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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
128/285

巨人将ギルオクス撃破。

 何度も何度もギルオクスの体を削り取っても再生するこの作業のような時間が延々と続く中で、魅影ちゃんの驚いた声が響いた事で状況が一気に変わるのだった。


「ひゃ!」

「ど、どうしたの魅影ちゃん!?」

「い、いえ、急に女性の声が頭の中に聞こえて来たので驚いて声が出てしまいました」

「女性の声って、どんな風に言われたの?」

「えぇっと、私の槍術熟練度が限界まで上がった事で新スキルを獲得したと言われました」


 魅影の言葉を聞いた4人が頭を捻る。


「今まで新たなスキル得たからと言って、女性の声でアナウンスされたっけ?」

「いいえ、私もシンドリアで訓練している時に何個か新スキルを獲得したけど、そんなアナウンスなんて聞いた事が無いわよ? ダグラス達はどう?」

「俺も無いな」

「俺もだ……」

「う~~ん。 魅影ちゃん、戦闘中だけどスキルカードを確認して貰っても良いかな? その間は私がこいつを身動き出来無いようにしておくからさ」

「はい、ではちょっとだけスキルカードを確認しますからお願いします」


 魅影は一度戦線を離れて自分の冒険者カードを懐から取り出して見て見ると、確かに新しいスキルを獲得していた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【名前】

 ・金鳴 魅影


【性別】

 ・女


【スキル】

 ・分体生成→英霊召喚(NEW)


 ・槍術スキル10『槍術スキルが区切りの10に到達したので、祝福として分体生成は英霊召喚へと昇華されました。 今後も槍術スキルが区切りまで上がると祝福がありますので頑張って上げてみてください』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 分体生成のスキルが昇華して英霊召喚と言うスキルを獲得していたが、確かギルオクスと戦う前は+8と表示されていたはずだ……。

 どうして槍スキルがここまで短時間で一気に上昇したのか分からずにいたが、私はある国民的ゲームに出て来る金属で出来たスライムが思い起こされた。


 まさか……。


 魅影はもう一度カードに視線を落とすが、やはり槍術スキルの熟練度が上がっている。 このスキルカードが示す意味は……。


 ==


 魅影はスキルカードを懐に仕舞うと、慌てて戦闘を継続しているダグラス達の元へ戻って来た。


「お待たせしてすいません皆さん、戻りました」

「魅影ちゃんおかえり! でっ!? どうだった? 新スキル、獲得してた!?」

「はい、やはり新スキルを獲得したみたいです。 やはり今回から新しいんスキルを獲得すると告知されるようになったみたいですね」

「なるほど、これで戦闘中でも新スキルを獲得したか分かるようになるね!」


 皆が喜んでいる中、私はさらなる爆弾を投下した。


「それでですね、皆さんにお伝えしたい事が……」

「何々? 良い情報?」

「鈴さん、今も壁で挟んで身動きが取れなくしている所悪いのですが、少し壁に穴を空けて攻撃を加える事が出来る様にして貰って良いですか?」

「魅影ちゃんにしては変わった注文だね? まぁ、穴を空ける位なら魔力も使わないし平気だよ?」


 ギルオクスを挟み込んで身動きを封じている壁に向かって鈴が手を翳すと、膝から下の部分が剥き出しになった状態で身動きを封じる事に成功したのだった。


「凄いよ鈴ちゃん! こんなに自在に結界術を操作する事が出来るなんて!」

「えへへ♪」


 膝から下が剥き出しになった事をチャンスと思ったのか、ギルオクスが力ずくで結界を破壊しようとするが、光る壁に挟まれて身動きが取れない為、力が入らない様で奴は大声で叫ぶ事しか出来ずにいた。


「良し! これで少し時間が稼げるはずだよ、それで魅影ちゃんこれからどうするの?」

「皆さん、耳を貸して下さい……」

「何だ?」


 耳を近づけた4人は魅影の語られるその内容に、目をキラキラさせてギルオクスの退路を断つ為に取り囲み始めた。


「魅影、その情報は……、マジなんだな!?」

「恐らく間違いは無いかと。 でないとこの短期間で私の槍術スキルの熟練度がここまで急に上昇するなんてあり得ません」

「そっか……。 魅影ちゃんが感じたその情報が本当なら……、うふふふふふ」

「ええ、あの巨体なら金属のスライムみたいに逃げられる心配も無いし、再生もしちゃうんだよね!?」


 5人がギルオクスを見るその目は、憧れの存在にやっと出会えたと言わんばかりの視線を送っていた。


「お、お前等さっきまでと何か違う……、何故オデをそのように獲物を見る様な視線を向ける!」


 5人の尋常じゃない視線を受けたギルオクスは恐怖を感じ始めていた。


 早く逃げたい、そう思い始めたギルオクスだったが、乾いた破裂音が5発響き渡ると同時に脛に刺すような痛みが走り苦悶の表情を浮かべた。


「うっ! さっきのチッコイ男が持っていた飛び道具か」


 室生が鉄志から託された貴重な実弾を5発連続で撃つと、歓喜の声を上げる。


「来た来た来た来た!! 新スキルを獲得したぞ!!」

「室生、カードカード!!」

「そうだった! ……うぉぉぉぉぉぉ!! 実弾生成スキル(1日・10発)を獲得してる!!」

「良かったね室生!!」

「あぁ! 魅影の情報はマジっぽいぞ!?」


 再生の能力が発動して傷が塞がったギルオクスは困惑するばかりだった、何故なら今まで自分を前にする者達は例外無く恐怖と絶望の眼差しを向ける存在しかいなかったからだ。

 ましてや戦っている最中に身動きを封じられる事や、自分に攻撃を与えて喜ぶ者など皆無だった。


 それが今自分の目の前には5人もいる上に、全員が口を三日月状にして嬉しそうに笑っている姿を見たギルオクスは心底震え上がった。


「ひっ!!」


 オデは自分の口から出た悲鳴に驚いた。 何故ならオデの口から出た悲鳴は、自分がこの5人に対して恐怖を感じていると言う証拠だからだ。


「違う! オデはお前等を怖がってなんていな……ぐあ!!」


 剥き出しとなっている足に痛みを感じたので視線をしたに向けると、そこには2本の剣を持つ娘が俺の足を滅多切りしていた。

 攻撃を止めさせようとして左手を伸ばそうとするが、結界に阻まれて攻撃が出来ない!


「ぐぉぉぉ! この結界が邪魔~~~!!」

「じゃあ殴らなくて良いようにして上げるわよ!」


 鈴は結界術の形状を変化させて2本の巨大な刃物を形成すると、ギルオクスの左腕を容赦なく切断した。


「ぐぁ!! オデの左腕が!! オデの肉だ食う!!」


 ギルオクスは切り飛ばされた左腕を、右手で確保出来た事を不思議に思っていた。 何故なら今までは焼却されたりして邪魔をされていたのにすんなりと確保出来てしまったからだ。

 だが、確保出来た以上は食べないと傷が再生出来ないので困惑しながらも自分の左腕を貪るギルオクスだった。


 左腕を食べている間も2本の剣を持つ娘によって断続的に攻撃されていたが、最初の方は再生速度の方が上回っていたのでそこまで気にしていなかったが、徐々に、徐々に再生速度より娘の攻撃速度のが早くなってきている事にギルオクスは焦りを覚え始めていた。


「この、オデから離れろ!」


 ギルオクスはたまらず足を攻撃し続ける愛璃を右手で振り払おうとするが、光る壁によって阻まれてしまう。


「甘い! 私がそんな雑な攻撃を許すとでも? 私達を舐め切ったそんなあなたに痛みをプレゼント♪」

「ぐっ!」


 オデの攻撃が結界で防がれたのは先程と同じだが、さっきまでと違うのが結界に鋭い突起が大量に生えている上に、器用な事にその1つ1つに返しが付いている事だ。

 

 その為、鈴と言われた娘の言葉通り、腕を引き抜くだけでブチブチと嫌な音を響かせて強力な痛みがオデに襲い掛かって来た。


「お前、邪魔!!」

「へっへ~~んだ! もうお前の事なんて怖く無いんだよ! 大人しく私達の贄となれ!」

「ぶち殺す!!!」


 鈴の挑発に青筋を浮かべて怒鳴るギルオクスとは対照的に、愛璃の喜ぶ声が響く。


「やったわ【神速2刀流】のスキルをゲットしたわ!!」

「おめでと愛璃ちゃん! さあ次は誰が新スキルをゲット出来るのかしら!?」


 その一言でギルオクスは何故自分を生かさず殺さず、ずっと攻撃し続けているのか理解してしまった。


(こ、こいつら……。 もしかして、おでで経験値や熟練度稼ぎをしている……のか?)


 ギルオクスの予想は当たっていた。

 そう、魅影達5人は何故か攻撃を当てるだけで経験値と熟練度が大量に貰えるギルオクスは、すでに倒すべき敵では無く、無限に強くなる事が出来る練習台となっていた。


 考えて見て欲しい、RPGゲームをしている最中にただ攻撃を与えるだけで大量の経験値をくれる敵が現れたら、眼の色を変えて攻撃を加えるんじゃないだろうか?


 そして室生達は、次々と新スキルを得る事が出来る今の状況にテンションが大きく上がり、今もギルオクスを攻撃し続けていた。


「アハハ! また懲りずに再生するの? どうぞどうぞ、また経験値や熟練度を上げさせてくれるとは、君は優しいね!!」


 柚葉の扱う事の出来る属性糸も次々に増えて行き、先程までは切断する事ばかりだったが今は足を拘束したり、糸の結界を張ったりとギルオクスを相手に色々と何が出来るのか試している様子だった。


 ギルオクスは愛璃に削られ、室生に撃ち抜かれ、魅影に切り裂かれ、鈴に結界で貫かれたりともはや魔将としての威厳はすっかり無くなり、ただただ5人の為に再生し続ける経験値稼ぎの敵となっていた。


「こいつら、オデから離れろ!!」


 ギルオクスが再生した大きな左腕で鈴達を薙ぎ払おうとするが、5人は余裕の表情で回避すると一旦ギルオクスから距離を取った。

 だが、室生達の目は力強く輝いていて、未だに経験値稼ぎを諦めた様子は微塵も感じられなかった。


「くっ! なんでオデがこんな目に、グロウからリリスを裏切れば人間を食べまくれると言われたから、その案に乗ったのに……。 最悪だ!」


 その一言に対ギルオクス相手に経験値稼ぎがメインになりつつあった5人の顔が一瞬で変わる。


「ギルオクス、あなたはリリスを裏切れば人間を沢山食べて腹を満たす事が出来ると、グロウに言われてノコノコとその誘いに乗ったの?」


 柚葉達は冷めた目を向けつつ、その巨人の次の言葉を待った。

 だが、その大きな口から紡がれる台詞は予想していた物だった。


「そうだ。 俺は自分の腹を満たしたい欲求に従って俺はグロウの誘いに乗ったが、お前達のような矮小な存在には分からない話しだ!」

「そう……。 残念だけど経験値稼ぎもここで終わりのようね」

「あぁ……。 今の一言はさすがに許す事は出来ん……。 リリスもグロウに騙されていた事を知った時はあれだけ後悔していたのに、こいつは自分の食欲を満たすだけの為にリリスを裏切っていただと?」

「久しぶりに頭に来ちゃったよ……、絶対に許さない。 私の結界で動きを止めるから皆は再生出来なくなるまで攻撃入れちゃって……」

「許せないですよね、夕陽が沈む公園でリリスちゃんのあの顔を見た私達に今の一言は酷すぎます……。 使うかどうか悩んでいましたが決心が付きました。

 先程得たスキルを開放します……【英霊召喚】」


 魅影が手を合わせ祈る形を取ると魅影の中から一つの光る塊が現れた。

 そしてその光が収まるとそこにはケントニス帝国で魅影を助けてくれた乱れた黒い和服を着た祖母【金鳴ネネ】がそこに顕現した。


「私は……。  確か病院のベッドの上で魅影や皆に看取られて……」

「何だお前! お前までオデの邪魔をするのか!?」


 ギルオクスがネネを叩き潰そうと右腕を振り下ろすが、土煙が晴れたそこにはギリギリで回避したネネが、薙刀を握っている自分の若返った体を不思議そうに確認していた。


「そこの巨人、いきなり私に攻撃して来るとは良い度胸だ、覚悟が出来てる様だね!!」

「何を言って……消え? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁl!!」


 叩きつけたギルオクスの右腕は、一瞬でネネに細切れにされ辺り一面に散乱した。


「お婆様!?」

「ん? お前は魅影か? 最期に見た頃より……色々と大きくなったか?」


 ネネの視線は魅影の胸に向かっている事に気付いた彼女はとっさに体を両腕で抱き抱えると、非難の目をネネに向けた。


「ハッハッハ! やっぱり魅影かい。 それに周りに見知った顔が何人かいるね簡潔で良い説明しな。 どうしてあんな巨人と戦っているのかをね」


 魅影はネネに掻い摘んで今戦場の真っただ中である事などを説明し終わると、彼女は魅影の頭に手を乗せると優しく撫で始めた。

「お、お婆様!?」

「私が亡くなった後も言いつけを守って地道に頑張って来たんだろう? 見れば分かるんだよ、強くなったね魅影」

「う、わあぁぁぁぁぁぁ!! お婆様、ネネお婆様、ずっと会いたかった!!」


 大好きだった若かりし頃の祖母の召喚、それが良い事なのかは魅影には分からない。

 だけど、あの時失った温もりを再び感じる事が出来ているだけで、このスキルを使って良かったと思える魅影だった。


「うぉぉぉぉ! オデを無視するな~~!!」

「ほう、本当にさっき切り飛ばしたはずの右腕が再生しているじゃないかい。 お前等、私の見た所後数回大けがを負わせて再生させれば奴は動けなくなるはずだ。 お前達の全力の攻撃を、あいつに叩き込んでやりな」

「あなたは本当に、魅影の祖母のあのネネさんなのですか?」

「ああ、室生だったか、私の事を知っているなら分かるだろう? 冗談は言わんとな……。 だからさっさと攻撃をせんか!!」

『「はい!マム!!」』


 こうして私達は今撃てる最高の攻撃をギルオクスに与えると、本当に再生する能力が限界を迎えた様で満身創痍となったギルオクスは、地響きを立てて地面に仰向けに倒れ込むのだった。


「坊主共、良くやった! これであいつは無力化された、当分は起きれ無いだ……、 おい!貴様何をしている!!」

「え?」


 ネネがいち早くその2人組の男と女の冒険者に気付くがすでに遅く、彼等は身動きが取れずに無抵抗となっていたギルオクスの首に自身の持つ剣を突き刺した。


「ぐっ! ごあ!!!」


 エネルギー切れの為、再生能力が停止しているギルオクスはしばらく痙攣していたがユックリと動かなくなっていった。


「貴様等……。 魅影達の功績を横取りするような真似を……」

「待ってお婆様! その人達なら良いの!!」

「何故だ! こいつをここまで追いつめたのはお前達だろう!! それをどこの誰だか分からん奴に!!」

「お婆様、その人達はギルオクスに両親を殺されているの……。 だから止めを刺した事を許して上げてください。 そうですよね? ロベルトさん、ササラさん」


 止めを刺した2人組、それはギルオクスに村を壊滅させられたロベルトとササラだった。


「あぁ……。 あんた達がこいつをここまで追いつめたのは重々承知している……。 でも、どうしてもこいつだけは俺達の手で倒したかったんだ……。 横取りをした形になってしまって本当に申し訳ない……」

「ごめんなさい……」


 ようやく両親の、村に住んでいた人達の仇を取る事が出来た2人は顔を手で覆うが、大粒の涙が溢れ出していた。


 暫く沈黙が続いていたが、室生達は視線を合わせると頷くと、代表して柚葉が2人に声を掛けた。


「分かったわ、村の皆を殺されたあなた達に気持ちは分かるから謝罪は受け入れます。 ですがお咎めが何も無い、と言うのもあなた達も具合が悪いでしょうから一つお願いを聞いて下さい」


 その柚葉の言葉に2人は顔を上げた。


「出来る事なら何でもする! 遠慮無く言ってくれ!!」

「言いましたね? 将来、もし私達の様な異世界の人間が困っていたら無償で手を貸して上げてください、それで今回の事は不問とします」

「そんな事で良いのか?」

「えぇ、私達が住んでいた国ではそれを『恩送り』と言うんですよ? ですからよろしくお願いしますね?」

「恩送り……、あなた達が住んでいた所は良い文化が根付いていたんだな……」

「ふふ。 でも、自分より他人を優先しがちな所が自慢な、ちょっと変わった民族なんです」


 柚葉達はロベルト達と輪になり談笑をしていたのだが、ネネは未だに納得していない顔をしていたが、異論を挟む事はして来なかったため思う所はあるが概ね賛成してくれたようであった。


 こうして巨人将ギルオクスも撃破され、今この地にいる魔将は鬼人シュドルムのみとなるのだった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

巨人将ギルオクスは記憶操作とか関係無く最初から裏切っていたようですね。

次回は共也側の視点に少し移動します。

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