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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
5章・帰還。 そして、和解。
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2人の魔王との晩餐会。①

 シンドリア王都の高台にある公園で、俺達はルナサスとラノベ談義をしたり、話しに付いて来れない者達は散歩したりと久しぶりにユックリと流れる時間を楽しんでいた。


「ねぇ、エリア」

「ん? リリスちゃんどうしたの?」

「エリアは共也を異世界から召喚した時に異世界者召喚のスキルが消失したって聞いたんだけど、それは本当?」

「うん、本当だよ。 スキルカードを見て見てもスキルが無くなって空欄になってたからね」

「そう……」

「リリスちゃん、召喚のスキルが消失した事に何か気になる事でもあるの?」

「ううん、ちょっと聞いてみたくなったんだ。 ありがとう」

「ふふ、変なリリスちゃんね。

 共也さん達はラノベって言う書物の雑談がもう少し続きそうだし、私達はこうしてまったりと夕陽に染まる街を眺めて過ごしましょうか」

「うん……。 私ってこんなにユックリと他人と過ごしたのは初めてかも……」

「…………」


 エリアは膝の上に座るリリスを優しく抱き締めると、彼女は擽ったそうに身を捩ったりしていた。


「ねぇエリア、平和な世の中になったらまた抱き締めてくれる?」

「うん。 いつでも良いよ」


 その回答を聞いたリリスはエリアに寄りかかると、その整った顔で微笑んで見せた。


「えへへ。 エリアって私のママみたい♪」

「リ、リリスちゃん!?」


 その笑顔を見たエリアは彼女を強く抱き締めると、そのままベンチに座りながら沈んで行く夕陽を一緒に眺めるのだった。


 ==


 そして俺達はと言うと、未だにラノベの自分が好きなジャンルの事で論争を繰り広げていた……。


「だ~か~ら~!! 至高のジャンルは恋愛系なの!! 良い? 無実の罪で追放された主人公が健気にやり直す姿に惚れた麗人の男性から求婚を受ける成り上がりなんて凄く萌えるじゃない!」

「ルナサス……。 お前、そこは萌えるじゃなくて、燃えるじゃないのか?」

「…………共也、そこはどうでも良い所なんだからいちいち突っ込まないの!」

 

 ルナサスに怒られてしまったが、恋愛小説の良さを早口で捲し立てる彼女に対して、ダグラスがその話に対して反論する。


「何を言ってやがる! 宇宙を旅するSFジャンルに決まってるだろ! 主人公が宇宙船を駆って宇宙を旅する話しなんて最高に熱いじゃないか!

 なあ鉄志、お前も宇宙船を作れるなら作って旅をしたいと言ってたよな! な!!」

「まあな! 自分が作った船で宇宙の旅なんて憧れるよな!」

「ほら見ろ! 宇宙を旅する話はやっぱり浪漫が詰まっているんだよ!!」


 ダグラスと鉄志の宇宙を旅するジャンルが最高だ、と聞かされたルナサスは肩まで両手を上げると子馬鹿にしたように小さく笑った。


「男って単純だよね~。 実現出来るかどうかも分からない未来の物語なんて虚しくならないの?」

「何だと!?」

「そうそう! それに比べて恋愛ジャンルは『純愛』って感じがして最高じゃない!」

「鈴ちゃん、分かってる~!!」

「ルナちゃんもね!!」


〖ガシ!〗


 ルナサスと鈴が固く握手を交わしていつの間にか親友のようになっている事に驚きつつも、ここまで熱く討論する2人を見て俺達は少し引いていた……。


「魅影ちゃん、柚ちゃん……。 私達はほどほどに楽しむ派だから、どっちがって言うのはないよね……」

「そ、そうね。 未来系もそれなりに楽しんで読んでたから嫌いじゃ無いし……ね」

「ねぇ愛璃。 私は推理小説も好きなんだけどさ……。 何でみんな推理物には興味を示さないの?」

「私達が推理物に興味が無い訳じゃ無くて、柚ちゃんが小説の犯人を言っちゃうからじゃない……」

「あ、あれは……。 皆が犯人が分からないと困るだろうな~~って思ってつい……」

「いや。 ついで推理小説の犯人をバラされると、とても困るんだけど!?」


 どうやら柚葉は善意で犯人を教えていたみたいだが、それは推理小説で一番やっちゃ駄目な事だからな!?


 厳しく指摘された柚葉は顔を真っ赤にすると、下を向いて押し黙ってしまった。


「俺はハイファンタジーが大好きなんだけど、何故か皆と好みのジャンルが少しずれてるから話し合える相手が居ないってのがちょっと寂しいな」

「何言ってんの共也。 私達もハイファンタジーのジャンルは好きだけど、それ以上に恋愛や未来の話しが好きなだけだし!」

「菊流……。 それって慰めになってないからな?」


 俺達は陽が落ちるまでその公園で楽しんでいたが、辺りの家々から明かりが灯り始めたので、そろそろ城へ帰ろうとした所でエリアが待ったをかけた。


「城を出る時に父から言伝を受けているのを忘れてました『夜にリリス殿とルナサス殿を歓迎する晩餐会を開くので、陽が落ち始めたら城に戻って来て欲しい』との事ですが、リリスちゃん、ルナサスさんの2人は参加出来そうです?」

「私は構わないけど。 リリスは大丈夫?」

「ルナサスの言う通りだよエリア。 私が参加しても皆の気分を害しちゃうかもしれないんだよ? そうなるなら私は……」


 リリスは悲しそうな顔で下を向き、


「リリスちゃん、これからは仲良くしましょうって意味が込められた食事会でもあるんだから、気にせずに参加してくれないかな?

 それともリリスちゃんは私達とは仲良くしたくない?」

「私だって皆と仲良くしたい!! ただ……。 私がこの戦争を起こした張本人だから、エリア達に迷惑が掛からないか心配で……」

「それを含めてみんなで食事をしながら和解しましょうって意味も含まれてる晩餐会なんだから、リリスちゃんが参加してくれないと困っちゃうな~…。 しくしく…チラリ」

「むう、エリア、それわざとらしい……。 じゃあ……、エリア、晩餐会に参加させて貰うね?」

「ふふ……、楽しみましょうリリスちゃん」

「う、うん……」


 エリアがリリスの頭を撫でると嫌がる訳でも無く、大人しく撫でられ続けるリリスだった。

 そして俺達は辺りが暗くなってしまったので公園を出て松明が灯されたシンドリア城に着くと、そこには沢山の家紋を付けた馬車が所狭しと並んで居た。


「これは凄いな……。 みんなシンドリア王国の貴族達の馬車なのか?」

「いえ。 ケントニス帝国の方もいますね。 それだけ今回の晩餐会でリリスとお近づきになろうと考えてる人が多いのかと」

「なるほどね……」

「ねぇ、共也、エリア、そんなに沢山の人達と会っても怖いから、出来る事なら2人の近くに居て欲しいから一緒に回ってくれない?」

「ええ、一緒に回りましょう。 共也さんも良いですよね?」

「エリアがいるなら別に俺がいなくても『良いですよね?』」


 エリアの笑っていない視線が語っている『断ったらどうなるか分かりますよね?』と……。


「……………はい」

「と、言う事らしいので、一緒に回りましょうね!」

「うん!」


 リリスが嬉しそうにエリアに抱き付くと、俺の隣にダグラスが立つとイラっとする笑顔のまま、肩に手を置いて来た。


「共也、お前もうエリア嬢の尻に敷かれてるのか~?」

「五月蠅いな! エリアがあんな目をする時は、何故か反抗する気が起きないんだからしょうがないじゃないか!」

「反抗する気が起きないねぇ……。 お前それってエリア嬢に嫌われたく無いからって思ってるんじゃないのか?」

「は? ダグラス、それってどう言う……」

「お前は何だかんだと誤魔化していたが、エリア嬢の事を好きになったって事だよ。 もしかして自覚してなかったのか?」

「そう……なのか?」


 今も楽しそうにリリスと抱き合っているエリアを見ていると、確かにホッとしている自分がいるのは確かだ……。


 そうか……。 俺、いつの間にかエリアの事が好きになっていたのか……。


 ダグラスに言われてようやく気付かされた俺の想いに、これから正面から向き合うと心の中で誓っていると城の侍女さん達が俺達の前に現れて頭を下げて出迎えてくれた。


「皆様、これから身嗜みを整えさせて頂きますので私達に付いて来て下さい」

「は、はい」


 そして、俺は案内された部屋で晩餐会用の衣服を侍女さんに手伝ってもらいながら来ていたのだけど……、何だか違和感が凄いな……。


「と、とてもお似合いですよ?(何この子! 最初は普通の男だと思ってたのに、着替えた途端にこんなにイケメンに! あ、でもエリア王女の婚約者だっけ? 残念……)」


 何故か気落ちしているメイドさんは置いてい置いて。

 違和感が凄い自分の姿を鏡越しに見ていると、扉がいきなり開かれるとマリ達が入って来た。


「パパ! 見て見て! 可愛い紫色のドレスを着せてもらったんだよ!私の髪の色とお揃いだよ似合う!?」

「マリちゃん、嬉しいのは分かるけど少し落ち着こうか、ドレスが着崩れちゃうよ」

「はい! 大人しくします!

 でもシル姉も髪の色と一緒の緑のドレスを着てて、とても似合ってるよね? パパもそう思うよね?」

「あぁ、とても似合ってるよ」

「ば、バカ共也。 こんな時にお世辞を言わなくて良いんだよ!?」


 マリに話を振られた俺がシルの事をすぐに誉めると、彼女は恥ずかしそうに頬を赤らめて髪をかき上げたり落ち着かない行動をしていたが、俺が『お世辞じゃない』と素直に伝えると、顔を真っ赤にして後ろを向いてしまった。


「共也、君って本当に女たら…………、まあそれは今は良いわ……。 そろそろ晩餐会が始まるらしいから会場へ向かうよ!!」


 俺ってもしかしてシルに女たらしと思われてるのか? いや、まさかな……。


 そんな俺を置いて部屋を出て行ってしまったシルだったが、ドレスの裾を踏んで転倒してしまったのか外から『ブギャ!』と言う声が聞こえて来た……。 シルらしいな。


「シル姉が顔を真っ赤にして出て行っちゃったねパパ。 変なの……」

「俺の準備も終わったし、そろそろ行こうかマリ」

「うん! パパ、抱っこして連れて行って!」

「はいはい、マリは甘えん坊だな」

「えへへ。 まだ0歳児ですから!」


 俺はマリを抱き抱えて晩餐会が開かれる会場に向かっていると、髪色に合わせた赤いドレスを着た菊流がヒノメを肩に乗せていた。


「あっ共也、ようやく来たね行くわよ?」

「共也、遅い……。 菊流と共也が着替えている部屋に突撃しようかと話し合ってた所だった」


 こちらも自身の黄緑色の髪色に合わせたドレスを纏った与一が俺達を待っていた。


「与一ばらさないでよ! でもさ、マリちゃんのドレス姿が似合ってて可愛いよ!!」

「うん、可愛い……。 後で抱っこさせて欲しいくらい」

「ありがと菊流姉、与一姉!」


 2人と合流した俺達は晩餐会が開かれる会場に着くと、そこには白を基調として青のラインが入ったドレスを着たリリスと、桃色のドレスを着たルナサスがグランク様達と会話している所だった。

 そして2人を中心に輪が出来上がっていて沢山の人達に話し掛けられていたのだが、その中の一人がルナサスの前に歩み出ると(おもむろ)に跪くと花束を差し出した。


「え? え?」

「ルナサス殿、そなたの様な可憐な方に出会えて私は今日ほど神に感謝した事はありません……。

 どうか結婚を前提としたお付き合いをお願いできませんでしょうか?」

「ええええぇぇ!?」


 そこにニヤニヤと笑顔を浮かべたダグラスがルナサスに近づいて行った。


「良かったじゃないか恋愛ジャンルが大好きなルナサスさん。 自分がその対象になれたから、これから素晴らしい物語が始まるんじゃないか?」

「ダグラス、さっきの仕返しか知らないけど、困ってるんだから今そんな事言わないでよ!! あっ! 共也、助けて!!」

「ル、ルナサス様。 私への返事は!?」

「断るに決まってるじゃない! 私は今ここには親交を深める為に来てるんだから、そう言う事はお断りよ!」


 俺の後ろに隠れたルナサスは先程の貴族にきっぱりと断りを入れたのだが、騒ぎを聞きつけた衛兵達によって両手を抱えられてその貴族は連行されて行った。


 アホの貴族が部屋を連れ出された後は、グランク様が代表してルナサスに頭を下げた。


「ルナサス殿、先程のアホは必ず処罰しておくので何卒平にご容赦を……」

「実害は無かったから良いですけれど、こういう事は今後無いように釘を刺しておいてくれるのなら、今回の事は事故という事で、水に流しましょうグランク王様」

「ありがたい……。 でも奴の気持ちが分からんでも無いがな。 それほど其方は美しい」

「そ、そうなのですか? 面と向かって言われると何て言ったら良いのか分からなくなるので、そこまでにしておいてくれると……」


 ルナサスは顔を真っ赤にしているが満更でも無いのか、両手を頬に当てて喜んでいた。


「そこでだ! もしルナサス殿さえ良ければ見合い話でも……!」

「あなた?」

「はい!!」


 見合い話をルナサスに持ち掛けようとしていたグランク様の背後から現れたミリア王妃によって話しが遮られると、グランク様は背筋を伸ばし硬直してしまった。


「来たばかりであれですが、ちょ~っと控室に行きましょうか?」

「はい……」

「オホホ! 皆様もうちょ~っと歓談を楽しんでいて下さい。

 私とこのアホ王は少しばかり控室に下がって、エチケットについての話し合いをしてまいります。

 すぐに終わると思うのでお待ちを!! エリア、来賓の方達に御挨拶をしておいて」

「はい、なるべく早く戻って来て下さいね? お母様」

「もちろんよ! 行きますわよ、あなた!!」

「はい…………」


 ドナドナされて行くグランク様を会場にいる人達は可愛そうな者を見る目で見送る中、エリアが代わりに貴族達に挨拶周りをしていたが、その後俺達と合流して雑談を楽しんでいた。


 そのエリアも、リリスとルナサスが楽しそうに皆と歓談している姿を見て涙ぐんでいた。


「エリア、どうしたんだ?

「共也さん……。 いえ……、魔王と呼ばれている2人と晩餐を囲む……。

 共也さん達を召喚した時は『もしかしたら』と言う期待を抱いてはいましたが、本当にこんな光景を見る事が出来るだなんて思いもよりませんでした……」


『グス……〗


「共也さん達を強制的に呼び出しておいてこんな事言うのはおかしいかもしれません。

 ですけど、人族を滅ぼしそうだった戦争が終わりそうなんですよ? 今でも信じられないくらいです……」


 エリアは、つい先日までいつ終わるとも分からないと思っていたこの戦争が、こうして終わりを迎える事が出来るかもしれないと思った彼女は感極まってしまった様で、俺の後ろに隠れて小さく嗚咽を漏らしていた。


「良かったなエリア。

 リリスが部下達を上手く説得出来ればこの戦争もすぐに終わり、平和な世の中になれば魔族達もこの都市に沢山来るだろうから、そこで人と魔族が楽しく話す光景が見れるんじゃないか?」


 平和となったシンドリア王国を予想した俺は、魔族と呼ばれた人達が人族の商人達と値段交渉したり、冒険者ギルドで人族とパーティーを組み、様々なクエストに挑むという姿を思う浮かべると顔が綻んでしまう。

 俺がそうして妄想の世界に入り浸っていると、俺の顔を覗き込んでいるエリアに気付き、その緑色の目にドキっとしてしまう。


「エ、エリアどうしたんだ?」


 激しく打ち動悸をエリアに気付かれていないか気を付けていたが、エリアの呟いた言葉を聞いて俺はある約束を思い出した。


「共也さん、戦争が終わってこの世界に平和が訪れたら私と結婚してくれる約束覚えていますよね? 忘れたとは言わせませんけど……。 で? もちろん覚えていますよね?」


 ハイライトの消えた緑眼で見て来るエリアに俺は素直に頷く事しか出来なかった……。

 

 するとエリアは両手を合わせると、嬉しそうに微笑んだ。


「良かった! じゃあ明日一緒にデートしに行きませんか? 2人きりでって言うのはあまり無かったので平和になる前に行ってみたいんです」

「明日は……」

「行きますよ?」

「はい……」


 こうして明日はエリアとのデートが急遽決まってしまったのだが、近くで帰って来たグランク様やダグラス達が俺達の会話を盗み聞きしている事に気付く事が出来なかった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

エリアと共也のデートが決まりましたが邪魔が入りそうな雰囲気ですね。

次回は“2人の魔王との晩餐会②”を書いて行こうかと思っています。

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