何じゃいその顔は。 分かった分かった、トーラスの奴が返せと言ったら返す。 それで良いか?」

「……本当に返すなら」

「返すと言っておるだろう! しつこいぞ!!」

「分かりました。 それでミーリス隊長、ギルガメの方は任せても大丈夫そうですか?」

「ああ、任せておけ」


 するとミーリスは魔力を練り始めると、トーラスから預かった杖に注ぎ始めた。


「アーヤ、お前はギルガメの周辺にいる兵士達を下がらせろ。 儂もこの杖を使って魔法を撃つのは初めてだから上手く制御出来るか分からんから、巻き込まれても儂は知らんぞ?」

「ちょ、ちょっと待ってください今から指示を出しますから!!『今からミーリス様がギルガメに対して極大魔法を放ちます、周辺の兵士さん達は速やかに退避をお願いいたします~~!!』」


 アーヤの拡声魔法で退避勧告を行った為、ミーリスの魔法の威力を知っている人類側の兵士達は、慌てて退避し始めた。


「ミーリス様の極大魔法だと! おい、魔族の兵士達、急いで退避しろ! ここも巻き込まれるぞ!!」

「何だって? ここも巻き込まれるって……。 ギルガメからここまでは、まだかなりの距離があるぞ?」

「悪い事は言わ無いから、死にたく無いなら俺達と一緒に退避するんだよ!」

「わ、分かった……」


 魔族の兵士達は訝し気な思いで彼等に付いて一緒に退避すると、ギルガメの周辺に暴力的な魔力の高まりを感じた。


「ミーリス隊長、進路上の兵士達の退避完了しました。 遠慮なくどうぞ!」

「うむ、行くぞ!」


 アーヤは退避が完了した事を伝えると、ミーリスは空に飛翔するとギルガメに向けて極大魔法の詠唱を開始した。


『炎を司る精霊よ我に彼のアンデットを消滅させるだけの力を……。 炎のオーブ顕現。 続いて土、水、風、氷、植物を司る精霊達よ、我にそなた達の力の一旦を貸したまえ……』


 額に汗を浮かばせながら詠唱するミーリスの周りには、基本属性である6色全てのオーブが集まり六芒星を形成していた。


「敵だったとは言え死した後も良いように使われるのは屈辱であろう、安らかに眠ると良い【6星魔法・天地神明】」


 直後6つのオーブがギルガメの周りに展開されると大量の土砂がギルガメを覆い、その外側を氷によって封じ込めると、その中では信じらない程の業火と風が渦巻いているらしく、近くを通った骨達まで漏れ出た熱量で発火する程だった。


「私も逃げ遅れて居たら、あの骨達の様になっていたのね……。 退避しろと警告してくれて助かったわ。 えっと人間の……」

「はは。 アストラ、俺の名はアストラだ」

「そう、アストラね。 ありがとうアストラ」

「良いって事よ! もう脅威となりそうなアンデットも残り少なくなって来ているし。 気を引き締めて行こうな、え~っと……。 悪い、お前の名を押して貰って良いか?」

「ココア、私の名はココアよ。 よろしくアストラ」


 兜を脱いで握手を求めたココアの顔を見たアストラは目を剥いて驚いた。

 何故なら、男とばかり思っていた魔族の兵士は、兜の中に収めていた紫の髪が腰の辺りまで垂れさがり、その人物が女性だと言う事を物語っていた。

 そして、彼女の頭を良く見ると額にはチョコンと申し訳程度の角が1本生えていた。


「ちょっとアストラ、この短い角の事は気にしてるんだからジロジロ見ないでよ!」

「あ、ああ、悪い……」

(やばい、この娘俺の好みにドストライクなんだけど……)


 動揺しているアストラの心情を理解しているのかしていないのか、ココアはアストラが腕に傷を負っている事を発見したので腕を取る。


「アストラ、あなた腕に怪我をしてるじゃない。 助けて貰ったお礼って言う訳じゃないけど治療させて頂戴」

「な、何だ? ほ、包帯でも巻いてくれるってのか?」

「何で急にどもってるのよ……。 違うわよ、私は回復魔法が使えるから治療して上げるって言ってるのよ」

「回復魔法……。 魔族の兵士……。 あ! ココアお前さっきシルさんに助けられた兵士か!?」

「そうよ、私はあの時助けられた兵士よ。

 あの時あの緑髪の女性に命を助けられたから、命の大切さを改めて思い知る事が出来たわ。 アストラあなたも自分の命は大切にしてね?」


 ココアの手から淡い光が発せられると、アストラが怪我をしている部分を包み込んだ。


 回復魔法を掛けられている間も、アストラはココアのその笑顔が気になり過ぎて、腕の治療の事が頭に入って来ていなかった。


(あ、駄目だ。 俺、完全にこの娘に惚れちゃったかも……)


 戦場で花咲く恋心だったが、2人がこの先どうなるかはまだ分からない。



 ==


 そして、ミーリスの魔法によって土の中で焼き尽くされたギルガメは、包み込んでいた土が解除されると猛烈な熱気と共に骨と灰が現れた。


「仕上げじゃ、水と植物のオーブよ……。 彼の体を糧として……育て」


 ―――メキメキメキメキ!!


 灰の中から植物の新芽がピョコンと何個か飛び出すと、それは灰と骨を栄養分として信じられない速度で大木へと成長していった。


「これで奴がアンデットとして蘇る事はもう2度とあるまい、安らかに眠れ」


 クルクルと杖を回して肩に担いだミーリスは、ユックリと地上へと降りて行くのだった。



 ギルガメを葬る事は出来たミーリスだったが、地上ではアーヤが竜人将クレストのアンデットに襲われて今まさに戦っている所だった。


「この! 離れてよ!」

「………」


 魔法が攻撃主体のアーヤは、クレストのアンデットに苦戦していた。

 死んで動きが遅くなっているとは言え、近接主体であるクレストがしつこく追従してくるため、魔法を撃つ隙が作れないでいた。


「しつこいわね! このトカゲ!」

「・・・・・」


 クレストの剣がアーヤに振り下ろされそうになった所で、2人の間に入る人物が現れるとクレストを殴り飛ばして距離を稼ぐ事に成功した。


「アーヤ、無事!?」

「テト姉!」

「力不足かもしれないけど2人で此奴を葬るわよ、良いわね?」

「うん、私も頑張る!!」


 巨体のギルガメを葬り去る事は出来た混合部隊だったが、まだまだ沸き続けているアンデット達を何とか減らさない事にはジリ貧なのは変わらない状況の中、アーヤとテトラの2人は生まれて初めて共闘して強敵と戦うのだった。




ここまでお読み下さりありがとうございます。


ミーリスによってギルガメは完全に葬り去る事に成功し、クレストとの戦闘に、アーヤとテトラの2人が挑む形となりました。


次回は“2人の共闘”で書いて行きます。


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