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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
134/285

鬼人シュドルム

 ルナサス達が鈴達が戦っている戦場まであと少しと言う所まで迫ったが、大量のアンデットが沸く少し前に話が戻る。


 ==


「貴殿が魔王リリス殿の右腕である鬼人シュドルム殿か。 戦場で命のやり取りになってしまう事が残念でならないが、ここは武将同士勝負と行きましょうか」


 遠征軍の副団長となったデリックは魔剣バルムンクの切っ先をシュドルムに向けて、戦いを誘ってみたのだが、そのシュドルムはいまいち乗り気では無い様子だった。


 その原因が。


「魔王リリスの右腕だと? 何を寝ぼけた事を貴殿は言ってるのだ? 確かにグロウ様の軍に合流する前はリリスの軍にいたが、それはあくまでスパイとしてであって……痛っ! ててて……何なんだ、さっきから頭を針で刺されている様な鋭い痛みはよ……」


「…………その様子を見る限り、貴殿まで魔王グロウによって記憶を改変されておるのだな……。 何とも惨い話しではないか……」

「はぁ? 俺の記憶がグロウ様によって改変されているだと? そんなはずは無い。 グロウ様は俺が子供の頃から親身になって育ててくれた大恩人だ。

 例えこれから剣を交える相手が礼節を持って接してくれたとしても、グロウ様を侮辱するのならば俺は貴様の事を絶対に許さんぞ!?」


 デリックがグロウを蔑む事を少し言っただけで、シュドルムは激高してしまい赤黒く染まったバカでかい両手剣を背中から取り出すと正眼に構えた。


「デリック殿、もはや剣を交えて命を狙い合う以上、誰が誰の部下だったかは最早関係無い。 貴殿も下らない戯言を言うのを止めて集中しておかないと……。 一瞬で勝負がついてしまうぞ?」


  両手剣を上段に構え、姿勢を沈ませるシュドルムの見た目は、大型の猫科の動物が獲物に飛び掛かる姿に似ている。

 その姿を見たデリックは寒気が全身を駆け巡った事で覚悟を決めてバルムンクを構えた。


「そう、それで良い。 俺達には最早言葉は不用! それでも何か語りたいのであれば、俺に勝ってから言え、デリック!」

「もはや、貴殿を救う手立てはそれしか無いか……。 しょうがないな、ではシュドルム殿、私から攻めても?」

「好きにしろ、俺はこの愛剣で全てを叩き切る!」


 デリックとシュドルムは剣士の礼儀として一度だけ剣先を打ち合わせてると、お互い自信のある構えを取った。


「では……」

「ああ……」

「いざ……」

「尋常に……」

「「勝負!!」」


 お互い挨拶とばかりに上段の打ち下ろしを打ち放つと、辺りに金属同士を叩き合う轟音が周りにいる者達の耳に届くのだった。


「さすがシュドルム殿! 聞きしに勝る剛腕!」

「そんな俺と互角に打ち合う事が出来るお前もな、デリック!!」


 周囲で2人の立ち上がりを見守っていた兵士達は、最初は静かに様子見から始まるだろうと予想していたが、実際は真逆の苛烈な攻防から始まった事の驚きを隠せずにいた。


「おおおおおお!!」

「がああああああ!!」


 デリックが切り込もうが、シュドルムは余裕の表情で受け止める事に成功する。

 お互いの愛剣がぶつかる毎に大量の火花が飛び散っていたが、何度目かの攻防で2人とも後方に弾き飛ばされてしまった。


「「ぐぅ!!」」


 だが2人は弾かれた勢いが収まると同時に走り出すと、剣を叩きつけ合う。


「「はぁ!!」」


 何度もぶつかり合う2人の姿は小さな竜巻の様で、どちらが強いのか力を比べているみたいだった。


「さすがは鬼人シュドルム殿だ、お強い……」

「お前もなデリック。 短命の人族がこれ程の強さを得るには、相当長い間苛烈な訓練を積まないと到達出来無い話しだろうに。

 それだけに惜しいな。 これから人類は英雄の1人を失う事になるのだから……な!!」


 またも示し合わしたかのように剣をぶつけ合い戦い始めた2人の間には大量の火花が飛び散り、剣戟がお互いを削り合う。


 周りの兵士達も2人の尋常でない戦いに見入っていたが、魔族側の兵士の隙間から放たれた1本の魔力矢がデリックの足首を掠めた事で、一瞬意識がそちらに逸れてしまった為、彼は上段から打ち下ろすシュドルムの攻撃に反応する事が出来なかった。


「しまった!!」


 デリックは自身の死を覚悟すると、自分の息子の顔が頭の中に浮かんで来た為に心の中で謝罪した。


(ジーク、済まない!!)


 そして謝罪すると同時にシュドルムの赤黒い剣が振り下ろされた。


 だが、硬質な音を響かせたシュドルムの両手剣だったが一向に体を切り裂かれた感覚が無い。

 デリックは不思議に思い恐る恐る目を開けると、そこには王都に置いてきたはずのジークがシュドルムの両手剣を受け止めている姿があった。


「ジ、ジーク!? お前、何故ここに!!」


 ジークとシュドルムの実力の差は明白で、剣を受け止めているだけで小さな体のジークは徐々に押され始めていた。


「く、くぅぅぅぅ!!」

「ジーク! シュドルム殿止めてくれ! 剣士同士の勝負を汚したジークの行動の事は謝罪する! だから!!」


 デリックはジークがシュドルムに殺されかねないこの状況に焦りを覚え、ジークの命を助けてくれるように懇願するが、帰って来た答えは無常だった。


「謝罪はいらん」

「そんな!!」

「勘違いするなデリック。 俺にはこの小僧を殺す気は元々無いからん安心しろ。 もう少し、もう少しだけこのままの体制でいさせてくれ……。 何かを……、何か大切な事を思い出せそうなんだ……」

「シュドルム殿?」


(一体何だ? 一体何がこの状況が俺に引っかかっているんだ……。『良いぞ、シュドルム!』!?)


 シュドルムの目の前に突如過去の記憶の世界が広がり、そこでは子供の頃の自分が羊角を持ち白色の髪を角刈りにしている男と楽しそうに剣の稽古をしている姿を遠くから見ていた。


「良いぞ、シュドルム! 今からその両手剣を使いこなせるのなら、大人になった時に必ず誰も知らぬ者などいない程の実力者となれるだろう!!」

「本当!? 魔王オートリス様!?」

「ああ、本当だ! そしてお前が成長して立派な男となった時は、我が娘リリスを陰ながら支えてやってくれないか?」

「リリス様を?」

「そうだ! 先日生まれたばかりの私の宝だ! シュドルム見てみるか!?」


 近くで見守っていた金髪赤目の女性が、赤子を愛おしそうに抱いて歩いて来た。


「優しく抱いて上げてね、シュドルム」

「王妃様」


 そして王妃と呼ばれた女性は、まだ生まれてそれ程月日が経っていない金の髪と瞳を持つ小さな女の子の赤ちゃんをシュドルムに抱かせてあげた。


「うわぁ、小っちゃくてすぐ壊しちゃいそうで、ちょっと怖いや……」

「もし私達に何かあってこの娘を守る事が出来なくなった時は、あなたが守ってあげてね? シュドルムお兄ちゃん」

「お兄……。 そうか、僕はリリスのお兄ちゃんなんだね!! 約束します魔王さま、王妃様、必ずこの娘をどんな厄災からも守ってみせるって!!」

「頼りにしてるぞシュドルム!!」

「はい! 任せて下さい……」

「アハハハハ! 頼んだぞシュドルムお兄ちゃ……」


 パリン!!


 頭の中でガラスが割れるような音が響き渡り、今まで改変されていた記憶が消え去ると同時に本当の記憶が濁流の如く頭の中を駆け巡った。


「思い……出した……。 そうだった……、俺はリリスを守ると2人へ誓ったのに……」

「シュドルム殿、大丈夫なのか?」


 シュドルムの目からは涙が溢れ出し、頬を伝って流れ落ちた。


「あぁデリック殿、お陰で頭の中がスッキリした……。 だが俺は魔王様との約束を守る事も出来ず、リリスを危険な目に合わせてしまった……。 何と魔王様に顔を合わせて良いか分からないんだ……」


 シュドルムはシンドリア王国から帰国したリリスを、グロウの命令で攻撃した記憶が残っていた。

 その為彼が自身を許す事は未来永劫訪れる事は無いだろう。


 どうリリスに償おう……。 そう思っていると俺の握っている剣の下から声が聞こえて来た。


「もう良いなら剣を退けてくれーーー!! 重いーーー!!」

「ん? おお、すまんすまん」


 ジークの必死の言葉に我に返ったシュドルムは、剣を退けると同時にその場にへたり込んだ。


「ぷは~~~~~~!! 助かった……」


 両肩で息をするジークの姿を見たシュドルムは、魔王様と一緒に稽古をしていた頃の自分と重ねた事で懐かしい過去の記憶を見る事が出来たのだと理解した。


 懐かしい記憶を見た事で良い気分になっていたシュドルムだったが、後方から怒声が響き渡った事でシュドルムの表情は怒りに染まって行く。


「シュドルム様! 何をなさっているのですか!? 早くその2人に止めを刺して下さい!」

「クダラ……」

「その2人を殺さないとこちらの指揮が下がってしまいます! さあシュドルム様、今の内に!!」


 シュドルムは副官のクダラが喚き散らす言葉を、怒りに染まった顔で静かに聞いていたが、クダラの言葉が一旦切れた所でシュドルムは質問を投げかけた、


「クダラ、さっき魔力矢が魔族側から飛んで来てデリック殿を傷付けたが、あれはお前だな?」

「え……そ、それは私は魔族側の勝利を確実な物にするために、シュドルム様をお助けしようとして……」

「嘘だな。 クダラ、お前が本当に俺の知っているクダラなら、勝負事に横槍を入れられる事を極端に俺が嫌っている事を知っているはずなんだが?」

「・・・・・」

「やはり知らなかったか。 俺の知っている副官のクダラなら、きっと俺がデリック殿に倒されたとしても横やりなんて無粋な真似はしなかったはずだ。

 それを踏まえて聞かせてくれ……。 お前……、誰だ?」


 確信を得たシュドルムは自身の副官であるクダラに剣を突き付けて問い掛けた事で、オートリス国の兵士達の間にざわめきが波が広がる様に起きて行った。


「そんな訳………。 ちっ……、脳筋だと思っていたのに、まさか魔力矢1本のせいで私の正体を疑われる事になるとはな……。

 だが一言訂正させて貰いますが、私の名はクダラですよ?」

「だから、それはお前はクダラじゃないと自分で否定したんじゃ……」

「私の()()もクダラなのですよ、鬼人シュドルム殿」

「何? じゃあ俺の副官のクダラは何処にやった」

「ここに居ますよ?」

「さっきからお前は何を言ってる……。 待て、お前まさか……」

「イヒ!」


 クダラと名乗った女は凶悪な笑みを見せると、シュドルムは飛び上がり剣を振り下ろした。

 だがその斬撃はクダラが後方に飛んで回避した事で、額が少しと眼鏡を切り落としただけで距離を取られてしまった。


「ちっ、素早い……」

「アッハハハハ!! 副官の姿をしている私に躊躇いも無く切りかかって来るとはやるじゃないか、シュドルム!」

「お前は俺の副官であるクダラじゃないって分かっているから躊躇わないさ。 それに、姿は俺の副官のクダラだが、中身が違うなら俺とは何の関係も無いからな!」


 両手剣をクダラに向けて構えるシュドルムの姿を見て、状況に付いて行けていないデリックとジークの2人はどうして良いか分からずにいた。


「シュドルム殿、これは一体……」

「デリック殿、今すぐ後方にいる人族の兵士達に下がるように指示を出してくれないか。 こいつ、何か変だ……」


 クダラから視線を外す事が出来ずにいるシュドルムの背中からは、冷たい汗が常に流れ続けていた。


「イヒ! 流石シュドルム。 私の強さに何となくだが気付くとはやるじゃないか。 良いだろうシュドルムよ大サービスだ。 私の真の姿を見せてやろうじゃないか!!」


 大袈裟に両手を頭上に掲げて笑うクダラは、先程シュドルムに傷付けられた額を中心にヒビが広がり始め、内側から肉が捲り始めた。



 =====


 クダラが正体を現そうとしている所から少し離れた所で、冒険者ギルドの受付嬢であるジュリアは巨大な鎌を構えて浮いている骸骨と対峙していた。


「大鎌を装備している骸骨とは珍しいですね……。 あなたに名前はあるのですか?」

「カタカタカタ……我が名は【死魔将グリムリーパー】……。 グロウ様によって創造された者だ。 主人に仇名す貴様等を一人残らず刈り取る者なり……」


 そして、ここでも最後の魔将との戦闘が始まろうとしていた。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

鬼人シュドルム戦は終わった訳ではありませんが、一旦最後の魔将戦に移動しようと思います。

次回は“死魔将グリムリーパーとの闘い”で書いて行こうと思います。

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