竜人将撃破
黒剣とフレイムタンの2刀流で構えを取った俺だったが、初めて2刀を使う俺と違い技術的には圧倒的にクレストの方が上の為、剣を突き付けて挑発する事で奴の冷静さを失わせようとしていた。
(俺には両手剣の2刀流なんてスキルは持ってないから結果力押しになっちまうし、奴が冷静のままだと捌かれかねない……。
だから散々煽って激昂して貰わないとまず勝て無いと思うんだが……、見た感じ冷静だな……不味いな)
黒剣を突き付けている今でも心の中で冷や汗を掻いている俺とは違い、クレストはダグラスの両手剣の2刀流と言う初めて見る異様な構えに驚愕しながらも、意外と心の中は冷静だった。
(ハッ! 最初見た時はあの異様さに焦りを覚えたが、奴の武器は長重武器なのだから俺のサーベルで1つ1つ丁寧に処理して行けば負ける事はないはずだ!)
ジリジリと1歩、また1歩とお互いの武器が届く距離を削り合いながら近づいて行く2人だったが、最初に動いたのは両手剣を持つダグラスだった。
「ふっ!」
空気を切り裂く音を響かせながら迫って来るフレイムタンを見たクレストはほくそ笑む。
「馬鹿が! そんな単調な攻撃を俺が食らうかよ!!」
〖ギャリリリ……〗
クレストは1本のサーベルでフレイムタンでの攻撃を器用に後方に流す事に成功した。
「何!?」
攻撃を受け流しされた事でダグラスの体勢は大きく崩れてしまった為、その隙を見逃すクレストでは無かった。
「ぐっ……」
ダグラスの空いた胴に薙ぎ払いを叩き込んだが、鉄志特性の耐刃装備のお陰で切られる事は無かったが、打撃としてのダメージは通ってしまった様だ。
「ちっ、手ごたえが無いな……。 そんな軽装のくせに俺様の斬撃に耐える事が出来る防具を持っていて良かったじゃないか、ダグラス? クックック」
「クレスト手前……」
クレストの挑発じみた台詞で頭に血が昇りかけたダグラスだったが、咄嗟に打撃を受けた個所の服を撫でる事で本来の目的を思い出して冷静さを取り戻す事が出来たのだった。
そして、奴の攻撃を防いでくれたこのシャツを託し得てくれた鉄志に感謝するのだった。
「良いだろ? 俺達のダチがこの決戦の為に作ってくれた装備だからな! 所でお前にはそんなダチはいないのか? クレストさん」
「馬鹿にするな! 俺にもダチくらい……、ダチ……くらい?」
『ダチ』と言う言葉に反応したクレストは、何故か頭を押さえながらフラフラしていた。
「お、おい?」
ダグラスの声に意識を取り戻したのか、クレストは慌ててサーベルを構え直した。
「な、何でも無い。 貴様が着ているシャツが切り裂けないのなら、次はそのシャツが覆っていない首を刎ねてくれるわ!」
「やれるものならやってみな!!」
2本の両手剣を強く握り締めるダグラスだったが、先程の攻防で奴の方が上手だと分かってしまった為、かなり不味い状況だと言う事を内心では理解していた。
(どうする、このままだとさっきみたいに斬撃を逸らされて、今度は首に攻撃されるのがおちだぞ……)
(……言え……)
(……戦闘前から頭に直接語り掛けて来るこの声は何だ?)
(………我の……名を……言え……)
(名前ってお前は誰だよ………)
(我の名は………)
ヒュン!!
「と、危ねえ!」
「私を相手に余所見をするとは良い度胸だ、このまま切り刻んでやる!!」
ダグラスが聞こえて来た声に気を取られたほんの一瞬を見逃さなかったクレストは、次々と攻撃を仕掛けて来る。
その上、今も断続的に聞こえて来る不思議な声に気を取られてしまい、戦いに集中出来ずにいた。
(我の名は……)
「うっせえぞ!! こっちはギリギリの戦いをしているんだから、少しは静かにしろ!!」
ガギン!!
「ちっ! 思いの外しぶといな……」
「はぁ、はぁ……」
絶え間なく攻撃して来るクレストを弾き飛ばす事でようやく一息つくことが出来たが、肩で息をし始めた俺には体力的にも後が無くなり始めていた。
そこに、またも何処からか声が聞こえて来た。
(我の名を言え……。 そうすれば力を貸してやる、我の名は………)
謎の声を聴き終わった俺は、残っている体力を総動員して最後の攻撃に移る覚悟を決めた。
俺は残った魔力を総動員して限界ギリギリの身体強化を発動させるとクレストに突進して行った。
「やっぱりお前ならそう来ると思ったよ、ダグラス!」
「ダグラス!」
メリムの悲鳴を背中に感じていたがもう止まれない。
そんな俺の心理を見透かしていたのか、クレストの奴は中腰の状態でサーベルを交差させて待ち構えていた。
「ハッハッハ! 予想通りの行動だ、お前の命はここで終わりを迎えるんだよ、ダグラス!」
「ああ、そうかよ! 俺もお前がそうするんじゃないかと思ってたところだよ!!」
「それでも俺に突っ込んで来るか。
ならば受けてたとうじゃないか。 この防御を突破してお前の攻撃が俺に届いたなら貴様の勝ち」
「お前の防御の型を突破出来無ければ、俺の負けだ! だが、最後に勝つのは……」
「「俺だ!」」
息を付かせない攻防にお互いの兵士達が見守る中、身体強化しているダグラスの蹴りがクレストの鳩尾に入り数mほど後方に吹き飛んだ。
今が好機!
「おおおおお!! クレスト~~~!!!」
ダグラスはチャンスとばかりに、フレイムタンを上段から一気に振り下ろした。
「かかったなダグラス!」
「なっ!!」
上段から振り下ろされたフレイムタンの1撃を紙一重で避けたクレストは、今度こそダグラスの命を刈り取るべく首を刎ねようとしたが、口角の上がっているダグラスの顔を見て冷や汗が溢れ出した。
(貴様! 何故笑っている! しかもその笑みは勝利を確信している者がする表情じゃないか!!)
緊張感の高まる中、クレストは確かにダグラスの声をハッキリと聞いた。
「クレストさっきお前に言われた事をそのまま返してやるよ。 かかったな!!」
「なっ!!」
ダグラスの言葉に焦りを覚えたクレストは回避行動を取ろうとしたが、すでにダグラスが右手に持っている黒剣を上段から斜めに振り下ろそうとしている所だった。
(まだこの1撃を回避する事が出来れば俺に勝機がある!)
今まさに振り下ろされようとしている黒剣の逆方向に回避しようとしたクレストだったが、右手側はすでにフレイムタンで塞がれていた。
(クッ! ここでこの剣が生きるのか! 逃げられない以上サーベルで受け止めるしかない!!)
ガギン!!
クレストはサーベルを交差させる事で何とか黒剣の攻撃を受け止める事に成功したが、ダグラスの笑みは変わっていない。
(これ以上何があると言うのだ!?)
そしてダグラスはその名を口にした。
「食らえ!【グラトニー】」
「貴様、何を言って!」
ビキ…、ビキビキ……、ガキン!!
「はっ?」
クレストは嫌な音がした方を見ると、そこには自身が愛用しているサーベルが2本共が砕け散って宙を待っている所だった。
「一体何が!?」
「クレスト、余所見をしてて良いのか?」
「しまっ!!」
武器が無くしたクレストにダグラスの再攻撃を防ぐ事は出来るはずも無く、黒剣の攻撃をもろに受けた彼はユックリと地面に倒れ伏した。
「グッ……。 何故俺が今まで愛用してきたサーベルが2本ともあの場面で砕け散った!?」
「それはなクレスト」
「ケケケケ、俺様がお前のサーベルを2本共砕いて食べたんだよ、ご愁傷様!」
クレストは痛みと朦朧とする意識の中で声がした方向に視線を移すと、そこにはダグラスの持つ黒剣に顔が浮き上がりケタケタと声を出して笑っている姿だった。
「ぐっ……黒剣に顔だと……? こんな非常識な奴に俺の剣は砕かれたのか……」
「俺が勝てたのはグラトニーと言う新戦力が居たからだ、自力ならあんたの方が遥かに上だったよ」
「……俺に勝ったくせに白々しい事を言うな、ダグラス」
「そう言うなよ、良い勝負だったじゃないか。
最初は勝てるか不安でしょうがなかったが、最後の方はお前の2刀捌きの技量に見惚れていたのは事実だよ」
「…………本当の事を言っているのか?」
「ああ、本当だよ。 だから今の俺はお前が対戦相手に選んでくれた事を感謝してるよ。 ありがとうなクレスト」
「……………………」
クレストは、その言葉を聞けた事が何故かとても嬉しかった。 そして無理やり仰向けになるとダグラスの顔を目に焼き付けようと思いジッと見つめる事にした。
「ダグラス……」
「何だよ。 今更このグラトニーを使った事に関して苦情を言われても勝敗を変えるつもりは無いからな?」
「馬鹿な事を言うな、武器を使いこなしてこその剣士なのだから、今更その武器の能力を使った事に関して文句を言う訳無いだろう。 俺を見損なうな……」
「じゃあ何の用だよ……」
「……ダグラス、死ぬなよ」
「……ああ、そうならない様にクレスト、あんたの技を模倣して使わせて貰うけど良いよな?」
「!? それは剣士に取って最高の誉め言葉……。 最後に……お前と戦えて……俺……は……満足……」
クレストは皆が見守る中、目から涙を流しながら静かに息を引き取った。
『竜人将クレスト撃破!!』
人類側の勝鬨を受けて、魔族側の兵士達は大いに動揺していた。
その歓声の中、ダグラスは1枚の布を取り出すと、クレストの骸に優しく掛けるのだった。
「おい! クレスト様が死んでしまったぞ、どうすんだよ!?」
「俺が知る訳無いだろ!! 他の魔将達に期待する事しか、俺達に出来る事なんてねえよ!!」
「俺は嫌だぞ! 死にたくねぇ!!」
「あ、逃げるな!! 戻れ!戻れ~~!!」
部隊長らしき人物が逃走しようとしている兵士達を必死に押し止めようとしているが止まるはずも無く、遠巻きに見ているとバラバラに逃げていた兵士達を局地的な地震が襲った。
ドシン!
「うわ! 地震か!?」
「いや違う、甲殻将ギルガメ様が地面を殴っているんだ!」
何を思ったのか、ギルガメは地面を何度も殴り付けていた。 そして、何度か地面を殴った彼が顔を上げると、そこにあったのは喜びだった。
「クレストの馬鹿が、あっさりと死んでしまいやがって……、ぷっ!! アハハハハハハハハ!!! あれだけ、あれだけ俺を後で殺すとか啖呵を切っておいて……ひぃひぃ!! 笑い死にしそうだ!!」
同僚の死を悲しむでも無く大笑いするギルガメに、バリスとオリビアは分かりやすい程に嫌悪感が顔に滲み出ていた。
「貴様、同僚が討ち取られたと言うのに悲しむでも無く笑うとは……。 それがお前達の礼儀か……ゴミめ」
「ハハハ……あ? もう一度言ってみろハゲ」
「あ?」
ガゴン!
「グッ……ガ……」
バリスの戦斧による高速の一撃を受けたギルガメは、数度地面を撥ねた事で何とか止まる事が出来たが
、そこにオリビアが追撃として背甲に飛び蹴りを叩き込んだ。
「ふっ!」
「ぐぎぇぇぇぇ!」
オリビアが華麗に着地すると、彼女は地面にめり込んでいるギルガメを冷めた目で見続けていた。
「最低な男ね、まあそんな下衆なあなただからこそ遠慮無く討伐する事が出来るのだから、良し悪しだわね」
オリビアの言葉が相当頭に来たのか、埋まっている地面から飛び出したギルガメはバリスとオリビア両名を睨みつけた。
「俺を討伐だと? 先程の攻撃には確かに驚いたが、お前達の攻撃なんぞでダメージなど受けておらんわ!」
「ぐぎええええ! って言っておいてダメージが無いって強がられてもねぇ……」
「う、五月蠅い!! 実際ダメージなど無いに等しいのだから同じ事だ!」
「なら……。 何度でも攻撃を叩き込んで上げるわ!!」
「甘いわ!」
ギルガメは腕を交差させてオリビアの攻撃を受け止めたが、すぐにギルガメの頭上に巨大な影が落ちて来た。
「何だ?」
「油断したな! オリビアばかり気にしているから俺が居る事を忘れるんだよ! ふん!!」
ガシュ!
「ぐうううう!」
ギルガメはバリスの攻撃を受けた影響で、紫色の血が首を伝って地面に滴り落ちていた。
「硬いな……。 奴の首を飛ばすつもりで攻撃したんだが、結局浅く皮膚を切り裂いただけか」
「皮膚を……だと?」
ポタ…… ポタ……
バリスの言葉にギルガメは先程攻撃を受けた首筋を手で触って驚いた。
「これは……。 俺の血か?」
そう、その手にはべったりとギルガメ自身の血が付着していたからだ。
ギルガメはワナワナと震え始めると目の錯覚か徐々に大きくなっているように見えた。 いや実際大きくなり始めている。
「………許さん、許さんぞ人間共!! 俺を傷を付けた事を後悔させてやるぞ!! はぁああああああぁぁぁ!!」
ギルガメの体は際限なく大きくなり始め、大きくなるのが止まった時には全長が10m位の大きな陸亀となっていた。
「おいおい、冗談も大概にしとけよ……。 どんだけ大きいんだよ!?」
「バリスちゃん、どうやって攻撃すれば良いか何か良い案は無い?」
「こんな巨大な亀を相手するなんて長い冒険者人生でも経験した事が無いから、良い案があるなら俺の方が聞きたいくらいだぜ……」
そんな2人のやり取りを気にせずギルガメは視線を下に向け、バリスとオリビアの位置を確認すると大きくなった右前足を持ち上げた。
「オリビア! バリス! 大地の染みとなるが良い!」
巨大な足で踏み込んだギルガメによって大地が揺れた上に地面を捲りあげたが、2人は間一髪退避する事が出来た様で、土煙が晴れるとそこには元気な2人が立っていた。
2人の無事を確認したギルガメは今度は左前足を振り下ろしたのだが、2人は大きな返しの付いた釘を取り出すと地面に突き刺して急いで退避した。
設置された釘がある場所に、今まさにギルガメが左前足を振り下ろそうとしていた。
「貴様等! 止めろ! そんなものを設置するんじゃない!!」
そして振り下ろされた左足の裏に深く刺さって行く釘が痛覚を刺激して立っていられ無くなったギルガメは、体を支える事が困難となり横向きに倒れて行った。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~……」
ドォォォォォ~~ン……
周辺がギルガメの転倒の影響で土埃で覆われて行く中、この好機を2人が見逃すはずが無く倒れたギルガメの顔を目指して足を登って行くのだった。
ここまでお読み下さりありがとうございます。
クレストとの戦闘も終わりを迎えたのでギルガメ戦に移行しました。
次回は“ギルガメ撃破”で書いて行こうと思っています。




