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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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潜伏する日々。

【潜伏1日目】


 オートリス城からの脱出に成功した私達3人は、城下町にある秘密の小屋に潜伏していた。


「リリス様……、言っては何ですがここってすぐに見つかりません? こんなボロボロの小屋に隠れるなんて普通なら考えませんよ?」

「うむ、普通魔王ともあろう者がこんなあばら家に潜伏しているとは誰も考え無いだろう、だからこそこの場所を確保しておいたのだ。

 実際ノクティス、お主もここに到着した時は驚いておったではないか」

「そりゃ当然ですよ…。 白金貨をポンと渡してくる人物が、こんなあばら家に潜伏してるなんて誰も想像出来ませんよ……」


 そう、私達はオートリス国の外壁近くに撃ち捨てられたあばら家を秘密基地として今も潜伏していた。


「それでだ。 ノクティスよ教えて貰いたい事があるのだが良いか?」

「何でしょうリリス様?」

「魔王グロウは、私の部下達に何をしたのか教えてもらえんか?」


 ノクティスはわざとらしく悩む振りをしていたが、1度首を振ると語り始めた。


 こいつ、私に情報量として金を要求しようとして思い止まったな?


「そうですね……。 まああなたには白金貨で雇われた経緯がありますから構いませんよ。

 私が分かっているのは彼の能力は確かに強力ですが『洗脳』とは違い即効性は無いみたいなんですよね」

「ほう? 洗脳では無いとしたら何なのだ?」

「【思考誘導】相手の思考を、魔王グロウが都合の良いように対象の考え方を誘導する……、書いた字の如くそのままの意味ですね。

 魔王の間にあなた達が入って来た時に、みんなが上の空だったのはグロウのスキルがまだ完全に馴染んで居なかった影響です。

 あの能力は掛けた相手に浸透するのに少々時間がかかるようなんですよ」


 なるほど、それで私達が魔王の間に入った時シュドルム達は上の空だったのか。


「ノクティス、皆が洗脳された訳じゃないと言うなら解除するのも容易と言う事か?」

「グロウがかなり念入りにスキルを掛けている様子だったので簡単には解除出来ないでしょうが、一定以上のダメージを与える事で思考誘導が解除されているのを何度か見ましたが……。

 リリス様、あなたはそうやって操られている部下を相手に、手加減する事が出来ますか?」

「無理じゃな……。 特に鬼人のシュドルムが相手だと、全力で行かないとこちらが殺されかねん……」

「あ~、やっぱりあの方がネックですか。

 魔王グロウもあのオーガにだけは慎重に思考誘導を施していましたからね、余程の危険人物なのだろうなと思っていましたよ」


 隙間風が入って来る部屋の中で、私はどうしたら皆を解放出来るか思案していたが徐々に瞼が重くなり始めて目を開けて居られ無くなって来ていた。


「う、う~ん……」

「リリス様、少しお休みください。 その間に私とノクティスがどうすれば皆を解放出来るか話し合っておきますので」

「うん。 眠気が限界だからお願……い……。 スゥ~~~」


 帰国してわずか1日なのに色々な事が在ったので、私は簡易的なベッドの上に横になりすぐに寝息を立て始めていた。


 寝息を立てる私にトーラスが近くにあった毛布をリリスに優しく掛けてくれた。 


「ノクティスよ」

「はい、何でしょうトーラス様?」

「金で雇われたお前に言うのはお門違いだと分かっているが、リリス様を裏切らないでやってくれないか?

 思考誘導が解除するのが難しいと分かった今、もはやこの方の部下と呼べる者は私しか居なくなってしまった。

 その上、金で雇ったとはいえ貴様にまで裏切られたなら、この方の心は保たぬやもしれぬ……」

「ですが私も生活と言う物がですね……」

「頼む! この通りだ!!」

「ト、トーラス様!?」


 金銭次第で今度リリス様を裏切るかもしれないと口に出そうとしていたノクティスに対して、誇り高いはずのリッチのトーラスが、人であるノクティスに大きく頭を下げて懇願して来た。


 トーラスのその姿を見せられたノクティスは、今までの飄々とした雰囲気が消えると、右腕で頭を乱暴に掻きむしっていた。


〖ガリガリガリ……〗


 クソ! この苛立ちは何なんだ!! 俺は今までこうやって生きて来たじゃ無いか! でも……。


「トーラス様、誇り高いリッチであるあなたが、魔王とは言え子供であるリリス殿に何故そこまで出来るのですか?

 あなたは魔王を名乗ってもおかしくないくらいの実力があるのに……」

「……。 ここから先は他言無用で頼む。

 私はリリス様の父君、先代の魔王様に、もし自分に何かあった場合はリリス様の事を頼むと言われていたのだ……。

 それ時からだな、私にとって魔法の真理を追い求める事より、この方の成長を見守る事を生きがいに感じ始めたのは……。 可笑しいであろう? 魔法を探求する為に死んでアンデットとなった私が、今更リリス様の成長を見守ろうなどと……」


 トーラスの話を静かに聞いていたノクティスは、商業都市ボルラスでは今日を生きぬことが精一杯で自分に親切にしてくれた人が居ない事を思い出していた。


「いえ、お2人の関係はむしろ羨ましいと感じるくらいですね……。

 私には親切にしてくれる者は1人として現れてくれなかった……」

「ノクティス……」

「トーラス様に取って、リリス様は娘のような存在なのですね……」

「私はそう思って接しているが、リリス様はただの部下の1人としてこき使っているだけかもしれんがな! カッカッカ!」


 トーラス殿は途中から恥ずかしくなったのか誤魔化すように笑っていたが、私も何故か楽しくなり同じく声を出して笑うのだった。


「ノクティスよ、お前も今日は休んでおけ明日からまた忙しくなるぞ」

「トーラス様……。 では先に休ませていただきます。 後、先程の提案は慎重に検討させて貰いたいと思います」

「頼む。 私は出来ればお前とも良き関係を築きたいと思っている事は忘れないでくれ」

「はい」


 こうしてあばら家の光りを落とすと眠りが必要としないトーラス以外の者達は眠りに付くのだった。


「ありがとう……トーラス……」


 微かに意識のあった私はトーラスの『娘』と言う言葉をとても嬉しく思い、一筋の涙を流すと誰にも聞こえないほど小さく呟いた。


 こうして、帰国してから色々とあった1日の夜が更けて行った。


 ===


【潜伏2日目】


 今日も朝からグロウに術を掛けられたらしき兵士が虚ろな目をしながら巡回しているのだが、どうやら私達の潜伏しているあばら家は調べる対象にすらなっていないようで、何組の兵士達が近くに来ても素道りして行くばかりだった。


「確かにもし何かあった時の為に潜伏するのに適した場所を選びはした……、選びはしたが……。 警備がザル過ぎやしないかの? トーラス……」

「確かにここまで全ての兵士が調べる素振りすら見せないとは……。 全てが終わったら責任者に問い詰めてみるしかありませんな……」

「うわ~…。 警備隊長は可哀そうに……、完全にとばっちりじゃないですか……」


 素通りして行く兵士を見送った私達はこれからの事を3人で話しをしていたのだが、小屋から出た所で見つかる可能性もあるので出る訳にもいかず、結局その日は巡回に来る兵士達の時間帯を調べるだけ終わってしまった。


 === 


【潜伏3日、4日目】


 どうやら私達が潜伏している事を確信したのか、都市を巡回している兵士が明らかに増えた事で、さらに身動きが取れなくなってしまった。


「ふむ……。 このままでは埒が明かないな……。 ノクティスよ相談があるのだが良いか?」

「リリス様、どの様な相談でしょう?」

「もしお主を商業都市ボルラスに転移させた後で、兵力を集めてここに戻って来きてくれと言ったらそれは可能か?」

「どうでしょう……。 いくら金を積めば動く商人の町とは言っても、魔王グロウとオートリス国の戦力が合わさった軍勢を相手にすると聞いて、動いてくれる者がどれだけいるか……」

「だが可能性はあるのだな? ならば……」


〖ドン! ジャラララララ……〗


 リリス様は懐から金属の音がする袋を取り出すと、机の上に置いた。


「この袋の中に白金貨が100枚入っておる。 この全てをお主に託すからボルラスで傭兵を集めて戻って来てくれぬか?」

「なっ! 白金貨100枚……。

 …………リリス様、私が言うのもなんですが……、金で雇われた私なんかにそんな大金を渡すなんて、持ち逃げするかもしれないと思わないのですか?」

「確かにその可能性はあるじゃろうな。 実際お主は白金貨を手にした事で、魔王グロウを裏切ったのだからな」

「なら……」


 私は一呼吸おいて何故その考えに至ったのか話した。


「……だがお主は飄々と人を食った様な物言いをするのに、自身に理解出来ない事が起きた場合は真剣に悩み理解しようとしていたではないか。

 そんな姿を見て実はお主の根っこの部分はとても素直で真面目な性格なのだと、近くで見ていた私はそう感じたよ。

 そんなお主に裏切られるなら、私の見る目が無かったと思い諦めるさ」


 私が彼の目をジッと見続けながら説明すると、ノクティスの目は小刻みに揺れていた。


「わ、私の様な者をそこまで信じてくれるとは……。 分かりました。 このノクティス、あなたの期待に応えるために最強の部隊を作って戻って来る事をお約束しましょう……」


 片膝を付き頭を下げるノクティスに、リリスは年相当の笑顔を彼に向けた。


「うむ! 頼むぞ! 余ったお金で少し位なら遊ぶ事を許可するが、ほどほどにするのだぞ!?」

「しませんよ! 私を何だと思っているのですか!!」

「あはは! 冗談だ、頼んだぞノクティス!」

「全く困った雇い主ですね……」


 冗談を交えて微笑むリリス様に見惚れながら、このノクティスの内面を見てくれる主をようやく見つける事が出来た事を心底嬉しく思うのだった。


(必ず……、必ずこの依頼を成功させるんだ……)


 私は手に力を籠めると、心に誓うのだった。


「さて。 忘れ物は無いかの?」

「はい、大丈夫です」


 白金貨の入った袋を懐にしまった私の正面にリリス様が立つと、転移に必要な魔力を練り始めていた。


「リリス様あなたの期待に必ず応えて見せます。 もし……、あなたの期待に応える事が出来たなら……。 あなたの部下の末席に加えて頂けませんか?」

「ぬ?」


 魔力を練っていたリリスだったが、ノクティスのその言葉に対して頭に疑問符を浮かべていた。


 何を言われたのか理解出来無いで居たリリスだったが、暫くするとノクティスを指差した。


「何を言っておるか! 元は金で雇ったとは言えど、すでに貴様は部下の1人だ!!

 待てよ……。 だがそうだな見事この作戦をやり遂げたならば、貴様を私の腹心の1人に取り立ててやろう!! どうだ破格の報酬であろう!?」

「クックック、その話はとてもありがたいのですが……、お給金はいくら貰えるので?」


 親指と人差し指を付けて〇を作るノクティスにリリス様も噴出さずにはいられなかった。


「ぷっ! アハハ!こんな時でもお主はぶれないな!! 良いだろう! その時は破格の金額を提示してやるから見事私の期待に応えて見せよ!」

「はい! 必ずやあなたの期待に応えてみせましょう!!」


〖キィィィィ~ン!!〗


 会話が終わると同時に私の足元に青色の魔法陣が形成され、発動すると私は商業都市ボルラスの港の一角に立っていた。


「ここは港の……。 さてと……、まずは頭の固い老害共から説得する必要があるのが面倒だな……。 だが必ずやり遂げてみせる、私自身の為にも……」


 こうしてオートリスから帰還したノクティスは、リリスを救出する為の部隊を編制する為にボルラスで単独行動をする事になるのだった。



「頼んだぞノクティス……」


 私は魔法陣と共に消えたノクティスの居た場所を眺めながら小さく呟いた。


 ==


【潜伏7日目】


 今日は何処がどう違うと口で説明するのは難しいが、何故か朝から様子がおかしいと感じていた。


「リリス様、これは……」

「トーラス、お前も感じているのか……」

「はい。 空気の流れとでも言えば良いのでしょうか? いつもと違いますね……」

「うむ……。 油断するなよトーラス……」


 野良犬1匹すら見かけ無い状況に、2人して緊張感が高まって行くのを感じていた。


(何だ? 何か起きているのか? もしかして私達の位置がバレた? いや、そんな気配は全く無かったぞ……)


 私があばら家の隙間から外の様子を伺っていると、霧があばら家を覆い始めた。


「珍しいなオートリスで朝霧とは……、しかも霧が濃くて外の様子が良く見えなくなっておるな」


〖カタン……〗


「む? 何の音だ……?」

「リリス様、危ない!!」


〖ドン!〗


「トーラス何を!?」


〖ザシュ!〗


「グオオ!!」

「トーラス!!」


 私が見た光景、それはトーラスが何者かに左肩から右脇腹に袈裟懸けに切られて、前のめりに倒れる所だった。


「ちっ! 仕留めそこなったか……。 まあ良い次は外さん!」


 私からは背中しか見えないが、その尾骶骨から延びる爬虫類独特の尻尾を持つ者など1人しか思い当たらなかった。


「貴様は龍人将クレストか……、良くここが分かったな!」

「都市中走り回って探したんだよ魔王リリス! すでに居場所を報告済みだから、これから続々と仲間が駆けつけて来る、諦めて降伏する事を勧めるぜ!」

「これから……、と言う事はまだ時間的猶予は有る訳じゃな!?」

「はっ? 何を言って……ぶぎゃ!!」


〖ドゴン!!〗


 リリスの超絶身体強化した拳打を食らったクレストは、あばら家の壁を突き破って朝霧の中に消えて行った。


「リリス……様、私を置いてお逃げください……」

「トーラス……。 お主を置いて逃げれる訳が無かろう。 それに私はこの国の魔王として部下達を助けねばならぬ責務がある……」

「だが、このままでは共也殿達との約束が!!」

「トーラス……。 お前には悪いと思うが、共也達には『済まぬ』と謝っておいてくれ……」

「リリス様……まさか!! お止めください私は最後まであなたの側に!!」

「生きていたらまた会おうトーラス……【空間魔法 転移】」

「リリス様~~~!!!」


 重傷を負っていたがトーラスはリッチだ。 あの損傷で死ぬ事は無いだろうが、これから起きる戦闘には耐えられないだろう……。


 そう思っていると、霧の中からクレストが口の端から血を垂らしながら現れた。


「いってぇ~…、俺を吹き飛ばして何をしたいのかと思ったが、骨野郎を逃がしたのか……。 だが貴様は逃げられなかったみたいだな魔王リリス!!」

「ちょっと前まで散々私が言われていた言葉をお主を見ていると嫌な程理解出来てしまうよ【脳筋】…か。 確かに私を表すのにピッタリの言葉だったな」

「俺様が脳筋だと言うのか!?」

「ピッタリであろう?」

「くっ! ぐっ!! ふぅ……、まあ良い。 貴様は終わりだよ魔王リリス。 こいつら相手にどこまで保つか俺は見学させてもらう事にするぜ!」


 クレストの背後から虚ろな表情をした私の部下達が現れると私を包囲した。


「貴様!」

「ククク。 こいつ等だけじゃ物足りないだろうと思って、こいつも連れて来たぜ?」

「な! シュドルム!? それにクダラまで!!」


 最悪な事に鬼人であるシュドルムと、参謀であるクダラまでもが私に敵意を向けて来ていた。


 はは……流石にこれは詰んだかな……。

 トーラス……。 お主に世界の命運を託す事許してくれ……、出来る事ならまた会いたいな……。


 リリスは全身に魔力を纏うと1人過酷な戦いに身を投じるのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございました。

今回はトーラスが転移して来る前の1週間を書いたものになります。

次回からはまたシンドリア王国側に戻り“集結”で書いて行こうと思っています。

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