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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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別れ②。

 リリスが囚われていたという部屋に俺達が入ると、そこには何に使うか分からない様々な装置と巨大なタンクが所狭しと並べられていた。


「このタンク1つ1つに、リリスちゃんの魔力が溜められているの?」

「そうじゃ、他人がこのタンクの中に収められた魔力を使おうとしても、儂が拒絶すると使えなくなるみたいでな、グロウもそれでこの装置の運用を諦めて放置する事となったのじゃよ。

 だが、処分もせずに放置されていたお陰で今回は助かった……。 共也、まだ意識はあるか?」


 全身を包帯が巻かれているリリスは痛みが全身を襲っているはずなのに、俺を心配して顔を覗き込んで来てくれたので、俺も全身を激痛が襲うが意地を張って何とかその問いに答えた。


「あ、あぁ、意識が飛び飛びだが何とか……」

「良し、ジェーンよ共也を寝かせるから、そこら辺に掛けられた布を引っぺがして中央に敷いてくれ」

「リリス姉、分かった!」


 ジェーンがカーテンなどを引っぺがしていると、何も出来ない事が嫌なのか、スノウとヒノメも剣から出て来ると涙を流しながら手伝い始めた。


「スノウちゃん、ヒノメちゃん、ありがと……」

「ディーネ姉とマリ姉が本当の意味で命を懸けて共也お父さんを助ける為の時間を稼いだのです……。 だから私もお父さんの為に何かしたいんです……グス」

「ディーネ姉……。 姉の意思は無駄にしないよ……。 ズズ……」


 3人が頑張って引き剥がした布を、部屋の中央に広げて敷くと俺を横に寝かせてくれた。


「まずは呪いの種類を特定するから、ジェーン、私を共也の横に連れて行ってくれ」

「うん、リリス姉、ここで良い?」

「ああ、ありがとう。 それでは始めるぞ……スキル【診断】発動」


 魔力が溜められている装置からリリスへと光りが集まり始めると、彼女の金色の目が光り輝き始めた。


「これは……」

「リリスちゃん?」


 エリアの問いに無言だったリリスだが、呪いの判別作業が終わったのか目の光も収まった。

 だが、リリスの表情は浮かないものだった。


「エリア。 呪いの種類は【変化】、呪いをかけた相手が望んだ姿に変化させる強力な呪いの類じゃ……他の呪いなら儂にも解呪出来たのだが……。 すまぬ……」


 リリスは包帯で塞がれていない左目から涙を流しながら、両手を地面に付き謝罪した。


「そんな……、共也ちゃん……。 こんな別れなんて嫌だよ……」


 俺に膝枕をしながら、常に回復魔法を掛け続けているエリアも両目から涙が止まらず、どうして良いか分からないみたいだった。


 やっとここまで来れたのに、俺はここまでなのかな……。 ディーネやマリが命を懸けてまで繋いでくれた可能性だったのに……。 ごめんよ2人共……。


 そんな中、菊流が真剣な顔で立ち上がるとリリスの肩に手を置くと、目線を合わせて問い掛けた。


「リリスちゃん、私の質問が間違ってくれているのなら否定してくれて良いけど……。 もしかしてあなたは【送還魔法】が使えるんじゃない?」

「なっ! 何故それを知って……あ」


 リリスは自分の失言に気付いて口を咄嗟に抑えたが、最早遅かった。


 俺達は何故今そこで送還魔法の話しが出て来るのか分からないので菊流を見たが、彼女はリリスからその一言を聞く事が出来て凄く安堵した顔をすると、何故そんな質問をしたのかを話し始めた。


「やっぱり使えるのね……。 カマを掛けてみただけだったけど、良かった……使えるんだね」

「秘中の秘だから知られる訳にはいかなかったのだ……。 黙っていて悪かった……。 だが何故この状況で送還魔法の名が出て来るのだ?」


 言って良いのか少し悩んでいた菊流だったが、俺の命が掛かっているこの状況に重い口を開いた。


「私の居た街にある『神白神社』の神主には代々強力な退魔の能力を持ってるの。 もし今からでも送還魔法を使う事が出来るなら、共也を地球に送還して上げて欲しいの……。 リリスちゃん出来る?」


 リリスは頭の中で膨大な計算を繰り返しているらしくブツブツと呟いていたが、少しすると口を開いた。


「……送還する事は出来る。 だけど、4人を送還する魔力はここにある装置で何とかなるとしても、魔法陣の構築に必要な時間が足りないの……」

「それなら大丈夫よ、私がこちらに残って時間を稼ぐから……」

「くっ……菊流……それは……。 ぐああ!!」

「共也ちゃん!!」


 俺は広がり続ける痛みに意識が飛びそうになるが、何とか意識を繋ぎとめて菊流の顔を見上げると、彼女は泣きそうな顔で俺を見下ろしていた。


「リリスちゃん、私が光輝の足止めをして時間を稼ぐ事が出来れば、送還魔法を発動出来そう?」

「……多分3人分の構築時間なら、発動出来る……と思う……。 だがそうすると菊流、お前は……」

「そうね……。 上手く撃退出来れば良いけど難しいでしょうね……。 でも愛してる人を命を懸けて守る事が出来るなんて女冥利に尽きるじゃない。 

 あなたもそうだったんでしょう? ねぇエリア、いや、千世ちゃん」


 その名が出た途端、俺達の時間が一瞬止まった感じがした。


「……え? ……菊流ちゃん……、何を言って……る……の……?」

「千世ちゃん。 あなたさっきから私と共也の語尾に『ちゃん』を付けてるのを気付いてる?」

「え? ……あっ……」

「でも私が気付いたのは少し前の、共やから婚約指輪を受け取った時。 あなたが嘘を付く時にする左手で髪を後ろに流す癖を見た時からだったんだけどね……」

「…………………」

「ねぇ、どうして私達に自分は千世だって言ってくれなかったのよ……」


 回復魔法を俺に掛け続けているエリアは菊流の言葉に大粒の涙を流して、それが事実である事を物語っていた。


「……言える訳が無いじゃない……。

 私はもう10年以上前に地球で死んだ人間で、皆も私の死を乗り越えて歩いてる……。 そこに転生した私が現れたら混乱させるだけだもん……。

 私だって共也ちゃんに会って全てを思い出した時に抱き着きたかった、私は千世でこうして転生したってずっと言いたかったんだよ!?


 でも……、出来なかった。

 私は地球で5歳になるまで生きたけど、こっちの世界で今の私は14歳……。 ほぼ3倍近くこちらで過ごして来たんだよ?

 そんな私が今の家族を切り捨てて、地球の絆を取る事なんて出来ないよ……」

「エリア……、いや千世ちゃん……」


 俺は泣き続ける千世ちゃんの涙を指で拭うと、彼女は驚いた顔でこちらを見つめて来た。


「千世だと名乗る事が出来ないから、エリアとして共也と婚約をした訳なのね……。

 馬鹿ね……、それでも私達はきっと千世ちゃんとして受け入れてたはずだったのに……。 生まれ変わっても意地っ張りは変わらないんだから……」


 そう言うと菊流はエリアの背後から優しく抱き付つき何度か頭を撫でると、名残惜しそうに体を離した。 


「でも千世ちゃん、最後にこれくらいは良いよね……?」

「菊流ちゃん、何を言って……?」


 そして俺の横に座った菊流は頬を染めると、俺の顔を両手で固定すると顔を近づけて来た。


「ん……」


 そして菊流は俺に口付けをしてくるのだった。


 菊流の突然の行動に俺は痛みも忘れて目を見開いていたのだが、口づけをし続ける彼女の両目から一筋の涙が流れるのを見届けるとユックリと離れて行った。


「ふふ、共也のファーストキスは千世ちゃんに奪われてるみたいで残念だけど、私も最後くらい我が儘を通さないと後悔が残っちゃうものね……。 これで私は満足出来たわ、これで思い残す事は無いわ……。 千世ちゃん……、共也を必ず助けて上げてね……」

「そんな! 待って、菊流ちゃん! 菊流ちゃん!」


 そしてリリスは、そんな菊流の意思を無駄にしない為にも彼女が望んだ台詞を告げた。


「【送還魔法】術式構築開始……」


 俺がいる場所を中心に青白く輝く巨大な魔法陣が現れて、部屋を青白く染める。


「リリスちゃん、菊流ちゃんが!」

「エリア! お前は菊流の決意を無駄にするつもりか!? それにお前の両手は誰の命を繋いでいるんだ!」

「それは共也ちゃん……の……」

「分かっているのなら、今は共也の命を救う事に注視するんだ……。 それが菊流の望みでもあるのだから……」

「………」


 リリスの強めの言葉を受けて、エリアはとうとう何も言えなくなってしまった。


「リリス姉……、2人用の送還魔法ならもっと早く完成させることが出来ますよね?」

「ジェーンちゃんまで!?」


 ジェーンも残ると言い始めた為、エリアは驚きで目を剥いた。


「良いのかジェーン、この機会を逃せば2度と地球には戻れないかもしれないぞ?」

「うん。 私の両親は戦争で亡くなっていますし、知り合いもすでにいません。 むしろ地球に戻った方が寂しい思いをしてしまうので、思い入れが出来たこちらの世界に残りたいのです……」


 そう言うとジェーンは青白い魔法陣から出てしまった。

 そして、菊流と一緒に時間稼ぎをしようとしたが、彼女がそれに待ったをかけた。


「ジェーンちゃん、あなたがこっちの世界に残るつもりならお願いしたい事があるの……。 あなたのスキル「気配遮断」を使えば、まだ光輝に気付かれずにスノウとヒノメを連れて脱出する事が出来るはず。

 ……2人を連れて逃げて……ジェーンちゃん」

「く、菊流さんの御願でもそれは聞けません! 皆を置いて逃げるなんて出来る訳が無いじゃ無いですか! 私も一緒に最後まで戦わせて下さい!!」

「お母さん! 私は最後までお父さんとお母さんの側にいますから、そんな悲しい事を言わないでよ!!」

「そうだ! ヒノメの言う通りだ。 ディーネ姉とマリが命を懸けて時間を作ったのに、私だけが生き残るなんて出来る訳が無い!」


 スノウとヒノメも抵抗しようとするが、俺と菊流の言葉を聞き諦める。


「スノウ……ヒノメ……逃げてくれ……。 最期まで……一緒に居てやることが出来なくてごめんな……」

「共也……」

「お父さん……」


 俺はスノウとヒノメの、柔らかな毛で覆われた頭を何度も撫でてやり、別れを惜しんだ。


「ヒノメ、いらっしゃい……」

「お母さん……」

「後の事は任せるわ……。 立派な聖獣になってね……」


 ジェーンは目の前で繰り広げられる別れの光景を見て、以前ルナサスに占って貰った時の事を思い出していた。


『ジェーンお主はそれほど遠くない未来に、親しい者達と別れる悲しい未来がやってくる』まさに今、占いが当たっている……だけどもう一つ、共兄の占いで出た事もジェーンは思いだした。


『……とても細くではあるが、別れた者達と再会出来る道が残されていると出ておる』この言葉を信じるならいつか必ず皆と再会出来る……と。

 ジェーンはその時のルナサスの占いで出た結果を信じて、行動する事に決めた。


「共兄……。 ルナサスさんの占いで出た結果を信じて共兄が帰って来てくれる、その時を待ち続けます……。  だから共兄達も……諦め……無いで……くださ……い……」


 鼻水と涙でジュルジュルになったジェーンの顔をハンカチで拭うと、それを彼女に手渡した。


「さぁ、ジェーン行くんだ……。 また会った時にそのハンカチを返してくれ……」

「ばい……」


 ハンカチを大事そうに握り締めたジェーンは、スノウとヒノメを自分の元に呼び寄せた。


「ジェーン、お前には風の精霊と契約していたな、今呼べるか?」

「リリス姉……。 うん、ルフちゃん……。 来て……」

「あい」

「来たか……。 お前に私の魔力を分け与えるから、3人を守ってやってくれ……」

「あい……【エアリアルシールド】」


 ルフの魔法により強固なシールドが張られた3人は扉の前に移動した。


「行くよ2人共……」

「「………うん」」

「気配遮断……」


 ジェーン達3人の姿が見えなくなると、扉が勝手に開いた様に見えた。

 

 これで3つの命だけは助かる事に、俺達は安堵した。 


 そして菊流も扉の前で身体強化を最大で発動させた影響で、炎の羽根が舞い散る現象が発生したのを確認するとこちらに振り向いた。


「菊流……。 お前に私の魔力を託す……、持って行け」

「ありがとうリリスちゃん。 後の事は頼むわね……」

「あぁ、暴れて来い……」

「うん……、そうだ共也!」


 俺は何とか顔を上げ、菊流の方を見ると、これから死地に向かうとは思えない顔でニッコリと微笑んでいた。


「私はあなたを愛しています。 そして……これからもそれは変わらないわ! だから……、もし……、ううん。 また会えたら、千世ちゃんだけじゃなくて私の事もちゃんと愛してね?」

「くっ……菊流!」


 俺が何かを言おうとする前に、菊流は部屋を出て扉を固く閉ざしてしまった。




 そして閉ざした扉に背を預け、菊流は独り言を呟く。


「あ~あ……。 結局最後まで共也の答えを聞けなかったな……。 でもしょうがないよね、共也の心の中にはすでにエリアが居て、その中身は千世ちゃんなんだから……」


 菊流は共也を守る為のこの選択に後悔は無かったが、良く考えると光輝が真面ならこの様な結末を迎える必要も無かったと思った菊流は、フツフツと怒りが沸いて来た。


「良く良く考えると、あいつさえ同じように召喚されてなければ……。 いや元々生まれて来なければこんな事には……。 あっ、何だかあいつの事を遠慮なく殴り殺せそうかも……」


 物騒な事を言い始めた菊流は両手に嵌められた、赤と白のラインで彩られたガントレットを叩き合わせると光輝を殴り殺す為に走り出すのだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

エリアの正体は過去編で亡くなった千世ちゃんの転生体でした。 まあみんな予想していたと思いますが……。


次回も“別れ③”で書いて行きます。

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