魔王達の都市観光④。
魔王リリスが笑い死にした、と言う最悪な汚名を残す事をなんとか回避したリリスは今、リル、マリ、ジェーンの幼少組と仲良く話をしていて先程までのギスギスした雰囲気はすでに無くなっていた。
「リリスちゃんって魔国でどんな事をして遊んでたの?」
「私は同年代のお友達が周りにいなかったから、いつもチェスを1人でしたり、たまにトーラスが相手をしてくれてたから、それで時間を潰してた。
だから遊びって言われても、どんな事を遊びって言うか私には分からないの……。 ごめんねリル」
(き、気まずい……)
「じゃ、じゃあ、その黒のインナーだけを着るスタイルはリリスちゃんが考えたの?」
「うん。 私は近接戦闘がメインだから、動きやすい恰好をしてたけど……。 何か気になる事でもあるの?」
「リリス姉。 今は子供の体だから良いけど、もう少し大きくなった自分を想像してみなよ……」
「マリちゃん? え? え? えっと、大きくなった……自分? (大人になった自分を妄想中)…………はぅ!!」
「私達が言いたい事が分かった?」
「十分に……。 これからは体のラインが隠れる服も着る様にします……」
「そうした方が良いよ。 リリス姉が痴女扱いされるのは私も嫌だし……」
「ジェーン、分かったから、もうこれ以上弄らないで~~~!!」
俺達がその光景を見ているとドワンゴ親方が隣に来て話しかけて来た。
「こうして見ると普通の少女にしか見えないんだがな……。 あれが人族の世界を振るえ上がらせた魔王だとは誰も思うまいよ……」
「親方…」
「共也さっきは済まなかった……。
頭に血が上ったからと言って、儂は危うく取り返しのつかない事をする所だった……」
そう謝罪の言葉を口にしたドワンゴ親方はすっかり落ち着きを取り戻していて、仲良く話しているリリス達を優しい目で眺めていた。
「リリスちゃん、戦争が終わって平和になったらリリスちゃんが収めてる魔国に遊びに行きたいけど良いかな?」
「え。 リル、私の国に遊びに来てくれるの?」
「もちろんだよ。 むしろどうして来ないと思ったのさ!」
「リル姉がリリス姉の国に遊びに行くならマリも行きたい! ジェーン姉も一緒に遊びに行くよね!?」
「うん。 私と同い年の娘達も城に滞在してるから、平和になった魔国に遊びに行くよ、リリス良いよね?」
「うっ………ぐす…も、もちろんだよ!! 歓迎する! 国賓待遇で出迎えるから平和になったら必ず遊びに来てね!!」
「う~~ん。 お友達として会いに行くだけで国賓扱いはちょっと嫌かな……」
『確かに!! アハハハハ!!』
「えへへ。 じゃあ普通に友達として出迎えるよ」
リリスは目に浮かんだ涙を袖で拭い、嬉しそうに笑って答えていた。
「リリス様は魔力さえあれば普段とは比べ物にならない位に体を強化出来る。
それ故に同年代の娘達からは恐れられて友達を作る事も出来なかったのだが、今回私達の魔力が封印された事で1人の少女として人と会話をする事が出来た。
そしてリリス様の友達として接してくれているあの少女達には感謝と言う言葉しか思い浮かばない……」
俺の足元に転がっているトーラスは青い炎が揺らめく眼孔から涙を流しているが、頭にくっ付いている玩具の矢の量ががさらに増えて悲惨な状態になっていた。
「トーラス……」
「何だ……」
「頭にくっ付いてる矢を取ってやろうか?」
「……頼む。 それと、未だに私の頭に矢をくっ付けようとして隙を伺っているお前の女を何とかしてくれ…」
お前の女、その言葉に与一が反応した。
〖ピク……〗
「トーラス……。 今何て言ったの?」
与一が床に転がるトーラスの元に歩み寄ると、先程の発言を問いただした。
何か不味い事でも言ってしまったのか? とトーラスも困惑したが先程自分が行った事を思い出しながら『共也の女と言ったんだが』と答えると、与一は優しく微笑むとトーラスの頭にくっ付いている玩具の矢を回収し始めた。
「トーラス殿、君はとても良い目をしているみたいだね。 この様な行為をしてしまった私の非礼を謝罪したい。 済まなかった………」
「あ、あぁ…。 分かってもらえたなら幸いだ……。 それと共也」
「何だよ……。 ちなみに与一は俺の女って訳じゃないからな?」
「そうなのか? この様に好意を寄せられているのだから答えてやればよいでは無いか、全く持って不思議な奴だな」
「俺にも思う所があるんだよ!」
「ふむ、そう言う物か……。 まあその話は今は良いだろう。 白だ」
「はっ? 何を言って……。 あ、まさかお前……」
床に転がっているトーラスの目線を追って行くと、ある場所に辿り着く事に俺は気付いた。
(こいつ……。 まさか与一の下着の色を言っているのか? あっ……、与一も白の意味に気付いてトーラスから離れた)
「この!!」
〖ドガン!〗
「あ痛~~~~!!」
下着を見られた事で珍しく顔を真っ赤にして怒っている与一に、思いっきり踏みつけられたトーラスは凄まじい音を響かせた。
(砕けたか?)
と全員が思った程の音だったが何とか無事のようで、眼孔に宿る青い炎は未だに消えていない事に少し安堵した。
トーラスがまだ生きている事を確認した与一は、もう一度踏みつけようとしたが菊流が慌てて羽交い絞めにして止めてくれた。
「与一、それ以上は駄目!」
「離して菊流。 こいつに止めを刺せない」
「与一落ち着け……。 流石に無抵抗の相手を殺すのは駄目だ……」
「く……! 命拾いしたわねトーラス……。 次は無いわ……」
「かっかっかっ、魔力が戻ったその時は存分に相手をしてやるからかかって来い。 でも今は魔力が使えないのだから勘弁してね……」
容赦の無い与一も与一だが、全くの無力の状態なのに強がるトーラスにもみんな呆れるしかなかった。
「きゃ~~! リリスちゃん可愛い♪」
「本当ね!」
俺達がトーラスと話をしている間に、リリスの周りにはメリムや魅影の大人の女性陣も加わり、彼女の髪型を弄ったり、様々な衣装を着せたりして盛り上がっていた。
「リリスちゃんって元々美少女だから、何を着ても映えるわね! ねぇねぇ、次はこれを着てみて貰って良いかな!?」
「鈴止めなさい! リリスちゃんはこっちの服がぜっったいに似合うんだから、こっちを着るべきよ!!」
「愛璃さん、それは認められません!! まずはこの和服に似た衣装を着てみるべきです!」
「魅影それはあなたが見てみたいだけでしょ!! リリスちゃんはこっちを着たいよね? ね?」
「柚葉さん……、その言い方は流石に圧が強すぎでは……」
「ルナサスさん、これくらい強引に行かないとこの人達に負けてしまいますよ!?」
「何に対しての勝ち負けなのよ!?」
女性達がリリスを着せ替え人形にして楽しんでいるが、当のリリスも満更でも無さそうに1つ1つ着替えては皆に見せていた。
そして、皆と楽しそうにしていると、ドワンゴ親方は奥から何かの箱を持って来るとリリスに手渡した。
「これは?」
「開けてみろ」
「うっ……。 うん……」
リリスが恐る恐る箱を開けると、中には赤い宝石があしらわれたブローチが入っていた。
「綺麗……。 これは?」
「身に着けておけば持ち主を一度だけ致死量のダメージから守ってくれる効果のある、ちょっとした魔道具だ。
今のお前は魔力が使えないのだからあれば安心だろう?」
「あっ……。 あり……がとう……」
もう最初のように、リリスと言う名前を聞いただけで殺そうとした親方はすでにいない。
照れながらもそのブローチを手渡すドワンゴ親方を見たサラシナさんは、笑顔で親方の肩を何度も叩いて褒めちぎった。
「あんたは何時も素直じゃ無いんだから! すまなかったって素直に言えば良いじゃないか!」
「痛い痛いサラシナ!!」
その後、リリスがその赤い宝石の嵌められたブローチを付けると、赤く輝いていた。
そんな感動的な場面を俺達は見ていたのだが……。
女性陣に着せ替え人形にされていた4人(リル、ジェーン、マリ、リリス)は何故かゴスロリ服をお揃いで着せられていた。
そしてリリスはツインテールだった髪も下ろされて、ストレートにされていた。
「ほら、共也、見て見て! リリスちゃんの髪に櫛を通してストレートにしたら、すっごく可愛くなっちゃった!」
「あぁ、何処かの御姫様って言われてもみんな信じちゃうほど可愛く仕上がってるよ」
「何言ってるの共也。 リリスは魔王で1国の女王なんだから実際お姫様じゃない!」
「ルナサス。 そりゃそうか」
そして、リリスの着ているゴスロリ服の胸元には親方から貰ったブローチが赤く光っていた。
俺はこうして皆と楽しそうに話しているリリスを見ていると、魔王だと言う事を忘れそうになる。
そして、俺はもう1つ気になる事を尋ねた。
「鈴、ところで何処からそのゴスロリ服は出て来たんだ?」
「ん? さっき鉄志が持って来てくれたよ? オリビアさんの新作だってさ」
「オリビアさんの?」
「おう、お前等似合うじゃねぇか!」
ドワンゴ親方はサラシナさんから肩を叩かれる状態からやっと解放されたのか、嬉しそうにゴスロリを着ているリリス達を見ていた。
「オリビアに試作品だと言われて渡されていたんだが、俺や鉄志が着る訳にはいかなかったからな。
お前等がサイズ的にも丁度良かったみたいだしそれはお前等にやるよ」
「い、良いの? 預かってる服なんじゃ?」
「なに、ずっと店の倉庫に仕舞ってあったから、サラシナともどう処分しようか相談していた所だったから丁度良かったんだ」
「う、うん。 なら頂きます」
「おう。 持ってけ! それとリル、鉄志、もう今日は店の事は良いからこいつらと一緒に都市観光の案内をして来い」
「え、親方良いんですか? それなら共也達と一緒に行ってきます」
「お父さん、ありがとう。 行ってくるね!」
「おう。 結果だけは教えてくれな!」
ドワンゴ親方はそう言い残すと、サラシナさんと共に店の奥へと帰って行った。
「あっ。 鉄志居たのか悪い、今の今まで気付かなかったわ」
「お前な……。 俺は! ここに! 住んでるの! ダグラス分かる!? ちょっと美人な彼女が出来たからと言って調子に乗るなよ!!」
「違うぞ鉄志」
「何がだよ!!」
「婚約者だ!!」
「……ダグラス、お前マジで言ってる?」
鉄志は俺達に確認の意味を含めて視線を寄こすが、ダグラスの言っている事が本当な為何と言って良いのか分からない……。
今もダグラスの横に立っているメリムも何故今自分が見られているのか、その意味を理解した彼女は頬を赤く染めると慌てて視線を逸らすのだった。
そのメリムの様子を見て本当の事だと悟った鉄志は脱力して床に手を付いた。
「くそぅ……、絶対俺達の中で最初に嫁が出来るのは、無駄にモテる共也だと思ったのに……。 まさかダグラスが1番かよ……」
おっと何故か俺に流れ弾が来たが、鉄志の言葉は聞こえなかった事にして、この後の話を進める事にしよう……。 うん……、そうしよう……。
「鉄志、次の目的地なんだが、オリビア雑貨店に行こうと思うから立ってくれ」
「何であそこに行く必要があるんだ???」
「旅に出る前に世話になったってのもあるけど、幼年組の着ている服もオリビアさんがくれた物なんだろう? 一言言っておいた方が良くないか?」
「……う~ん。 共也にしては珍しくまともな事を言うじゃないか!」
「俺はいつもまともだろ!」
「そうだっけか? まあいいや」
「いや、良く無いだろ!」
「まぁ、まぁ、共也さん。 今は時間が無いですし、ここは穏便に……ね?」
「エリア……、クソ!! 鉄志後で覚えておけよ!!」
俺は釈然としなかったが、エリアの言う通りそこまで時間が有る訳では無いのも確かなので、鉄志を問い詰めるのは諦める事にした。
「後で覚えておけよ鉄志!!」
「はい、はい、後でな。 親方、この後オリビア雑貨店に向かうらしいのでゴスロリ服のお礼とか言っておきますね?」
「おう、何も無いとは思うが気を付けてな」
俺達が店を出ようとした時だった。
「ちょっとお待ち」
「サラシナさん?」
「リリスちゃん。 襟が寄れてるから直して上げるわ」
「え?」
「ほら、こっちに来て」
「うん……」
サラシナさんはリリスの襟を直すと優しく抱き締めた。
「サ、サラシナ……さん?」
「リリスちゃん。 短い時間だったけど一緒に話してみて、あんたは本来とても素直な娘だと知る事が出来たわ。
私も噂話を信じるんじゃなくて、今日話しをした『リリス』って人物を信じる事にするよ。
だから必ずまたここに顔を見せに来るんだよ?」
「あ、ありがとうなのだ……、サラシナおばちゃん……。 戦争を終わらせて平和な世の中にする事が出来たのなら、また必ず……。 必ず顔を見せに来るのだ……。 う、う、ふぅぅぅ~~~」
「あらあら、泣き虫さんだね。 まだやる事がいっぱいあるのにそんな事じゃ心配になっちゃうじゃないかい」
サラシナさんが涙を拭い、そして離れようとするとリリスの頭上から声が聞こえて来た。
「ご婦人……。 もう少しで良いのでそのままリリス様を抱きしめて上げてくれまいか……。
リリス様は物心付いた時にはすでに両親から魔王としての教育を叩きこまれて来たため、そのように優しくされる事に飢えているのだ……。
だからもう少し……。 もう少しだけで良いのでお願い出来るだろうか?」
トーラスの必死の声に対しサラシナさんは頷くと、再びリリスを優しく抱き締めた。
「こんな事位で良いならお安い御用さね、リリスちゃん元気になったかい?」
「うん……。 暖かい……。 それに抱き締められるって嬉しいって思えるんだね……。 そして、トーラスもありがとうね……」
「勿体ないお言葉です……」
リリスと仲良くなれた鈴達もその光景を見て涙を流していた。
「よがったね…りりずぢぁん……。 ち~~ん!」
「あ! お前俺の服で鼻をかむなよ!! 汚ねぇ!!」
「ごめんごめん。 私丁度鼻紙を切らせててさ……。 つい共也の服が目に付いて……ね? えへへ」
「ほう? 俺も今猛烈にサンドバックを殴りたいな~~。 う~~ん、良い物が無いな~。
おや鈴さん丁度良い所で会いましたね、ちょっと俺のサンドバックになって貰ってくれないですかね?」
「おっ? この結界師の鈴さんをサンドバックにするってか? 出来る物ならやってみるが良いさ!」
結界術に絶対に自信を持つ鈴を相手にするのは相性的に厳しいが、俺には対抗手段がある。
「ふっ。 鈴、甘い、甘いぞ。 こっちにはマリと言う術に干渉出来る娘が居るのを忘れたのかな?
マリ~。 ちょっとこっちに追いで!」
「何? パパ」
「ちょっと鈴姉ちゃんの結界に干渉して無効化してくれないかな?」
「やる! 楽しそう!」
「ちょ! マリちゃんを連れて来るのは卑怯じゃないかな!? あ、マリちゃんもとても楽しそうな顔をして近づいて来ないで!! ひぃぃ!!」
こんな茶番劇をしていた俺達だったが、ドワンゴ武具屋を出た後はそのままの足でオリビア雑貨店に向かって歩いていたのだが、リリスはサラシナさんの事が気になるのか何度も武具店の方を振り返っていた。
そこにジェーンがリリスの袖を掴み、移動する事を促した。
「リリスちゃん、行こう?」
「うん。 ジェーン心配させてごめんね。 行こう」
「リリス姉ちゃん、私達とも手を繋ぎましょ?」
「そうだね良いよ、繋ごうか」
「私も繋ぐよ、リリス」
「リル……。 ありがと……」
手を繋ぎ楽しそうに歩き出す4人の姿は、路地を歩いていた人々を笑顔にしていた。
「あの娘達手を繋いで歩いてるだなんて、可愛すぎじゃない!?」
「なぁ、あの服は何処で作られてるんだろうな? ちょっと娘に勝って上げたいんだが……」
そんな会話が聞こえているが、俺達はそのままオリビア雑貨店へと向かい、そして店の扉が見えて来た。
「こんな所で止まったりしてみんなどうしたのだ? 目的の店は目の前なのだろう?」
「そ、それはそうなんだが……」
「???」
俺達は誰が最初にこの地獄へと続く扉を開けるのか、小声で譲り合っていた。
(お前が行けよ鉄志!)(ダグラス、お前はもう婚約者が出来たんだから怖いもの無いだろ!)
(いや、俺は逆に大切にする奴が出来たからこそ命は大切にしたいのでね!)(こんな時に惚気んな!)(こ、ここはやはりリーダー的な立場にいる共也が……。〖カチャカチャ〗(眼鏡の位置を直す音)」(ふざけんな室生! 委員長みたいな見た目なんだからお前が率先して開けるべきじゃ!!)
俺達が小声で言い合っていると、突如店の扉が軋んだ音を立てて開いた。
〖ガチャ。 キ~~~…〗
ビク!!
店の扉がユックリと開き、中からオリビアさんがノッソリと出て来ると俺達を笑顔で見下ろしていた。
「あら~、みんなお揃いでよ・う・こ・そ! で? 私の店に入りたく無い理由でもあるのかしら~?」
「な、無いです!」
「ならさっさと中に入れや!!」
「はい~~~!!」
俺達は黒いオーラを放ち威圧してくるオリビアさんの言葉に小さくなってしまい、慌てて店の中に入って行く俺達姿を見た女性陣は、溜息を吐いて呆れていた……。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
とうとう恐怖のオリビア雑貨店にリリスが向かう事となりました。
次回も“魔王達の都市観光”で書いて行きます。




