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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
124/285

開戦。

「共也君。 君にリリス嬢を救助する為の部隊長を任せたいと思うが、出来るか?」


 シグルド大隊長は名指しでリリスを救出する為の部隊長に任命して来たので、俺は考えるまでも無くすぐに頷いてその依頼を受ける事にした。


「やります! 俺達にリリスを助けに行かせて下さい、シグルド大隊長!」

「任せよう。 必ずリリス嬢を助け出してくれ」

「はい! あ、ですが他に隠密行動が得意な人がいたのでは無いのですか?」


 その事を指摘すると、シグルドさんは何故俺にリリス救助の依頼を出したのか説明をしてくれた。


「確かに隠密行動を得意とする者がいる事にはいるが、その者はリリス殿の顔を知らない上に下手をすると敵だと判断されてしまい、救助に余計な時間が掛かってしまうかもしれん。

 だからお互いが彼顔を知っている共也君が適任者なのだ。 分かって貰えたかな?」

「はい、理解しました。 説明をありがとうございます」

「ああ。 それと救助に向かう為の人選だが、移動速度を重視する為共也を含めて『5人』で向かってくれ」

「5人ですか?」

「ああ、少々心許ない人数と感じるかもしれないが、この人数が一番小回りが利くのだ」


 5人か……。


 シグルドさんに人数を指定された俺は、誰を連れて行くか頭の中で考えていた。


「分かりました。 これからすぐに4人を選んで城の方に向かいます。 シグルド大隊長……、ご武運を……」

「君もな……。 お互い生きてまた会おう」


 臨時の作戦会議室から出る前にシグルド大隊長と強く握手した俺は、テントから出ると頭の中で思い描いていた誘うべき人の元に急いだ。


 空が白み始めた頃、俺達はキャンプ地を出ると近くの森の中に入りオートリス城を目指して移動を開始した。


「共也さん、リリスちゃんの救出部隊に私が参加しても良かったのでしょうか?」


 1人目は回復魔法が使えるエリア。


「ジュリアさんが得た情報だと、リリスはかなりの重傷らしいから回復出来る人員としてエリアは絶対に必要なんだ。 頼りにしてるよ」

「そう言う理由があるなら、頑張らせて貰います!」


「共也、リリスちゃんはそんなに酷い状況なの?」

「起き上がるのも困難な状態らしい……。 だから早く救出して回復して上げないと少々危険な状態らしい」

「リリスちゃんを都合の良いように洗脳したり、魔力電池の様な扱いをしたり……。 魔王グロウの奴は絶対に許してはいけない存在ね……」

「菊流お母さん、頑張りましょう!」


 2人目は菊流とヒノメ。


「共兄、前方に魔物が数匹いますけどどうしましょう?」

「ジェーン、避けられそうに無さそうか?」

「すでに私達を認識しているのか警戒しているみたいです。 避けて通るのはちょっと難しそうですね」


 3人目は斥候役としてジェーン。


「私が排除する……」


〖キリリリ……、キュン!〗


「ぐえ!?」


 魔法弓の矢に打ち抜かれた魔物は、消滅して魔石へと変化した。


 最期に4人目に与一とこの俺を含めた5人でリリスを救助する為の部隊を編制して、オートリス城の魔王の間を目指す事になったのだった。



 ====


【魔王軍攻略部隊の視点】


「室生、共也達はリリスを救出する事が出来ると思うか?」

「ダグラス。 あいつ等の事が心配なのは分かるが、魔王軍の内部に協力者も居るんだから道中で強敵と接触しない限りは大丈夫なはずだ。

 それに共也達も強く成長したんだから信じて待とう」

「確かに共也も強くなったが、あくまで総合的な観点でだと室生も分かっているんじゃないのか?」

「ダグラスの言う事も一理あるな……。 どうやら共也は敵の能力が1点突出した相手と戦うのは苦手な様子だったな」

「だろう? ジェーンちゃんと模擬戦をしている時も、彼女の素早さに翻弄されて苦戦してたからな」


 共也は確かに強くなったがまだ結構弱点も多い事を俺と室生が心配していると、魅影がちょっと不機嫌そうに俺達を睨んで来ていた。


 ・・・何で?


「ですがダグラス君、ディーネちゃん達も一緒にいるのですから、共也君なら何とかしてくれるんじゃないですかね?」

「俺と室生もそこは心配してないんだが……。 魅影、お前何でそんなに不機嫌そうにしてるんだよ……」

「し、知りません!!」


 そう言うと頬を膨らませた魅影はそっぽを向いて、無言になってしまった。


 少しすると不機嫌になった魅影を鈴が何処かに連れて行ったのがちょっと気になったが、今はそれどころじゃ無いと思い、取り合えず放置しておいた。


 ダグラス達は、遠くに見えるオートリス城に向かっているであろう、共也達の安否を心配するのだった。


「大丈夫! きっと大丈夫なはずよ!! 私達は昔からずっと一緒だったんだから、これからもきっと一緒のはずよ!」

「愛璃……。 うん、そうだよね。 でもそれを言うなら私達もこの戦いで絶対に死なない様にしないとだね」

「うん……。 柚葉、皆と再会するにはこの戦いに勝った上で生き残らないとだね」

「そうよ、私達はケントニス帝国でアポカリプス教団の贈り物の試練も突破した事で色々と能力も上がったんだから、きっと勝てるはずよ」

「うん。 皆、生きて戻って来ないと許さないからね!」



〖ププ~~~~~~~~~~~~!! ププッププ~~~~~~~~~~~!!!〗



 愛璃の言葉が終わったと同時に、シグルドさんの居る本陣から進軍を告げる角笛が鳴り響いた。


「いよいよだな皆、生きてまた会おうな!!」

『「「「「当たり前だ!」」」」』


 俺達は拳を突き出しぶつけ合うと、自分が所属する事となった場所に移動すると、その部隊の中に紛れて行った。


 ダグラスと愛璃、そして魅影は前衛を務める冒険者組に。

 そして、室生と鈴は後方支援部隊に所属する事となった。

 

 こうしてシグルド大隊長の合図を受けて竜騎士隊が上空を進み、他の部隊も進軍を開始した。


 徐々にオートリス城が近くなるにつれて所々に罠が設置され始めていたが、今更の上エルフの斥候部隊がいち早く発見、解除を行う為全く進軍速度が落ちる事は無かった。


(ここまで粗末な罠を設置していると言う事は、魔王グロウの奴は新兵器で俺達を殲滅出来ると言う道筋しか見えていなかったから、ここまで進入される事が想定外だったと言う事か?

 確かに強力な兵器を信頼したい気持ちは分かるが、1国のトップなら『もしかして』と言う事態を想定するのが当たり前だと思うのだが、グロウはそう言う考えを持っていないのにトップになれたのか?)


 魔王グロウの行動にちらほらと幼い部分が見え隠れするのに1国にトップに成れたと言う事実に、室生の頭の中は疑問符でいっぱいとなっていた。


「室生、どうしたのよさっきから頭を捻ったりして」

「いや……。 グロウの奴は何で急に俺達の進路上に、こんな稚拙な罠を張り始めたのかなと思ってな」 

「稚拙……。 うん、確かに室生に言われて改めて考えて見ると、何処か子供の様に後先考えない行動が見え隠れしてるし間違って無いのかな?」

「いやいや、流石にそれは………。 まさかね?」


 ====


【オートリス城・城門前】


 魔王グロウはオートリス城に着々と近づきつつある討伐隊に焦りを覚え始めて、集まった兵達にこれと言った作戦も授けないのに、特攻してでも食い止めろと無茶な指示を出していた。


「お前等、もう人間の軍がすぐそこまで来ているんだからさっさと行って皆殺しにして来い!! お前らの主たるこの僕、魔王グロウを守るためにな!!」


 オートリスの兵達は何処か白昼夢を見ている様な感覚の中で、魔王グロウの指示だけを聞かないといけない思いだけで、今ここに立っていた。


 そこに亀の様な甲羅を纏った兵士と青いリザードマンが、グロウの前に歩み出て膝を付いた。


「勿論ですグロウ様!! この甲殻将ギルガメ、全てはあなた様に救われた恩を返す為に、この身を捧げる所存でございます!!」

「私もですグロウ様! この竜人将クレストも粉骨砕身の想いであなた様を支える事をここに誓います!」


「おう! 甲殻将ギルガメに竜人将クレストか、お前等の活躍に期待しているぞ!?」

「「御意!! 後から来る魔将共もあなた様を守る為に喜んで参戦するでしょう。 では行ってきます魔王グロウ様!」」

「これが終われば俺達は英雄の仲間入りだ! 行くぞお前等!!」


『「「「おおおおおお~~~!!!」」」』


 ギルガメ、クレストの後から力無く付き従うオートリス国の兵士達は、何故自分達が他国の魔王の為に命を懸けて戦う必要があるのか理解出来無いまま、結局戦場向かう事になるのだった。


 だが自国の将軍鬼人シュドルムも参戦しているので、これ以上考える事を止めて追随するのとにした。


「シュドルム、ちんたら歩いてんじゃねえ! さっさと付いて来んか!!」


〖ゴッ!!〗


「ぐっ! す、すいません……」

「け! 辛気臭い面をしやがって」


 クレストに頬を殴られたシュドルムだったが、何故か口から血が流れ出て来ても反抗する気が全く起きかった。


(俺は何故こんな奴らに殴られても黙って従っているんだ……。 何か、何か大切な事を忘れている様な気がするが……)

「シュドルム様、大丈夫ですか?」

「あぁ、クダラか。 殴られた事自体は大したことは無い……」


 副官であるクダラも、自分の上官であるシュドルムが意味も無く殴られた事に立腹していた。


「大した意味も無いのに、殴るなど……。 一体我々を何だと思っているのでしょうか……」

「止めろクダラ。 聞かれたらお前まで殴られるぞ」

「ですが!」


 シュドルムの視線を受けて、何かを言いかけたクダラも結局そのまま黙るしかなかった。


「分かり……、ました」

「それで良い。 すまんな、苦労を掛けて……」


 シュドルムは着々と近づきつつある人類の軍を見て、只ではこの戦が終わる事は無いと確信していた。


 せめてオートリスの民に被害が出ない事を。


 そう心の中で祈ったシュドルムは、自身の持つ巨大な両手剣の柄を強く握り込むのだった。


 =====


【人類軍・本陣】


「シグルド大隊長、魔族の軍が外壁を出てこちらに向かって来ます!!」

「ティニー! 見間違いで無いな!?」

「はい! こちらに迷いなく向かって来ています!」

「奴らは何を考えている、こんな開けた場所で開戦するつもりか!?」

「どうします隊長?」


 シグルドは魔王軍があまりに愚直にこちらに向かって来るので罠の可能性を考えたが、相手が接近してくる以上対処するしかないため、部下の竜騎士隊に指示を出した。


「竜騎士隊! これ以上近づいてくるようならワイバーンによる一斉火炎放射を放て! ブレス一斉射後にエルフ隊の弓部隊による遠距離攻撃を叩き込んでやれ!!」

「分かりました!!」


 上空で相手との距離を測るティニーの指示の元、シグルドは竜騎士隊のブレスを放つタイミングを伺っていた。


「隊長、来ました。 魔王軍です!」


 森の中から姿を現し始めた魔王軍の姿を視認したシグルドは、竜騎士隊に指示を出した。


「ドラゴンブレス、一斉射準備~~!!」


 見え始めた魔王軍の前列を見ると、それは多数の魔物が後列に陣取っている魔族達に追い立てられてこちらに突っ込んで来る姿だった。


「大量の魔物だと!! だがこちらに突っ込んで来る以上放置も出来んか!!」

「まずは魔物共をドラゴンブレスの斉射により駆逐後、後列にいる魔族共に向けて弓の一斉射に変更!」

「はい!」


〖キリキリキリキリ……〗


「未だ! ドラゴンブレス放て!」


〖ゴオオオオオオオォォォ!!!〗


『ぐぎゃ~~~~~~~~~!!! ギャギャギャギャギャ!!』


 様々な魔物達がワイバーンの炎の一斉射を受けて灰となって行くが、どうやら強力な魔物も交ざっていたらしく、炎の壁を抜けて来た何匹かが弓兵隊に向かって突進して来た。


「まずい! ボアによる突進が来るぞ、弓兵部隊を守るんだ!」


 弓兵師隊を守ろうとして大盾を持つ兵達が向かっているが、とても間に合いそうに無い。


 もう駄目か! と思われた所で重装備の力也が前に飛してボアを受け止めると、逆に弾き飛ばした。


「おっらぁ!!」


〖バガン!!〗


「ぶひぃ!!」


 顎を打ち上げられたボアは空を向き、喉を晒す恰好となったため力也の持つ片手斧によって切り裂かれたボアは灰となり拳大の魔石となって消滅した。


「た、助かったよ力也!」

「ああ! 俺が出来る限り守って見せるから遠距離攻撃の方は頼んだぞ!!」

「任せろ!! エルフ弓術隊! 構え!」


〖キリリリリ……〗


「放て!!」


〖ヒュン!〗


 放たれた矢の雨により中クラス程度の魔物は次々と打ち取られて消滅して行くが、大型の上位の魔物は矢を気にもせずにそのまま突っ込んで来た。


「で、デカイ!! こっちに来るぞ! うわぁぁぁぁ!」


 数匹の大型の魔物が冒険者達が陣取っている場所に突っ込んで来ると、筋骨隆々の2人が1歩前に歩み出た。


「こんなに早く私達に出番が回って来るなんて思わなかったわ~~。 ね、バリスちゃん」

「全くだオリビア。 この程度の強さの魔物共など、俺達2人にかかれば物の数では無いさ!」

「まあ! 言うようになったじゃない、私は嬉しいわ!」

「ふっ! まあ、お前と一緒だから少し位は恰好を付けさせてくれ。 それじゃ、こいつは挨拶替わりだーー!!」


 バリスは大型の魔物に、自身が持つ長大な両手斧を頭部に叩きつけると真っ二つに切り裂き消滅させた。


「あら素敵! 流石が私のバリスちゃんだわぁ♪」

「何を恥ずかしい事を言っていやがる。 そう言うお前もすでに1匹殴り殺してるじゃないか……」

「その事は今言わないで良いのよ!」


 その光景を見ていた全員が思った。 何故かイチャ付いている2人を見ても全く嫉妬心が沸かない……と。


「コホン。 ほら、残りの魔物はあなた達に任せるから頑張りなさい。 ダグラスちゃん!」


 その言葉を受けたダグラス達も前に飛び出して来ると、次々と襲い掛かる魔物を相手に剣を突き立てて行った。


「ただ戦力として連れて来られた魔物達には可哀想だが、今更こんな強さの魔物じゃ俺達を止める事なんて出来ないぜ!?」


 ダグラスは自分の前に居る魔物が居なくなると、黒く染まっている両手剣を後列に居た魔族達に突き付けると、進軍の止まっていた魔族側から何体かの魔将と思われる人物が現れた。


「ハッハ! いきが良いのが沢山いるじゃないか! 我が名は竜人将クレスト!! そこの黒剣を持つお前、俺と戦え!!」

「ダグラスご指名だが行くのか?」

「ああ、ここで断ったら全体の指揮に響くし、あいつらの出方を少し見てみたいからな。 じゃあ行ってくるから柚葉、他の魔物は任せたぞ?」

「分かった」


 挑戦状を突き付けたられたダグラスは、竜人将クレストと1対1の戦いに挑むべく黒剣を強く握り締めると、敵と味方の中央地点に歩み出るのだった。


 その時微かに黒剣が震えた事に、ダグラスが気付く事は無かった。



ここまでお読み下さりありがとうございます。

大規模戦闘になるかと思ったら魔族連中が脳筋の集まりだった為1対1の戦いにいきなりなりました。

次回は“ダグラスのスキルの真価”で書いて行こうと思っています。

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