裏路地での攻防。
カーラ婆さんのいる路地裏に来た所で、俺達は突如背後から攻撃を受けた。
だが、その魔法攻撃に気付いたカーラ婆さんが俺達の背後に回り咄嗟にピンク色の魔法陣で防いでくれたが、打ち込んで来た相手は2人組で片方は金髪のツインテールと金目を持った幼女。 もう片方が痩せすぎた男の2人組だった。
「はっ! 私の魔法を防ぐとはやるじゃないかババア、だがこれならどうだ!?」
赤、青、黄、黒など様々な色の魔法陣を幼女が自身の周辺に展開すると、躊躇い無く打ち込んで来た。
「路地裏でこんな強力な魔法を放つとか正気か魔王リリス!!」
「魔王……リリス!?」
カーラ婆さんが何故相手の事を知っているのかは今は置いておいて。
その魔王リリスに様々な色の属性攻撃を次々と打ち込まれるが、何とか防いでいたカーラさんだったが、あまりの属性攻撃の量に徐々にピンク色の魔法陣にヒビが入り始めていた。
〖ピキ! パキキ!〗
「この、このままじゃ押し切られる!! 共也一旦ここから逃げるんだよ!」
「魔王リリスの言う事が確かなら、俺を狙ってここで襲撃して来たのに巻き込まれただけのあんたを置いて逃げれるかよ!!」
「相変わらずお人好しだね。 私なんぞ置いて逃げれば良い物を……」
「お話しは終わったか? ならそろそろお前等の命を貰おうか!!」
「ぐぅ! ここに来て出力を上げただと!」
「アッハッハ! さらばだババア!」
もう駄目だと思った所で、カーラ婆さんが張っていた魔法陣のヒビが修復されて行き、リリスの魔法攻撃に合わせるかのように魔法陣が大きく拡大され完全に防ぎ始めた事に、カーラ婆さん自身が驚いていた。
「これはいったい……」
「おばあちゃん、頑張って!!」
「君は共也と一緒に居た」
「マリだよ! おばあちゃん!」
「そうかいお前さんのユニーク魔法か、助かるよ!」
マリはカーラ婆さんの後ろに立つと1度ニッコリと微笑み、ピンクの魔法陣に海流魔法を掛け続けた事でリリスの攻撃をしばらく防いたのだが、カーラ婆さんの魔法陣を砕けない事にリリスがイライラし始めたのか、痩せすぎた男に怒声で指示をだすのだった。
「トーラス! お前も魔法を打ち込んでダメージを与えるんだ!!」
「了解ですリリス様!!」
トーラスと呼ばれた痩せすぎた男がリリスの指示を聞いて攻撃してくると、リリスは魔法での攻撃を止め、全身に黒い魔力を纏い物凄い速度で突っ込んで来た。
「カーラさん、逃げろ!」
「無理だ! 今魔法陣を解除したら消し炭になる! 全員衝撃に備えな!!」
カーラ婆さんの強化された魔法陣をリリスが黒魔力を纏った拳で殴ると、路地裏に衝撃と轟音が響き渡った。
すると、カーラ婆さんが展開していた魔法陣に徐々にヒビが入り砕け散った。
〖ビキ! ピキキキキキ! バリン!!〗
「きゃあ!!」
「マリちゃん!!」
「他人の心配とは余裕だなぁ、ババア!」
魔法陣が砕かれた衝撃によって吹き飛ばされたマリに一瞬気を取られたカーラ婆さんに接近したリリスは、凶悪な笑みを浮かべると先程魔法陣を砕いた攻撃をカーラ婆さんに繰り出した。
「カーラ婆さん!!」
「ぐっ!」
カーラ婆さんは殴られる瞬間に小さな魔法陣を多数展開すると砕かれはしたが何とか威力を弱める事には成功したが、それではリリスの攻撃を防ぐ事は出来ずにカーラ婆さんは壁に叩きつけられてしまった。
その衝撃でカーラ婆さんは気を失ってしまったのか、うつ伏せに倒れるとそのまま起きあがらなかった。
「ちっ! 小さな魔法陣をワザと砕かせる事で私の攻撃の威力を弱めたか。 ババアが器用な事をしてくれたな。
だがこれで貴様を抹殺するのを邪魔する者は居なくなった! 悪人め我々魔族の平和のために……死ね!!」
「魔族の平和の為だと!?」
そんな言葉が俺の口が出て来たが、一瞬で懐に入り込んだリリスはすでに拳を振り抜く体勢に入っており、魔法陣を砕いた攻撃が来ると思い俺は死を覚悟した。
「共也さん!!」
エリアの声が聞こえたと同時に上空で光が瞬いたが、リリスの拳は止まらず俺の腹に突き刺さった。
「死ね!!」
〖ポスン……〗
ん? ポスン?
「共也とやら、私の攻撃に耐えるとはやるな!! だがこの連撃で貴様の命は終わりだ!!」
〖ポスン、ポスン、ポスン……〗
「き、貴様、何故無防備で我が攻撃を受けているのに平然としているのだ!」
(何これ……。 全く痛く無いんだけどこれってさっきマリの海流魔法で強化したマーサ婆さんの防御魔法を砕いた攻撃だよな?)
しばらくリリスから続けられた駄々っ子攻撃も終わり、彼女は肩で荒い息を吐き続けて攻撃し続けていたが暫くすると、両膝に手を付いて動けなくなってしまっていた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……。 な、何でお前は倒れないんのだ……。 クソ! トーラス! お前の魔法で此奴らを~…ってトーラス?」
魔王リリスにトーラスと呼ばれた痩せすぎた男が居た場所を見ると、そこには何故か頭蓋骨らしき物が1つ転がっているだけで、そこには誰も居なかった。
「トーラス! トーラスーーー! 何処に行った!!」
暫く路地裏にリリスの声が響いていたが、耳を澄ますとどこからか小さく返事をする声が聞こえて来た。
「はい~・・。 リリス様あなたの部下であるトーラスはここにいます~~」
「だから何処にいるんだよ!!」
「こ、ここです!! 地面に落ちている頭蓋骨が私ですよ、リリス様!!」
「はっ?」
リリスが落ちている頭蓋骨を拾い上げると、眼孔に青い炎を宿して必死に自身の存在を訴えかけるリッチのトーラスの姿があった。
「お前……。 この有様はいったい……」
「それが……。 先程上空で何かの光が瞬いたと同時に魔力が全く使えなくなってしまい、このような姿に……」
「魔力が? ……あ、まさか私もなのか!?」
リリスは精神を集中して必死に魔力を練ろうとするが、俺達が先程まで感じていた圧倒的な魔力を一切感じない。
それどころかむしろ只の子供の様に俺達は感じていた。
「あ、アハハハハハ……」
その状況を理解したリリスは乾いた笑いをしながら恐る恐るこちらに振り返ると、大量に脂汗をかき始めていた。
「え~~…っと……。 その~~~。 きょ、今日の所はここまでにしておいてやる!! さいなら!!」
「逃がさないですよ! 魔王リリス!」
短刀を構えて路地裏の出口を封鎖していたジェーンによって逃げ道を失ったリリスは、キョロキョロと辺りを見渡して狼狽している中、カーラ婆さんが意識を取り戻した様で体をユックリと起こし始めた。
〖ジ……、ジジジ……、ジジジッ…ジ…パシュン……〗
体を起こし始めたカーラ婆さんの全体にノイズが走り、そのノイズが消えるとそこには羊角を頭に持ちピンクの髪をロングヘアにしているスタイル抜群の絶世の美女が頭を振りながら立ち上がった。
その姿を見てここにいる全員が頭の中に大量の疑問符が出て来ていた。
誰???
「い、痛つつつつつ……、この脳筋リリスがって、皆して私を見ているけどうしたのよ?」
羊角を持つ女性の姿を見たリリスは持っていたトーラスを地面に落とし『痛い!』、ピンクの髪を持つ女性を指差して叫んだ。
「あ、あんたは【魔王ルナサス=サラ=クロノス】じゃないの!! 何であんたがここに居んのよ!!」
「はっ? リリス……。 あんた何を言って……」
そこでようやく自身の変装魔法が解除されている事に気付いたカーラ婆さん改め、魔王ルナサスは自身の姿を一度見渡した後に手鏡を取り出して顔を確認した所で諦めたのか、誤魔化すように乾いた笑いを俺達に向けた。
「あ、あはははは~。 バレちゃったか~…、共也、ジェーンちゃん一応この姿では初めましてだね。 先程アホリリスがばらしちゃったから正直に名乗るけど、私の名はルナサス=サラ=クロノスです。
このアホリリスとは別の魔国を束ねている魔王の1人だよ」
「アホ、アホ言うなルナサス!!」
〖ポス、ポスン……〗
リリスは両手を振り回してルナサスを攻撃するが、とても軽い音が響くだけで全くダメージが入って無い。
そのあまりに軽い攻撃をされている本人は、リリスに怪訝な顔を向けていた。
「リリス何ふざけてるの? 全く痛く無いんだけど?」
「ぜぇ、はぁ、う、五月蠅い! さっきから私とトーラスの魔力が一切使えないんだよ!」
「使えないって何で?」
「知るか! 私の方が知りたいくらいだ!」
そこでエリアが会話に割り込んで、何故リリスとトーラスの魔力が一切使えなくなっているのか種明かしを始めた。
「共也さんには悪いと思いましたけど危険な状況だと判断しましたので、ハーディ皇帝に頂いた魔力封じの宝玉を使わせていただきました」
確かに路地には小さなガラス片が至る所に転がっているからエリアの言っている事は本当なのだろう。
そして、この宝玉は1度しか使えないと言うハーディ皇帝の言葉は本当のようだ。
「魔力封じの宝玉! そんなの卑怯だ……ぞ」
魔力を封じる事は卑怯だと言いかけたリリスだったが、エリアの冷たい視線を浴びて徐々にその言葉は尻すぼみとなっていった。
そんなリリスを前にして、エリアが底冷えのする声で呟いた。
「へぇ~~? 魔力を封じるのは卑怯? では背後からいきなり魔法で不意打ちするのは卑怯では無いのですか?」
「うぐ……。 あ~~~~も~~~~!!! 私の負けだ負け!! 煮るなり焼くなり好きにしろよ!!」
地面に仰向けになったリリスはバタバタと両手両足を振り回して、まさに子供の癇癪と言う言葉がピッタリな暴れ方をしばらく続けていたが、俺はリリスのある一言が気になり尋ねてみる事にしてみた。
「なあ、魔王リリス」
「何だよ!! 殺すならさっさと殺せ!! 悪人に屈するくらいならさっさと死を選ぶ!!」
「リ、リリス様!!」
「そう、まさに俺が聞きたいのはその俺達が悪人と言う言葉だ」
「あっ?」
「リリスは何で俺達人類が悪人だと思っているんだ?」
「何でか? だと?」
「ああ、俺達が聞いたのはお前達がいきなり攻めて来たから、人類側が一致団結して防衛しているのにどうしてなんだ?」
「どうしてって………。 ある人物から聞いたからだよ。
お前達が魔族を全滅させる計画を練っていて、間もなく全人類が総力を結集して私達を殺す為に攻めて来るって……」
「はぁ? リリス、あなたそんな出鱈目な情報をどこから……って待って。 あんたまさかグロウの話を間に受けてこの戦争を始めたんじゃないでしょうね?」
「うぐ……」
ルナサスの言葉は図星だったのか、リリスは一度肩を跳ね上げると顔を下に向けたまま黙り込んでしまった。
「ルナサス……さん? グロウって?」
「共也、あなたに改まって言われると気持ち悪いからルナサスで良いわ、グロウって名の魔族は別の魔国を纏めている魔王の1人よ。
彼奴は口が達者で息を吐くように嘘を付く小さい男よ……。
リリス、グロウの特徴はあんたも分かっていたはずでしょう? まさか今回の戦争を始めた理由がグロウの言葉を信じて起こした事だったなんて……。
あまりにも予想外過ぎて思いつきもしなかったわ……」
「うぅ……」
心底呆れたと言ったルナサスの言葉を聞いたリリスは顔を真っ青にしていたが、意地で反論して来た。
「何でルナサスはこいつらが悪者じゃないって言い切れるんだよ!! もしかしたら数%の確率でグロウの言い分が正しいかもしれないじゃないか!!」
「……はぁ。 リリス、今ここで断言して上げる。
あいつが本当の事を言う事は絶対に無いわ。
結論。 あなたはただ騙されただけ!」
「…………………」
「このアホリリスの魔力が封じられた事はむしろ好都合だったかもしれないわね。
エリア王女、魔封じの宝玉の効果時間は1日で良いのかしら?」
「ハーディ皇帝の言葉通りならそうです」
「そう……。 リリス」
「何だ? 私を殺すのか?」
「しないわよ面倒臭い。 1日で良いわ、私達と一緒にこの都市を回って見て人類が本当に悪かそうでないか、あなた自身の目で見て聞いて、それから判断なさい。 戦い続けるのか。 それとも誤解を解いて和解するのかを」
「何で私がそんな面倒な事をしないといけないのだ!! もう私を殺して人類の勝利で終わりにすれば良いではないか!!」
その言葉を聞いたルナサスは呆れながらも真面目な顔でリリスに告げる。
「リリス。 あなたの『死』それで戦争を終わりにしたら駄目なのよ」
「何故だ! 魔力封じの宝玉を用意しているくらいだ。 私を殺す気満々だったのではないか?」
「魔力封じの宝玉が手に入ったのは偶々だよ」
俺が堪らず2人の会話に口を挟んでしまったが、誤解は先に解いておかないと話がややこしくなってしまいそうだった。
「そう、なのか?」
「あぁ、旅の途中である事件を解決した報酬でもらった物だから、狙って手に入れた物じゃないと言うのは理解してくれ」
「む、むう……」
「それに、君がこんなに幼い子供だと分かった以上、俺は君と分かり合った上で和解したいと今は思っているが、リリスはどう思ってる?」
「私だってグロウの言ってた事が嘘で、お前達が良い人達だと分かったなら戦争を止めて和解したいと思っているさ!」
「なら良い機会じゃない。 一緒にこの都市を回って悪かどうか判断しなさいよ。
それともさっき私にしたみたいにあなたも壁に体をぶつけて見る? 痛かったわよ?」
笑顔で額に青筋を作りながら握り拳に魔力を籠めるルナサスの姿に、リリスと未だに地面に転がるトーラスはカタカタと震えながら首を縦に高速で動かしていた。
「一緒に都市を回る! 回るからその拳を収めてくれ、ルナサス!!」
「よろしい、共也、私も角だけ見えなくするから一緒に都市を回りましょう。 良いわねリリス?」
「ぐぬぬぬ……。 敗者は大人しく勝者の言う事を聞くのだ……。
だがこいつらが悪だと判断出来る材料が見つかった場合は、宝玉の効果が切れた直後にこの都市を地図から消してやるからそれだけは覚えておけ!!」
「私も手伝いますよリリス様!!」
頭蓋骨だけになったトーラスもリリスと一緒にこの都市を回る事になり、偶々カーラさんの占い屋に寄っただけなのに、いきなり大人数で行動する事になってしまった。
「まあ、そうなったらそうなったで私がそんな事させないけどね。 じゃあ共也、私達のエスコートよろしくね?」
「えっ!? ルナサスがリリスを案内するんじゃないのか!?」
「魔王の私から見た風景を見せた所でリリスは納得する訳無いじゃない。
人類側であるあなた達が見せる光景だから、リリスも素直に受け止める事が出来るはずよ。
だから色々な場所、人達に合わせてリリスの凝り固まった『人類は悪』と言う考えを解かして上げて」
もっともらしい事を言って笑顔を作っているが、この表情を作る女性には要注意だ。
「ルナサス……。 それは都市を案内する役を自分がやるのが面倒臭いからって言うのは無いよな?」
「そ、そんな事は無いわよ? 私にも気に入っている場所くらいあるんだから……」
俺達全員が疑いの眼差しでルナサスを見ているとバツが悪くなったのか、両頬を膨らませて妥協案を提示して来た。
「むう……。 分かったわよ、最後に私が気に入っている秘密の場所に案内するから、それまではこの都市を案内して頂戴。 それで良い?」
「まぁ、それなら……」
「じゃあ、今日1日エスコートをお願いね共也♪」
こうして俺達はいきなり魔王2人と頭蓋骨1個を加えて都市観光の案内を急遽する事になるのだった。
「頭蓋骨って言うな! トーラスと言え!!」
最後までお読みいただきありがとうございます。
重要アイテムの一つだった“魔力封じの宝玉”が砕け散ってしまいましたね、これでリリスは無力化された事でただの少女として都市を見て回る事となりました。
次回は“都市観光”で書いて行こうと思っています。




