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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
6章・魔族と人族の戦争。
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謝罪

 リリスが帰国してから1週間経ったが、未だにこれと言った連絡が無く、俺達は彼女が上手く説得出来たのかどうかも分からない悶々とした日々を過ごしていた。


「リリスがオートリスに帰ってからもう1週間か……。

 そろそろ部下達を説得出来たかどうかの連絡くらい有っても良さそうなものだけど……、城の方にも何の連絡も無いんだよな?」

「えぇ……。 お父様に確認してみましたが、リリスちゃんからその様な連絡は来ていないそうです」

「リリスちゃん。 部下の説得失敗しちゃったのかな?だから合わす顔が無くて……」

「鈴ちゃん……」

「魅影ちゃんも心配じゃないの? あれだけ戦争を終わらせる事に乗り気だったリリスちゃんから何も連絡が来ないなんてきっと何かあったんだよ!」

「私だって彼女の事を心配していますが、こうも何も連絡が無いと動き様が無いじゃ無いですか……」

「2人共、落ち着け」


 室生が2人を諫めるが、ここまで何の連絡が無いのは流石におかしい……。


「室生……。 リリスちゃんの説得だけじゃ戦争を終わらせる事が出来なかったのかな?」

「愛璃。 戦争を継続するか終わらせるか、未だにその連絡が来て無いんだ、諦めるのはまだ早いと思うぞ?」

「そう……だよね。 まだ何も決まっていないんだから私達が待つしか無いんだよね……」


 愛璃が室生に優しく微笑むと、大規模な魔力反応と共に城全体が小刻みに揺れ始めた。


〖カタ……。 カタ…カタカタカタカタカタ…ドン!!〗


 すぐに地震の様な振動が収まったが、何の振動だったのか不思議に思って首を傾げていると、食堂の扉が勢いよく開き、一人の騎士が慌てて入って来た。


「エリア王女、緊急事態です!」


 そして謁見の間で緊急事態が発生したため、すぐに謁見の間に来て欲しいとグランク様からの伝言をその騎士さんから伝えられた。


「分かりました。 皆さん急いで向かいましょう」

「ああ」


 ==


「お父様、緊急事態が起こったと聞いたのですが、一体何が起こったのですか!?」

「来たか、エリア」


 俺達が急いで謁見の間に入って目にしたもの、それは左肩から右脇腹を綺麗に切断されてしまい、そこから下を消失したトーラスが侍女さん達に支えられながら横たわっている姿だった。


「トーラス!?」

「おぉ、共也殿か……。 無様な姿を晒してしまって申し訳ない……」

「あんた程の人が一体どうしてこんな姿に!?」

「やられたよ……。 奴、魔王グロウに……」

「魔王グロウだって!?」

「あぁ、説明しても良いが人が揃ってからでも構わぬか?」

「あ、ああ」


 リリスの事が心配だったが、心底疲れているトーラスを見て追及出来る雰囲気では無かった。


「すまんが人が集まるまで少し休ませてくれ……」


 そう言うとトーラスは無言になり、関係者が集まるまでの間に自身の回復に努めていた。

 そして、謁見の間に人が集まり切る頃には何とか下半身の再生も終わり、自力で立てるようになっていた。


「トーラス殿、其方達が帰国したと聞いて連絡を待っていたのだが、一体何があったのだ?」

「グランク王、まずはあなた達に謝罪をさせてくれ。 すまない……。 結局我々は人族と魔族の戦争を止める事が出来なかった……。

 いや、むしろ最悪な方向に向かっていると言って良い…」


 誇り高いリッチであるトーラスが人に頭を下げた事に、集まった人達は驚きを隠せずにいた。


「トーラス殿。 あなたの謝罪は受け入れるが、どうしてあなたがそうなったのかまず説明をしてくれ」

「分かった……」


 グランク様はリリス達が帰国してから一体何があったのか説明を求めると、トーラスもその事を元々説明するつもりだったのか、転移で帰国してからの出来事を語り始めた。


「奴、魔王グロウは私とリリス殿が留守なのを何らかの手段で知ったのだろう。

 奴1人でオートリスに来た事で油断した部下達は次々と懐柔されて行き、最後はシュドルム殿まで……。

 そして、オートリス国を制圧した奴は、我々を捕縛しようと待ち構えていたのだが、私だけが落ち延びたと言う話だ……」

「トーラス。 懐柔されたって言葉がチラホラ出て来るけど、やっぱり魔王グロウは精神干渉系のスキルを持っていたのか?」

「共也。 ああ、奴は君達が話している時に出て来た、精神干渉のスキルの1つ【思考誘導】のスキルを所持していたのだ……」


 思考誘導? 俺はその言葉にどうもピンと来ないのでトーラスにもう少し詳しく尋ねてみる事にした。


「思考誘導と【洗脳】は違うのか?」


「あぁ、奴は他人をすぐに洗脳する様な力は持ち合わせていないようだが、どうやら長い年月掛けた者ほど洗脳に近い状態で魔王グロウの言う事を信じてしまうみたいだ」

「トーラス殿、オートリス国を魔王グロウが乗っ取ったのは分かったが、奴は国を乗っ取って何がしたいのだ?」

「奴は自国ドロイアス兵を温存させたまま、人族の国を滅ぼそうとしているのだ。

 その先兵として向かわせる為にオートリスの兵をわざわざ思考誘導で味方にしたのであろう……。

 だがあれだけの大部隊となると1ヵ月位の準備期間が必要になる。

 グランク王よ急いで他国に救援を求めるのだ、今からならまだ間に合うはずだ」


「分かった……。 ハーディやリリー殿に現状の説明と、救援を求める書状を送ろう……。 間に合ってくれると良いのだが……」


 書状を書き記したグランク様は近くに居た文官にこの書状を至急送るように告げると、俺達がずっと気になっている事をトーラスに質問してくれた。


「トーラス殿、リリス殿はどうなったのだ? もちろん無事なのだよな?」


「リリス様は……」


 言い淀むトーラスだったが、1週間前に起きた事をポツリポツリと話し始めた。



 =◇======



【1週間前のオートリス城・謁見の間】


「皆どうしたのだ!? 魔王たる私が帰って来たのに何で誰も反応もしないのだ!!」


 リリス様が大声で叫ぶがそれでも誰も反応しない上に何も言わない、異様な雰囲気の中で渇いた音が魔王の間に響き渡った。


〖パンパンパンパン……〗


「いやいや、お帰りなさい魔王リリス。 遅かったじゃないですか、待ちくたびれたじゃないですか」

「お前は魔王グロウ! どうしてお前のような卑劣な魔王がここにいるのだ! 皆に何をした!」

「散々な言われようですが、卑劣とは私にとって誉め言葉ですよリリス。

 あなたに長い年月を掛けて施した【洗脳】が解除された事を知った私は、オートリス国を落としに来たのですよ。

 いや~間に合って良かった、最初は抵抗していたこの国の人達も今は私に協力的ですからね、ねぇ皆さん。『跪け』」


 グロウがそう告げると、広間に集まった全ての者がグロウに対して跪いて頭を下げた。


「シュドルム、皆! グロウ……。 お前が、お前さえ居なければ~~~~~!!!」

「おお怖い!! 皆さん、彼女が私に危害を加えようとしていますよ、助けて下さ~~~い!!」


 超絶身体強化の魔力を纏ったリリスが床に石畳を踏み砕きグロウに向かって突進しようとするより先に、オートリス城に仕えていた人々はグロウを守るために周りを取り囲んだ。


 さすがのリリスも操られているだけの人々を攻撃する事は出来ずに踏み止まると、シュドルムが跳躍して私の頭上に大剣を振り下ろして来たが、当たる寸前で光る壁が展開されてその攻撃を防いでくれた。


「リリス様一旦後ろに下がって下さい!」

「すまんトーラス!」


 素直に下がってくれたリリス様だったが、この状況は城の者達を人質に取られていて非常に不味い状況となっていて、完全に手詰まりとなってしまっている。


「リリス様どうします?」

「知れた事、退いた所で城の者達が開放される訳では無いし。

 ここは玉砕覚悟で奴を、諸悪の根源であるグロウを討つべきなのだ!」

「やはりそれしか道は無いですか……。 良いでしょう、私もリリス様と一緒に地獄までお付き合いましょう!!」

「すまぬ……。 では行くぞ!」

「はっ!」


 2人が突撃しようとした所で、グロウが2人を馬鹿にしたような声が広間に響き渡る。


「クックック。 2人が決死の覚悟で私を討ち取ろうとしている所で悪いのですが……。

 もしかして私が1人で敵国に来たと思ってます?

 もしそう考えているならこれほど滑稽な事はありませんよ?」

「なんだと!?」

「こう言う事です」


〖パチン!〗


 グロウが指を鳴らすと、魔王の間の柱の陰から何人もの異形の者が現れた。

 その中にいる数人は見知った人物で、リリスとトーラスは驚きながらその人物の名を口にする。


「お前は氷魔将コキュートス、魔人将クレスト、甲殻将ギルガメ,亜人将ハンネ……。 お前達まで来ていたのか!!」

「当たり前だ、我が主が出陣なされるのだから付き従うのは当たり前であろう?」

「くそ! トーラス、お前だけでもこの場から逃げ伸びて、この事を共也達に伝えるんだ!!」

「ですがリリス様!」

「五月蠅い! さっさと行け! 私達2人共討たれたら、それこそグロウの情報が伝わらなくて人族側が不意打ちを受けてしまうのだぞ!」

「くっくっく、そんな事は私がさせませんよ」


 勝ち目が無いと悟ったリリスはトーラスだけでも逃がそうとするが、背後から聞こえて来た声によって遮られた。


「なんだと!?」


〖バチン!〗


「ぐあぁぁ!!」

「トーラス!!」

「おや、不意を付けたので逃げられ無いように結構強めに状態異常を入れたつもりだったのですが、さすがはリッチですね。

 大して効いていないようだ」


 そこには眼鏡を掛け茶色のマントを羽織った20歳位の若い人族の男が両手に黄色に輝く魔力を纏わせて立っていた。


「人族のお前が何故この場にいる!!」

「私は商業都市ボルラスから派遣された魔法使いでしてね。

 今は魔法将と言う席を預かっているノクティスと呼ばれている者です。 短い間かもしれませんが、どうぞよろしくお願いしますよ、魔王リリス様?」


 大袈裟に腕を振り頭を下げる男にイラつきを覚えるが、リッチであるトーラスにわずかでも状態異常を入れる事の出来るこの男が、相当な実力者である事は分かる。 だが…。


「貴様は金の為に人類を裏切ると言うのか?」


 私の言葉にノクティスと名乗った男は、最初何を言われているのか本当に分らなかったようだが、少しすると眼鏡に触りながら笑い始めた。


「人族を裏切る!? いえいえ私は人類を裏切ってはいませんよ!? 私がここに居るのはあくまでビジネス!! 分かりますか?ビ・ジ・ネ・ス!!」


 そこに軽く麻痺状態となって居るトーラスがノクティスに対して口を開いた。


「裏切っているではないか。

 まさに今、金の為に人類との戦争を終わらせようとしている我々を排除しようとしているではないか……。 グ!」


 人類を裏切っている。 そうノクティスに指摘すると、奴は大袈裟に頭を振ると盛大に溜息を吐いた。


「分かっていませんね。

 先程も言いましたが私は仕事としてここに居るので、私に手を貸して欲しいのならそれなりの『誠意』と言う物が必要だとは思われませんか?」


 ノクティスは親指と人差し指で〇を作ると、こちらに見せ付ける様に近づけて来る。


「下衆が……。 金の為に、やっと見えた終戦の糸口を摘むような事を平然とするとは……」

「クックック。 それが商業都市ボルラスの出身者の特徴なのですよ。 悔しいと思われるのなら金を払って私を雇えば良いだけじゃ……」


〖ピィン! パシ〗


 途中まで言いかけていたノクティスだったが、リリスによって弾かれた物体を咄嗟に受け取ると、彼は自身の手の中にあるそ《・》れ・を見て硬直した。


「こ、これは白金貨!? なななな何故これを私に!?」


 こ奴、動揺しすぎであろう……。


「グロウの奴に幾らで雇われたのか知らんが、金を払えばこちらに手を貸すのであろう?

 ノクティスよその白金貨で貴様を雇おうじゃないか。 だから私に手を貸せ!!」

「そそそそんな軽々と雇い主を裏切る訳にはいきません……。 商業都市と言う名の看板に泥を塗る行為を取る訳には……」


 リリスは自身が着ているゴスロリ服の内ポケットから、もう1枚白金貨をチラリと見せたのだが、その効果は絶大だった。


「【フラッシュボム】!!」


 いきなり振り返ったノクティスは、物凄い光量と爆音を放つ魔法をグロウ達に放ったのだ。


 不意打ちを食らったグロウ達がどうなってのかは一目瞭然だった。


『「ぎゃ~~~!! 目、目が!耳が~~~!!」』


 ノクティスの魔法で不意打ちを受けた全ての者達は何も見えず、聞こえないと言う状態にされた事で恐慌状態となり、同士討ちを始めてしまった。


 フラッシュボムの不意打ちを受けたグロウ達は、目を押さえながら怒声を放つ。


『ノクティス! 貴様~~~!!!』


「さあ逃げますよリリス様!!」

「白金貨を渡して強引に雇い入れた私が言うのもなんだが……。 お前は良い根性してると思うよ……」

「くっくっく! お褒めの言葉と受け取っておきましょう!!」

「はぁ……。 まあ良い、トーラスもう麻痺は抜けているな? ここから逃げるぞ」

「御意!」


 こうして私達3人は命からがらオートリス城から逃げ出す事に成功したが、グロウから部下達の洗脳を解く手段を考える時間を確保する為、城下町にある隠し部屋に一先ず潜伏する事にしたのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

本格的に魔王グロウが動き始めましたが、何故グロウは人族を根絶やしにしようとしているのでしょうかね?

次回は“逃走の日々”で書いて行こうと思っています。

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