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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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遅すぎた参戦。

 私ノクティスは、ようやくオートリス国近くの海岸に船を接岸し、降り立つ事が出来たのだが……。

 リリス様の転移で商業都市ボルラスに一時帰国した私は、リリス様から預かった大量の白金貨を携えて商業都市の老が……、重鎮達にオートリス国への派兵を打診に向かったのだが……。


【商業都市ボルラス・会議室】


「ホッホー! ノクティスよ、よくぞこれだけの白金貨を落ち目の魔王のリリスから奪って来たのぅ!

 皆の者、今日はこの金を使ってパーッと宴会でも開こうではないか!!」

「うひひひ! なら儂は綺麗な女共を集めて来るかのう!!」

「これだけの白金貨だ、毎日遊んでもしばらく続ける事が出来るだろうて!! えぇ~~へっへっへ!」


 私は自分の目の前に広がる光景が未だに信じられないでいた……。

 何故なら、私がこの会議室を借りで開いた議題が『リリスの救助隊をいかに集めるか』だったからだ……。


 それなのにいざ会議を開始した途端この老害共が口を開いた最初の台詞が、リリス様が私を信じて託してくれた白金貨で豪遊すると言っているのだ。

 さすがの私もこの決定には抵抗した。


「待ってくれ! リリス様が私を信じて託してくれた白金貨で豪遊するとか、あなた達は正気か!?」


 私の台詞を肥え太った老害共は冷めた目で、こちらを見て来る。

 まるで私の方が頭がおかしいと言わんばかりに……。


「ノクティスよ何を怒っておる。 その白金貨を託したリリスの命は、風前の灯と情報が入って来ておるではないか。

 ならば雇用主死亡として、この白金貨で我々が豪遊しても何の問題も無いではないか。 損得勘定を忘れたのか? ノクティスよ……。 ぐふ、ぐふふふふ!」

 

 私はこの言葉を聞いて愕然とした。

 助けを求める者が何者であれ、きっちりと金銭を払ったならば、私達は雇用主の為に身を粉にする事を信条に動く。

 これが商業都市ボルラスの法律だったはずだ……。

 リリス様の白金貨に目が眩みグロウを裏切った私が言うのもなんだが、もはやこの老人共はボルラスの商人では無い、それが今ハッキリと分かった。


「老害共が……」


 私の呟きが何人かの老害共の耳に届いていたらしく、彼等の表情が一変した。


「ノクティスよ、今何と言った? もう一度聞こえる声量で言ってみてくれんか?」


 何人かの老害共が怒りの顔を見せるが、私もリリス様の金銭を奪おうとするこいつらに相当頭に来ているので、会議室内に攻撃魔法をぶち込みこいつ等を殺す事も考えていた。


「みなさん、落ち着いてください。 そもそもこのお金はノクティスさんがリリス様から預かった金銭ですので、あなた達に使う権利は一切無いはずです。

 在りもしない妄想話しで盛り上がるのはいい加減にして下さい! これ以上会議の妨害をするようなら、ボルラス議員連盟からの除名も考えますよ!?」

「ぐ……。 マリーダ……」


 この老害共を一括した若い女性は商業都市ボルラスの議長であり、纏め役のマリーダさん25歳(独身)だ。


 議長であるマリーダさんの最終勧告も老害共には心に響かないらしく、未だに白金貨の使い道を巡ってギャーギャーと喚き散らしていた。


(時間が無いと言うのにこの老害共は!!)


 時間が無い、そう思った時、私の中で何かが切れた。


「もう……、良い」

「何だ!? ノクティスまだ文句があるのか!?」

「もういいと言ったんだ、老害共!!」

「なっ!!」

「ノクティス君!? 落ち着いて!!」


 そこにマリーダさんが間に入って関係を取り持ってくれようとしたが、もはや口に出してしまった以上後戻りは出来ない。


「最初からあなた達を頼った私が愚かだったと気付いたのだ、だからもう自分の足でリリス様を救助する為の手勢を集めてオートリス国に向かう!」

「ノクティス、許さんぞ! その大量の白金貨は儂達が使うのが相応し『ウインドカッター』い!!」


 ウインドカッターは老害の1人の頬を掠めると、会議室の壁に大きな切り傷を刻んだ。


「もう一度、()に聞こえる声量でもう一度言ってみてくれ……。 老害」

「ひ、ひいいいいいいいい……!!」

「ノクティス君!」

「マリーダさん、あなたには小さい頃から沢山お世話になりましたが、今日をもってこのノクティスは、商業都市ボルラスの役員から脱退させていただきます」

「ノクちゃん、そこまでの覚悟なのね……。 分かったわ。 でも、この老害共を止められなかったせめてもの償いとして、リリス様を救助する為の手勢を集める協力だけはさせて頂戴?」


 子供の頃から散々世話になって来たマリーダさんに、そんな悲しい顔をさせてしまった事を悔いていた私は、その申し出を受ける事にした。


「マリーダ! こ、こ奴に罰則を与えんのか!? わ、儂を魔法で攻撃して来たのだぞ! 衛兵!衛兵! こやつを牢にぶち込んで……」

「お前はいい加減黙れ!!」


 とうとう我慢の限界に達してしまったマリーダさんの怒声を受けて、私を牢にぶち込めと言った老害は腰を抜かして立てなくなっていた。


「マ、マリーダ……。 何を言って……」

「はぁ……。 ここまで酷いとは、あなたには失望しました。 後日追って沙汰を言い渡しますから覚悟しておいてください。

 それとこの老人と同じ事を言っていた人達も同罪です。 同じく追って沙汰を言い渡しますので、そのつもりで」


 その言葉に先程までリリス様から預かっている白金貨で、どの様に豪遊するかを大声で騒いでいた老人達は悲鳴と共にマリーダさんの前で綺麗な土下座を決めていた。


「そ、それだけは許してくれマリーダ。 今役員の立場を失うと儂の店が倒産しちまうよ!!」

「あら、どうして役員の立場を失うと倒産するのかしら?」

「そ、それは……」

「どうやらあなたの店も徹底的に経営状況を調べないといけないみたいね。 衛兵! 今土下座をしているこいつら全員を拘束して牢にぶち込んでおきなさい!!」

「はっ!!」

「ひぃ、嫌じゃ、嫌じゃ! 頼むマリーダ! マリーダー……!!」


 騒いでいた老害共は衛兵によって連れ出されて行ったが、会議室の中にはリリス様の救助に反対はしなかったが、賛成もしなかった中立の立場を貫く連中ばかりが残っていた。


「これは……。 ようやく老害共が排除されて風通しが良くなっても、これでは今回の議題の承認を得る事は無理そうですね……」

「ノクちゃん……」

「良いんですマリ姉、後は自力で出来る所までやってみます。 散々引っ掻き回してごめん……」


 私はマリーダ姉に静かに頭を下げようとしたのだが、途中で肩に手を置かれてそれは制止させられた。


「ううん……。 私の方こそボルラスとして支援出来無くてごめんなさい……。 でも私の商会はリリス様の救助に協力するから後で必ず寄ってね、ノクちゃん」

「分かりました、私の方は今からでも戦力になりそうな人達を募って来ますので、夜にマリーダ姉がいつも居る店舗に顔を出して見ますね?」

「うん、私もそれまでに支援出来るリストを纏めておくわ。 それにしても……。 ノクちゃん良い顔になったわね、本心からそのリリス様の為に頑張ろうとするのが伝わって来るもの」


 ノクティスは照れ臭くなり、指で頬を掻いて誤魔化すのだった。


「まぁ……。 今まで仕えて来た相手が酷すぎたと言うのも有ると思いますが……」

「ふふ、そうかもね。 では行ってらっしゃい、時間が足りないんでしょう?」

「えぇ、それではマリーダ姉、また夜に何時もの場所で……」


 私は会議室を飛び出してボルラスの中にある冒険者ギルドで、リリス様の救助に向かってくれる人物を破格の金額で募集を出した。

 最初はその報酬金額に色めきだっていた冒険者達も、向かう場所が魔国オートリスだと分かると1人、また1人と去って行った。


「やはり駄目ですか……。

 リリス様、このノクティス、あなたの期待に応える事が出来ませんでした……。 申し訳ありません……」


 私は他に協力してくれる者がいないか探しに別の場所に行こうとしたのだが、ずっと私の募集用紙を顎に手を当てて眺めていた身長が2Mくらいの、白髪を後ろで纏めている巨人族の男に声を掛けられた。


「おい、この募集は人数制限とかあるのか?」

「今の所無いが……。 あなたが参加してくれるのか?」

「あぁ、俺と言うか、俺の傭兵団が参加してやるよ」

「あなたは傭兵団の団長なのですか? あなたの団の名は?」

「俺の傭兵団の名は【戦場の救済者】。 で? 全員を雇ってくれるんだろうな!?」


 これがイラっとするほど、良い笑顔で笑う傭兵団団長ファルカスとの出会いだった。



 ===


【マリーダ商会・客間】


「ノクティス、これが私の商会が出来る支援リストよ確認してちょうだい」

「ああ……」


 手渡された用紙を捲りながら確認して行くと、ある項目で手が止まった。


「海を航海する為の大型船まであるじゃないか……。 本当に良いのか? マリーダ姉」

「ふふ、弟分の門出ですもの、これくらい奮発して上げるわ。 その代わりちゃんとリリス様を救出する事と、生きて帰って来る事を今ここで約束する事が条件よ。 出来る?」

「きっとリリスさまを救助して、俺も行き手帰って来るよ。 これで良いかい?」

「ええ。 分かっているなら、明日の出れるように準備に取り掛かりなさい。 時間は待ってくれないわよ!?」

「マリーダ姉、この借りは必ず返すよ……」


 マリーダ姉と別れた俺は、商会の中で役に立ちそうな魔道具を粗方購入すると、ボルラス中の店舗を周り必要になりそうな物資を買い漁った。 


 1日中様々な物資を求めて町中を走り回っていると、いつの間にか気付いた時に空も白み始めていた。

 マリーダ姉が用意してくれた船の出航時間が近づいていた。


 そして私が乗る予定の大型船の前に来たのだが……。



「わはは! 待て待て~~!」

「きゃはははは!」


 甲板上を小さな子供達が走り回っていて、船の上はまさに運動会場となってしまっていた……。

 俺の視線の先では、酒を飲みながら子供達の様子を見守っていたファルカスが樽に寄りかかっていたので、彼の頭に無言で拳を落とした。


「痛ってえ!! あ、ノクティス……」


 私の視線に気付いたノクティスは、慌ててこの惨状の説明を始めた。


「お前が言いたい事は分かる!! 分かるが聞いてくれ! こいつらはまだ小さな子供だが特殊な能力を持っている子供がほどんどなんだ!!」


 俺は疑わし気な目をファルカスに向けた。

 だってしょうがないだろう? こいつが連れて来た傭兵団の団員は30人くらいなのだが、半分以上が10歳位の子供の上に、さらにその半分が女の子なのだ……。


 俺はすでに魔道師が使う契約書で契約してしまった為、こちらから一方的に破棄する事は出来ない……。


 まさか、逃げられない様に締結した契約だったはずが、こっちが縛られる事になるとは予想だに出来なかった……。 


 俺は1度深い溜息を吐くと、浮かない顔を上げた。


「今更お前達との契約を解除した所で、他に当てがある訳でも無いから連れて行くが……。 あいつ等が死ぬ事になったとしても文句は無しだぞ?」

「あぁ……。 傭兵団に所属している以上その覚悟は常日頃から教育してあるから大丈夫だ。 ノクティスよ、騙すような形になってすまん……」

「もう良いさ、むしろこの依頼を受けてくれて感謝しているよ」


 こうして俺達は、魔国オートリスを目指して出航する事となった。


『出航するぞ野郎ども~~~~!! 錨を上げろ!!』

『おぉーーーーー!!』


 船が少しづつ離岸し始める中、俺は港で一人で手を振っているマリーダ姉さんを発見した。

 そして俺はマリーダ姉に手を振り返し別れを告げた。


(行って来るよ、マリーダ姉)


 ==


【オートリスの港】


 そしてオートリスの港に船を停泊させて戦場の近くに着いたのだが、そこはスケルトンが地平線を埋める程大量に溢れていた。


(この仕業は魔王グロウか? 奴にあんな能力があったとは聞いた事が無かったのだが……)


「……ス、……ティス、ノクティス!!」

「あ、ファルカス……」


 大量のアンデットの発生源が何処か深く考えていた為、ファルカスに大声で呼びかけられたお陰でようやく意識を取り戻した。


「呆けるなよ! 雇い主であるお前がしっかりしてくれないと、俺達もどうすれば良いのかわからんのだぞ!?」

「そうだった、まず角笛を吹いて私達が参戦した事を周囲の部隊に知らせてくれ! これだけの混戦なんだから同士討ちにされかねない」

「分かった! 角笛を吹けーーー!!」


 1人の小さな子供が角笛を口に含むと、見事な音を周囲に響き渡らせた。


「これで周囲の部隊には俺達の存在が知れ渡ったはずだ。 俺達もスケルトン共を駆逐するぞ野郎共!」

「お~~!!」

「行くぞーーーー!!」

「「「行くじぇーーー!!」」」


 何人か子供の声が混ざっていたが、船旅の最中に嫌と言うほど特殊性を見せつけられた俺は子供達が戦場に特攻しても何も考えないようにした。


 だけど戦場にリリス様の姿が見当たらないし、彼女の強力な魔力も感じ無い……。 やはり初動が遅すぎたのか……。


 リリス様……。


「おい! ノクティス。 女が1人アンデットの波に押されてこちらに向かって来るが、助けに入れば良いのか!?」

「何だと!?」


 ファルカスに言われてそちらを見ると、軽鎧を着た女性が大量のスケルトンの波に押されて孤立している姿が見えた。


「この! 私の魔力糸と骨のこいつらでは相性が悪すぎる! きゃ!」


 泥に足を取られて転倒してしまったその女性を助けるために、女性の周りに集まっていたスケルトンを重力魔法を発動して圧し潰した。


「大丈夫ですか? 先程参戦したノクティスと言う者ですお怪我は?」

「だ、大丈夫です。 助けてくれてありがとうございます、ノクティスさん」


 私は手を握り彼女を立たせたのだが、何処か胸の中がむず痒いと言えば良いのか、良く分からないが心地よい感情が渦巻いていた。


 これが私ノクティスと、桃原柚葉の最初の出会いだった。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

ノクティス率いる戦場の救済者達が参戦する事により少しは楽になるかもしれませんね。

次回は“魔王の戦い”を書いて行こうと思います。

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