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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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解呪の条件。

 リリスちゃんが命を懸けて送還魔法を発動してくれたお陰で、今私達は宇宙空間を信じられ無い速度で移動していた。 流れて行く星々がトンネルの様に見える程速く……。

 そして、遠くに見える様々な銀河や星々は様々な色彩で彩られていた。


「綺麗……。 そうだ共也ちゃん!」

「ここに……いるよエリア……、で良いのかな? それとも千世ちゃんと呼べば良い?」

「どちらでも良いけど、今の私はアルトリアで生きて来た方が長いから、エリアって呼んでくれる方が良いかな? でも……、2人きりの時は千世でも良いよ?」

「じゃあ千世ちゃん……。 星々の光りがトンネルとして見えてる今の状況って、俺達はどれくらいの速度で移動してるんだろう……」

「分からないけど光速は遥かに超えてるだろうね……。 ほらまた一つ新しい銀河が見えて来たよ」

「本当だ……、このまま宇宙空間を進んで行けば俺達は地球に戻れるのかな……? 皆の犠牲の上で送還されたのに何も恩返しが出来無かった……。 しかも、一番の目的だったリリスを救い出す事すら出来無かったのに俺達だけ助かるだなんて……」


 俺はあまりにも自分が情けなくて、顔を覆う両手の間から涙が溢れて止まらなかった。


「共也ちゃん……。 菊流ちゃん達も、共也ちゃんを救う為に命を懸けた事をとても誇りに思ってるはずだよ……? 千世だった私がそうだもの」

「千世ちゃんが?」

「うん、共也ちゃんに大広間で会って記憶が戻った日、自分の部屋のベッドで寝ている時に私が共也ちゃんを車道から押し出して助け出した場面を思いだしたんだけど、自分の事を誇りに思ったもの。

 愛した人を本当の意味で命を懸けて守る事が出来たってね。 だからきっと菊流ちゃん達も……」


 俺は情けなくも年下の上に華奢な体の千世ちゃんの体に思い切り抱き付つと、嗚咽を漏らして泣いた。


「千世ちゃん……俺は、俺は~~!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

「良いんだよ共也ちゃん……。 今は私しか居ないから心置きなく泣いて良いの……。 泣いて少しでも吹っ切る事が出来たなら、また2人で歩き出そう?

 私は常にあなたの側にいる……。 そう、例えどんな姿になっても……」

「どんな姿になっても?」 

「今は気にしないで共也ちゃん……」


 千世ちゃんが不穏な言葉を残しながらも2人は抱き合いながら宇宙空間を進んで行く、様々な銀河を超えて。


「共也ちゃん、あれを見て」


 エリアは何かに気付いたのか、指差す先に見えたのは特徴的な星として有名な木星の目玉が見えて来た。


 地球まであと少しだ……。 この呪いは解呪出来るのだろうか? もし出来無かった場合、皆の努力を無駄にしてしまう上に俺は人形に……。


「大丈夫、きっとあなただけは助ける」

「千世ちゃん?」


 心の中で考えていた事を千世ちゃんに見抜かれたのはまだ良い。 だが、またも不穏な事を言う千世ちゃんに、俺は一抹の不安を感じていた。 


「ほら、地球が見えて来たよ……懐かしいな。 京ちゃま、砂~ちゃま、タケ……、ただいま……」

「千世ちゃん……。 京谷さん達はきっとエリアの事を千世ちゃんだと分かってくれるよ」

「うん……」


 そして俺達は目的の地である、夜の神白神社の敷地に向けて降下し始めた。



 ====


 【神白神社の本殿にて】


 本殿で寝ていた狼犬のタケが何かを感じ取っているのか、耳を忙しなく動かしている姿に私は懐かしさから声を掛けて見た。


「タケ、どうした?」

「ウォン!!」


 千世ちゃんが生きていた時は良くその行動を見たが、あの娘が亡くなってから全くと言って良い程見なくなったのに、どうして今その癖を?


 私と妻の砂沙美が不思議に思っていると、タケは大きくなった体で部屋の襖を突き破り外に飛び出して行ってしまった。


「タ、タケ~~~!?」

「あなた、きっとタケにしか分からない何かが起きたのよ、追いかけましょう」

「そ、そうだな砂沙美。 君は何かあった時の為に彼等を連れて来てくれ」

「分かったわ、あなたも気を付けて」


 私が懐中電灯を持ち本殿の境内に走って行ったタケを追いかけて行くと、その先から悲鳴が聞こえて来た。


 ま、まさかタケが人を襲っているのか!! 早まるなよタケ!!


「タケーーーー!!」


 慌てて境内に着いた私が見た光景。 それは、歯車と幾重もの幾何学模様で構築された青白い光を放つ魔法陣らしき物の中にいる白髪の女性を嬉しそうに舐め回しているタケの姿だった。


「いやーーーー!! ちょっと、タケ!……で合ってるよね!? 大きくなり過ぎじゃない!? あ、待って今はそれどころじゃ無いのよーー!?」


 今まで見た事の無いテンションで、尻尾を振り回しながら彼女を舐め回すタケに驚きながらも、私は我に返りタケに指示を出した。


「タケ! ステイ!!」

「クゥ~~~ン……」


 私の指示が聞こえたタケは無念そうに尻尾をだらりと下げると、こちらに戻って来ると大人しくお座りするのだった。


「君、うちのタケがすまない、怪我は無いかい?」


 千世ちゃんは声を掛けて来た人物を見た瞬間に誰か気付き、大粒の涙を流し始めた。


「京ちゃま……。 共也ちゃんを助けて上げて……。 私じゃこの呪いを解呪出来無いの……。 このままだと共也ちゃんが人形にされちゃう……」

「京ちゃまって、何故君がその言い方を知って……」


 久しぶりにその呼び方を聞いて頭の中が真っ白になった私に、砂沙美が追いついて来た。


「あなた、無事なの? それにこの魔法陣の様な物は一体何!?」


 砂沙美が捲し立てる様に質問して来るが、私にも何が何だか状況を理解出来ていないのだから答えようが無なかった。


「ほう? 1人は共也だが、もう1人はお前の娘だった千世だな。 魂が全く同じだ」

「そうだね、本来、人が生まれ変わると記憶は残ら無いはずなのだけど、しっかりと残ってるみたいね」


 俺は砂沙美さんの背後から声がした方を見ると、そこには狐の耳と尻尾を生やして祭事服と巫女服を着た男女の子供が浮遊しながら現れた。


 長年ここに通っていたけど、この2人を見た事が無かったぞ……。


 俺が動揺している中、その2人の言葉を聞いた京谷さんと砂沙美さんはあっさりとエリアが千世ちゃんである事を信じた様だ。


「はぁ!? 千世??」

「あなたは本当に私達の娘だった千世なの? もしかして最近の本で良く題材にされてる転生と言う物かしら?」


 千世ちゃんは俺に未だに回復魔法を掛けながら、躊躇いながらも頷いた。


「やっぱりか……。 それにしても共也は何とも強力な呪いを貰って帰って来たみたいだな、おいそれと解呪出来るような種類の呪いじゃないぞ?」

「天、空、お前達2人の力でも難しいのか?」

「京谷、私達にも出来る事、出来ない事はある。 だが……、代償を払えば可能だ……」


 その言葉を聞き千世ちゃんは天、空、と呼ばれた2人に顔を上げて懇願し始めた。


「お願い! 私に払える代償ならどんな物でも差し出すから、共也ちゃんを助けて!! 私の魔力ももう残り少ないし、状態異常を切る事が出来るこの銀の細剣でも切れないの! だからお願いよ!!」


 その言葉を聞いた京谷は膝を地面に付けると、確認の為に千世の転生体に再度その覚悟を問いただした。


「千世……で良いのかな? この2人の言う代償は並大抵の物じゃない、もしかしたら命を失う可能性もあると言う言葉なのは、ここに住んでこの2人を見ていた君なら分かっているよね? ……それでもやるかい?」

「うん……、やっと会えた京ちゃまと砂~ちゃまには再び辛い思いをさせてしまうけど、私は命を懸けても共也ちゃんを助けたいの……。 だから……やる!」

「そうか……。 確かに千世ちゃんが転生した姿だな。 こうと決めたらテコでも動こうとしない頑固者だ……。 本当に……私に似て……頑固者だ……」

「千世ちゃん……。 あの時助けて上げられなくて……、ごめんなさいね……」


 2人は今まで会えなかった年月を取り戻す様に、千世ちゃんを優しく抱き締めると大粒の涙を流して泣き続けた。


「共也君、君も呪いを掛けられた本人として代償を払う事になるだろうが、構わないかね?」

「はい、どちらにしてもこのまま呪いに侵されれば俺は人形と成り、きっと後悔しながら死ぬ事も出来なくなる。

 その代償を払ってでも俺は成し遂げたい事が出来たんです……。 京谷さん、お願いします」


 2人の覚悟の確認が取れた。

 私は立ち上がると、狐耳と尻尾を生やしている2人と砂沙美に儀式を始める事を告げた。


()()()()、砂沙美、まずは共也君を呪っている元凶を取り出す! 呪いの規模から考えてかなり危険な代物だ。 気を抜くなよ」

「誰に言っておる、さっさとやれ京谷」

「千世、再び会えたのに残念だよ……。 この呪いの解呪は相当大変だろうけど頑張ってね、応援してるよ」

「千世ちゃん、会えて嬉しかったわ……。 また会いましょうね?」

「うん、天ちゃん、空ちゃん辛い役割を任せてごめんね……。 京ちゃま、砂~ちゃま、タケ……またね……」


 儀式が始まると、俺の中から黒い何かが徐々に外に這い出して来た。


『きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!』『おおおおおおおおぉぉぉぉ!!!』


 なんだこれ……。 呪いの元凶達の記憶が俺に流れて来る!?


 野党達に家族全員を殺された子供の無念。 巨人によって食われる衛兵。 騙されて毒を呷った男。

 そんな人々の体験を垣間見ている俺から徐々に引き剥がされて行く黒い物体は、耳を塞ぎたくなるような悲鳴を上げながらヘドロの様に黒い触手を振り回し始めるが、天弧と空弧がすでに強力な防御結界を張っていた様で奴らの攻撃は誰にも届く事は無かった。


『嫌だ! お前も俺達と同じ様にこの呪いの一部となれ!!』


 黒い怨念達は防御結界の中に閉じ込められたが、諦めずに俺を取り込もうとしてさらに暴れ始めた。


「これは大きい……。 この規模の呪いとなると共也の代償も……」

「やって下さい、分かっていて頼んだのですから覚悟は出来ています!」

「だが……、この規模の呪いの封印となると、君が今まで過ごして来た10年分の時間が必要となる……」

「じゅ、十年分の時間!?」


 俺は十年分のと聞いて真っ先に千世ちゃんの顔が思い浮かび、そちらの方を見るとその条件を事前に分かっていたのか、彼女は困った顔をしていた。


「千世ちゃん、この事を分かっていたのか?」

「うん、呪いの規模によってはそうなるだろうなって……、そして私も……」

「千世ちゃんも!?」

「共也君、呪いとは対照を殺したい程憎いと思うから成立するのだ。 だから違う相手の中でその呪いを封印する事で、徐々に効果を霧散させて行く。 それだけが君の中に巣食うこの強力な呪いを浄化する事が出来る唯一の方法なのだ……」

「まさか、その呪いを浄化する役割を千世ちゃんに!?」

「千世も覚悟して言っている事だ……。 その覚悟を無駄にするような事はしないで上げてくれ……」


 京谷さんの言っている事は分かる、分かるが、俺は……。


 呪いが離れた事で少し体が動かせるようになった俺は、その呪いを再び自身に取り込む為に体を起こそうと手を地面に付いた。


「タケ!!」

「ウォン!!」

「グ!!」


 だが、京谷さんの合図を受けたタケが、その巨体で俺の両手両足を動けない様に地面に押さえつけてしまう。


「行くぞ千世……【神白神道術式・呪詛転身】」


 俺の中からこの10年分の記憶が薄れて行く、もちろん異世界に転移してエリアとして会った千世ちゃんとの再会も、クラニス砂漠での約束も、婚約指輪を渡した思い出も……。


「千世ちゃん!!」

「共也ちゃん……。 きっと、きっと私の事をまた思いだしてね? じゃないと今度は私が共也ちゃんを呪っちゃうからね? あなたは私が唯一愛する旦那様なんだから……」


 最期にニッコリと笑った千世ちゃんは、黒い物体を取り込むと光りに包まれしまい、その光を見たのを最後に俺も意識を失うのだった。


 ====


【街にある公園】


 キィ~~、キィ~~。


 ()は夕方の公園で1人ブランコに乗って遊んでいるのだけれど、何故ここでブランコに乗って遊んでいるのか分からない……。

 何かとても大切な事を思い出さなければいけないとは分かっているんだけど、その何かが分からないから、ずっとこうしてブランコを漕いで遊んでいた。


 


 そこに1人の金髪の美少女が現れると、僕に声を掛けて来た。


「ねぇ、あなた1人で遊んでいるの?」

「うん。 君は誰?」

「私? 私の名は黄昏 木茶華、8歳だよ。 あなたのお名前は?」

「僕は、神白 共也(かみしろ ともや)8歳、同い年だね。 今回神白神社に養子として迎え入れられたんだ、まだ良く分からない事だらけだけど友達になってくれると嬉しな」

「まぁ、あなたが今話題の神白神社に養子として迎えられた子だったのね。 そう……共也君……ね。 ちょっと知り合いのお兄さんの名前に似てたからビックリしちゃった。

 そうだ! 私とあなたはお友達になったんですから、神白神社まで車で送って上げる!」

「良いの? じゃあお願いしようかな、木茶華ちゃん」

「き、木茶華……ちゃん……。 良い響きです! ちょっと待っててね、今運転手の人を呼んで来るから!」


 木茶華ちゃんは凄い速度で公園の外に車を呼びに出て行ったので、また公園に僕1人になってしまったと思っていたのだけれど、白髪の凄く綺麗な女性がベンチに座り僕を手招きしていた。


 怪しいと思いつつも何故か僕に害を加える事は無いと確信を持てたので、その女性の元に歩いて行くと目は翠眼で見た事が無い女性だった。


 少しの間僕が見惚れていると、その女性は僕の頭を優しく撫でながら質問をして来た。


「ねぇ、君は今幸せ? 何か困った事は無い?」


 その質問に対する返答は決まっていた。


「うん、僕を養子として迎えてくれた今の両親にはとても感謝してるし、タケって言う大きな狼犬も僕をいつも守ってくれるんだ。

 こんな状況を幸せだと思えないなんて勿体なさすぎるよ」

「そうなんだね、今のご両親を大切にしてね、共也ちゃん……」

「え、どうして僕の名を……」


 どうして僕の名をこの女性が知っているのか聞こうと思っていると、木茶華ちゃんが運転手さんを連れて戻って来た。


「共也君、車を連れて来たから神社に行きましょうー!!」

「うん、分かったー!!」

「それじゃお姉さん、僕は……あれ?」


 僕が振り返ると、さっきまでそこのベンチに腰かけていた白髪の女性はすでに居なくなっていた。

 お姉さんが一瞬で消えてしまった事に困惑していると、木茶華ちゃんが僕の腕を引っ張った。


「もう、共也君ぼ~っとしてどうしたの? 早く行きましょう?」

「う、うん……。 木茶華ちゃん、さっきまでそのベンチに白髪の女性が座っていたんだけど、公園に戻って来た時に見なかった?」

「白髪……ですか? そんな目立つ髪色の女性が居たらすぐ分かると思うけど、私が公園に戻って来た時に共也君を見たけど、周りに誰も居なかったよ?」

「そう、なんだ……」


 あの女性の声をもう一度聞きたかった、と言う想いが何故か僕の心の大半を占めていた。


「ホラ、行くよ共也君」

「うん……。 でも、どこかで見た事のある人だったな……」


 僕は頭をいくら捻ってもどこかで会ったのかすら思い出せず、諦めて木茶華ちゃんと公園の側に止めてあった車に乗り込むと神白神社に帰る事にするのだった。


(綺麗な人だったな……、もしもう一度会える事があったら、今度は名前を聞いてみようかな……)


 こうして俺は呪いを解く事には成功したが、またさらに大切な物を失ってしまった。

 俺は光輝に皆の無念を叩き込む事が出来るのだろうか……。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

主人公である共也は地球に帰る事が出来ましたが、大切な者を全て失ってしまい、自身も呪いを解く代償として8歳の子供に戻されてしまいました。

 まだ完結には程遠い予定です、終わりじゃありませんからね?


次回は“送還後の戦場”で書いて行こと思っています。

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