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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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慌ただしい出陣前。

 グランク様がケントニス帝国のハーディ皇帝と、ノグライナ王国のリリーに救援要請の手紙を出してから、さらに1週間が経った。

 バリスさんが勤めている冒険者ギルドにも魔王グロウの情報が掲示板に開示され、最終決戦に参加する冒険者を募っていた。


【冒険者ギルド・ロビー】


「ロベルト、ササラの2人はこの最終決戦の募集に応募するの?」

「シャリナ……。 俺達はこの作戦に応募しようと思ってる。

 両親の仇を討つチャンスでもあるし、この作戦に参加する事で俺達の様な人達を1人でも多く減らしたいんだ。

 シャリナ、俺達が出陣している間はまた1人になってしまうけど前とは違う。 宿屋のおばちゃんも居るし頼れる人も多くいるはずだ、分かるな?」

「……うん、でも2人共約束して、必ず生きて帰って来るって」

「あぁ……、必ず生きて帰って来るよ、それまでシャリナも勉強とか頑張るんだぞ?」

「うっ……うん……頑張る……よ?」

「シャリナったら、何でそこで疑問形で答えるのよ……」

「もう! ササナったら、しょうがないじゃない、私は勉強が苦手なんだから!!」

「アハハ! 帰ってきたら成果を見せてもらうから、それまで元気にしてるんだぞ?」

「うん……。 2人に加護が有らん事を……」

「ありがとう……。 行ってくる……」


 3人は抱き合ってお互いを激励すると、ユックリと離れて行った。


「行くか。 ジュリアさんの所に」

「ええ」


 ロベルトとササナは、今回の最終決戦の受付をしているジュリアさんの元に行き参加者名簿に名前を記載した。


「ロベルトちゃん、ササナちゃん、これで受け付けは終了よ。 本当に良いのね?」

「ああ、どうせ参加しなくてもいずれ混合部隊が負けたら俺達が戦わないといけなくなるんだ。 それなら戦力が整っている時に戦うのが一番だよ。 な、ササナ」

「ええ、シャリナも私達が参加する事を認めてくれましたから……」

「なら私から言う事は無いわ。 頑張りましょう2人共」


 こうして、2人の後にも続々と参加申請をする冒険者で一杯になり、ロベルトとササナの背はすぐに人混みに埋もれて見えなくなった。


(泣くもんか……。 泣いたら2人の決心が鈍る……、泣くなら冒険者ギルドを出た後よシャリナ……)


 シャリナは2人の背を見送ると、声を押し殺したまま宿屋に戻って行った。



 =◇====



【冒険者ギルド・執務室】


「来てもらって悪いな。 どうしても出陣前にあんたと話しておかないと、と思ってな。 オリビア」

「バリスちゃんから呼び出しが来るなんて珍しいからビックリしたじゃない。

 それともとうとう私への愛に目覚めたから、決戦前に告白をするために……かしら?」

「まあ、それも無くは無いがそれとはまた別の話し……あっ」

「えっ!? バリスちゃん今のって……」

「待て待て!! それは今回の戦いに生き延びる事が出来た時まで取っておいてくれ!!

 今回お前を呼び出したのは、ギルドマスターの俺も参加する事となったと言う報告だ」

「……体よく誤魔化された気がしなくも無いけど……、まあ良いわ。 やっぱりギルマスであるあなたも参加する事となったのね……。

 それで、その話と私がどう繋がるのかしら?」


 バリスはしばらく黙っていたが意を決してオリビアに、今回呼び出した件を伝える事にした。


「オリビア……お前も今回の戦いに、俺のパートナーとして一緒に参加してくれないか?」

「ふむ……。 そのパートナーと言うポジションは、常にあなたの横に居て強敵が現れたら一緒に戦うって事で良いのかしら?」

「あぁ、それで間違い無い。 俺とお前が手を組めば魔将の1人だろうが倒せるはずだ、だから俺と一緒に魔大陸まで来てくれないか?」

「良いわよ?」

「本当か?」

「えぇ、下級冒険者も参加する以上必ず死傷者が出るわ。 それを少しでも防ぎたい、そう考えているんでしょう?」

「あぁ。 未来あるあいつ等が少しでも生き残れる様に、名の有る強敵は俺達が受け持つつもりだ。

 だが強敵と戦う以上俺やお前も命の保証は無い……。 もし、お互いが生きて帰って来る事が出来たなら……、その時は俺と……」

「ストップ! バリスちゃん、その先は生きて帰って来られたら聞かせて頂戴。

 共也ちゃん達が言うには、結婚を約束をして戦場に出た場合フラグ? と言うのが立ってしまって、生きて帰って来れないらしいわよ?」

「何だそりゃ、まじないか何かか? ふっ。 ならお互い生きて帰って来れたら伝えるよ、死ぬなよオリビア」

「あなたもねバリスちゃん♪」


〖コンコンコン〗


 2人の会話が一段落したのが分かっていたのか、と思うようなタイミングで執務室のドアがノックされ、バリスが返事をするとジュリアさんが人数分のお茶を持って入室して来た。 


「バリスちゃん、オリビアちゃんとの話し合いは良い感じに纏まったようね?」

「ジュリアさん……。 あぁ、オリビアに俺の横で強敵を一緒に戦って貰う役を引き受けて貰えたよ。 ジュリアさんにはギルドの事を任せる事になるが、後の事は頼んだよ」


 バリスの前にお茶を置こうとしていたジュリアさんの手がピクリと止まり、睨みつける。


「バリスちゃん、あなた何を言ってるの? 私も参戦するに決まってるじゃない。

 私が今まで見守り続けた子供達を沢山殺した黒幕が出てくるのよ? 許せる訳無いじゃない」

「それはそうだが……。 いや、そうだな。 あいつ等の無念を晴らさない事には俺達も前に進めないか……。

 ジュリアさんが前線に出るなんて何時ぶりだろうな、頼りにさせてもらうよ」

「えぇ、リリーが来るなら神樹ユグドラシルから作られた杖を持って来てくれるでしょうし、久しぶりに暴れる事が出来そうね。

 あなた達2人は次代を担う存在なんだから生きて戻って来ないと駄目よ? 例え私が倒れたとしても……ね?」

「ジュリアさん……」


 執務室の中は重苦しい空気に満たされ、今度の戦争は、どんな英雄でも生き残れる保証の無い戦いになりそうな予感を感じさせていた。


 ====


【ドワンゴ武具店】


「おい! 鉄志少し休め! お前何時からすっと槌を振るっていやがる! 少し休まないとぶっ倒れて余計に装備品を作る時間がかかるだけだぞ!!」


〖カンカンカンカン!!〗


「鉄志!!」


 ドワンゴ親方が強引に鉄志が振るっていた槌を取り上げた事で、ようやく我に返った鉄志だったが、その目の下には大きな隈が出来ていて、明らかに睡眠が足りていない事を物語っていた。


「あっ、親方……」

「親方、じゃない!! 少しは休まないと本当にぶっ倒れるぞ!!

 戦争が開始されるまでの時間が無いのも分かる、だがお前が倒れてたら幼馴染達は喜んでその装備品を使う事が出来ると思っているのか!?」

「分かってる。 わかってるんだけど親方、今は……、今だけは無茶をする事を許して下さい!!

 俺の大切な幼馴染達全員が今回の戦いに身を投じると聞いています……。 俺はあいつ等と一緒に戦う事は出来ないけど、あいつ等を守ってやれる装備品を作るのは俺だと約束したんだ。

 だから今しか無いんです、今無茶をしないと絶対に俺は後悔する……。 してしまうんですよ……親方!!」

「鉄志……」


 鉄志の涙を流しながらの必死な懇願に、親方も何と言って良いか分からず黙ってしまった。


「そう思うなら1時間でも2時間でも良いから、仮眠して体調を戻さないと駄目じゃない! ダグラスさん達の命を守りたいなら品質を少しでも上げないと駄目じゃないの!? 鉄志兄!!」

「リルちゃん!?」


 普段なら絶対に入って来ない鍛冶場にいきなり入って来たリルちゃんに驚いた俺達だったが、本当に怒ったリルちゃんを初めて見た鉄志は怯んでいた。


「でっ、でもさリルちゃん時間がね?」

「何でお父さんや私達を頼らないの鉄志兄! 確かに菊流さん達は鉄兄の幼馴染かもしれないけど、私達は家族になったんじゃない。

 鉄志兄……、家族を心配するのは当たり前でしょ?」


 その言葉に鉄志は改めて親方とリルを見ると、とても心配そうに鉄志を見ている事にようやく気付く事が出来たのだった。


「親方、リルちゃん……」

「少しでも良いから寝て来い鉄志、その間は俺が細かな調整をしておいてやる。 作るんだろう? 幼馴染達を守る事の出来る最高の装備品を」

「はい……。 きっと作りあげて見せます」

「ならまずは少しでも良いから寝て来い。 リル、鉄志を寝床に連れて行ってやれ、歩くのも辛そうだからな」

「えっ? もう! 鉄志兄しっかりしてよ!」

「ごめん、肩を借りるねリルちゃん」


 鉄志はリルの肩を借りながら、なんとか寝床に歩いて行くのだった。


「さて……。 少しでも鉄志が装備品を作りやすくするために、品質の良い素材を作っておきますかね」

「あんた、私も手伝うよ」

「サラシナ……。 お前も何だかんだと言って鉄志に甘いな」

「当たり前じゃない、私達の自慢の息子なんだから……。 リリスちゃん……、無事だと良いんだけどね……」

「あぁ……。 もし死んでたら、あの世に行った時に拳骨をお見舞いしてやる……」

「ふふ。 素直じゃないんだからあんたは……」

「さあ、時間が足りないのは事実だからな、ここからは急ぐぞサラシナ!」

「あいよ!」


〖カンカンカンカン カンキンカンキン〗


 鉄志はお前達と一緒に戦えない代わりにここで必死に戦っているんだ、共也達も生き残れよ。


 ====


【シンドリア王国・魔法兵団】


「ミーリス様! 何処に居るのですか~?」


 声の主はアーヤ。

 彼女は決戦前の会議に参加させる為に、大隊長であるミーリスを探している最中だが、何処を探しても彼女が見当たらないので困り果てていた。


「ミーリスたいちょ~~!!! ……ドチビ返事くらいしろ!!!」

「何だと!? 蒸発させるぞアーヤ!!」

「いるじゃないですか、いるなら返事くらいして下さい!!」

「お前が儂を探している時は、大抵碌な事が無いからに決まってるじゃろう! 一体何の用じゃ!! 出陣前に歴代の大隊長の記憶から良い装備品を選んでいたのじゃ、邪魔するでないわ!!」

「歴代の?」


 アーヤがミーリスがガサゴソと漁っていた部屋の中に入ると、そこは本当に魔法使いのための武器や防具が見本市の様に飾られた部屋だった。


「ふわ~~、凄い数の武器や防具ですねミーリス様、それで何か良い装備品は有りました?」

「有ったのは有ったが……、諦めた」

「何でですかここに在る装備品は全部強力なんですよね?」

「………だからだ」

「えっ?」

「……だから………だ…」

「何て言ってるんですか! 聞こえないですって!!」

「私の体が小さすぎてここにある装備品が付けれないんじゃ!! 何度も言わせるなんて酷い、アーヤのバカ~~!!! わあ~~~~!!」

「なっ泣かないでミーリス様!!」


 大泣きするミーリスを慰めに行こうとした私の足の小指に硬質な物が当たり、あまりの痛さにたたらを踏んでしまい倒れてしまう。


「いっ痛~い!! 私は一体何を蹴飛ばしたのよ!!」


 そこには銀色の鈍い光を放つ両手足分の手甲と足甲の4つが、一纏めにされて転がっていた。 アーヤはその装備品を見た途端に何とも言えない魅力を感じて手に取った。


「ほう、アーヤはそれに親和性を感じたか」

「ミーリス様、これは……」

「装備して見ると良い、理由は自ずと分かるはずだ」

「良いんですか? 歴代の魔法大隊長が装備していた品じゃ……」

「構わんよ。 ここにある物は誰も装備適性が合わなかったからここに死蔵していただけだからな」

「じゃ、じゃあ遠慮なく……」


 ミーリスに言われ、両手足に銀色に輝く装備品を装着したアーヤはある事に気付いた。


「凄い。 あれだけ制御する事が難しかった私の魔力が素直に言う事を聞いてくれる……」

「そうじゃよ、それは【蒼銀の魔力手甲、足甲】だ。

 アーヤみたいに魔力を持て余してしまう魔導士には重宝する装備品だな。 きっとお前の助けになってくれるはずだから持って行くと良い」


 魔力制御に特化した装備品。

 確かにあれだけ振り回されていた自身の膨大な魔力がこの装備品を付けた瞬間に、制御する事がかなり楽になっている事に気付いた。


「良いんですか? でも歴代の大隊長が装備していた品だと……」

「私達が此度の戦に負ければ、これを使う者すら居なくなる可能性があるのだ。 お前が大隊長で無かろうと、強力な装備品を使う事の出来る可能性に出会えたのなら躊躇うなアーヤ」


 しばらく両腕に装備した手甲を眺めていたアーヤだったが、意を決してミーリスに借りる事を告げる。


「ミーリス様……、分かりました。 絶対に返しに来ます、だから必ず生き残りましょうね!!」

「あぁ……。 私は残念だが歴代の大隊長の装備品は諦める事にしたよ……。 来い魔装グリディア!」


 ミーリスの合図を受け奥から黒い衣装が飛んで来て彼女に接触すると、いつも愛用していたブカブカの魔道服が消滅して幼い体にピッチリと吸い付くような黒いインナーと、膨大な魔力を放つローブを纏って立っていた。

 そして、そのローブから放たれる膨大な魔力の圧を受けて、近くに居たアーヤも立っている事がやっとの状態だった。


「ミーリス様、魔力を抑えて……」

「ん? おぉう済まぬ済まぬ。

 この魔装を装着すると魔力の制御が難しくてな、だがこの装備があればどんな敵だろうとおいそれと遅れを取るまいて。 アーヤ勝ちに行くぞ、人類の未来の為に」

「はい! ミーリス大隊長、必ず生きて帰って来ましょう!!」


 こうして様々な人物が戦争に生き残るために、そしてこの戦いに参戦するために移動している人達は生き残る事が出来るのだろうか?


 魔族の人族を殲滅する目的の戦争が開戦されるまで、あと少し。



最後までお読みいただきありがとうございます。

もう1話ほど前日の出来事を書いて行こうと思っています。

次回も“決戦前日”で書いて行こうと思っていますのでよろしくお願いいたします。

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