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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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魔王グロウ戦②

 グロウにスキル【思考誘導】によって、俺が今愛している人を変更する。

 そう告げられたエリアは、させないと言う意思を滲ませて俺に抱き付いた。


「ハッハッハ、無駄だ、無駄だ! 今こいつの意識は俺が握っているからな。 さて、こいつが愛する奴はどいつに変更してやろうか……」


 呆然とする俺を他所に、グロウは楽しそうに考えを巡らしている中、1匹の野ネズミが目に付いた事で、含み笑いをする。


「良い奴がいるじゃないか!」

「まさか! 止めなさいグロウ!」

「もう遅い! そこにいる野ネズミが、そいつの愛する奴だ!!」


 グロウの目が強く光ると同時にエリアの腰に差していた銀の細剣が勝手に舞い上がると、俺の胸に突き刺さった。


「共也さん! 嫌! 何で!?」


「ぷ! アハハハハ! 野ネズミに愛を取られるくらいなら自分で殺すとか、どんだけその男を独占したかったんだよ! やべえ、笑いすぎて腹が痛え!」


 笑いすぎて地面を転がるグロウを他所に泣き叫ぶエリアの肩に手を置く菊流は、冷静に俺の容体を見て安心した息を吐いた。

 それと同時に、グロウに聞こえない程の小さな声でエリアに話し掛けた。


「エリア、良く見て。 剣が刺さっているのに共也から全く出血していないでしょ?」

「え?」

「声を出さないで! グロウの奴に気が疲れたら、それこそ攻撃して来るわよ」

「でも、どうすれば……」

「私がこの細剣を抜いてみるから、エリアはグロウに見えない様にして頂戴」


 菊流が俺に刺さっている細剣の柄に手を掛けようとすると、エリアが待ったを掛けた。


「菊流さん。 私が、私がやります。 私が持って来た細剣がこの事態を引き起こしたんですから……」

「……分かった。 その間私達がグロウの相手をしておくから共也の事お願いね?」

「はい!」

「ジェーンちゃん、エリアが共也の治療をする時間を稼ぐわよ!」

「はい! 菊流姉!」


 菊流とジェーンが時間を稼いでくれる。

 この事にエリアは安堵感を覚えると共に、絶対に失敗出来ない事態に息を飲んだ。


「でもどうしてお父様から預かったこの剣が勝手に……。 ううん、今はそんな事を考えている暇は無いんだ……。

 共也さん、必ず助けます……」


 そう呟いたエリアは細剣の柄を手にした。


「ちぇ~~! 俺の相手はこんなおばさんかよ~~」

「おっば!?」

「そうそう、そんな顔が見たかったんだよ! 巨乳のお、ば、さ、ん!」

「殺す!!」

「菊流姉、落ち着いて~~!!」


 菊流とジェーンがグロウの相手をしている間に、エリアが細剣を俺からユックリを引き抜くが、刺さっていた胸からは全く出血していなかった。


「え!? どう言う事!? 剣がこれだけ深く刺さっていたのに全く出血していないってどうなってるの!?」


 その状況に目を剥いて驚いているエリアだったが、俺が何事も無かったかの様に起き上がった事で目に涙を溜めて抱き着いた。


「共也さん!」

「エリア、俺は一体……」

「分かりません。 私の腰に差していた細剣が勝手に動き出して共也さんに突き刺さったんです……」

「突き刺さって……」


 チリン……。


 小さな金属音がした方角を見て見ると、そこには真っ二つに割れた状態異常耐性の指輪が転がっていた。


「これは鉄志から受け取っていた……。 まさかグロウの思考誘導が鉄志の作った精神耐性装備を突破して俺に届いたのか?」

「もしかして、私が持っていたこの細剣が精神攻撃を受けた共也さんの状態異常を……切った……、と言う事でしょうか?」

「そうとしか思えないな……。 ほら、この通り胸には細剣が刺さっていた痕なんて無いし……」

「もしかしてこれがディーネちゃんが話していた、過去のシルヴィアさんが持っていた聖女の力……?」


 エリアが愛おしそうにシルヴィアが使っていた細剣を握っている間に、身体強化を発動して炎を纏った菊流とジェーンが、グロウと高速戦闘を繰り広げていた。 


「やるじゃないかおばさん! だけどそんなに激しく動いて胸が痛く無いの!?」

「五月蠅いぞエロガキ!! もう1度死んで今度は善良な人間に生まれ変わって来い!」

「俺はそれでも良いかもと考えていた時期もあったけど、暗黒神様が新たなスキルをくれるって分かってるのにさすがにそれは遠慮したいかな~?」

「では強引にでも息の根を止めさせて頂きます!」


 ジェーンがルフの不可視の魔法を掛けて貰った事で背後を取る事に成功したので、グロウの背後から短刀を突き刺そうとしたが、あと一歩の所で感づかれてしまい防がれてしまい、逆に地面に叩き付けられてしまった。


「ジェーンちゃん!」

「だ、大丈夫です。 菊流姉、私の事は良いですから集中してください!」


 袖で顔に付いた泥を拭ったジェーンは、再びグロウに襲い掛かるべく2人の戦っている空間に飛び込んで行った。

 

 そして、正気に戻った俺も魔剣カリバーンを強く握り振動剣を発動させると、グロウを倒す為に立ち上がった。


「エリア、今度こそグロウを倒してこの戦争に終止符を打って来るから待っていてくれ」

「………嫌です」

「エ、エリア?」

「私も行きます。 やっとこの細剣の使い方が分かったのですから私も戦います」

「でも、エリアは戦闘系スキルを持っていないはずじゃ」

「共也さん、私も王家の端くれとして剣術をずっと習って来た身ですよ?

 確かに剣術スキルが発現する事は無かったですが、この身に宿した剣術だけでも戦う事は出来ます。

 だから足手まといにはなりません。 だから私も連れて行って! 少しでも良いからあなたの力になりたいの!」


 そのエリアの真剣な眼を見て、俺の答えは……。


「分かった……」

「共也さん!」

「でも、俺の側から離れない事。

 この条件が飲めないなら俺は『飲みます! 何だったらずっと共也さんの背中にくっ付いてます!』…………それはそれでどうかと思うが……。 まあ良い。 行くぞ!」

「はい!」


 4人がかりで戦う俺達を相手に1人で戦う魔王グロウは確かに強かったが、ディーネ達のサポートもちょくちょく挟む事で、徐々に奴が押され始めていた。


「クソがぁぁぁ!! 手前らの何処にこれ程の断続的な攻撃が出来るんだ!! チートだろうが!!」


 そう叫ぶグロウの体には徐々に、徐々に生傷が増えて行った。


「4人が相手とは言っても、俺は魔王グロウなんだ! 貴様等如きに負けて堪るかーーー!!」


 そして再び爪を伸ばしたグロウが剣の様にして俺を突き刺そうしたが、急に地面に膝を付いて倒れた。


「ぐ……、が……。 な、何が……」


 口から泡を吹いて地面に倒れているグロウは、小刻みに震えて苦しそうにしていた。


「やっと効いてくれましたか」

「ジェーンがやったのか?」

「はい。 この小姫ちゃん特性の麻痺薬を塗布して何度も切りつけたのですがさすが魔王ですね、耐性を突破するのにかなり時間がかかりました……」


 そう言うとジェーンは手に持つ小瓶に入った黄色い液体を、小刀に塗り付けていた。


「て、手前……、4人がかりの上に麻痺薬とか……。 ひ、卑怯だぞ!」

「何を言ってるのですか? 共兄の思考を変えようとしたあなたに、その台詞を吐く権利なんて無い事位自分でも分かっているでしょう?」

「………………………」


 ジェーンの指摘にグロウは何も言う事が出来なくなり悔しそうに血涙を流しながら、何やら小声でブツブツと呟いていたが、その呟く声が俺の耳に聞こえて来た。


「何で……、何でこいつの様に冴えない男が綺麗な女達に心から慕われてるんだよ……。 俺は1度だってスキルを使わずそんな関係になった事なんて……ブツブツブツブツ」


 聞こえて来た呟き。 それは魔王グロウの俺に対する嫉妬の台詞だった。


 こええええええええよ……!!! 後、冴えないは余計だ!!


 そんな事を心の中で突っ込んでいた俺だったが、唐突にグロウの呟きが止まったので不思議に思った俺達が見た光景。 それは地面に横たわるグロウが、黒く輝く剣によって貫かれている姿だった。


「グハ!!」


 黒く輝く剣で貫かれたグロウは、自身の周りを紫の血によって血溜まりを作っていた。


「共也、危なかったな」


 その黒い輝く剣でグロウを地面に縫い付けた人物、それは俺達の前から消していた幼馴染の光輝だった。


「こ、光輝!? 何でお前がここに!?」

「こいつ、もう麻痺状態が解けているのに油断させていつでもお前を殺すつもりだったぞ? もし菊流ちゃんに流れ弾が当たったらどうするつもりだったんだ! もう少し周りに気を使えよ!!」


 グロウを地面に縫い付けながら青筋を額に浮かべる光輝に、俺達は呆然としていた。


「やあ、菊流ちゃん、共也、久しぶりって言うのはあんまりかな……。 僕があれだけの事をしておいて君達の前に姿を現すなんて良い気分じゃないだろうね……」


 悲しそうに俯く光輝を前に、菊流も困惑していた。


「光輝って何だか地球に居た頃みたいにちょっと落ち着いた感じになってるけど……。 何だか元に戻ってる?」

「自覚は無かったけどどうやらそうみたいだね……」

「今は自覚があるの?」

「そう……。 あの時、僕とダリアは一緒に国を出たけど嵐の中ではぐれちゃってね。 しばらく1人で彷徨っている内に徐々に魅了のスキルの効果が切れていったみたいで、日が経つにつれて頭の中がスッキリして行ったよ。 

 だから頭がクリアになった今なら、僕がどれだけ菊流ちゃん達に酷い事をしていたのか分かるよ……」


 本当に自身の行いを悔いているのか、唇を嚙みしめる光輝の口からは血が流れていた。


「光輝……」

「菊流ちゃん、僕がこの世界に来てからの行為を許してくれとは言わない……。 でも僕を魔王グロウを倒すまでの短い間で良いから君達の仲間として扱ってくれないか?」


 ん???


 俺達は頭の中にいっぱい疑問符が発生していた。


 いや、お前が足元に縫い付けている存在が、その魔王グロウだろう……と。


「何を言ってるの光輝……。 グロウはあなたが今持っているその剣で地面に縫い付けてるから瀕死の状態じゃない」

「こいつがこの程度で死ぬ訳無いじゃないか、なあグロウ?」


 光輝がそうグロウに声を掛けると、奴は悪戯がバレたかの様な顔をして無理やり剣を引き抜くと何事も無かったかのように立ち上がり、口の中にに貯まっていた血を吐き捨てた。


「ペッ! 不用意に近づいて来た所を殺してやろうと思っていたのにバラしやがって……。

 でも死ななかったというだけで剣で同を貫かれて、地面に縫い付けられてたら痛いものは痛いんだ。

 そんな思いを僕にさせたお前も殺すリストに加えてやるから光栄に思てよ」

「精神が子供の君に出来るのかい?」

「子供じゃない! 僕はもう長い間魔族として生活して来たから立派な大人なんだ!! ちょっと僕が成功しているからと言って嫉妬してんじゃねえよ!!」


「……他人をスキルで洗脳する事でしか、人心を掌握出来ないお前に嫉妬するなんてあり得ないんだけど?」 

「……さっきからイチイチ反論しやがって……。 黒髪の男の方から殺すつもりだったが、真っ先に貴様を殺してやるよ……」


 グロウは両手に膨大な魔力を纏わり付かせて攻撃しようとしたが、狙われていた光輝の言葉でそれも止まった。


「ああ、ちょっとだけ話が変わるんだけどさ」

「今更何だよ? 命乞いか?」

「違う違う。 君を刺し貫いたこの剣だけどさ、ただの黒い剣だと思っているなら今すぐその考えを改めた方が良いと忠告してあげるよ」

「あ? 貴様、何を言って……」


 光輝が胸を指でトントンと叩く姿を見たグロウは、その位置は先程自分を刺し貫いた剣があった場所だと言う事を思い出した。


「おい、ふざけろ何だこれは!!」


 光輝が指し示した黒い剣が刺さっていた場所。 そこには黒く輝く剣が纏っている黒い靄がずっと纏わり付いていた。


「この剣は旅の途中で見つけたダンジョンの最下層で見つけた物なんだけど、何かの呪いが付与されているらしくてね切った相手を蝕むみたいなんだよね。

 何回か魔物で試してみたんだけど、この剣で切った相手は誰だろうと例外無く短い時間で絶命してたから、君の命も後少しじゃないかな?」

「じょ、冗談だよな? そんなチートの武器があるなんて初めて聞いたし、この僕がこんな簡単に死ぬ訳……」

「冗談だと思うならそのまま僕達と戦うかい? 君がいつまでその命が保つか分からないけど、相手になって上げるよ……? 残りの命を悔いの無いようにね」


 光輝の断言した言葉を聞いたグロウの膝はガクガクを震え始め、魔族の青い肌をした顔がさらに青くなって行く。


「た、助かる方法は勿論あるんだろ!?」

「さあ……? 切った魔物は例外無く死んだって言ったじゃないか、それに今まで散々君は他人の命を玩具として扱って来たのに、今自分の命が危なくなると命乞いかい?

 元とは言え同じ地球人として恥ずかしく思うから潔く死を待ちなよ……、なあ魔王グロウ君」


「う、うわあああああぁぁぁぁぁぁ~~!!!」


 死神の鎌がすでに喉元まで来ている事実を知ったグロウは何を思ったのか、懐から青く輝く転移石を取り出すと地面に叩きつけ、魔法陣を出現させた。


「僕はまだこの体で遊ぶんだ! そして英雄になって世界の全てを手に入れる、そう、主人公の僕がここで死ぬなんてことは……きっと無い……。 その時が来たら必ずお前達に引導を渡してや……」


 魔王グロウは途中まで負け惜しみの台詞を言うと、何処へとも分からない場所に転移して行きこの場から消失した。

 残った俺達は、魔王と言う称号を持つ人物を相手にしたのに、全員が無事である事に安堵していた。


 そしてこちらを振り返った光輝は微笑んでいたのだが、その笑顔はダリアに魅了された顔では無くて、転移前に良く俺達が見ていた幼馴染の光輝の顔だった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

勇者職である光輝も合流した事で、魔王グロウ戦も終わりを迎えました。

次回は“オートリス城内へ”で書いて行こうと思っています。

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