集結する人々。
【オートリス国・魔王の間】
「あっはっは! 裏切り者の守銭奴は取り逃がしたが、最大の目的だった魔王リリスをこの魔王グロウの手中に収めたぞ!!」
大声で笑う魔王グロウの視線の先にある玉座の上では、ゴスロリ服をボロボロにされて磔にされているリリスが居た。
「う、うう……」
「良いね! 貴様の呻き声を聞くだけで酒が進む!」
そう言うと、グロウは満面の笑みを浮かべた状態でグラスに注がれたワインを飲みほした。
「ふっふっふ、これで今まで考えて来たが魔力不足の為に出来なかった様々な事が出来る様になる。
そうだなぁ。 まずは手始めに私を敵視している魔族が支配している街を1つ滅ぼしてみるか。
おい! 敵対している魔王のここから1番近い都市を割り出せ!!」
「はっ!! すぐに取り掛かります!!」
「急げよ、逃げたトーラスが何を仕掛けて来るか分からないからな」
普段ならオートリスの王が座る玉座に腰掛けたグロウは、今後起こるであろう人族との決戦に向けて準備を進める事にしたのだが、取り逃がしたノクティスとトーラスの動向が気になってしまい、どこか安心出来ない自分に不安を感じていた。
(大丈夫。 大丈夫のはずだ、ネズミが2匹逃げた程度で何も出来るはずが無い。
リリスの周りにいた部下達も俺の味方に引き入れているのだから、助けなど来るはずが無い……、何も無いはずだ……)
自身の震えを抑え込もうとして手を握り込んでいるグロウは知らなかった。
リリスがシンドリア国で終戦の約束を取り付けるほどまで和解してい事を、そして転移者達とすでにとても仲が良くなっている事を。
(きっと大丈夫なはずだ……。 そうですよね暗黒神様、僕を英雄にしてくれるって約束したんだから……)
不安を打ち消したい一心でグロウはグラスに再び注がれたてワインを飲み干すと、近場の柱に向かってグラスを投げつけて砕いた。
「あらあら、穏やかじゃありませんね、もう少し大人しくしていたらどうですか?」
グラスを叩き付けた柱の陰から現れたその人物は、魔王グロウを小馬鹿にした口調で近づいて行った。
「お前か……。 お前の口車に乗ってこの国を落としてやったのに、俺の行動をどうこう言うつもりなら……、殺すぞ?」
「怖い怖い、そんな事が出来ないと自分で分かっているのに虚勢を張るなんて……」
するとそいつは急に口調が変わりグロウを怒鳴り始めた。
「少し黙れよクズが! 誰に口を聞いてるか分かってんの!?」
その人物から威圧を受けたグロウは指一本も動かせなくなり、唸り声しか出せないでいた。
「ぐっ……、く……」
「そうそう、私に偉そうな口を聞くつもりなら、もう少し強くなってからにしてくれませんかねぇ?
魔王様、分かりましたか? ……返事は?」
「くっ……分かった……」
「そうそう、それで良いんですよ! 上手く行けばあなたの望みを暗黒神様が叶えてくれるのでしょうから精々頑張って下さいね。
それじゃ私も人族を滅ぼす為の準備があるのでこれで失礼しますよ」
静かになった魔王の間の玉座に座っている魔王グロウは、屈辱に震えながら玉座の手すりを殴りつけた。
「くそ!! 俺のスキルがもっと強力な物だったならあんな奴に小馬鹿にされずに済んだのに……!
だが今に見ていろ。 俺が考案した魔法の性能がそのまま発動出来るなら貴様等など物の数では無い……。
その時は貴様らの方が私に跪くのだ、その時を楽しみにしていろ」
魔王グロウは強く拳を握り締めて独り言を呟くが、誰に聞かれる事無く魔王の間に虚しく響き渡るのだった。
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【シンドリア王国・謁見の間】
俺達はトーラスから、ここ1週間であった事の説明を受けた事で、グランク様も他国に救援の書状を出す事を決めたのだった。
「トーラス。 リリスは無事だと思うか?」
「共也殿か、分からん……。
私を襲って来たクレストを撃退出来たとしても、オートリスの兵士達を前面に出された場合は、優しいリリス様の事だ本来の力を発揮出来まい。
私のその予想が当たっている場合は、恐らく魔王グロウによって囚われの身となっておられるだろう……」
「そうか……、無事だと良いんだが……」
「あぁ……。 リリス様、どうかご無事でいて下さい……」
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【ケントニス帝国・練兵場】
「ハーディ陛下!! ハーディ陛下はいるか!?」
〖カン! カン! カーーン!〗
「はぁ!!」
「ま、参りました……。 さすがはハーディ陛下です……」
「お主も良い動きだったぞアレン。 だが、まだまだ踏み込みが足りん、精進せよ!」
「はい! ありがとうございました!」
「ハーディ! 緊急の用事だと言ってるだろうが!!」
「鍛錬中だぞ、シグルド何用だ騒々しい!!」
「シンドリア王国のグランクから緊急の書状が届いたんだよ!」
「何だとグランクから? 寄こせ…………………。 シグルド!!」
書状を読んだハーディは、俺を驚愕の眼差しで見つめていた。
「ハーディそんな大声で呼ばなくても聞こえている!! その書状には何が書かれていたんだ?」
「魔国の中で動きが有ったようだ」
「魔国でだと?」
「ああ、魔王グロウが魔王リリスの国を制圧し2国の戦力を合わせて人類全てを抹殺するために、今攻め入る為の準備をしているらしい……。
シグルド、グランクを助けに行ってくれるか?」
「愚問だよハーディ! 竜騎士隊集合!!」
『「はっ!!」』
シグルド隊長の掛け声を聞いた、全ての竜騎士隊員が彼の前に集合した。
「先程シンドリア王国より緊急の書状が届いたが、その手紙の中には全ての人類を抹殺するべく魔王グロウが指揮する大部隊が人族が暮らす大陸を目指す為に出撃準備中との事だ」
〖ざわざわ……〗
「静かに、陛下の演説中だぞ!」
「……………………」
「ゴホン。 私はいくら親友であるグランクからの要請でも、貴重な戦力である君達竜騎士隊を派遣する事は本当なら断りたい。
だが、親善大使としてこの地を訪れた共也達の活躍によって、この都市が未曽有の危機から救われた事を覚えている者も沢山いるであろう。
そんな英雄である共也達の窮地に援軍として向かわなくて何が勇敢な竜騎士隊だ!! 我こそは、と思う勇敢な竜騎士よ、英雄殿達を助けに行こうではないか!!」
ざわめく集まった竜騎士達だったが、1人の女性竜騎士が手を上げた。
「行きます! いいえ、行かせて下さい!! ハーディ陛下!!」
「ティニーか! ならば今から隊列を離れて旅の準備に入れ!! 時間は限られているぞ!!」
「はい!」
(共也君、待っててね必ずお姉さんが守って上げるから!)
ティニーが旅の準備の為に隊列を抜けて行ったのを見ていた、もう1人の女性の竜騎士が手を上げた。
「隊長!私も行かせて下さい!」
「クルルか! お前も今から準備に向かえ! 夕方にはここを立つぞ!!」
「はい!」
(ティニーの考えている事はお見通しよ! 絶対に私が共也君を守って見せるんだから!!)
「だがこの国の防衛にもある程度の人数は必要だから全員と言う訳にはいかないな……。 オイフェ、アレンとあと数人ほどでシンドリア王国への救援に向かうぞ!」
「「ええ!? 俺達が行くのは決定事項なんですか!?」」
「何だ? 嫌なのか? まぁ嫌だと言うならしょうがない、俺達が戻って来る間の特訓の量を通常の倍……、いや4倍にして……」
「「行きますよ!! 行かせてくださいお願いします!シグルド隊長!!」
「うむ! それで良い! お前達も準備に向かえ!!」
「「鬼め~~~!!!」」
オイフェとアレンはシグルド隊長に悪態を付きながらも、猛スピードで宿舎へ走って行った。
だが、先程の絶叫を聞いていたシグルド隊長によって、後日帰国した2人の為に用意された特別メニューは、地獄の特訓と呼ばれている内容になっている事を、この時の2人はまだ知らない……。
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【ノグライナ王国・女王の間】
「リリー様、シンドリア王国のグランク王から緊急の書状が届きました!」
「ライナ落ち着いて、他の貴族達に召集命令を。
その会議の場でその書状を開封して内容を精査します」
「はい! キーリス近衛長にも連絡を入れて来ます!」
メイド長のライナが出て行った後に、リリーはしばらくシンドリア王国から届いたその書状を眺めていた。
「お姉様……、この手紙に書かれている内容は恐らく……。
私達がシンドリア王国に戦力を送ったからと言ってあの魔王軍に勝てるのでしょうか……。 共也、あなたは魔王軍に勝てると思う?」
書状を懐に入れたリリーは、貴族達とシンドリアとの戦争に参戦するか話し合う為に、会議室に向かうのだった。
リリーが会議室に入ると、そこにはすでに沢山のエルフの貴族達が机を挟んで話し合っている所だった。
「リリー様、シンドリア王国から緊急の書状が届いたと連絡を頂いたのですが。 とうとう魔王軍が動きましたか?」
「恐らくそうでしょう、これから書状を開封して中身を見てみます」
ライナからナイフを借りて手紙を取り出したリリーは読み進める内に無言となり、眉間に深い皺が寄っていた。
読み終わった手紙を封筒に元に戻したリリーは、手紙の内容を居並ぶ貴族達に話し始めると絶句していた。
「そんな……。 魔王リリスは操られていただけで、真の黒幕は魔王グロウだと……そう言うのですね? リリー様」
「そう書状にも書かれていますから真実なのでしょう。
ですが魔王グロウによって魔国オートリスは占領されてしまい、人類を駆逐する準備に入ったと書かれています……」
「リリー様、あなたの考えをお聞かせ願いたい。
シンドリアに増援を送るのか、それともこのまま自国を防衛する為に戦力を送らないのかを……」
貴族から質問されたが、私の選択はすでに決まっている。
シンドリア王国には親善大使として知り合った転移者達もいるし、何よりジュリアお姉様がいる。
「私は……、増援を送りたいと思っています。
人類全てを殲滅すると魔王グロウが宣言している以上ここで戦力を温存した所で、もしもシンドリア王国が落とされた場合、私達1国で耐えきる事は難しいでしょう」
「う、う~~む……。 リリー様の言う通りか……」
「どうせ防衛出来ないなら皆さん……。 シンドリアにいる皆さんと一緒に戦いましょう」
「………………」
リリーの言葉を聞いた貴族達はしばらく悩んでいたが、一人の貴族が椅子から立ち上がり胸の前に手を掲げると、他の貴族達も次々に立ち上がり同じく胸の前に手を掲げるのだった。
「リリー様、私達の命を持って人類を勝利に導きましょう! あなたは我々が持ち帰る勝利の報告を信じて待って『何を言ってるのです、私も行きますよ?』はぁ!? この国の運営はどうするのですか!?」
リリーの言葉に驚いた貴族は、敬語を使う事すら忘れていた。
「私達がリリーの代わりを務めますから大丈夫ですよ」
「あ、あなた様は……」
会議室の扉が開かれて入って来た3人を見た貴族達は、地面に片膝を付いてその人物達を出迎えた。
「ディーナス様、シュリー様、ティア様まで……先程の発言は本当ですか?」
「あぁ? 何か不満があるのかい? 坊や」
「い、いえ……。 不満などあろうはずがありません」
「なら良い。 リリーよシンドリア王国にいる者達には必ずお前の能力が必要になる、だから女王のお前が出向く以上は勝利以外の報告を私達にするんじゃ無いよ?」
「はい! お母様、必ず人類に勝利を手に入れて見せます!!」
「分かってるならさっさと出撃する準備をするんだよ! この手紙が届いた時間を考えるとすでに魔王軍が動き出したとしてもおかしく無いからね。
戦の準備が完了したらティアとリリーの力で転移の為の穴を生成して、すぐにシンドリア王国に向かいな!」
シュリー母様の言葉に頷くと私は固い決意を心に秘め、ティアお姉様に力を貸してもらうようにお願いをする。
「ティアお姉様、お力をお借りします」
「リリーちゃん、必ず生きて帰って来てね?」
「はい! 必ず!!」
こうして人類側に存在する様々な戦力がシンドリア王国に集結する事となり、人類存亡をかけた戦いがあと少しで始まる。
生き残るのは魔族か、それとも…。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
リリスが魔力源として扱われているため、何時まで保つか分からない状況となりました。
次回は“出陣前夜”で書いて行こうかと思っています。




