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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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甲殻将ギルガメの撃破

 バリスとオリビアは巨大化したギルガメの体の上を走りながら、先程バリスが戦斧で攻撃して傷付けた個所に向かっていた。


「貴様等なんぞに俺がやられるか~!! おぉぉぉぉぉ!!!」


 ギルガメが咆哮を発すると、硬質化してヒビ割れた皮膚の隙間からミミズの様な魔物が大量に這い出て来た。


「きゃ~~~!!! バリスちゃん気持ち悪いミミズの様な魔物がいっぱい出てきたわ!!」


 そう悲鳴を上げたオリビアは、バリスの首が軋む音を上げる程の力で締め上げた。


「分がっだ分がっだがら首、首を絞めるのは止めてぐで!!」

「あら嫌だ! ごめんなさいバリスちゃん……」

「ゲホッ!! ふう、死ぬかと思ったぜ……。 行くぞオリビア、こいつらはしょせんギルガメに寄生してるだけの魔物だから、進路上の敵だけ倒して進むぞ!」

「分かったわ、バリスちゃん!」


 オリビアの首絞めから何とか開放されたバリスは、進路上に現れたミミズの様な魔物を斧で攻撃するとあっさりと両断された事で、予想が当たっていたとほくそ笑んだ。


「ハハ! この程度の魔物で俺達を足止め出来ると思っているのか? それはさすがに俺達を舐めすぎだ!」

「私も行くわよ!」


 オリビアは近接格闘がメインの為攻撃する毎にミミズの魔物が爆散してしまい、嫌な色の体液と悪臭を周囲に飛び散らせる。

 もちろんその体液をオリビアも浴びてしまっており、彼女の見た目と臭いは凄い事になっていて一緒に戦っているバリスも近づけないでいた。


(ミミズの体液を浴びてしまってオリビアの見た目がヤバいな……。 ギルガメとの戦いが終わったら浄化魔を使える奴を探さないと味方からも避けられかねないぞ……)


 すでにギルガメを倒した後の事の心配をしているバリスだったが、オリビアが未だにミミズの魔物を倒している姿を見て、まずはこの戦いに集中する事にした。


 すると、ギルガメの首が遠巻きに見え始めていた。


「オリビア、後少しで俺が傷を付けた首筋辺りに着くはずだ」

「そうね、私は打撃が中心だから役に立てそうに無いからバリスちゃんの両手斧が頼りよ。 頑張って!」

「ああ、任せろ!」


 オリビアの激励に、バリスは愛用の戦斧の柄を強く握り締めた。


 オリビアが先頭に立ちミミズを倒して行き何とか首筋に到着すると、甲殻の1部が切り裂かれ肉が見える場所には土塊(つちくれ)で出来たギルガメらしき物体が立ち塞がった。


「やはりここに来たか……。 だが、むざむざやられはせんよ。 魔王グロウ様に手土産として少しでも多くの人族の首を持ち帰らねば申し訳が立たない……」


 土塊のギルガメは魔王グロウに恩を返す、その一言を壊れた機械の様に呟いている事をバリスは不思議に思って声を掛けて見た。


「おい、ギルガメ」

「あ? 今更何か聞きたい事でもあるのかバリス」

「そうだ。 お前さっきから魔王グロウに恩がある事を呟いているが、実際どんな恩を受けてこの戦いに参加しているんだ?

 言えない内容じゃなければ最後に聞いておきたい」

「言えなくは無い。 しょうがない冥土の土産に話してやろう。 昔の話しだが俺は魔王グロウ様に……、何をされて恩を感じたんだ?」


 土塊のギルガメは、グロウとの思い出をバリスに話す事が出来ない自分に動揺し始めていた。


「分からない、分からない……。 俺は一体グロウ様に何の恩を受けたのだ!?」


 俺とオリビアを無視して暫くブツブツと独り言を呟いていたギルガメだったが、唐突に襲って来た頭痛を契機に今まで見た覚えの無い光景が頭に広がって行った。


「痛っ……。 何だこの記憶は……、クレストと俺が肩を組んで一緒に酒を飲んでいるだと? そこにグロウ様がやって来て……クレストを………。 あ、アハハハハハハハハ!! そうか、そう言う事か!!」

「ギルガメ?」

「バリスよ魔王グロウにどのような恩を受けたか話すと言った事だがな、その答えは『無い!』 だ!」

「何だと?」

「滑稽だろう!? ここまで付き従った理由が」


【ギルガメ、お前との旅はどうしてこう楽しいのかね】


「魔王グロウに思い出を弄られた事で……」


【お前が守り、俺が攻撃する。 その戦術が確率された以上、俺達に勝てる奴なんてこの世に存在しないさ!】


「恩を感じるように仕向けられていただけだったんだからな!!」

「ギルガメ……」

「そして奴に面白半分で記憶を弄らてしまった事で、本来なら親友だったクレストと仲違いをさせられた事に今まで気づく事すら出来なかった!!」

「ギルガメ……」


 土塊のギルガメの目から大粒の涙を流れ続けていた。

 そしてギルガメの言う事が本当なら何と惨い事か、本来なら親友同士だった者達が殺し合う間柄にされたのだから……。


「俺は……何て事を……。 クレストよぉ……、俺はお前に何と言って詫びれば良いのだ……」


 バリスはそんなギルガメを見て、今なら受けてくれるかもしれないと思い、ある提案を持ちかけて見た。


「ギルガメ、今からでも人類側の軍門に下る気は無いか? 魔王グロウを野放しにすればお前の様な人物がこれからも際限なく現れてしまうんだ。 出来る事ならお前の力を貸してくれないか?」

「バリス………」


 土塊のギルガメは少し悩んでいたが静かに立ち上がると、土塊の体を圧縮して硬度を高めているのかパキパキと奴の体から硬質な音が響いて来ていた。


 奴は戦う気だ。


「ギルガメ……」

「何も言うなバリス……。 こうして人類側に誘ってくれた事は正直に言って嬉しく思っているよ」

「なら!」

「だがな、すでにクレストは居ない……、居ないんだよ。 奴も殺された事で記憶を取り戻しているか分からんがきっと俺を待ってくれているはずだ。

 行ってやらないとな……。 だが奴に会うのに恥ずかしい真似は出来ん!

 バリス、オリビア俺の全力をもってお前達に挑ませてもらうから、見事俺の攻撃を凌いで俺を倒してみろ! それを手土産に奴が居る場所に向かうとしよう」

「その願い、冒険者ギルドマスターであるバリスと、その妻候補であるオリビアが承った!! 勝負だギルガメ!!」

「!!?」

「手数を掛けさせてすまない……。 行くぞ!! バリス、オリビア!」


 硬質化したギルガメの周りには大量の岩が浮かび上がると、本体のギルガメから咆哮が響き渡った。

 すると浮いていた岩が槍へと変化すると、俺達に向かって高速で飛んで来たが高揚して大笑いをしているオリビアによって全て砕かれて行った。


「アハハハハハハハハ!! バリスちゃん、あなたからのプロポーズを受けて私今とっても幸せな気分よ!!

 今なら魔王グロウでも笑って殴り殺せそうよ!」


 本気で殴り殺しそうだから魔王グロウ早く逃げて!!

 とも思ったが、プロポーズを言ったのは自分なのだからそう思うのは何か違うと思い直した俺は、オリビアの楽しそうにしている姿を見守る事にした。


「私が岩の槍を全て叩き落すから、バリスちゃんはギルガメの分身体もろとも怪我をしている場所に攻撃をお願い!!」

「ああ、俺の最高の技でお前に引導を渡してやるよギルガメ」

「来いバリス!」


 バリスは大きく息を吐くと、上空に飛び上がり上段に戦斧に魔力を流し刃先を光らせ始めた。


「さらばだギルガメ!!【斬鉄斧奥義・断崖】」


 バリスの振り切った戦斧から放たれた光は岩の塊となったギルガメに吸い込まれると、四方八方からオリビアを襲って来ていた岩の槍も動きを止めた。


『見事だバリス、俺の甲殻をいともたやすく切り裂くとはな……。 あぁ……、クレスト。 最後に良い土産話が出来たよ……、さらばだ2人とも……、クレストよ今そちらに向かう……』


 光が吸い込まれた箇所がユックリとずれて行き血しぶきが上がり始めた。


「さらばだ、ギルガメ……」


 その血飛沫はバリスが傷付けていた首にまで届き、ギルガメの頭がゆっくりと落下して行った。


「ギルガメお前の事は忘れない。 そしてお前の無念は必ず晴らしてやるから、あの世で俺達の活躍を見ていてくれ!」


 両手斧の柄を力いっぱい握り締めるバリスはギルガメの想いを想像して物思いにふけっていたが、唐突に背後から抱きしめられた為驚いて後ろを見ると、そこに居たのはオリビアだった事に安堵するのだった。


「何だオリビアだったのか驚かせるんじゃない、ほら皆が勝鬨を上げているからギルガメから降りて声援に応えてやらないと」

「分かってる……。 でもその前に……、ん!」


 オリビアは拘束しているバリスに恥ずかしそうに接吻をするのだった。


 そして当のバリスは自分が今何をされているのかようやく気付いた時には、すでにオリビアはユックリと離れてギルガメから降り始めている所だった。


 バリスは頬を染めて自分の唇を一度触ると、盛大に溜息を吐いた。


「オリビアよう……。 接吻してくれるのは大変嬉しいのだが……、ミミズの体液まみれの状態でするのは止めて欲しかったぜ……。 はぁ、俺も降りるか……」


 こうして最後の最後で後味の悪い結果となってしまったが、甲殻将ギルガメとの戦闘もバリスとオリビアのコンビの活躍によって、無事勝利をもぎ取る事に成功したのだった。


 今、前線に来ている名の有る魔将は、巨人将ギルオクスと鬼人シュドルムの2人のみとなっていた。



 ====


 そして舞台はギルオクスと戦っている室生達に移る。


「おぉぉぉぉ!! 腹減った、お前等を食わせろ!!」

「魅影ちゃんそっちに行ったよ!」

「任せて下さい!」


 魅影は鉄志が用意してくれた装備で大きく空に飛び上がり回避すると、ケントニス帝国でもらった槍を構えてギルオクスの突き出されていた指に高速で降下すると正確に切断した。


「俺の、俺の指が!! 美味そうだ」


 ギルオクスは魅影によって切断された指を掴むと、それを菓子感覚で口の中に放り込み咀嚼し始めた。


 ボリボリボリ…… ゴクン……


 ギルオクスの指を魅影、柚葉、愛璃が切り飛ばすと、その指をギルオクスが拾って食べる。 するとその切り飛ばした部分が再生する、と言った場面が先程からずっと繰り返されていた。


「凄まじい再生力でキリが無いですね……。 切り飛ばした指を焼却しても、そこら辺に居る魔族の兵士を捕食してしまうから、いくらでも再生してしまいますし……」

「室生、属性銃の方であいつの視界を何とか潰し続ける事は出来る? せめて視覚を奪ってしまえば切り飛ばした指の位置が分からなくなるから、これ以上のイタチごっこは終わらせる事が出来るかも」


「柚葉……。 やってみる。 属性銃・氷」

「愛璃は室生のサポートに専念して頂戴!! ギルオクスの足首を切ったりして奴の攻撃対象から常に室生を外す様にして!」

「分かったわ! 行くわよ!!」


 愛璃はギルオクスが自身を捕まえようと伸ばしてくる手を器用にかいくぐり、足首に何度も切り傷を与えて行くと相当鬱陶しく感じているのか、奴の視線は常に愛璃に向けられていた。


「室生、今よ!」


 その愛璃の言葉に反応した室生が、ギルオクスの視界を潰すために氷属性の玉を両目目掛けて発射した。


「おぉぉぉ!! 光り、俺の目から光りがぁ!!」


 両目を潰された事で、その痛みに耐えかねたギルオクスは目を抑えてその場で立ち尽くしていた。


「今がチャンスよ! 鈴は愛璃の攻撃で切込みが入った足首を、ハサミの形にした結界で切り飛ばして!!」

「了解!って何だか私の時だけ妙にえぐい事させようとしてない!?」

「良いから早くやれ!! 馬鹿鈴!!」

「分かったわよ~!! えいや!」


 柚葉の指示を受けた鈴が結界術で作り出した巨大なハサミで足を切り飛ばしたが、運悪くその足が丁度奴の手に収まってしまい、奴はそれをまた捕食し始めてしまった。


「痛い~~!! おぉ、大きい肉が俺の手の中に!! いただきます」


 ギルオクスは又も自分の肉体だった物を捕食した事で足首より下を再生させたどころか、室生が精密射撃で潰した両目すら再生させてしまった。 


「やっぱり大きな場所を部位欠損させても、何か食べさせると再生しちゃいますか……」

「柚ちゃんどうする?」

「どれ程凄い再生でも無限じゃないだろうから、地道に削りながら弱点を探って行くしか無いかも……」

「やっぱりそれしか無いよね~……。 どうやらこいつとは長い戦いになりそうだね……」


 ここまで再生能力が高いと小さい傷を付けてもすぐ塞がってしまう為、結局地味な戦いを続けるしか無かった。


「ねぇ、柚子ちゃん」

「何よ!?」

「ダグラスやバリスさん達と比べて、私達の戦いって妙に地味じゃない?」

「そんな事分かってるわよ! でも他にやりようが無いんだからしょうがないじゃない!!」

「だよね……」


 こうして私達5人はギルオクスをチマチマ削って再生力の限界を目指していたのだが、あまりにも地味な攻防のためすでに作業のような状態となっていた。


 もうどれだけ攻撃を与えても倒れないこいつに辟易する私達は、最初にこいつを見かけた時に受けた嫌悪感も、いつの間にか綺麗さっぱり消えて無くなるのだった。


ここまでお読み下さりありがとうございます。

甲殻将ギルガメ戦が終わり、ギルオクス戦が開始されましたがすぐに終わりそうな雰囲気になっていますね。

次回は“鬼人シュドルム”で書いて行こうと思っています。

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