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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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過去の因縁

 シュドルムとデリックは、クダラを冗談のように殴り飛ばした炎の翼、水の着衣、それと氷の武具を纏った緑髪の女性に見入っていた。


「た、助かったが、そなたは一体何者だ?」


 デリックが正体を尋ねたが、殴り飛ばされていたクダラが躰を起こすと、無詠唱でファイアランスを何本も出現させるとこちらに向けて射出して来た。


「何処のどいつか知らんがせっかく良い気分でそいつらを殺そうとしたのに、私に攻撃を加えるとは良い度胸だ!! 塵も残さず消滅させてやる!!」


 何本物炎の槍が、緑髪の女性に当たりそうになった所で左腕に装着されていた氷の盾を横に振るった。


「なっ!」


 クダラの驚きは当然だ。

 何故なら、氷の盾に触れた炎の槍の全てが火の粉を残して消滅したからだ。 


「相変わらず聞くに堪えない鳴き声ね……」

「貴様。 私の事を知っていると言うのか!?」

「ええ。 知っているわ。 あなたって本当に相手の不意を衝く事でしかまともに戦う事の出来ない存在よね……」 

「き、貴様! 名を、名を名乗れ! 我を知っていると言うのなら必ず何処かで戦ったはずだ!」


 そう言うながらもクダラは又も何本ものファイアランスを展開して撃ち放った。


「また不意打ちとは芸が無いわねクダラ。 マリちゃん、力を借りるわよ【海龍魔法】」


 またも盾に空気の膜の様な物が盾に展開されると同時に、こちらに向かって来ていた炎の槍の威力が徐々に削がれて行き、緑髪の女性の元に届く頃には爪楊枝の様に細くなり消滅した。


「ま、またか……」


 海龍魔法。 この存在を事前に共也から聞かされていたデリックは驚いた。


「海流魔法とは共也殿と一緒に居るマリ殿の魔法……。 普通の人間には使え無いはずだが……。 ま、まさか、そなたはシル殿か!? 何故ここに居る! 共也殿と一緒だったんじゃないのか!?」


 シルと指摘された緑髪の女性は目元を覆って居たバイザーを上に上げると、デリックに対してニッコリと微笑んだ。


「デリックさん、その話しは後で。 そこの鬼の人の腕の中に居る人と、倒れてる女兵士さんがちょっと危なそうだから、先にそっちを優先させて」


 その言葉を聞いたシュドルムは、顔を勢いよく上げてシルの顔を見た。


「お、お前ならクダラと、そこに倒れている女兵士を助ける事が出来るのか!?」

「助ける事は出来るわ。 でもタダで、とは行かないって事はあなたも分かってるわよね?」


 未だにクダラから飛んで来る様々な属性攻撃魔法を海流魔法で防ぎながら、シルはシュドルムにお前は私に何を差し出せるのかと問うた。

 

 少しの沈黙の後、シュドルムは決意を持って口にした。


「……この女が助かるならどんな条件でも飲む! 俺の命でも金でも何でもくれてやるさ……。 だからこいつを、クダラを助けてやってくれ……。 頼む、この通りだ……」


 鬼人族と言う種族はとてもプライドが高い。

 その鬼人族の1人であるシュドルムも例に漏れずプライドは高いのだが、その彼がクダラの助命を願う為に土下座までした事に、成り行きを見守っていたデリックも驚きを隠せなかった。


「あなたの命や金なんていらないわ。 ただ今後、この下らない戦争を終わらせる事に尽力する事。 それを守れるなら私の誇りにかけてその2人を助けるわ。 どうする?()()さん」


 シルはシュドルムに2人を助ける条件を提示したのだが、彼は躊躇なくその条件を飲む事を宣言した。


「その条件で2人が助かるなら構わない、このシュドルムの命にかけてこの下らない戦いを終わらせる事に尽力する事を宣言する。

 これで良いか? そろそろ急がないと2人が本当に死んでしまう……早く治療を……」


「……分かったわ、まずはあなたの腕の中に居る女性から……」


 シルが魔法を詠唱し始めると体が緑色に輝き始め、クダラの攻撃魔法が海流魔法の影響を受ける前に消滅して行く。


「……我の本体である神樹ユグドラシルよ。 この命消えそうな者の命の灯火を消さない為、私の体を通して命の一片を雫と変え、この者を救いたまえ……【神聖樹魔法・エリクシル】」


 シルの指先から薄く緑色に輝く水滴が一滴クダラの額に空いた穴に吸い込まれて行くと、クダラの全身が薄く緑色に輝き始め、額に大きく空いていた穴も塞がって行き、先程まで死にかけていた者とは思えないほど血色良くなって行った。


「う、ううん……」

「クダラ! クダラ! 起きろシュドルムだ!」


 バチーン!!


「はっ?」


 何故か腕の中で眠っているはずのクダラから強烈なビンタを受けてしまったシュドルムの頬には、綺麗に紅葉が出来上がっていた。


「五月蠅いですよシュドルム様、私は眠ると言ったのですから起こさないで下さい! スピー……」

「こ、こいつ! ……俺の心配をよそに、本気で寝てやがる!!」


 シュドルムの額には大量の青筋が立ち、大きく息を吸うと轟音とも取れる大声を腕の中で未だに眠っているクダラに向けて放った。


「いい加減に起きろやクダラーーーーー!!!」

「ひぎ!!!」


 あまりの大声にシュドルムの腕の中から転がり落ちたクダラは、変な叫び声をあげて飛び起きた。


「ああああああ、耳がーーーー! 酷いですよシュドルム様、人がせっかく気持ちよく寝て……寝て?」

「良かったクダラ……もう助からないとばかり……」


 クダラを優しく抱き締めるシュドルムの目には涙が溢れ流れていた。 その事に気付いたクダラは自身に起きた事を少しづつ思い出していた。


「シュドルム様……。 そう言えば私は魔物の不意打ちを受けて体を乗っ取られて……。 私はあの傷でどうやって助かったのですか?」

「それは、そこにいるシルと言う者によってだ。 だが俺もこいつの事はまだ良く分からないし、今も問題の魔物との戦闘も継続中なんだ」

「クダラさんと言うのですね。 怪我の治療が間に合ったのは行幸ですが、倒れていた女兵士さんの治療も終わっていますから、戦いの余波に巻き込まれない様に4人は今の内に離れていて下さい」


 4人。 それはあのイタチの魔物をシル1人で相手をする事を意味していた。


 簡単に自慢の攻撃魔法がシルによって防がれている事実が気に食わないのか、意地になって無数の攻撃魔法を撃ち続けるイタチのクダラを見た副官のクダラは、その異様な姿に恐怖を覚えた。

 だが、自分の手をシュドルムが握っている事を思い出し頷くと、一命を取り留めたが未だに気絶している兵士を抱き抱えて共に後方に下がって行った。


「シルとやら、お前には返しきれない恩が出来たのだ……。 その恩を返す前に……負けるなよ?」

「大丈夫よ、今の私は昔とは比べ物にならない位強くなってるんだから、あいつに負ける事は有りえ無いわ」


 シュドルム達はシルの言葉を信じて、その場を任せて後方に移動して行った。


 シュドルム達もいなくなった事で、クダラも攻撃魔法が無駄だと分かったのか、ようやく攻撃を止めると、シルに問いかけた。


「貴様……。 私を知っている風に語っていたが、私は貴様など知らんぞ……。 名を名乗れ」

「あら、暗黒神の憑依体にべったりだったあなたが私の事を知らないなんて薄情ね。 ……まあ良いわ、兜を解除して上げるから待ちなさい」

「暗黒神様の憑依体の事を知っているだと!? 貴様……まさか……」


 シルは氷で出来ている兜を解除して素顔を晒すと、クダラは憎悪の眼差しでシルを睨みつけた。


「貴様は!! あの古代都市で暗黒神様の憑依体を倒した王の横に居た精霊か!!」

「そうよ、久しぶりね、イタチのクダラ。 当時は名乗って無かったから名乗らせてもらうわね、私の名はシルよ」

「貴様!! 貴様達のせいで、暗黒神様が憑依出来る適性の有ったあの体が使い物にならなくなったせいで、また長い年月地上に顕現する事が出来なくなったのだぞ!!」

「良い事じゃない。 人々を散々楽しみの為に殺して回っていた奴が、手酷いしっぺ返しを受けた。 ただそれだけの話しでしょ? 何を被害者ぶった言い方をしているのよ」

「矮小な人間と暗黒神を比べるな、精霊風情が!!」

「精霊風情……ねぇ、その精霊風情にあなたは今から討伐されるのだけれど……。 ねぇ、どんな気持ち?」

「何を言って……」


 パキ……、ビキビキビキ……


「なっ!! 私の足が氷に覆われて!!」


 何時の間にか地上を張って来ていた氷の蔦によって徐々に足が凍り付かされていたクダラだったが、まだ足先しか凍らされていない状態で動かれた為、氷を砕かれた上に拘束から逃げられてしまった。


「舐めるなよ、私がこの程度の下級魔法で拘束される訳が!」

「そうね、でもお前の動きをほんの一瞬だけだけど制限出来たのだから上出来だわ」

「貴様!!」


 すでにシルは、体勢の崩れたクダラの目の前で剣を振り上げた状態で接近していた。

 そして、シルが氷で出来た剣を振り下ろすと同時に、クダラの左目から鮮血が舞った。


「キィヤァァァァァァァ!!!」

「残念、浅かった様ですね……。 早々と決着を付ける事が出来れば上出来だったのですが、マーサが付けた顔と一緒になれて良かったじゃないですか」


「貴様、貴様、貴様、貴様ーーーー!!!」

 

 マーサの名を出された事で、奴は左目を切り裂かれた事を思い出したらしく、今までよりさらに激高した。


「この目は暗黒神様の力を得てようやく完治した大切な目だったのに、貴様のような精霊ごときに!! 絶対貴様だけは許さん。 どんな事をしてでも殺してやる!!」


 クダラが左前足を退けると、そこにある左目は縦一直線に切り裂かれていて、完全に失明しているらしく血を流しながら閉じられていた。


「吠えるだけのイタチほど質が悪い者は無いわね」

「何だと!」

「さっさとかかって来いって言ってるのよ!! 数千年越しのギルバート達の仇討ちなんだから、手加減なんて期待しないでよね!! はあああああああああああああああああ!!!」

「こいつ、どこまで魔力を上げるつもりだ!! 大気が震えている!!」


 シルが共生魔法を使い、共也達と魔力を共有する事でさらに魔力を高めて行くと大気が震え始めた。


 その膨大な魔力の圧を受けて恐怖を感じ始めたクダラが数歩後ろに下がると、自分が今した行動を思い返した。


「私は今……、後ろに数歩下がったのか? この暗黒神様の従者であるこのイタチのクダラが恐怖を感じて? ……は、ハハハハハハ!!」


 しばらく狂ったように笑い続けたクダラだったが、すぐにピタリと笑うのを止めると残った右目でシルの姿を静かに見据えていた。


「シル、貴様だけは一片の肉片も残さず消滅させてやる! あの国の王女を庇って自ら瓦礫に潰されて消滅した王妃のようにな!!」


 その言葉を聞いたシルは、華奢な体ながら魔剣バルムンクを持ちギルバートとウルザを愛おしそうに見守っているマーサの笑顔を思い浮かべた。


「それは……、マーサの事ですか?」

「はい? それ以外誰かいるんですかねぇ? 自ら城の瓦礫に潰されて消滅した王妃なんて中々いないんじゃないかな? まぁ誰かはすでに分かっているみたいだから、問題としては分かりやすかったですかぁ!?」 

「取り消しなさい!! マーサはウルザを守る為に自らの命を犠牲にしたんです。 それを馬鹿にする事は私が絶対に許さない!!」


「「……………」」


 お互いが大切にして来た者を馬鹿にされた事で2人は無言となり、攻撃態勢へと入った。


「マーサを馬鹿にする者は……」

「暗黒神様を愚弄する者は……」

『「許さない!」』


 シルとクダラの両方が同時に飛び出し、お互いを消滅させる為の攻撃を放ったのだが、右前足に魔力を乗せたクダラの爪撃は、シルの纏う氷の鎧に傷一つ付ける事すら出来ず、逆にクダラの爪が砕け散った。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!! わ、私の爪が!!」

「五月蠅いわね、そんな爪が砕けた程度で騒ぐなら、その右前足全部切り落として上げるわよ!」


 シルがそう呟くき、共也が使う振動剣と同じ原理で氷剣を振るった事でクダラの右前足は肩から音も無く切断された右前足が地面に土埃を巻き上げた。


「ぐぎゃああああああああ!!!」


 クダラは右前足を切断された事でバランスを取る事が難しくなり、とうとうその場で倒れ込んだ。


「何を大袈裟に叫び声を上げているのよ。 あなたが躰を乗っ取っていた女性はもっと痛かったでしょうね。 それに比べると随分と軽い痛みだと思うわよ?」

「ぐぅ……。 私の体調が万全なら貴様なんぞに……」

「もう戯言は良いわ。 数千年越しの因縁をここで終わらせましょう。 さようならクダラ」

「わ、私はまだここで討たれる訳には……!!」


 そうしてクダラの言葉を聞き流したシルが、氷の剣を振り下ろそうとした時だった。


「カラカラカラカラカラカラカラカラカラ!」


 唐突に湧き出た大量のスケルトンによってクダラとの距離が離れてしまい、止めを刺す事を防がれてしまった。


「カラカラカラカラカラ……」


 その大量のスケルトン達は、シル達をその黒く染まった眼窩でジッと見つめながら独特の音を響かせて笑っている様子だった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

ここでようやく大量のスケルトンが出て来る所まで話が進みましたが、共也達の話はまだしばらく後になると思いますので、ご容赦のほどよろしくお願いします。


次回は“ネクロマンサー”で書いて行こうと思いますのでよろしくお願いいたします。

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