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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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別れ③。

 呪いを掛けられた共也を解呪出来る可能性がある『神白神社』に送り届ける必要がある。 だが、その送還魔法をリリスが構築する為の時間を稼ぐ必要がある。


 共也……、さよなら……。


 私は共也に別れを告げると、光輝を迎え撃つべく身体強化した炎を纏い単身で通路を逆走していたのだが、前方から目的の人物の声が聞こえて来た。


「おや、ここにも醜い魔物が居たか。 しかも、まぁまぁの強さの魔物と来たもんだ」


 私は先制攻撃として殴りかかろうとしたが、光輝のその言葉を聞いて足を止めた。


 魔物? まさかあいつ、私の事が魔物に見えてるの?


 光輝の持つ黒く輝く剣は所々にヒビが入り今にも砕けそうになっているが、そのヒビの隙間から黒い触手の様な物がヘドロの様に右半身を覆い浸食している上に、白目に青の瞳孔だった目も黒目に赤の瞳孔へと変化していて一瞬誰だか分らなかった。


「あなたは本当に私の知ってる光輝なの? それにその姿は一体……」

「流暢に人間の言葉を喋る魔物とは珍しいな。 だけど僕は魔物の知り合いなどいないし、この光り輝く姿の素晴らしさを理解出来無いとは、あまり頭の方は良く無いらしい」

「はぁ!?」


 光輝は本当に私の事を『菊流』と認識出来ていないみたいだ……。 だけど、いくら私だと分かっていなくても口から出て来た言葉が『あまり頭の方は良く無い』ねぇ……。


 私は口では殴り殺すとは言っても、心の何処かで躊躇してたのよ?

 ……でも、あいつのさっきの言葉を聞いて私の中に有ったタガが外れちゃった……。 もう本気で殺すわ……。


 菊流の決意をよそに、光輝は未だに饒舌に喋り続けていた。


「しかし、さすが魔王が住んでいる城なだけはあるよね。 共也を殺すだけなのに、次々と僕の邪魔をする敵が現れるんだから。 本当に……、本当に共也ばかりが愛されて……何度殺しても飽き足りない位憎い〖バキ!!〗ぐ!!」


 いつまでも喋り続ける光輝に高速で近づいた菊流が、右手を突き出し顔に一撃入れて後退させた。


「いつまでグダグダ言ってんのよ! あなたには小さい頃からの恨みをここで晴らすんだから、簡単にくたばるんじゃ無いわよ! クソ光輝!」

「魔物風情がよくもこの僕を殴ったな!! さっきのビックスライムみたいに、切り刻んで殺してやるよ!!」

「スライムを切り刻んでって……、やっぱりお前はディーネちゃんを!!」


 『スライムを殺した』その台詞を聞いた私は、共也と砂漠から帰って来た時からずっと一緒に旅をして来たディーネちゃんの姿が頭の中に思い起こされた。


 一緒に旅をしている途中も、時々私の膝に乗ってプルプルと機嫌良さそうに揺れたりしているディーネちゃんの事が思い起こされた。

 そんなディーネちゃんに、もう2度と会え無い。 そしてその原因を作ったのが今目の前にいる光輝なのだと思うと、頭の中で何かが切れる音が聞こえた。


「あああああああああああ!!!」

「スライム1匹葬ったからって、それが何だってんだクソ魔物がーーーーーーー!!!」


 そして、2人は殺意を持ってお互い高速で接近するのだった。


「「お前が! 死ねーーーー!!」」


 2人の衝突音によって、離れの宮殿全体が揺れる程だった。


 =====


 私は痛む体を押して、未だに送還魔法の術式を構築し続けていた。


「始まったか……。 菊流、死ぬんじゃ無いぞ……」


 どうやら2人の戦いが始まったらしく、宮殿が2人の衝突の衝撃によって揺れる為、部屋の埃が1撃毎にパラパラと落ちて来るほどだった。


 カチリ、カチ、カチ、カチリ……。


 リリスが展開している送還魔法の青い魔法陣から、1つ、また1つと歯車や幾何学模様の魔法陣が浮き上がって行くのだが、完成までにはまだもう少し時間がかかるらしく、彼女の額からは焦りを含んだ大量の汗が流れ落ちていた。


「エリア、お主の魔力はまだ保ちそうか?」


 送還の魔法陣を構築しているリリスは、常に回復魔法を掛け続けているエリアの魔力量が気になり声を掛けた。


「正直いつまで保つのか分から無いの……。 でも、共也ちゃんの命が掛かってるのだから必ず保たせてみせるよ……」

「エリア、こんな時に強がりは言うもんじゃない」

「…………正直厳しいかも」

「ならば、使っていない装置に貯められている私の魔力をエリアの方向に向かわせるから、吸収して補充するんだ」

「分かった……。 リリスちゃん、ごめんなさい……、そしてありがとう」

「にひひ、良いって事よ!」


 そしてまた部屋に魔法陣が構築されて行く音が響いて行く中、リリスの魔力が溜められている装置から光がエリアに注がれて行く。


 リリスの強力な魔力を吸収した影響なのか、エリアの回復魔法の効果も明らかに上がり、俺の痛みが本の少しだが和らいだ。


「…………なぁ、エリアよ、回復魔法を掛けながらで良いから、そのまま聞いてくれ」

「改まってどうしたのリリスちゃん?」

 

 歯車の音が部屋に響く中、少しだけ言い淀んでいたリリスは重い口を開いた。


「……菊流がどれだけ時間を稼げるか分からんが、恐らく送還の魔法陣の完成はまだもう少し時間が掛かるであろう。

 もし邪魔が入り儂が殺されてしまった場合は、送還魔法そのものが失われてしまう事になる……。 儂の一族が代々受け継いで来たこの魔法を失う事は、決してあってはならぬ事なのじゃ……」


 送還魔法が貴重な魔法だと言う事は分かるが、何故そこでエリアに声を掛けたのかが、分からなかった。


「うん、送還魔法が貴重だと言う事は私も分かるけど……、それと今この状況に関係あるの?」

「ある! この送還魔法は私の【空間魔法】の中に組み込まれた1つのスキル、術式だ。 それをエリア、お主のスキル【異世界者召喚】を使った事によって空いたスキル枠に、儂の空間魔法のスキルを複製し移植する」


 スキルを移植する、そんな事が可能なのか?


 俺は痛みに耐えながらエリアを見ると、真剣な目をリリスに向けていた。


「リリスちゃん、私は構わないけど、どうして急にそんな事をしようと思ったの?」

「何、念の為にと思ってな。 もしお主の幼馴染達が帰りたいと思った時にこの魔法が失伝されていた場合、困る奴も出て来るであろうからな」


 リリスの言いたい事は分かるが、何か焦っていると言えば良いのか、兎に角言動が不自然だ……。


「り、リリス。 だがそんな便利なスキルをお前が持っているのか?」

「共也、儂を誰だと思っておる。 様々なスキルを歴代の魔王から継承しておるのだ、それくらいは造作も無い事だ。 ではエリア、お主に複製したスキルを移植するが良いのだな?」

「良いよ。 むしろお願い、リリスちゃん」

「よし、やるぞ!?」


 リリスは送還魔法の構築作業を続けながらも、別のスキルを器用に発動させた。


「スキル【スキルの複製】発動、そして対象スキル【空間魔法】の複製……。 完了。 続いて対象者に【スキル移植】で【空間魔法】を移植……。 対象者のスキル枠の空きを確認、移植に成功……。

 使用したスキル【複製】と【移植】の両スキルの消失を確認……。

 ふぅ、エリアお主に空間魔法のスキルが加わったはずだ、後で時間があれば見て見ると良い」


 空間魔法の移植が終わった事で安心したリリスは、送還魔法の構築を急いだ。


「リリスちゃん、ありがとう。 でも何個かのスキルが消失したって……」

「ああ、元々1度使ったら消失するスキルだったから気にするな。 それに考えてもみよ、どんなスキルも何個も複製、移植出来たら困った事になるであろう? 何処かでバランスが取られているものなんだよ」

「うん。 大切に使わせてもらうねリリスちゃん」

「にひ! ああ、大切にしとくれ! 後少しで送還魔法の構築も終わるから、エリアも回復魔法を切らせるでないぞ?」

「頑張る!」


 2人は和やかに笑っていたが、エリアがある事に気付いた。


「あれ……、さっきまで聞こえていた戦闘音が聞こえない……?」

「そう言えば……、まさか戦闘が終わったのか?」


 菊流……。


 俺達は息を飲んで戦闘音で部屋が揺れる事を待っていたが結局揺れる事が無いので、どうやら2人の戦いが終わっているのは確実のようだ。


 結果が分からない俺達は緊張のあまり全員が無言になって菊流の無事を祈っていると、部屋の扉が開き誰かが入って来た。


 そして、扉の隙間から見えた髪の色は金色で……。 


「共也君、見~つけた。 こんな所に引きこもっていたのかよ」


 最悪だ……、光輝がここにいるって事は菊流は……。

 俺が最悪の事態にどうして良いのか分からないでいると、頭の中に何故か菊流からの念話が聞こえて来た。


(共也、ごめんなさい……。 光輝を仕留められなかった……、あなただけでも……逃げ……て……)

(菊流!! 菊流!?)


 俺も念話を返したが、結局菊流から念話が返って来る事は無かった……。


(菊流の……により、…人からの…望によりスキル……術が……譲渡……ました)


 まただ、先程と同じように頭の中に女性の声が途切れ途切れで聞こえて来たのだが、菊流が俺に何かを譲渡したと言う意味の分からない内容だった。


 今は何かを譲渡された事を考察する時じゃ無い。 俺は菊流を殺した上でこの部屋に入って来た光輝を睨みつけた。


「それにしてもあんな魔物達を仕向けてくるなんて酷いじゃないか、共也、お前は何時から魔物使いのスキルを取得したんだ?」

「光輝……」

「それと菊流ちゃんは何処にいるんだ、ここに居るんだろ?」


 こいつは何を言っているんだ? さっきまで光輝と戦って……、いや、そもそも魔物をって何の事だ?


「お前……、何を言ってるんだ……。 菊流はお前の足止めをする為に、さっきまでお前と戦っていたんじゃないのか?」

「足止め? ああ、さっきまで戦っていた魔物なら切り殺してやったけど、菊流ちゃんは何処にも……。 待て、共也今何て言った? 足止めをする為に僕と戦っていた……? ……だけど俺と戦っていたのは醜い魔物で……」


 俺の言っている事を信じられ無い光輝に、俺は今の自分の姿を見て見ろと告げると窓ガラスに映る自分の姿を見た光輝は絶句していた。


「何だこれは……。 俺はこんな格好をした覚えは……」

「その呪われた魔剣の影響じゃろうな……」

「何だと……?」


 話しを聞いていたリリスが、何故そのようになったのか考えを口にする。


「恐らくその魔剣は相手に呪いを発動させる毎に、使用者を蝕むように出来ておるのじゃろう。 お主が今まで何度発動させたのか分からんが、菊流が醜い魔物に見えたのもその影響だろう……」


 リリスの言葉に分かりやすい程に光輝は動揺すると、狼狽え始めた。


「じゃあ……。 じゃあ……、お前達の言う事が真実なら、さっきまで僕と戦っていた魔物は……」

「そう……。 菊流じゃよ……」


 光輝はその事実を認めたく無いのか、両手で頭を押さえると叫び始めた。


「う、嘘だ! 嘘に決まっている! 共也、嘘だと言え!!」

「本当の事だ……。 実際菊流はここにいないだろうが!! 菊流はお前が殺したんだ光輝!」


「そんな……。 やっと菊流ちゃんを手に入れる事が出来ると思ったから、僕はわざわざここまで来たのに……」


 膝から崩れ落ちた光輝だが、すぐに立ち上がると俺に剣を向けて来た。


「いや……、まだ戻って確認しないと本当かどうかわからない……。 だがその前に……、共也、お前だけはここで確実に死んでもらわないとな!!」


 光輝が止めを刺そうと、俺に剣を振り下ろして来た。


「共也ちゃん!!」


 エリアが光輝の剣から俺を守ろうと覆いかぶさってくれたが、構築されている途中の送還の魔法陣が俺達への攻撃を許さなかった。


 バチン!!


「なっ! 弾かれただと! ……おいガキ女。 死にたく無ければこの魔法陣を解除しろ。 共也に止めをさせないじゃないか」

「無理じゃよ」

「あっ?」

「ここまで構築された魔法陣を途中で解除した場合、行き場を失った膨大な魔力はここら一帯を吹き飛ばすじゃろうな。 儂やお前諸共な」

「………………」


 魔法陣を構築する作業を続けているリリスに剣を突き付けていた光輝だったが、自身が死んでは意味が無い事を悟って剣を引く。


「ちっ。 共也、何処に飛ぶつもりなのか知らないが俺から逃げられて良かったじゃないか、短い命となるだろうがな!」

「光輝……」

「精々残りの短い生を謳歌するが良いさ。

 もう共也と言う邪魔者はいなくなるのだから、菊流ちゃんを探しだして力づくで僕の物にする……。 楽しみだよ、散々僕を拒絶して来た菊流ちゃんが屈服する姿を想像するだけで……。 き、キヒヒヒヒ!」


 狂っている……。 そうとしか思え無い程光輝はどこか壊れていた。


「だけど、このまますんなり行かせるのも癪だな~~。 そうだ、こうすれば良いのか」


 光輝は自身の持つ黒く輝く剣で、送還魔法を構築して身動きの取れないリリスの背後から腹を突き刺した。


「がふ!!」

「リ、リリス!!」

「リリスちゃん!!」


 魔法陣を構築する作業をして身動きの取れないリリスに、攻撃変更した光輝は黒く輝く剣で腹を貫くと、奴は剣を上下左右に動かして傷口を広げて俺に見せつける様にリリスをいたぶった。


「ほらほら、早く魔法陣を発動させないと、ここら一帯が吹き飛んでしまうぞ?」

「や、止めろ光輝!!」

「アッハッハ、そうそう、いつも澄ました顔をしていたお前のそう言う顔を見て見たかったんだよ。 だけど止めないけどな!!」

「リリス!!」


 何度も……、何度も執拗に急所を避けて剣をリリスに突き刺す光輝に殺意が沸く……。 だが突き刺されながらもリリスは笑顔で俺を止めた。


「良いのよ共也……」

「リリス!?」

「これで良いの……。 グロウに騙されて戦争を始めたとは言え、私は魔族、人族の命を沢山失わさせてしまった。

 それなのに、私だけ助かろうなんて虫が良すぎると思うの……。 だからこのままで良いの……」

「リリスちゃん……。 駄目、そんな事……」


 リリスは口の端から血を垂らしながら、首を横に振る。


「魔王の1人としての責任は取らねばならないの……。 だから2人共、もし生き延びる事が出来たなら、たまにで良いから、こんな馬鹿な魔王も居たのだと思いだしてね……」

「リリスちゃん! そんな最後の別れみたいな言葉なんて……!」


 エリアの言葉を遮るように、青白い魔法陣が幾重にも重なりより一層強く輝きを増し始めた。


「完成……した。 さようなら2人共、元気でね……【送還魔法・リターナ】発動」


 発動しかけてさらに強く輝き始める魔法陣の中で、俺は憎しみの目で睨みつけながら光輝に指を突き付けた。


「いつか必ず皆の仇を取りにお前を殺しに戻って来る。 首を洗って待っていろ光輝……」

「おお、怖い怖い。 期待せずに待っておくから精々生き延びてみなよ共也? クックック」


 その言葉を最後に俺とエリアは魔法陣の発動と同時に、青白い燐光を残して消え去った。


(エリア。 お母様に似た匂いをした人……。 共也と幸せになってね……)


 こうして俺とエリアは、多大な犠牲を払いながらリリスの送還魔法によって地球に送り帰されるのだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

2人は多大な犠牲を払いならモ何とか地球に送還される事となりました。

この後のリリスはどうなったのかもう少し後に書くことにして、今は共也とエリアの足取りを書いて行こうと思っています。


次回は“呪いの解除の条件”で書いて行こうと思っています。

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