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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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別れ①。

 時は少し遡り、魔王の間にある玉座の裏で包帯を巻かれて意識が朦朧としているリリスを見つけた俺達は、慌ててエリアの回復魔法を掛けた事で何とか意識を取り戻したリリスが、心配そうに見ている俺を見付けると目を見開いた。


「と、共也! 後ろだ! 逃げるんだ!」

「えっ? ぐあ!!」


 リリスの忠告も虚しく、激しい痛みと共に俺の左脇腹から血に濡れて赤黒く光る剣が生えていた。


「共也さん!」


 エリアの悲鳴が魔王の間に響き渡った。


「ヒッヒッヒ、やった、やったぞ! とうとうやってやった!!」

「こ、光輝……」

「ああ、共也に長年の恨みを叩きつける事が、こんなに晴れやかな気持ちになれるだなんて知らなかった……。 こんな事ならもっと早く実行すれば良かった!!」


 俺があまりの痛みに地面に手を付き振り返ると、先程までとは全く違う顔をした幼馴染がそこに立っていた。


「光輝……、何故こんな馬鹿な事を……」

「何故? 何故かだって? それはな僕が唯一愛した女性を、お前が自分の愛した女性の代わりとして僕から奪ったから……」

「光輝ぃぃぃーーーーーー!!!」


 ゴシャ!!


「ブベ!」


 途中まで何かを言いかけていた光輝だが、俺を刺した場面を目撃して激怒した菊流によって殴り飛ばされ、窓ガラスを突き破って外に放り出された。


「アッハッハ! 共也! この剣の持つ呪いは簡単に解く事は出来ないぞ!? 精々残された短い時間で菊流ちゃん達に別れを言っておくんだな!!」


 菊流に殴られた事で口の中を切った光輝は、血を流しながらそう言い残すと地上に落下して行った。


 そして光輝を殴り飛ばした菊流は、肩で息をしながら落下して行った光輝の生死を確認しようとしたが、土煙が上がっていて確認出来ない為諦めた。


「はぁ、はぁ……。 今は光輝よりも……、共也しっかりして!! 怪我を見せて!!」


 俺が大怪我を負ったと聞いたディーネ達は居ても立っても居られなかった様で、剣の中から出て来ると心配そうにしていた。


「共也!!」

「「「しっかりして!!!」」」


「ぐっ……。 駄目だ……。 何故か力が入らない。 菊流頼む確認してみてくれ……」

「分かったわ。刺された所の服を破くわよ」


 刺された箇所が良く見える様に服を破った菊流だったが、俺の脇腹の怪我が余りにも酷い為、絶句してしまい手が震えてしまっていた。


 何も言わない菊流に業を煮やしたエリアが、俺の容体を尋ねたが反応が無い。


「菊流さん! 共也さんの怪我はどうなっているのですか!? 応えて下さい!」

「…………と、共也……」

「エリア、私の治療はもう良いから共也に回復を掛けてやれ。 急ぐんだ!」


 リリスも先程よりは顔色が良くなって来ているがまだ油断は出来ない……。 そう思っていたエリアだが、苦しそうにしている俺の顔を見た事で側に来る事を決めた様だ。


「ごめん、リリスちゃん。 今は共也さんの方が危険みたいだから、回復魔法を掛けに行って来るね……」

「あぁ、エリアの治療のお陰でもう死ぬ事は無いだろうから、今は共也を優先して上げて」

「うん……」


 エリアはリリスの治療を一旦止めると、急いで俺の元に来ると菊流の肩を掴み容体を尋ねるのだった。


「菊流さん、共也さんの容体はどうなんですか!? 説明をお願いします!!」

「エリア……、共也の刺された箇所が黒い靄に……。 光輝の言葉が本当ならこれは呪い? どうしよう……」


 菊流が震える指で示した箇所を見たエリアも、声が震えていた。


「そ、そんな……。 共也さんの刺された箇所が……、人形の様な陶器に……」

「エリア。 俺の刺された場所が陶器になって行ってるのか……?」

「……………」

「エリア!」

「あ……。 は、はい……。 今から回復魔法を掛けます。 少し痛むかもしれませんが我慢して下さいね……【回復魔法・ヒール】」


 回復魔法の緑色の光りが俺を包み込むと一瞬痛みが和らいだが、すぐに痛みがぶり返した上にエリアを弾き飛ばした。


「キャア!?」

「エリア、大丈夫!?」

「回復魔法が弾き飛ばされるだなんて……」

「でも、エリア姉の回復魔法が掛かっている間は、呪いの進行が止まってましたよ!?」

「ジェーンちゃん……。 そうね、呪いの進行を抑える事が出来るんだから、意地でも回復魔法を掛け続けてやるんだから!」


 そう言えば光輝が『その呪いは簡単に解けない』と言っていたな……。


「共也さん! 回復魔法を掛け続けますからしっかり意識を維持して!!」


 今度は呪いに吹き飛ばされない様に体制を固定して回復魔法を掛けるエリアだが、呪いが回復魔法を拒絶しているらしく、身の焼ける様な音が俺の耳に響いて来ると同時に、身を焼かれる様な痛みも襲って来た。


「ぐぅ!!」

「共也さん!! 私の回復魔法が痛むのですか!?」

「エリアの回復魔法と言うより、呪いの痛みだな。 焼かれる様な痛みは続いているが、呪いの進行は止まっているみたいだ、痛む箇所が広がるのは止まったよ……」


 少しだけ安堵する皆だったが、このまま解呪出来無ければ、どんな結末が待っているのか想像するのは容易い……。


「エリア。 後どれくらい回復魔法を維持出来そう?」

「分かりません……。 でも、まだこの指輪に貯め込んだ魔力が有りますから、出来る限り保たせてみせます! 絶対に共也さんを死なせたりさせない!!」


 だが、皆は思った。

 例え指輪に貯め込んでいた魔力を使って長時間回復魔法を掛け続けても、エリアの魔力が尽きた時が……。


 重たい雰囲気の中、体をユックリを起こしたリリスが口を開いた。


「て、手が無い訳では無い……」

「え? リリスちゃん、本当に!?」


 リリスの言葉に皆が期待して、次に出て来る言葉を待った。


「私が囚われていた部屋に行こう。 あそこには私の魔力を大量に溜め込んでいる装置が置いてあるから、その貯めこんである私の魔力を使えば、もしかすると……」

「その貯めこんでる魔力を使えば、共也さんの呪いを解く事が出来る可能性があるんだね?」

「微かな可能性……。 だがな」


 その言葉を聞いた皆の行動は早かった。


「行こう! リリスちゃん、怪我をしている体に無茶を言ってるのは分かってるけどお願い……。 共也さんを助けて上げて……」


 ポロポロと涙を流すエリアの涙をリリスが指で掬い、ユックリと頷くリリスには『感謝』と言う言葉しか浮かんで来なかった。


「ほら、共也、私の肩を貸すからしっかりしなさい。 そしてエリアは共也に回復魔法を掛け続けて」

「うん……。 菊流ちゃん、共也ちゃんはきっと助かるよね?」

「助かるかじゃないの、助けるの! 行くわよ! ディーネちゃん達も付いて来て。 ジェーンちゃんはリリスちゃんに肩を貸して上げて」

「はい、リリス姉、私に肩を掛けて」

「ジェーンすまぬ。 こっちから行けば近いはずじゃ……」


 ==


 リリスの先導で俺達は一度1階まで戻ると、そこから大きく割れた崖の先に建てられている離れに向かって通路を移動していたのだが、俺達の後方から何者かの足音が聞こえて来た。


「と~も~や~く~ん! あ~そび~ましょ~!! お前がくたばるまで、僕がずっと鬼として追いかけてやるよ!」


 そう、足音と共に聞こえて来た声の主は、地上に落下したはずの光輝だった。


 俺達が1階に降りて来ている事を知らないあいつは、2階に上がって行った。


 恐らくまだ俺達が魔王の間に居ると思っているのだろう、声が徐々に遠のいて行った。


「光輝め、やっぱりあの程度じゃ死んで無かったか……」

「菊流ちゃんどうしよう……」

「今はリリスちゃんの魔力が溜められている装置の場所に急ぐわよ、対策はそこで考えましょう」

「うん。 分かった……」


 光輝をやり過ごした俺達は、リリスの魔力が溜められている装置が置いてある離れに向かう為に移動を再開すると、2つの影が城と離れを繋ぐ渡り廊下に立ち塞がった。


「ディーネ……、マリ……。 早く行こう……」


 ディーネとマリは、警戒しながら通路に立ち塞がっていた。

 何故そんなに警戒しているのか不思議に思っていると、どうやら魔王の間に居ない事を知った光輝の足音が近づいて来ているのを2人が察知したようだ。


(早く行って共也、出来る限り時間を稼ぐから、その間に呪いを解いてもらって)

「そうだよ、パパが早く元気になってくれないと私達が困っちゃうんだから」

「ディーネ、マリ……でも」

「パパ、早く行って! お願いだから!」


 いきなり大声を出して俺に先に行くように促したマリに驚いたが、その彼女の小さな手は微かに震えていた。


「分かった……」


 小さな体で決意したマリの意思を無駄にしない為にも、俺は焼ける様な痛みに耐えながら精一杯の笑顔で拳を突き出した。


「絶対に死ぬんじゃないぞ、ディーネ、マリ……」

「うん、パパも絶対に死なないでね?」

(マリは死んでも私が守るから……、遠慮なく解呪して来て、共也)

「ごめんね、2人共……あなた達の決意は無駄にしないわ……」

「菊流姉……。 パパをお願いね……」


 俺達が離れに向かって移動を再開した背中をしばらく2人が見続けていたが、通路を曲がった事で見えなくなってしまった。


(マリ……。 ごめんね、巻き込んじゃって)

「ううん……、パパを攻撃したあいつを足止め出来る可能性があるのは、私とディーネ姉のコンビしかいなかったんだからしょうがないよ……」

(マリ……、生きて必ず共也に会おうね)

「うん……。 来たよ、ディーネ姉」


 足音をわざとらしく響かせて歩いて来た光輝は、この城で会った時の幼馴染の顔を完全に脱ぎ捨てて、獲物を見るような歪んだ笑顔で2人を見つめていた。


「おやおや、これは何とも可愛らしい刺客じゃないか。 こんな小さな子供達を盾にするだなんて、共也は酷い事をするもんだ。 なぁ、君達もそう思うだろう?」

「お前みたいな最低の男がパパを語るな、不意打ちするしか能が無いくせに!」

「なっ!?」


 確かに光輝はここに現れてからと言うもの全て不意打しかしていない、小さな子供に事実を指摘された事に、光輝も顔が引きつっていた。


「…………不意打ちしか出来ないか、君自身で試してみるかい?」


 魔力を拳に纏わせて2人を殺そうとして突っ込んで行った光輝だが、攻撃の気配を感じ取った2人の行動は早かった。


「ディーネ姉!」

(えぇ!)


 2人が光輝の攻撃を回避する事に成功すると同時に、渡り廊下に肉の焼ける音が響き渡った。


「ぎゃああぁぁぁ!! ぼ、僕の腕が! 熱い!!」


 ディーネの体内に腕を取り込まれてしまった光輝は、強酸による激しい痛みにのたうち回った。


 何とか腕を引き抜いた光輝は懐から何本ものポーションを取り出すと、腕に振りかけた。


「こ、こいつらぁ~~!!」


 ポーションが効いて来たので徐々に回復しているようだが、回復速度を見る限りすぐに完治すると言う訳では無さそうだ。


 光輝が焼かれた腕を押さえて悔しそうにしている姿を通路一杯に膨張したディーネと、その中で泳ぐマリが見下ろしていた。


「貴様等、良くも僕の腕を……。 許さない……【ファイアランス】」


「私とディーネ姉には効かないよ【海流魔法】」


 光輝の放ったファイアランスはマリの海流魔法に干渉され、形が徐々に崩れて行き消滅した。


「お前だったのか、さっきの攻撃で僕が纏っていた魔力を霧散させたのは……。 なるほどな物理と魔法、両方を封じた上で、ビックスライムとなったお前が通路自体を封鎖すると言う作戦か。

 だがこの僕を舐めるなよ? この位突破出来ないで、どうやって共也から菊流ちゃんを奪い返すなんて言えるんだ、僕は取り返すんだ!! 菊流ちゃんの笑顔を!!」


(ディーネ姉、菊流さんとこの男が付き合った事が有るなんて聞いた事無いよね?)

(無い……。 この男の言動が何だかおかしくなって来てるから、マリ、注意しながら時間を稼ぐよ)

(うん、ディーネ姉も気を付けて)


 ディーネが近づこうとする光輝に触手で牽制する事で思うように行かず、魔法で攻撃するがそれもマリの海流魔法によって霧散する。

 それをしばらく繰り返していると光輝の様子がさらにおかしくなっている事に気が付いた。


「ぼぼぼぼ、僕は勇者である光輝で……魔王の手下のお前等を討伐してくれる!! 【聖剣召喚】」

(聖剣召喚なんて使えるの!?)


『聖剣召喚』と言うワードにさすがのディーネも慌てるが、光輝がいくら手を上げるが聖剣が現れる様子が無い。


「そ、そうだった。 聖剣召喚はかなり前から反応しないんだった……。 そうか、それならこっちだな……【暗黒剣召喚】」


 そちらには反応が有り、光輝の手には禍々しい形をした黒く染まった剣が握られていた。


「そうそう、これだよこれ。 これこそが僕に相応しい武器だ……えへへへへへ」


 黒く染まっている剣に頬ずりする光輝の姿は、もはや正気とは思えなかった。


(ディーネ姉……あの剣は危険……)

(うん……。 でもあいつと戦う以上、やれる所まで戦うよ、マリ……)

(分かった……。 頑張る!)


「さあ、悪魔共、覚悟は良いか? この剣の錆にしてやるよ、うへへへへへ」


 ユックリ、ユックリと歩き近づいて来る光輝に恐怖を感じる2人だったが、共也を助ける時間を稼ぐ為に必死に足止めをする覚悟を決めるのだった。


 ===


【離れの入り口】


 俺達はようやく離れの入り口に来ることが出来たので、開けようとして扉に手を掛けると、何処かが崩落する音がここまで響いて来た。


 驚いた俺達が振り返ると、先程の音は渡り廊下が崩壊して瓦礫が崖の下に落ちて行く音だった。


 それと同時にマリからか細い念話が聞こえて来た。


(パパ……。 ごめんなさい……約束果たせそうに……)


 プツン……


 マリの念話が途絶えた事で俺は絶望した顔をしていたのだろう。

 その顔を見た皆は何があったのかを察してくれた様で、ずっと無言だった。


 だが、俺の顔を見て何が起きたのか察してくれたリリスは、ある可能性を提示してくれた。


「あの崖の下は深い川が流れている、海龍であるマリならもしかすると……」

「リリス、その話は本当なのか!?」

「あぁ、だから可能性はあるのだと希望を持つのだ共也」

「分かった……だがディーネの反応は……」


 その時だった、痛みで意識が朦朧としている俺の耳に何度か聞いた事がある声が聞こえて来たのは。


『ディ……あなた……スキ……「……魔法」が譲……され……た』

 

 何だ? 今何て言ったんだ……。


 途切れ途切れに聞こえて来た声に、俺は嫌な予感が大きくなって行った。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

ディーネとマリが離脱してしまい、共也も呪いによってどうなるか分からない身となりましたが、助かる事を祈りながら、なるべく次回は早く掲載するつもりなので少々お待ちください。


次回も“別れ②”で書いて行こうと思います。

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