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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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リリス救出隊視点①

【リリス救助隊の視点】


 俺達はリリスが囚われているオートリス城を目指して、鬱蒼と生い茂る木々の間をなるべく音を立てないように移動している所だ。


 もうダグラス達は魔族の軍と接敵して戦ってる頃か……。


 森を移動している俺達の所にも、巨大な何かが地面を踏みしめる大きな音が響いて来ていた。


「共也さん、魔族の人達と戦っている皆さんは大丈夫でしょうか?」

「どうだろう……。 皆はこの世界に来た頃と比べると遥かに強くはなったけど、俺達は魔将と呼ばれる人達がどれだけ強いかなんて分からないから、皆が勝ってくれる事を祈るだけだよ」

「そうですよね。 あれだけ皆で訓練をしたのですから、きっと魔将にも勝ってくれますよね」


 強がってはいるが心配そうな顔を覗かせるエリアに、菊流が励ます言葉を掛ける。


「エリア、ダグラス達は強くなったわ。 だから私達が心配しなくても自力で切り抜けてくれるから、きっと大丈夫のはずよ」

「菊流さん……」


 菊流の励ましの言葉に嬉しそうに微笑むエリアだったが、その菊流の言葉に突っ込みを入れる人物がパーティーメンバーの中に現れる。 


「菊流は短絡的すぎだけど、エリアを安心させる為にその台詞を口にしたのは高評価。 でもダグラス達は確かに強くなったけど、数の暴力に抵抗出来るほど力を付けているとは思えないのも事実」

「うっ……。 与一、そうは言うけどさ、今のダグラス達ならって期待するじゃん! ……ねぇ、ジェーンちゃんも皆と生きて再会出来ると思うよね!? ね!?」

「ふふ。 私も鈴姉達が簡単に負けるとは思って無いですから、きっと皆さんと生きて再会出来るはずですよ」

「与一、ほら見なさい!! こうして皆を信じる所から始めないと駄目なんだよ。 さすがジェーンちゃん分かってる~!」

「むう、ジェーンちゃん後で撫で繰り回す刑ね……」

「刑って……。 私何も悪い事言ってませんよね!?」


 何時もの調子で移動しながら会話していた俺達だったが、森の中に入ってからずっとディーネに展開して貰っていた探知魔法に引っかかる反応が現れた様で、警告を告げる念話が届いた。


(みんな……。 2時の方角から何か来る……)


 俺達は無言で臨戦態勢を取っていると、森の中なのに虫や動物の声が全く聞こえて来ない事に気付いた。


 これは今から現れる奴を虫や動物達が怖がって逃げ出したのか?


 俺が不気味な程静まり返った森に数瞬気を取られてしまったが、ジェーンの声で現実に引き戻された。


「皆さん、何か来ます! 避けて!」


 草木の間から、水が凍り付く時に出す音を響かせながら氷の蔦が飛び出して来ると、俺達を拘束しようとしたが、事前に聞いていたジェーンの警告のお陰で全員がギリギリ逃げる事に成功した。


「そこ!」


 弦を弾き絞る音を響かせた与一は、炎の属性矢を氷の蔦が襲ってきた方向に打ち込むが、氷の蔦が盾となって属性矢は防がれてしまい、そのまま消滅してしまった。


「危ない危ない、まさか炎の属性矢を撃ち込まれるとは思わなかった」


 草木を凍らせながら藪を掻き分けて現れたそいつは、まさに氷で出来た戦士の姿をしていた。

 

「クックック、別動隊が来る訳無いと思いこの様な辺鄙な所で昼寝していたのだが、まさかドンピシャでこの俺様と遭遇するとはお前等も運が無い。

 いや、俺はこうして貴様等と戦う事で楽しめるのだから運が良いと言えるのか?」


 恐らく氷で出来た巨大な片手斧を軽々と持ち上げて肩に担ぐそいつは、嫌らしい笑みを俺達に向けていた。


「お前は一体……」

「俺の名は【氷魔将コキュートス】。 魔王グロウ様に仕える魔将の1人と言えば分かりやすいか?」


 そのコキュートスと名乗った氷の彫像に、俺達は焦りを覚えた。


 最悪だ! まだオートリスの都市にも辿り着いて無いこの状況で、魔将と戦って体力温存なんて出来る訳が無いぞ!?


 それは皆同じ思いだったのか一様に焦りの表情が浮かんでいた。


「どうした? 我の名を聞いて怖気づいたのか?」


 勝手な事を! 俺達はお前と戦う事は別に何とも思っていない、だけど時間や体力が削られるのは困るんだよ!


 そう皆が心の中で罵倒していると、大量の炎の属性矢を生成した与一がコキュートスへ撃ち込み放ちこちらに来ようとしていたコキュートスを阻害し始めた。


「小癪な……」


「共也、皆、先に行って。 こいつは私が必ず抑えてみせる」

「何を言ってるの、与一!?」

「菊流、リリスちゃんを助けるんでしょう? こんな奴に体力も時間も使ってる場合じゃ無いって事くらい分かってるんでしょ!?」


 与一の言っている事は分かる。 だが……。


「だけど、お前だけを置いて行ける訳……」

「行きなさい共也! 私はこいつに勝ってあなたたちに必ず追いつくから……。 お願いだから行って!!」


 その与一の覚悟を決めた悲痛な叫びに、何と言って声を掛けて良いか分からず立ち尽くしていた俺の肩に手を置いた菊流が先に行く事を促した。


「共也……。 与一の決意を無駄にしたら駄目よ……」

「だけど!」

「与一、あなたも死ぬ気は無いんでしょう?」

「当たり前……」


 コキュートスから視線を外さずに返事をする与一は、すでに戦闘体勢に入っていた。

 俺達に出来る事は与一の決意を汲んでリリス救助に向かう事と、彼女がこの戦いに無事に勝利して合流出来る事を祈るだけ……。


「なら与一、お前にこいつを任せるから、絶対、絶対にそいつに勝って俺達と合流しろよ! 負けたらデートの約束も守れないんだからな!?」

「ふふ。 分かった……、あいつに必ず勝ってあなたの元に向かうわ。 その時はあなたの彼女にしてくれるって約束してね?」

「分かった……。 分かったから、そんなに何本も死亡フラグを立てるような事を次々と言わないでくれ……」

「大丈夫。 必ずそのフラグをへし折ってあなたの元に戻るから、早くリリスちゃんを助けに行って上げて。 あいつをいつまでも足止め出来そうに無いわ……」


 視線をコキュートスに向けると、与一が放った炎の属性矢が刺さった箇所が少し融けて穴が空いていたが、それもすぐに修復されてしまい大したダメージになっている様子は見て取れなかった。


「早く行って共也……」

「与一、必ず後から合流しろよ! 待ってるからな!」


 最後にこちらに一瞬振り向いた与一の顔は、今まで見た事が無いくらいに綺麗な笑顔だった。


(与一……。 死ぬなよ)


 断腸の思いで与一にこの場を任せた俺達は、リリス救助の為にオートリス城に向けて全力で掛けるのだった。


「追いかけて行かなくて良いのか? 見逃してやるから今からでもあいつ等を追いかけるが良い。 儂は一切追撃などせんぞ?」

「冗談。 さっき氷の蔦で不意打ちして来たあなたが素直に見逃すはずが無い。 きっと背中を見せた途端にまた不意打ちをしてくるはず」


 与一の指摘を受けて、コキュートスは肩を震わせて含み笑いをしていた。


「ハッハッハ、やはりバレバレであったかよ。 だがどうするのだ? お前の実力では儂に勝てないと悟っておるだろうに。 あまり儂をなめるなよ小娘!!」

「勝つ!!」


 コキュートスの氷の体から猛烈な冷気が発生すると、辺りに生えていた草木を一瞬で凍らせると、周辺を氷の世界に書き換えて行く。


(この冷気はもしかして触れたら拙い?)


 近くに生えていた樹木に上り枝に飛び乗った私は、炎以外の属性矢も色々と撃ち込んで試したが、やはり大して効いていないらしい。


(やっぱり炎以外は大して効果が無いみたいね……)


 どの属性がコキュートスに効くのか色々と試していると、いつの間にかコキュートスは私が上っている木の根元にユックリと近づいて来ていた。


「ふむ、お前の能力はただ属性矢を撃つだけなのか? もしそうならさっさと貴様を倒して先程の者達を追うとしよう」

「!?」


 コキュートスは私が上っている樹木の根元まで来ると、氷で出来た片刃の片手斧を振りかぶり、それを樹木の真横から叩き付けた。


「嘘!?」


 ほとんど衝撃を感じなかったが、コキュートスは私が乗っていた樹木を綺麗に切り裂いてしまっていた様でユックリと倒れて行った。

 その倒れて行く樹木から慌てて隣に生えていた大ぶりの樹木の枝に飛び移りながら炎の矢を放つが、やはり当たった箇所を少し溶かすだけですぐ修復されてしまう。


「ハッハッハ。 しょせん貴様はその程度なのだな。 諦めて我が【氷麟斧】の錆となれい!」

「負けられない。 共也達を……、いいえ共也の邪魔は私がさせない!!」

「ほう。 樹の上でチマチマと攻撃する事しか出来んお前が、どうやって儂を倒そうと言うのだ?」

「今は無理でも、この戦闘中に必ず突破口を見つけてあなたを倒して見せる」

「ハッハ! 今は無理でもこの戦闘中に俺を倒すと来たか……。 今倒す力を発揮出来ない者が、大言をほざくな小娘が~~~~!!!」


 コキュートスは与一が乗る樹木を、氷輪丸の横薙ぎの1撃でまたも切り倒した。


「馬鹿力……」


 与一が別の樹木に移動しながら攻撃を当てるが、すぐに修復されてしまう。

 この繰り返しがしばらく続くと、与一が乗れそうな樹木は粗方切り倒されてしまっていていた。


「ここまで粘るとは思わなかったぞ子娘。 そのお前の力をグロウ様の為に使う気は無いか?」

「それは勧誘しているつもり?」

「そうだ、もし儂の誘いを受けるのなら命は助けてやろう。 先程の男の元に行くつもりなのであろう?」


 共也の元に行ける。

 それだけで魅力的な提案だったが、与一は即断する。


「冗談は見た目だけにして……。 魔王グロウなんて見た事は無いけど、色んな情報を集めた私達は知ってる。 あいつは最低の魔王だってね」


 最低の魔王……。 自身の主を侮辱するその台詞を聞いたコキュートスは氷麟斧をさらに力を混めて握り締めた。


「良くぞほざいた小娘。 我が主を侮辱した以上貴様も覚悟があっての事だろうからな、ここで引導を渡してやるから見事果てるが良い! 覚悟せい!!」


 怒りの感情のまま斧を振り抜いたコキュートスは、与一が乗っていた樹木をまたも一刀のもとに切り倒した事で、とうとう周辺に飛び移れる樹木は無くなってしまっていた。

 追い込まれてしまった与一は、樹木を移動しながら考えていた戦術を実行する事にした。


「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 与一はユックリと倒れる樹木の幹を、コキュートス目掛けて駆け下りた。


「何と! 切断した樹木が倒れる前に駆け降りるか! その決断は見事。 だが甘い!!」


 今も倒れ続けている樹木を駆け下りながら、与一は周りに魔法陣を展開させた。


「あああああ!!【フレイムアロー×5】」

「多重詠唱だと! だが5本同時だろうが儂には効かん!!」

「まだよ! 【収束】」


 5本のフレイムアローは土壇場で与一が得た新スキル【収束】によって、1本の巨大なフレイムアローとなり放たれた。


「ぬおおおお!! やらせるか!【氷結】我を凍てつかせて強化せよ!!」


 5本収束されたフレイムアローの威力は凄まじく、着弾した周りは溶解して黒煙を放っていた。

 そして、少しするとその黒煙の隙間からコキュートスの姿が見え始めた。 奴は両腕が砕け散っていたが生きていた。


「ぐぅ……、よもやこれほどのダメージを受けようとは予想外だった。 だがまだだ、まだ儂は戦える!」

「まだ私の攻撃は終わってない!!」


 私はとても丈夫に出来ている空の矢筒を手に持つと、鉄志からかすめ取っていた少量の火薬を矢筒の中に放り込んでそれをコキュートスの左胸に押し付けた。


「小娘そんな矢筒を儂に押し付けた所で何も!!」

「フレイムアローーーーー!!」

「今更フレイムアロー程度で何を!?」


 コキュートスは知らなかった。 火薬がどんな物で、どの様な特性を持っているのかを。


 与一はそのフレイムアローをコキュートスにではなく矢筒の中で発動させると、当然その火に反応した火薬は爆発。

 そしてその爆発エネルギーは唯一空いた矢筒の入り口に向けて殺到する事となり、指向性と言う特徴を持ってコキュートスに襲い掛かった。


「が! はぁ!?」


 そんなコキュートスの苦悶の声が聞こえたが、必死に矢筒を抑えている今の与一は構っている余裕は無かった。


 そして爆発が収まり与一が顔を上げると、そこには左胸にポッカリと穴を空けたコキュートスが立ち尽くしていた。


 与一は恐る恐る氷で出来たコキュートスの顔を触るが、反応が無い。


「死んでる……よね? 良かった……、私の体力がもう限界だったから、この攻撃で倒れてくれて本当に助かった……」


 あまりの疲労から地面に座り込んだ与一は先程の攻防を思い出しながら、無言で佇むコキュートスを眺めていた。


「でも共也達を今からでも追いかけないと……。 良い女は男を待たせない……。 何だかこうして言う独り言はちょっと虚しいな……」


 与一が共也達を追いかけようとして、コキュートスに背を向けた時だった。


 カラン……


 氷の欠片が落ちる音に与一は慌てて振り返るが、そこには胸部を貫かれて動かないコキュートスの姿があるだけだった。


(氷で出来たコキュートスの体の一部が剥離した音だったの?)


 与一は恐る恐るコキュートスに近づくが特に変わった様子は無かった、右腕がいつの間にか再生している事以外は……。


「右腕が!?」


 気付いた時は遅かった、その右腕が与一の喉を鷲掴みにして持ち上げる。


「ぐっ!」

「ハッハッハ! 油断したな小娘。 儂は核さえ無事なら何度でも蘇る事が出来る!! この胸の穴もこの通り!!」


 コキュートスの胸に空いた穴は徐々に塞がって行き、そして完全に塞がった。


「ぐっ……放せ……」

「くっくっく、そうは行かんよ、ここまで儂と健闘した貴様に褒美をやろうと思ってな」

「そんなのいらないから……放せ……」


 与一は自身を掴むコキュートスの右腕にフレイムアローを何度も発動させるが、やはり火力が足り無いらしく少し融けてもすぐ再生されてしまう。


「そう言うな。 女のお前は泣いて喜ぶ褒美だぞ?」

「いらないって……、何度も言わせるな……」

「いらないって言ってもやるんだがな! この者を未来永劫この姿のまま【氷結】させて保存せよ!!」


 コキュートスがスキルを使用すると、与一の足元から徐々に氷に覆われ始めていた。


「いや……共也、皆、共也、皆、共也………!! いや~~~~~~~~~!!!」


「ハッハッハ! 女らしい悲鳴を出せるではないか。 だが貴様はこれから未来永劫儂の氷像コレクションの1つとして愛でられ続けるのだ、光栄であろう!?」


 共也ともう2度と会えないの? そんなの絶対に嫌!


 与一が悲しさのあまり大粒の涙を流していると、知った声がコキュートスの氷で出来た頭部を破壊して吹き飛ばした。


『神獣拳・破』


 ガラスが壊れる様な音を響かせて吹き飛んで行ったコキュートスが居た場所には、フリルの付いたピンクのレオタードに身を包んだ変態であり、オートリス国魔将4天王の1人ガルボが腕を振り切った姿で立っていた。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

変態のレオタード愛好家のガルボの参戦でした。

次回も“リリス救出隊視点”で書いて行きます。

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