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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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魔王の戦い

 柚葉ちゃんが大量のスケルトン達に押し流されて何処かに行ってしまったが、探しに行く余裕すら無い程襲い掛かって来るアンデット達を相手にするだけで精一杯の状態だった。


「室生君。 その銃じゃスケルトンの相手は厳しいはずだから、この槍を使って!」


 私は収納してある槍を1本取り出すと、室生君の前に突き刺した。

 すると彼は槍の柄を握ると横に薙ぎ払いスケルトン達を打ち砕いた。


「魅影、助かった! 銃剣術も相性が悪いからどうしようかと思ってた所だったんだ!」

「上座の小僧。 儂が教えた槍の扱い方は忘れてはおらんな!?」

「は、はい、ネネさん。 ですが久しぶりなので未熟な所は見逃して下さいねっと!」

「ふっ! 取り合えず生き残れ! 文句はその後だ!」

「結局文句は言うつもりなんですね……。 まぁ、この数の暴力に生き残る事が出来たら考えますよ!」


 室生君とネネお婆様がスケルトン達を砕いて行く中、私は鈴ちゃんに近寄って柚葉ちゃんが何処に行った尋ねて見た。


「鈴ちゃん、柚葉ちゃんが何処に行ったか分かる?」

「ごめん魅影ちゃん、さすがに余裕が無いから分からない! 視界のほとんどが骨ばっかりだし、今から結界を張ってもスケルトンの反応ばかりだろうし詳しく探知出来無いの!!」

「柚ちゃん……」

「魅影、あの柚葉の事だからきっとしぶとく生き残ってるはずだから、無事だと信じて動きましょう?」

「愛璃ちゃん……。 そうだよね。 きっと柚ちゃんならきっと無事だよね……。そうとなれば、お婆様お願いします!」

「任せておいで魅影! ふっ!!」


 魅影がネネと背中合わせで槍を構えると、背中を起点にして高速で周り始めた事で、2人は小さな竜巻となり次々とスケルトン達を砕き消滅させて行った。


「ええい、それにしても、こいつら次々に湧いて出て来るからキリが無い! 油断するなダグラスの小僧。 ホレ後ろから来てるぞ!?」


 ネネお婆様は胸の谷間から取り出した鉄扇を投擲して、ダグラス君に剣を振り下ろそうとしていたスケルトンの頭を砕いて助けた。


「ネネさん、すまねえ」

「構わん、そんな大層な長重武器を2本も持っているんだ、嫁さんくらい守ってやれよ?」

「それは当たり前の事だが……」


 ネネに言われたダグラスがチラリと視線を移すと、その先では襲って来る沢山のスケルトン達の楽しそうに粉々にしたり、握り潰しているメリムの姿があった。


「ダグラス、普段押さえている力を十全に使って戦えるのって楽しいな!」

「そ、そうだな……」

(その力が俺に向かって来ない事を祈るぜ……) 


 心の中で浮気はしないと誓ったダグラスだったのだが、メリムは何か不穏な気配を感じ取ったのかいきなり戦うのを止めて振り返った。


「ダグラス、何か言ったか?」

「何も言って無い!!」

「そうか? ダグラスから何か不穏な空気を感じ取ったのだが、気のせいだったか」


 頭を傾げながらも、頭蓋骨を握りつぶすメリムを見て、ダグラスは再び心の中で誓いを立てた。


 …………俺は絶対に浮気はしねえ。


 


 その後も数えるのが馬鹿らしい程のスケルトン達を倒した俺達だったが、何時まで経っても終わらないこの無限沸きに辟易していると、遠くから土煙を上げながら近づいて来る一団がいる事に、この場で戦っている皆が気付くのだった。


 地鳴りの原因の一団は徐々に近づいて来る。


 そして地鳴りを立てていた主達はスケルトン達に突進して行き、次々と踏み砕いて粉砕して行った。


「ごめん、みんな。 到着が遅れたけど魔王ルナサスもこの戦いに参加するわ!」


 綺麗に三つ編みにした桃色の髪を後ろで1本に纏めたその先を赤いリボンで止めているルナサスが、部下の騎士達に指揮を飛ばして押されていた場所を補完した事で、押されていた勢いがピタリと止まった。


「皆はこのままタナトスの指揮に従ってスケルトン共の討伐を優先、魔族側の兵士が攻撃して来たら反撃しても良いけど、それ以外は基本共闘と考えて行動して頂戴!」

『「はっ!!」』

「ルナサス様、御武運を!」

「タナトスも油断するんじゃ無いわよ?」

「はい! ではまた後で!! ハイヤーーー!!」


 タナトスは他の部下達を引き連れて、未だに湧き続けているスケルトン達を討伐する為に馬を走らせて行き、すぐに骨達に埋もれて見えなくなった。


 そして、ルナサスは俺達の前に残り小さく手を上げて挨拶して来た。


「皆、数週間ぶりね」

「ルナサス、良く間に合ったな。 もうお前は間に合わない物と思ってたよ」

「しょうがないじゃない。 ちょっとこっちにも色々とする事があったんだから……。 それにしても本当にギリギリだったみたいね……。

 それで、この見渡す限りスケルトンの状況を簡単にで良いから説明して貰えるかしら?」


 室生が恐らくと言う予想を踏まえた上で、自身の考えを話し始めた。


 魔王グロウが現れたと同時にスケルトンが大量に現れた事。 それを考えると、奴は新しいスキルとしてネクロマンサーを手に入れたんじゃないかと説明すると、ルナサスは眉間に皺を寄せながら『有りえない……』と呟いた。


「ルナサス、何が有りえないんだ? 実際奴はネクロマンシーのスキルだとしか思えない様な事をしてるじゃないか」


 鋭い視線でダグラスを見つめるルナサスは、人差し指を立ててこの世界のスキルの成り立ちを説明し始めた。


「ダグラス、良い? 人族、魔族、獣人どの種族でも共通しているのは、生まれた時から持っているスキルを鍛えて行くと、上位スキルが手に入る。

 ここまではあなた達も知っているわよね?」

「あぁ、それと他のスキルも修練を積めば、スキルとして取得出来る、と言う感じだったよな?」

「そうよ、でも上位スキルを獲得出来る根幹のスキルが、グロウは何だったか覚えてる?」

「あっ……」

「そう、思考誘導よね?  ここまで言ったらダグラスも分かるでしょ?」

「ルナサスが言いたい事がようやく分かったよ……」

「そうよ、気付いたみたいね。 根幹スキルが「思考誘導」のあいつが死霊術と言う上位スキルを入手してる事自体が()()()()()のよ……」


 俺達は未だに空中でシルさん、ジュリアさんの2人を相手取りながら、互角に戦うグロウに得も言われぬ不気味さを感じていた。


 ==


【上空】


「クックック、どうした、どうした! 2人掛かりでその程度とは期待外れもいい所だな!!」

「こいつ!」


 グロウは、シルとジュリアの2人を相手にしても、まだ余裕があるのか挑発を交えながら戦場の上空を飛び回っていた。


「シル様、連続で攻撃魔法を放ちます、回避を!」

「ジュリア、私にはマリちゃんの海龍魔法の防御があるから、構わず撃ちなさい!」

「はい!【複合魔法・氷炎槍】行け!」


 ジュリアの撃った炎と氷が合わさった巨大な槍の複合魔法は、高速飛行しているグロウに寸分たがわず合わせたのだが、それも寸での所で回避された。


「クックック、何が連続で撃つだ、この魔法は当たれば素晴らしい威力みたいだが、結局単発魔法ではないか下らぬ」


 グロウがジュリアの放った魔法を馬鹿にしていたが、ジュリアの続く言葉で顔色が大きく変わる。


「いつまでその強気が持ちますかね?  【散!】」


「何だと!?」


 『散!』と言うジュリアの言葉に反応した氷炎槍は、グロウの逃げ場を無くす程の数に一瞬で分裂すると、一斉に襲い掛かった。


「これが狙いだったのかよ!?」


 グロウの周辺が氷炎槍の連鎖爆発によってダメージを与えたはずだが、爆煙が目隠しとなってしまいグロウがどうなったのかも確認出来ないでいた。


「失敗しましたね……。 もう少し近づいて奴が生きているか確認しないと……」


 グロウの安否を確認する為に未だに煙の漂う場所に近寄ろうとした彼女だが、突如煙の中から骨で出来た槍が高速でジュリア目掛けて飛んで来た余りにも予想外の事に、一瞬硬直してしまった。


「なっ! あの濃い煙の中から私をピンポイントで私を狙って来たですって!?」

「ジュリア!!」


 もう駄目だ! 


 シルがそう思って目を閉じそうになった所で、ルナサスがジュリアの前に現れて骨の槍を片手で受け止めた。


「ルナサス、助かりました!」

「ルナサス! 間に合ったのですね!」

「えぇ。 ジュリア、シル、私も今からグロウ討伐に参加しますが、相手が1人だから卑怯とか言っていられない状況となって来たので2人も覚悟を決めて下さい」

「一体何が……」

「下を見たら分かります」


 ルナサスに言われて2人が地上を見ると改めて気付いた。

 地上では大量の骨に抵抗したが虚しく惨殺された兵士の死体まで操られてしまい、さっきまで味方だった者達に襲い掛かっている光景が眼下に広がっていた。


「これは酷い……。 ルナサスの言う通り、確かにもう時間をかけていられませんね……」

「そう言う事です。 それで、いつまで煙の中に隠れているつもりですか? 魔王グロウ」


 煙の中にルナサスが先程掴み取った骨の槍を投げ返すと、頬にかすり傷が付いた魔王グロウが現れた。


「クックック、良い時間稼ぎが出来ると思ったのだがな、ようこそ魔王ルナサス。 都市1つを消し去られた無能な魔王よ!!」

「あんた……」

「そうそう! 俺はお前達のそんな顔が見たかったんだよ! リリスのアホには予定を狂わされたが、もはや僕のこの力があればあいつの力など不要だ! お前等を殲滅して魂を暗黒神へ貢がせてもらおうか!!」


 魔王らしく膨大な魔力を纏ったグロウは、実力者の3人を前にしても怯む事は無く、むしろ楽しそうに笑っていた。


「出来る物ならやってみなさい! 魔王グロウ!!」

「ルナサス、私も前線で攻撃します!」

「【支援魔法・総合強化】これで私達の身体能力が強化されましたから、必ず倒せるはずです。 グロウ覚悟しなさい!」


「舐めるなよ! 貴様等ごときが束になった所で僕に勝てるものか!!」


 ルナサス、シル、ジュリアの3人の攻撃をグロウが弾く度に、凄まじい衝撃波が空中で発生している。


「グロウ! 貴様の首を頂くわ!」


 その息を持つかせぬ戦闘の中で、シルがグロウの首を目掛けて氷剣を振り抜いた。


「甘い!」


 だがグロウはシルからの攻撃を受け止めようと骨で出来た剣を生成し、余裕と思って氷剣に合わせた。


 だがシルは氷剣の振動剣を発動させていたので、グロウの骨剣を抵抗も無く切断する事に成功したので、そのまま首を刈ろうとしたがギリギリの所で回避されてしまった。


「おしい……」

「うぉぉぉぉ! あっぶねぇ、クダラの肩を切断したのはこの技か! えげつない切断力だな……だが、ネタが分かれば受けなければ良いだけだが……、な!!」

「グッ!」


 シルの腹を蹴り飛ばし距離を取ったグロウは、今の内にルナサスを戦闘不能にしようと襲い掛かろうとしたのだが、何時の間にか周りを竜巻に囲まれていた。


「ちっ……、この属性魔法はジュリアと言った奴の仕業か。 奴が使った魔法がただの竜巻と言う事は無いだろうな……」


 グロウは1体のスケルトンを召喚して風の壁の中に蹴り込むと、一瞬にして粉々になって消滅していった。


「うわぁ……。 竜巻の風の中に砂と小石を大量に巻き込ませているとか、まるで巨大なミキサーじゃないか……。 凄い魔法だが……、残念ながら今の僕には効かないだなーー!!」


 グロウは自身の魔力をジュリアの竜巻と同じ方向に高速で回転させると、ユックリと竜巻の中に突入すると無傷で離脱する事に成功して視界が晴れると、視線の先にはジュリアが杖を構えていた。



「それを待ってました! 今ですシル様、ルナサス様!!」

「食らえ! 【フレイムバード】」

「焼き尽くせ! 【ファイアストーム】」

「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」


 高速で回転させていたグロウの魔力は竜巻の風を無力化してくれたが、今度は逆に2人の放った炎魔法の熱と炎を巻き取ってしまい、その中心にいたグロウを容赦なく焼いて行く。


「あ、熱い! 熱い~~~!!」

「止めよグロウ!!」


 止めを刺そうとして、ルナサスが拳に魔力を纏わせて突進して行く姿を見て焦ったのか、グロウは再び魔法陣を形成すると巨大な何かを召喚した。


「舐めるなよルナサスーーー!!」


 体の至る所を燻らせていたグロウは、炎を魔力で弾き飛ばすと、そこには巨大なボーンドラゴンが顕現していた。

 グロウがそのボーンドラゴンの背に降りたったのだが、3人も同じようにその背に降り立った。


「グロウ、時間も無いしそろそろ決着を付けさせてもらうわよ! 大人しく私達に討伐されなさい!」


 グロウはチラリと3人を見ると、クツクツと笑っていた。


「何がおかしいの、グロウ」

「いや、3人共焦っているなと思ってね。 だけど僕はこの世界の英雄になる男でね、こんな所でやられてやる訳にはいかないんだ。 おばさん達、ごめんな!?」

「「「おばあ!? この!」」」


 舌を出して3人を挑発して来たグロウに切れた、ルナサスとシル、そしてジュリアまでもが同時に攻撃を加えようとしたが、肝心のグロウがボーンドラゴンの骨の中に溶ける様に沈んでしまった。


『まだまだ時間稼ぎをさせてもらうよ、今でも次々と新しい駒が誕生しているのが分かってるんでね。 さあ3人共、急げ急げ! 何処に居るか分からない俺を急いで倒さないと、この戦場に生きている生物は居なくなるぞ? クックック!』


「グロウーーーー!!!」



 ===


 グロウの言葉の通り、今地上では次々と疲弊した兵士から倒れて行き、倒れた兵士がまた死霊術によって敵として復活すると言う悪循環が繰り返されていた。


「どうします、シグルド大隊長。 このままではジリ貧です!!」

「仕方がない……。 ティニー、リリー殿を呼んで来てくれ……」

「リリー殿ですか? 了解いたしました」


 ティニーがワイバーンを羽ばたかせ、味方の陣地奥にいるリリーを呼びに行っている間に、シグルドは自身愛用の槍を握り締めた。


(ここまでの苦戦は想定していなかったから、リリー殿の力に頼るまでも無いと思ったが、ここまで追いつめられた以上はもう四の五の言ってられん)


 少しするとティニーが戻って来てユックリとシグルドの前に着地すると、ティニーはすぐにワイバーンの背から降りて来たのだが、肝心のリリーがなかなか降りて来ないのだった……。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

あと少しで魔法グロウとの闘い自体は終わらせるつもりですので、もう少しお付き合いをお願いいたします。

次回は“怒れるトーラス”で書いて行こうかと思います。

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