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【共生魔法】の絆紡ぎ。  作者: 山本 ヤマドリ
5章・帰還。 そして、和解。
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魔王達の都市観光②。

 俺達が魔王リリスを紹介した事で、いつも笑って俺達を迎え入れてくれていたバリスさんとジュリアさんの2人は雰囲気が変わり、痛い程の怒気を俺達に向けていた。


「なあ共也、お前がどこで魔王リリスと知り合いこの冒険者ギルドに来る事になったのか、それは問題じゃないんだ。

 ……エリア王女。 あなたなら何故俺とジュリアさんがここまで怒っているのか分かるでしょう?」


 バリスさんのその質問にエリアは心当たりがあるらしく静かに頷いて返答する。


「魔国の進行によって沢山の冒険者達や一般の人達が帰らない人となった事が怒っている原因……、ですよね?」

『そうだ!! その中には俺の親友も居たんだ!! あいつは力を持たない人達を逃がすために数少ない冒険者達を率いて行き……、そして帰って来なかった……』


 バリスさんにそんな過去があったとは知らずにこうしてリリスと会わせてしまった。

 確かに彼の言う通り知り合いを魔国との戦争で亡くした人達にとってリリスは仇……なんだよな……。


「なあ魔王リリス」

「ひぅ……。 な、何だ?」

「そんなお前達が始めた戦争で死んで行った者達や縁者に言えるか? 私は騙されて戦争を起こしました、間違いでしたすいません……と」

「言えない……と思う……。 でも私がこの都市を見て回り人類が決して悪では無いのだ、と判断する事が出来たなら、私の命を懸けてでもこの戦争を止める事を誓う……必ずだ!!」


 リリスは腰掛けていたソファーから立ち上がり、その金色の目で怖いはずのバリスさんを真っすぐ見続けた。

 するとバリスさんは一度ジュリアさんと視線を合わせた後、両手で顔を覆い大きく溜息を吐いた。


「はぁぁぁぁ~…。 リリス、お前の言い分は分かったよ……。 この悲惨な魔族との戦争がこれで終わるなら都市を案内する事も協力してやる。

 だが条件が有る、ロビーにいる冒険者達の中に魔国との戦争で被害が受けた者が何人かいるから、そいつから当時の状況を聞いてくれ、謝罪などはしなくて良い、聞くだけで良い」

「わ、分かったのだ。 ロビーにいる冒険者にだな?」

「あぁ、聞くだけで良い。 ジュリアさんも思う所があるだろうが、今は怒りを抑えて共也達にどの冒険者が戦争の被害を受けたか教えてやってくれ」

「バリスちゃん私が行って良いの? もしおかしな事をしたら撃ち殺すかもしれないわよ?」

「ジュリアさんは無抵抗な相手にそんな事しないだろう?

 その気持ちは分からなくは無いけどな…」


 ジュリアさんの淡く光っていた目が元に戻し練っていた魔力を解除してくれたが、彼女はこちらにユックリ歩いて来てリリスの前に立つと、その冷たい視線で見下ろしていた。


「魔王リリス、あなたが都市を周りどんな判断を下すか私には分からないわ……。

 だけどこれだけは覚えておいて。

 あなたが勘違いで起こした戦争で死んだ沢山の冒険者達を私は彼等がギルドの新人となった者だけじゃなく、子供の頃からずっと見続けて来た者もいたわ。

 そんな見守って来た子達が冒険者ギルドに新人として登録して、成長して大人となった子達が理不尽な戦争で惨殺されたのよ……。 私がどれだけ悲しかったか理解して頂戴」

「分かったのだ……」


 ジュリアさんのその台詞はリリスの小さな両肩に重く圧し掛かった様で、視線を下げて黙り込んでしまった。


「こうして恨み言を言ったけど、この後はあなたが都市を見て回った後に出した答えを聞いてから決めたいと思います。

 魔王リリス、あなたがこの街の人達に触れて回ってどんな答えを出すのか私には分からないけれど、どんな答えであってもあなたの出した答えを私に聞かせてくれるわよね?」

「…………必ず出した答えを伝えると約束するのだ」


 少しの沈黙の後、リリスはハッキリと首を縦に振ると、真っすぐジュリアさんの視線を受け止めていた。


「良いでしょう……。 今この時だけあなたを信じる事にします」


 ホッと胸を撫でおろす俺達だったが、ジュリアさんはやっぱり怒りが収まっていないのか、その整いすぎている顔でニッコリと微笑むとバリスさんにとって死刑宣告に近い事を告げた。


「それじゃバリスちゃん、共也ちゃん達を案内してくるから、()()()()()()()()()()?」


 バリスさんは隣の部屋に押し込んでいた書類の束を思い出した様で『あっ!』と言う顔を浮かべると、先程まで怒りの顔をしていた顔が、お年寄りの様な顔となり机に突っ伏してしまった。


「バ、バリスさん、行ってきます……」

「おう。 気を付けてな~~~」


 バリスさんは俺達に手を力無く振ると机から立ち上がった。

 俺達は執務室を出た所で、何か雪崩が起きた様な音が聞こえて来たが無視をしてロビーへと向かった。


「ジュリア殿……、で良いのだな? 私が話しを聞くべき相手は誰なのだ?」

「待ってね……。 そうねクエストボードの前に立ってる男女のペアに話し掛けて見なさい。 あの子達が住んで居た村は魔族の侵攻で滅ぼされた村の出身者だから……」

「わ、分かったのだ……」

「リリス。 俺も付いて行こうか?」

「いや。 共也、ここは私だけで行かせてくれ。 部下達が戦争でどの様な事をして来たのか、それを聞くのも魔族の王である私の役目なのだ……」

「分かった。 でも今は魔力が全く使えないんだからいざとなったら介入するからな?」

「うん。 共也ありがとう」


 そしてリリスは、ジュリアさんに教えて貰った掲示板を眺めていた2人組の男女の冒険者の元に行き声を掛けた。


「な、なあ。 お兄さん、お姉さん、ちょっと話を聞いて良いかな?」

「ん? どうした嬢ちゃん、何か俺に用か?」

「ちょっと聞きたい事があるのだ……。 答えにくいなら答えなくて良いから2人の話しを聞かせて欲しいの……」


 話し掛けられた男は最初どうしようか悩んでいるみたいだったが、ジュリアさんが見ている事を気付いた彼は彼女に一度頷き、リリスの質問に答えてくれる事を了承してくれた。


「分かった、何が聞きたいんだ?」

「……あ。 えっと……、魔国との戦争でどの様な被害を受けたのか、ジュリアさんがお兄さん達なら教えてくれるって言ったから……」

「ジュリアさんが? ふむ。

 お嬢ちゃん、俺達が戦争で体験した事を聞かせるのは構わないんだが、あまり気分の良い話しじゃないが良いのか?」

「うん。 今戦争で起きた事を聞いて回ってるの、聞かせてくれる?」

「ササナ、今日のクエストは中止にしてこの娘に話して上げようと思うが、大丈夫か?」

「今日の報酬が無くなっちゃうけど、それ以上に今回の戦争がどれだけ悲惨か知ってもらう良い機会なんだし、休みでも良いわよロベルト」


 魔族によって滅ぼされた村の生き残りの話しか……。

 一体どんな事が語られるのか、そして、リリスはその話を聞いてどう思うのだろうか。


「ルナサス。 このままリリスとあの2人を会話させて大丈夫だと思うか? 俺はリリスが罪悪感で押し潰されないか心配で見ていられないよ……」

「リリスはまだ幼いとは言っても、曲がりなりにも魔国のトップなんだから立ち直れない程のダメージを受ける事は無いと思うよ。

 むしろ、自分の軽率な号令によってどれだけの被害を出してしまったのか知る良い機会だと思うから、

このまま話させて上げて」

「分かった……」


 俺はルナサスの提案に頷き、リリスの行動を見守る事にした。


「こ、これ、話しを聞かせて貰うからお礼の飲み物……」


 リリスは冒険者ギルドの売店で買っていた2つの飲み物を、2人に手渡した。


「お、ありがとうな。 ええと君の名前は?」

「ロベルト。 まだ子供なんだから安心させる意味でもまずは私達が名乗らないと」

「ああ、そうだな。 ごめんよ、俺の名はロベルト。 隣の娘はササナって言うんだ」

「えっと……。 私の名はリリス。 只のリリスだと覚えておいて……」

「リリスだな? 了解」


 そしてロベルトとササナとリリスは近くにあったテーブルに移動すると、目を閉じて当時を思い出しているのか、腕組みをしながらポツリポツリと話し始めた。 


「俺達が戦争が始まる前まで暮らしていた場所は、ここから西側にある山側に麓にある小さな村だったよ」

「少し街道からも逸れていたから不便な事この上無かったし、1人1人がそこまで余裕がある生活を送れていた訳じゃ無かったけど、住んでいる人達が協力しあって暮らすとてものどかで平和な村だったわ。 あの日が来るまではね……」


 リリスは緊張でいつの間にか、手に汗を握っていた。


「ササナの良い方だと、そこで魔族の侵攻が始まったの?」

「そうよ。 魔族達の侵攻が始まったのよ……」

「俺とササナは村から少し離れた場所で訓練をしていたから、近くにある港町から煙が上がってるのが見えたんだ。

 ただの火事かと思ったが、港町の中で巨人が暴れているのを見た途端に悟ったんだ。

 絶対に普通じゃない事が起きたとな……。

 暫く呆けていた俺達だったけど、港町で暴れていた巨人が村がある方向に走って来る姿を見て、俺達は我に返り村に急いで戻る事にしたんだ」

「巨人と言う事は、そいつは4天王の1人ギルオクスだね……」

「お前良く知っているな。 俺も後から村を責めて来た奴の名を聞いて驚いたがな」

「ちょっ知る機会があってね……。 それでギルオクスがロベルト達の村まで攻めて来たのか?」


 私は確かに港町を占領しろと命じた覚えはあるが、ギルオクスから近くの村を攻めたと報告を受けた覚えは無いぞ……。


「攻めて来た……。 いや、ただの蹂躙だったよ……」

「え……。 それはどう言う……」

「そのままの意味よリリスちゃん。

 ギルオクスの奴は私達が村に着いたすぐ後に到着すると、木で出来た防壁を破壊し始めたわ。

 そんなの私達が敵う相手じゃないって分かり切ってるから、私とロベルトのお父さんは私達が逃げる時間を稼ぐ為に、ギルオクスの前に立ちはだかってくれたわ。

 だけどそれも長くは保たなかった様で、遠くから絶叫が聞こえて来たもの……」


 リリスはギルオクスから港町を占拠した報告は受けた当時は不思議に思わなかったが、こうしてロベルト達の村を蹂躙したと聞かされて、そのギルオクスの命令違反は明らかだった。

 しかも、リリスに取っては魔族を守る大義名分を掲げた戦争だったのに、実際はただ魔族による人族の虐殺と言う事実を知らされる事となっていた。

 そして、リリスはある事に気付く、気付いてしまった。


「な、なぁ。 お前達のお父様が逃がしてくれたと言っていたが、母親はどうしたのだ? 父親が逃げる時間を稼いでくれたのなら一緒に逃げれたんじゃないのか?」

「………俺とササナの母親は。 村の自警団の皆を全滅させた後に追って来たギルオクスから俺達を逃がすために……。 食われたよ……」

「うぅ……。 お母さん……」


 ササナと呼ばれた少女はその場面を思い出してしまい、涙で机に染みを作っていた。


「そして、何処をどう通って来たのか分からないが、何とか辿り着いたこのシンドリア王国でジュリアさんの居る冒険者ギルドに拾われて、俺とササナは冒険者をしているって訳だ」

「大変……、だったのだな……」

「まぁな……。 リリス、これで俺達の話は終わりだ……。 色々な人に今回の戦争に関する話しを聞いて回ってるって話だったが、俺達の話しは何かの参考になったのか?」

「あ、あぁ…。 大変参考になったよ。 またいつか会えた時はまた何か話を聞かせてね」

「俺達の話しで良ければ何時でも良いぜ!」

「そうね、それにリリスちゃんとはまたいつか再会出来そうな気がするわ。 その時はまたお話ししましょ?」

「う、うん……」

「ほら、お前の仲間が後ろで待ってるぞ? またなリリス」

「またねリリスちゃん」


 最後にロベルトとササナはリリスの頭を優しく撫でると、後ろで待っていてくれた共也達の元に送り出してくれた。


 そして、重い足取りでこちらに戻って来たリリスは、エリアの服に顔を押し付けて泣いているらしく小さな涙声で『ごめんなさい』と繰り返していた。


 そんなリリスの姿を見ながら、俺はジュリアさんに次の目的地を尋ねた。


「ジュリアさん、次は何処に向かう予定ですか?」

「そうね……。 何処かに行く前に、この状況を菊流ちゃん達にも知らせた方が良いんじゃないかしら?」

「確かにそうですね……。 今みんなは装備のメンテの相談でドワンゴ親方の所に行ってるはずですから、俺達も向かいましょうか」

「そうね。 さてリリスの事を知ってみんな何て思うのかしら……」

「リリス。 次の目的地に向かうが行けそうか?」

「…………うん。 行く……」


 リリスは自分は嘘の情報を信じ込まされて戦争を仕掛けたが、騙されてましたから許して下さいとは言えない位沢山の不幸な者を出してしまったんだ、そりゃへこみもするか……。


「リリスちゃん。 大丈夫?」

「リリス姉、平気?」


 ジェーンやマリも、エリアに抱き付いて鳴き続けるくリリスを慰めていたが、幼馴染達には今回の事を何て言って穏便に済ませようと考える俺がいたが、菊流達に黙っている訳にもいかないので一抹の不安を抱きながらも、俺達はドワンゴ親方の武具屋に向かう為に冒険者ギルドを後にした。



リリスの考え無しの行動が引き起こした結果を聞かされた話になりました。

次回は皆と合流する話を書けたらいいですね。


次回も“リリスの都市観光③”で書いて行こうと思います。

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