オートリス城内へ。
光輝のイケメンスマイルを見たのが転移前だから、とても久しぶりに感じる。 女性だけでなく男にも見境なく笑顔を見せる物だから、ちょっと馬鹿っぽいが……。
「本当に転移前の光輝に戻れた事はとても喜ばしいとは思うんだが、何でお前がここ魔王城に居たんだ?」
「その説明は歩きながらでも良いかな? リリス嬢を助けに行くんだろ?」
「確かにリリスを助けに急がないといけないが……、どうしてシンドリア王国を追われたお前がその事を知っているんだ?」
光輝は無言で城の扉に両手を据えて押し開けると、そのまま俺達は城の中に進入する事に成功した。
城の中はグロウが言った様に誰もいないらしく、俺達が歩く靴の音だけが反響して遠くまで響いていた。
「それでさ、何故俺がリリス嬢や救助しないといけない情報を知っているか、の答えなんだけど……」
城内の通路を歩いていると、ようやく光輝は言いずらそうに話し始めた。
「正規では情報を得られなかったから……、裏の組織と接触して……ね?」
「光輝、まさかあんた……、私達に報復でもしようとして情報を集めていたの?」
菊流に睨まれた光輝は何処か嬉しそうにしている姿を見て(ああ、何時もの光輝だ)と思う俺と菊流だった。
「く、菊流ちゃん、悪いけどそれだけは絶対に無いと誓えるよ。
その頃にはもうダリアの魅了の効果から抜け出していたし、純粋に君達の心配をしていたから情報を集めていただけだよ! そして、密かに軍に紛れ込んだ俺の耳に、君達が魔王城にリリス嬢を救助しに向かうと言う情報を掴んだから、僕はジッとしている事が出来なくてここまで来たんだけど……。
菊流ちゃん。 信じて貰えるかどうか分からないけど、何故僕がここにいるか分かって貰えたかな?」
菊流の蔑む眼差しに光輝も最初は怯えていたが、すぐに真剣な顔で俺達の質問に答えてくれたので、もう1度だけ信じて見ようと思えたのだった。
「はぁ……、分かったわ。 いまいち都合が良すぎる気がするけど、辻褄はあってるから一応信じて上げるわ」
菊流の信じるという言葉を聞いた光輝は、天に召される様な恍惚とした笑顔を浮かべながら歩いていた……。
相変わらず菊流が絡んで来ると、光輝の行動がいちいち気持ち悪いな……。
そんな事を俺が考えていると、徐にジェーンが光輝に話し掛けた。
「光輝さん少し質問よろしいでしょうか?」
「何だい? え~っと……」
「ジェーンです、黄昏光輝さん」
「お前って相変わらず菊流以外には興味薄いのな……」
「アハハハハ……申し訳ない……。 ジェーン、それで何の質問かな?」
ジェーンの視線は、光輝の腰に刺さっている黒く光る剣に向けられていた。
「光輝さんがグロウに浸かっていたその黒く光る剣ですが、その剣の能力は本当に切った相手に【死】を付与するのですか?」
「それは俺も思っていた事だ。 光輝、本当の所はどうなんだ?」
「私も思っていました」
「私も聞きたいと思っていた所だわ。 切っただけで相手を死なせる効果が発動するなら協力過ぎるし、チートどころの話しじゃ無いんだよね……」
「う~~ん。 この黒く光る剣か……」
ジェーンのその疑問は俺達もずっと聞きたかった事なので、光輝に同じ様な質問を投げかけるのだが、何故か困ったような顔をするのだった。
「う~ん。 今だから正直に言うけど、この剣で切った相手に死を付与する、とは少し違う気がするんだよね」
「違うのか!?」
「共也待った、待った! どうしてそう思うのかちゃんと説明するから!」
「悪い。 でもグロウの生死にかかわる話だからちゃんと説明してくれ、光輝」
俺達に詰め寄られた光輝は、その濃しに差さっている剣の事を語りだした。
シンドリア王国を逃亡した数日後に、スキル聖剣召喚がカードに表記されているのにも関わらず使用する事が出来なくなっていた。
さすがに丸腰で魔物が徘徊している外を旅する訳にもいかず、慌てていると聖剣の代わり現れるのがこの黒く光る剣だと言う。
そして何度も魔物で剣が持っている能力の検証をしてみたが、結果切った相手が少しすると死ぬ位しか分からなかったそうだ。
「他に何か能力を持っているのかもしれないけど、今分かっている事は相手の切った部分が黒い靄に包まれて、少しすると死ぬ位しか分からなかったんだ。
だからさっきはグロウが慌てる様に死が付与される、と大袈裟に言っただけなんだよね……。 本当にこの剣の能力って何なんだろ?」
「お前……そんな良くわからない能力を持つ剣を良く平気で扱えるな……」
「それ……共也が言って良い言葉じゃないわよ? その剣も相当の代わりダネなんだから……」
「……菊流の指摘を否定出来ない……」
「と言う事なんだジェーン、分かってくれたかな?」
「はい、不躾な質問をしてしまって申し訳ないです」
「いや、疑問に思う事は聞くのが一番だから謝らないでくれ」
「分かりました!!」
俺達の光輝に対する疑問が一つ解消された事で、少し軽くなった心のまま誰もいない通路を歩き続けた事で、とうとう目的地である『魔王の間』の重厚な扉が俺達の前に現れた。
この中にリリスが……。
「皆、扉を開けるぞ」
「うん、早くリリスちゃんを助け出しましょ!」
「ハンネと言うダークエルフが、上手くリリスを助け出す事が出来たなら良いが……」
俺達5人が魔王の間の扉に手を掛けると重厚な音を響かせてユックリと開いて行った。
(魔王グロウ戦と言うトラブルもあったけど、何とかリリスを助け出す事が出来そうだな)
扉が開き切ると、異様に静かな薄暗い部屋の中へと俺達は足を踏み入れた。
「リリス! いるのか?」
「リリスちゃん、いるなら返事をして!」
「リリス姉、何処?」
俺達はリリスの名を呼ぶが部屋の中に木霊するだけで返事が聞こえ無い事に、焦りを覚える。
俺とエリア、菊流とジェーン、そして光輝の3手に分かれて捜索していると、玉座の裏から小さく、そして苦しそうにしている声が聞こえて来る事に気付いた。
「エリア、聞こえたか?」
「はい、私にも聞こえました。 リリスちゃん!?」
俺とエリアが急いで玉座の裏に向かうと、そこには傷だらけの体に申し訳程度の包帯が巻かれているリリスが横たわっていた。
「エリア! 回復魔法を!!」
「はい! リリスちゃんしっかりして!!」
エリアの回復魔法を受けた事で、意識が朦朧としていたリリスの目に徐々に力が戻り始めると、俺達を認識出来たのかポロポロと涙を流して俺の手を握って来た。
「リリス、今は何も言わなくて良いからもう少し回復したら一旦この城を脱出しよう。 トーラスも心配してたぞ?」
リリスは静かに頷き、エリアの回復魔法を素直に受けていたのだが。 俺の背後を見たリリスは驚愕に目を剥いた。
「と、共也! う、うし……」
「うし?」
「後ろ! 逃げろ!!」
「え?」
リリスの忠告も虚しく、反応が遅れた俺の体を唐突に何かが貫く衝撃と共に見た光景、それは俺の左わき腹を貫通した黒い剣が血に濡れて赤黒く光る光景だった。
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【一方、転移して逃げ出した魔王グロウ視点】
魔王グロウは転移の青い光が収まると同時にあまりの痛みに地面に倒れ込むと、何度も血を吐いた。
「グハ! ゲハ! ぐ……、こ、ここは……。 オートリス都市の近くの森か……? クソ! こんな……、こんな誰も見ていない場所で俺は終わるのか?
英雄となる事も出来ず、この世界の全てを手に入れると言う俺の野望もようやく形になって来た所だと言うのに!!」
グロウはこのままだと、そう遠くない内に己の命が潰えてしまう事を何となく理解していた。
「こんな……、こんな終わり方なんてあんまりだよ……。 スキルを変更してくれると言う暗黒神様との約束を僕は律儀に守ったのに、結果がこれだ……。 僕は一体何の為に沢山の命を奴に捧げたんだ……」
ドクン!
地面に両手を付き悔し涙を流すグロウだったが、黒い靄がかかっている胸の部分が大きく鼓動を始めた事で事態は変わり始める。
「これは……何だ? 奴は死を付与すると言ったがこれはむしろ……」
胸の部分にある黒い靄が激しく鼓動を始めた事で、グロウの全身を信じられ無い程の痛みが駆け巡った。
「ぐ、ぐあああああああああぁぁぁぁぁl!!」
『思考誘導がががが……【ネクロマンサー】へと変更さささっされっされましたたたた、それと同時に……女神ディアナの恩恵が、消滅、しまし、た……』
プツン・・・
アナウンスを聞き終えたグロウは笑いが止まらなかった。
先程まで全身を駆け巡る痛みもそうだが、胸から出ていた黒い靄も無くなった事に驚きつつスキルを確認すると、本当にスキルの欄に記載されていた思考誘導が消滅して、ネクロマンサーが新たに加わっていた。
「あ、アハハハハハハハハハハ!! なるほどなるほどな!! そう言う事か、あの光輝と言う男は!!」
先程より力の増した自身の力を確かめる様に手を握ったりしているグロウは、未だに遠くから戦闘音が聞こえて来る戦場に目線を向けるとニヤリと口の端を上げるとユックリ歩き出した。
「さあ、僕が英雄として歩き出すための最初の1戦だ、派手に行こうじゃないか!! アハハハハ!!」
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【魔王ルナサスの軍勢視点】
ルナサスは大勢の部隊を引き連れて、今も戦闘音が響いて来る戦場を目指して馬を走らせていた。
「もう戦闘はかなり前から始まっていると斥候から聞いているわ、みんな急ぐわよ!」
「おおおお~~~!!」
(それにしてもさっきから感じるこの嫌な予感は何なの? この感覚は占いをしている時に、最悪の結果が出た時のような……。
いや、まさかだよね……。 私が自分の城でした占いの結果は誰も死ぬなんて結果は出てなかったじゃない)
パキン!
……え?
馬を走らせていたルナサスの首飾りに付いていた宝石の1つが唐突に砕け散り、地面へとバラまかれる光景が、彼女にはスローモーションの様に見えていた。
宝石が砕けたからと言って進軍している軍を止める訳にもいかないルナサスはそのまま馬を走らせていたが、先程まで戦場で上がっていた土煙や怒声が収まり静まり返っている事に気付いた。
「もしかして戦闘が終わったの!?」
ルナサスが先行させていた斥候役が戻って来たので報告を聞いたのだが、その口調は落ち着かない為にどうにも報告内容が要領を得ない。
斥候役の説明によると戦闘が終わっている訳では無く、スケルトンなどのアンデットが戦場へと大量に乱入し混乱が起きているのだと言う。
「こんな時に大量のアンデットですって!?」
ルナサスはすでに混戦と化している戦場を思い浮かべ、自身の後ろを付いて来る兵達に指示を出す。
「皆、アンデット達が戦場に雪崩れ込んでいるらしく混乱が起きているようだ。 戦場に到着したら常に3人1組で動き、各個撃破を心掛けて動きなさい。
死ぬことは許さないわよ。 死んだらあなたたちがアンデットとなり私に襲い掛かって来るのだから……。 だからお願い、私にあなたたちを切らせないで!!」
「おう!! ルナサス様には生きて叱られないと意味が無いからな!!」
「「そうだな!!」」
「今、変な事を言った奴! 私の事が新兵達に誤解されるから、そう言う冗談はマジで止めろと普段から言ってるでしょうが~~!!」
「誤解と言うか……普段からそう言う事をしているから本当の事で……ひぃ!!」
いつの間にかルナサスは1兵士のすぐ横に馬を並走させて微笑んでいたが、その額には大量の青筋が浮いている上に、目が笑っていないが元々が美女の為、むしろその見た目が絵となっていた。
「ねえ~、君、この戦争が終わった後で、ちょ~~~~っと個別にお話ししようか?」
ルナサスもさすがにこの態度には思う所があったのか、怒気を含ませて言ったのだが、罰を言い渡した兵士から帰って来た返事は溜息の出る物だった。
「喜んで!!!」
だった……。
ルナサスは大きな溜息を吐いた後に思った……(私の国民の変態率高くない!?)と……。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
ルナサスが遅れましたが戦場に到着し参戦する事となりました。
次回は“鬼人シュドルム”で書いて行こうと思っています。




