約束①
窓から差し込む朝日が顔に掛かった影響で目を覚ました俺の隣には、マリ、スノウ、ディーネが重なり合って未だにスヤスヤと寝息を立てていた。
俺は3人を起こさない様に着替えて部屋の外に出ると、ユックリ扉を閉めた。
「共也さんおはようございます! 今日は良い天気ですからデートに最適ですね!!」
「うわぁ!!」
まさかこんな所で声を掛けられると思っていなかった俺は、背後から声を掛けられた事で変な声が出てしまった。
そこに立っているエリアはすでに外出用の服に着替えていて、準備万端と言った感じだった。
「エ、エリアさん、何時からそこに居たんだ?」
「え~っと……。 今日のデートが待ちきれなくて1時間ほどここで……」
「今来たんじゃ無いのかよ!!」
「うぅ……、だって楽しみだったんですからしょうがないじゃないですか! それとも共也さんに取って、こんな朝早くに扉の前で待っている様な女は迷惑ですか?」
涙で潤んだ目で見て来るエリアに対して強く言う事が出来る訳も無く……。
「はぁ、分かった。 外出用の服に着替えて来るから少しだけ待っていてくれ……」
「はい!」
しょうがないので俺はまた部屋に戻り外出用の服に着替えると、朝早くからエリアとデートに出かける事になったのだった。
城を出る前にエリアが見て見たいと言っていた場所を尋ねてみると、意外な場所の名前が口から出て来た事に驚いた。
「エリアが昨日見て見たい場所があると言っていたけど、どこに行きたいんだ?」
「私、ずっと朝市に行ってみたいと思っていたのですが良いですか?」
「朝市で良いのか? もっとお洒落な所を選択すると思っていたんだけど、エリアがそこが良いと言うなら行ってみようか」
「はい! では朝市に向かいましょう!」
「分かった、まずは朝市だな。 俺は行った事が無いから案内頼むよ」
「任せて下さい共也さん!」
こうしてエリアとの初デートの目的地は沢山の新鮮な物が集う場所。 朝市となったのだった。
城門を少し過ぎた所でエリアが横に来ると、俺の腕に抱き付いて来た。
「お、おい! エリア!!」
「えへへ、共也さんとの初デートなんですから雰囲気から入らないと、それに私はずっと前からこうしたかったけど我慢していたんですからね?」
「ずっと前からって、エリアと出会ってからまだ1年も立ってないじゃないか……」
「そうですけど~。 共也さん、そんな女心が分からない台詞ばかり言ってると私に逃げられちゃいますよ!?」
「自分で言うのは何か違わないか!?」
「あはは! まあ絶対に共也さんから逃げませんけどね! むしろ逃がしませんけどね?」
「ここで急にメンヘラ発言はちょっと怖いんだが、まぁ精々女心を分かるように勉強する事にするよ」
「あ~! 信じてませんね!そう言う人にはさらにくっ付いて上げます!!」
「こら! 歩きにくいだろ!」
「う~~~。 離れません!」
エリアの頬を押して引き剥がそうとするが、腕に必死に抱き着いて離れようとしない。
「あらあら、朝からお熱いわね!」
「朝っぱらからイチャ付きやがって……」
俺とエリアがじゃれ合っている姿を見た屋台のおばちゃんが微笑えんだり、たまたま通りかかった男の冒険者達が敵意の籠った視線を向けて来るなど、周りの人達が俺達に注目している事に気付いた。
〖ぺっ!!〗
冒険者風の男が俺達を見て唾を道端に吐き捨てると、周りで見ていた男達も同じように道端に唾を吐き始めた。
〖ぺっ!ぺっ!ぺっ!ぺっ!ぺっ!ぺっ!〗
(何だ何だ? 言いたい事は何と無く分かるが、急にどうしたんだ!?)
すると1人の男が涙目で俺達に苦情を言い始めた。
「クソが!! 朝っぱらからイチャ付きやがって! 羨ましくなんて無いんだからな!
うぅぅ…。 お前ら見てると、彼女がいない俺達が惨めな思いになっちまうから、さっさとどっか別の場所でイチャ付いてくれよ~~~!!!」
男達に涙声でそう言われたら流石にずっとここに留まる訳にもいかず、俺とエリアはすぐにその場を後にすると、朝市が開かれている広場に移動するのだった。
「共也さん先程の人の言い方をもう少し工夫して欲しかったですけど、どうやら私達ってカップルに見えるみたいですよ?」
カップルと言われた事が余程嬉しかったのか、未だに腕に抱き付きながらニヨニヨと笑っているエリアに呆れながらも朝市が開かれている広場に到着した。
流石1日が始まる朝市、辺りから活気のある掛け声が至る所から聞こえて来ていた。
「安いよ安いよ! お客さんこの野菜どうだい? 今日の朝取れたばかりだからシャキシャキして美味いよ!!」
「お客さん騙されちゃいけねえ! こっちの干し肉なんて噛めば噛むほど味が染み出て来て絶品だよ!
お客さん、絶対こっちの方が良いからこっちで買いなって!」
「あっ? 肉屋、うちの野菜に何か文句でもあんのか?」
「おっ? 八百屋の俺っちとやろうってのか???」
「「あっ?お?」」
客引きで喧嘩とかどんな朝市だよ…。
「あっ! 共也さんあそこの屋台で肉の串焼きを売ってるようなので、少し腹ごなしをして行きませんか?」
「朝から肉って重くないか?」
「大丈夫です!」
「まぁ、エリアが大丈夫なら俺も構わないが」
エリアの指差す屋台には、串に刺された肉がタレを掛けられて美味しそうな匂いをさせて焼かれていた。
「普通に美味そうだな……」
肉の焼ける匂いを嗅いだ俺は、朝から何も食べていない事を思い出したので、肉の串焼きを2本買いエリアと1本づつ食べる事にした。
そして近くにあったベンチに座り、その肉串を食べる事にしたのだが……。
「はい! 共也さん、あ~ん♪」
エリアは俺に串焼きを食べさせようと口元まで持って来てくれたのだが、さっきと同じく周りの殺意の籠った視線が気になってしょうがなかった…。
「エリア、周りの視線が気になるから、それはまた今度でも良いかな?」
俺がまた今度と言うと肉串を下げてくれたのだが、何故か涙目になるエリアに俺の頭の中は疑問符で一杯となっていた。
「そう……、ですよね……。 私の差し出す物なんて食べれないですよね……」
「エリアさん話聞いてる? 周りの目が気になるから今はって言ってるだけだよ?」
「気を使わなくて大丈夫ですよ共也さん。 私は気にして無いですから、また機会があったら食べてくれれば……うぅ……」
余りにもわざとらしい演技に俺は放置しようかとも思ったが、屋台を開いているおばちゃん達がエリアが悲しそうにしている姿を見た後、俺を睨んで来る。
その視線はこう言っている『食べてお上げ!』と……。
おばちゃん達の視線を受けてしばらく悩んだが、俺は結局人目を我慢して食べる選択を選ぶ事にした。
「エ、エリア、肉串を食べさせて貰っても良いか?」
「食べてくれるんですか!? はい、あ~~ん♪」
先程の涙目は何だったんだと言いたくなる程エリアは嬉しそうに微笑んで肉串を差し出して来た。
そして串に刺さった肉を1つほど食べたのだが、今度はエリアが『あ~ん』良い口を開けて来た。
これって今度は俺がエリアに肉串を食べさせるのか?
肉食べさせようかとも持ったけど、俺はエリアの頭を軽く小突き『調子に乗りすぎだ』と注意すると自分でも調子に乗っていたのを自覚していたのか、舌を少し出すと頬を赤く染めて恥ずかしそうにしていた。
「えへへ。 ごめんなさい」
俺達は残りの肉串をベンチに座って食べようとしていたんだけど、近くの木陰に薄汚れた服を着たオレンジ色の髪を腰まで伸ばし青色の目を持つ小さな女の子(5~6歳位)が俺達が食べようとしている肉串を指を咥えて物欲しそうに見ていた。
見られている事に気付いた俺とエリアは、親御さんが居ないか辺りを見渡したのだが、その様な雰囲気を持つ大人の気配が無い。
あまりにもジッと見て来るその娘が気になった俺とエリアが手招きすると、最初は警戒していた女の子だったが、肉串が気になって居る様で恐る恐る近づいて来てくれた。
「やあ、俺達の持つ肉串を見ていたみたいだけどお腹が空いているのかい?」
暫く無言だったその娘は静かに頷きお腹を押さえた。
「そうなのか。 どこかに親御さんがいるのかな? もし迷子なら俺達が一緒に探して上げるけどどうする?」
「……いないの……」
「居ないって……。 君は迷子じゃ無いのかい?」
「うん……。 肌の色が違う人達と、とてもおっきい人が私の住んでる村に来たんだけど、その時にお父さんもお母さんも居なくなっちゃったの……。
お父さんとお母さんがこの都市に逃げなさい、後から必ず迎えに行くから……って……。 うぅぅぅ」
泣き出してしまったその娘をエリアは優しく抱き締めると、頭を撫でて上げた。
この前リリスが冒険者ギルドで話を聞いたロベルトとササラの村も巨人族に滅ぼされたと言っていたから、もしかしてこの娘はその村の生き残りなのか?
どうやら滅ぼされた村から長い旅路を経てこの王都まで来れたのは良かったが、この娘はお金も無い上に身寄りも無く途方に暮れている時に、俺とエリアの持つ肉串に目が行っていたらしい。
「そうか……。 良くこの都市まで一人で来れたね……。 凄く偉いよ」
「うん! お父さんとお母さんが色々と教えてくれていたの……。 あ、このお肉ありがとう! とても美味しいです!」
「良いよ、君が一人でこの都市まで来たご褒美と思って遠慮なくお食べ。 それで今更なんだけど君の名を教えてもらっても良いかな?」
「うん、私の名は【シャリナ】……。 シャリナです」
美味しそうに肉を必死に食べ続けるシャリナは、恥ずかしそうに自分の名を俺達に教えてくれたのだった。
「名前を教えてくれてありがとうシャリナ。
君に聞きたい事があるんだけど、聞いても良いかな?」
「うん。 私が答えれる事なら答えるよ?」
「君はもしかしてロベルトとササラって名に聞き覚えがあったりするかい?」
「え、両隣に住んでいたロベルトお兄ちゃんとササラお姉ちゃんの名を、どうしてお兄ちゃんが知ってるの?」
俺とエリアは頷き合うと、この時間はクエスト受注で人が沢山いるであろう冒険者ギルドで2人に会える事を祈って、シャリナと一緒に向かう事にした。
【冒険者ギルド】
「ササラ、ゴブリン退治の受注終わったぞ~~。 そろそろ準備して向かうか」
「そうね……」
「どうしたんだよボーっとして、らしくないじゃないか」
「あの村から逃げて来てもう何年も経つんだなと思ってただけよ。
あれから色んな事があったから、ちょっと物思いに耽っていただけよ…」
「そうか……。 確かにあれからもう何年も経つんだな。 早く戦争が終わって俺達みたいな奴が増えない世の中になって欲しいぜ……」
「ロベルトにしては珍しくまともな事言うじゃない?」
「珍しくとは何だ! 珍しくとは!! ああ、そうして言い合っててもしょうがないから、そろそろ行くぞ!!」
「分かったわよ、そんなに怒る事無いじゃない冗談なんだから」
こうして俺達がゴブリン退治に向かおうと、ギルドから出ようとした時だった。
「ロベルト君、ササラさん、まだギルド内にいるなら受付カンターまで来てくれないかしら!?」
「ん? 俺達の事か?」
「みたいね。 何かあったのかしら?」
いつも騒がしいギルド内にジュリアさんの綺麗に通る声で名を呼ばれると思っていなかった俺とササラは、慌ててカウンターに向かうのだった。
俺達2人が受付カウンターに着くと、そこには先日親善大使として各地を回って帰って来たエリア王女と転移者の一人、最上 共也がそこにいた。
「これはエリア王女様……」
「ああ、今はお忍びで来てるからそう畏まらないで?」
「ですが……」
エリア王女にそう言われても平民である俺達が何か無礼な事をしたら物理的に首が飛びかねない、と思っていると下半身に衝撃があったので慌てて下を見ると、小さな女の子が俺に抱き着いていた。
「えっ? この娘は?」
「ロベルトお兄ちゃん……、ササラお姉ちゃん……」
「この声は……、まさかシャリナ!? シャリナなのか!?」
「えっ! シャリナ? 本当に!?」
ササラはロベルトの足に抱き着くシャリナにしゃがんで目線を合わせて、その娘の容姿を確認すると強く抱き締めた。
「シャリナだ! 隣の家に住んでいたシャリナに間違い無いわ!! あんた良く生きてここまで来れたね……」
「シャリナ。 顔を良く見せてくれ……。 あぁ、こんなにすり傷や泥だらけになって……。 でも生きてて良かったわ……。 シャリナ、あなたの両親は?」
「…………………」
シャリナはロベルトに抱き付いたまま首を横に振った。
その動作に全てを察っした2人は少し悲しい顔をしたが、すぐに元の顔に戻ると俺とエリアに頭を下げて来た。
「エリア王女、共也さん、わざわざシャリナを冒険者ギルドに連れて来てくれた上に、俺達に引き合わせてくれてありがとうございます……。
まだあの村の生き残りがいただなんて夢にも思っていませんでしたよ……。
ジュリアさん、ゴブリン退治のクエストだけど少し待って貰っても良いですか?」
「ゴブリン討伐は常駐クエストだから少し位待っても大丈夫だけど、どうするの?」
「シャリナを俺達が今借りている宿屋に連れて行って一緒に住めないか聞いてみます……。 そしてシャリナは俺達がこのまま引き取って育てようと思います。 良いよなササラ」
「文句なんてある訳無いじゃない。
シャリナこれからは私達と一緒に暮らす事になるけど……、良い?」
「うん……。 お姉ちゃん達と一緒が良い! まだ私って何も出来ないけど……これからよろしくお願いします……」
「勿論よ。 シャリナ、頑張って生きて行きましょうね?」
「うん!」
良い笑顔で返事を返したシャリナを見て、ロベルトとササラは涙を流しながら笑い合った。
「戦争を早く終わらせて、子供が子供の生活の面倒を見る様な事は無くさないとですね。 共也さん……」
「俺も本当にそう思うよ……」
再会を喜び合う3人を見て、エリアは俺にだけ聞こえる様に小さく呟く言葉を聞いてこの光景を生み出した魔王グロウだけは決して許してはいけない、と強く思う俺とエリアだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
投稿して少しは成長出来たのかと思えれば良いのですがまだまだ文章力も甘いと感じる日々に悶々としております…。
共也とエリアのデートが始まりましたがすんなり行く訳も無く。
次回も“約束②”で書いて行こうと思っています。




