謁見の間にようこそ(怒)②。
シルさんが過去に暗黒神の憑依体との闘いで起きた事を、謁見の間にいる全ての人達に聞かせていた。
そしてシルさん、ケイレス、マーサ、そして自身を犠牲にして憑依体の動きを封じたギルバードの活躍によって何とか致命傷を与える事に成功したが、自身や召喚した魔物を魔力に変換して【暗黒魔法アポカリプス】を発動された事などを語った。
そして、ギルバートの命を懸けた1撃で漆黒の玉を切断した事や、残った半球を防ぐ為に自身の存在力を魔力へと変換して都市全土を覆う魔力障壁を展開したが完全には防ぎ切れなかった事を話し終えると、皆シルさんの話しに聞き入っていたのか、手を固く握っている様だった。
「ふぅ。 シル殿の話しが一区切り付いた事だし、休憩を取る事にしよう。 この後も話がまだ続くのであろう?」
「私からの話しは終わりです。 この後はディーネがその後の事をを語ってくれます」
「そうか、ディーネ殿はシル殿と同じ時代を生きていたのだったな。 だが、いくら魔物とは言え何千年も生きてこられたのは何故だ?」
「その疑問はディーネの話しの中で語られます。
ディーネちゃんが語ってくれる内容は、私達も無関係じゃない内容なのでお父様、お母様、そして貴族の方々も覚悟して聞いて下さい」
「それ程の内容なのだな……?」
「はい、正直私達が初めて聞いた時はあまりの内容の為、しばらく喋る事が出来ませんでしたから……」
「分かった……。 ディーネ殿この休憩が終わった後にシル殿が消滅してしまった辺りから語ってもらう事になるが良いかな?
シル殿が消滅した時点ですでに悲惨な話しだったが……」
(うん、平気。 今は共也達が居るから……。 それにケイレスの面影を持つあなたには特に聞いて欲しい……)
「そうか。 では休憩が終わった後は頼む」
(うん……。 任せて)
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休憩も終わり、使用人たちが貴族達に配っていたティーカップなどを回収した後、グランク王はディーネに話を聞くために玉座に座り直した。
「ディーネ殿待たせて悪かった、シル殿が消滅してしまった辺りから話しの続きをお願い出来るかな?」
(うん……。 シルが消滅してしまった後に起こった事を話していくね?)
その後、ディーネの話しを聞いた謁見の間に居る全ての人達は、暗黒魔法アポカリプスの呪いによる悲惨な結末を知る事となった。
ディーネの話しが終わると、強面の貴族達も涙を流さずには居られなかった。
「そうか……。 ディーネ殿、其方は元……人間だったのだな」
(うん……。 雪豹のスノウの母親フェリスも元は人間だよ。
あの最悪な状況で生き残れたのはほんの一握りだったけど全滅では無かった……。
ケイレス、シルビア、フェリスが小さな希望となって今に繋がってる事に私は大いに満足しているよ?
5人を強引にでも旅立たせて良かったって今は思ってる……)
『「「「くぅぅぅぅ! ディーネ殿、そなたは何と美しい心を持っているのか!!」」」』
ディーネの健気な言葉を聞いてさらに号泣する貴族の面々……。
「確かに我が国には昔から魔剣バルムンクが存在して歴代の近衛騎士団長に貸与する風習が有る……。
そうか元の持ち主はウルザ。 いや…ディーネ殿の母君だったのだな……」
(うん……。 私が未来に向けて託した魔剣バルムンクがここにある事が、あなたがケイレスとシルビアの子孫である事の証……。
でもどうした魔剣カリバーンの方がドワンゴ親方の所にあったのかは謎だけどね……)
「うむ。 流石にその話しは王家に伝わっておらんな……。 何代か前の王が戦で紛失したのを黙っていたのかもしれんな」
そして、ディーネの話を聞き終わったグランク様は深く玉座に座り、優しい光が差し込んで来る天井を見上げていた。
「暗黒神……か。 憑依体でさえそこまでの強さなのだ。
もし力を取り戻して完全な形で復活した場合は、どれ程の被害が出るのか……。
我々はただでさえ魔王の1人が率いている魔国と戦争しているというのにな……」
「あなた、アポカリプス教団の人間はこの事を知っているのでしょうか?」
「知らぬだろうな……。 知っていてあれ程の盲目的な信仰が出来るのなら、私達があ奴らを理解する事は永久に来ないであろうよ。
もし暗黒神の本質を間違って介錯しているのなら、まだ説得出来る可能背があるだろうが。
まずこちらの言う事を聞く事は無いであろうからな」
「そうですね。 信者達に暗黒神の本当の目的を知らせる事が出来たとしても、私達の言葉を信じるとは思えないですよね」
「儂もそう思う。 信者達にしてみたら私達は暗黒神の復活を邪魔する敵だからな、敵の言う事など信じまいよ」
グランク様とミリア様の2人が話している所を、エリアが間に入り忠告する。
「お父様、お母様、あの教団の信者達を救おうとすると、必ず足元を掬われる事になりますよ?」
「エリアの言う通りだな……。 破滅思想を持つ信者とは言え、出来る事なら救いたかったが相手がそれを望まない以上余計な事か……。
シル殿、ディーネ殿、其方たちの語ってくれた話を本に纏め、各都市へと配布して誰にでも読める様に公開しようと思うが構わないか?。
もしかしたらアポカリプス教団の誰かが読んで目を覚ますかもしれないからな」
(うん……。 私は大丈夫。 むしろお願いしたいくらいですグランク様)
「私もディーネと同じく大丈夫だよ」
「では本の作成に取り掛かるとしよう。 文官、先程の2人の話しは覚えているな?」
「勿論です!」
「では大至急本の制作に取り掛かってくれ、頼んだぞ」
「はっ!」
こうして暗黒神の情報を得た事で、俺達の旅が無駄で無かった事を証明すると、エリアが無断で旅に出た事も特別に許して貰う事が出来たのだった。
「エリア……。 今回の情報は確かに今後の世界を救う一助となるだろう。 その功績で無断で旅に出た事非常に腹立たしいが一応許そうと思う」
その言葉を聞いたエリアは俺の両手を握り笑顔を作っていたが、グランク様の話しは終わっていなかった。
『だが!』
再びグランク様の大声が謁見の間に響き渡った為、すでに気を抜いていたエリアはその声に驚き肩を跳ね上げると、恐る恐る玉座の方に振り返った。
そこにいるグランク様は、エリアを睨みつけながら口の端を痙攣させていた。
「お前が王女の責務を放棄して旅に出た事実を取り消す事は出来んのだ! エリア、王女としての罰を言い渡す事はしないが、家族として心配させた罪は償ってもらうぞ!
この後私達の部屋に必ず来るように」
「はい……(共也さん、このままダグラスさん達と合流してほとぼりが冷めるまで何処かに潜伏しましょうか!)」
小声で俺に相談してくるエリアだったが、グランク様はお見通しだったらしく逃げない様に釘を刺して来た。
「因みに私達から逃げた場合、そこに居る共也殿との婚約は白紙にするつもりなので、逃げたければ逃げて良いぞ?」
「んな!? お父様、それを盾に脅すのは少々卑怯じゃないですか!?」
「やはり逃げるつもりだったと?」
「あ……」
「はぁ……。 ミリア、頼む……」
「はい、はい。 じゃあエリアちゃん。 私達とこのまま一緒に部屋に行きましょうね~?」
「お、お母様、腕を離しって力つよ! あぁ、共也さん!!」
ミリア王妃に引きずられて行くエリアを見て、あっ……。 これは拳骨が落とされるな……と予想出来た俺は心の中で手を合わせて無事を祈った。
エリア、無事に帰って来いよ……。
グランク様達にエリアがドナドナされて行ってしまったので、そのまま自然な流れで謁見も終了となったが、俺はの周りには貴族達が集まり先程の話しの真実を確認されていた。
その中にはレイルさんも居て、俺達の話の真偽を確かめようとしているのかと思って身構えたのだが俺の考え過ぎだった様だ……。
「ディーネ殿……。 苦労されたのだな……丁度飴を持ってるのだが食べるかね?」
(うん……、食べる♡ うわぁ、甘くて美味しい…ありがとうおじ様)
「お、おじ様……。 何と甘美な響き……。 ディーネ殿、遠慮せずにこれも食べなさい」
(ありがとう。 そう言えば甘い物なんて何時ぶりだろう?)
何時ぶり。
先程何千年と1人でクラニス砂漠を旅していた事を知らされた初老の貴族は、その言葉の重みを思い知ると目頭が熱くなった。
「くっ! ディーネ殿……。 メイドよ、私の馬車に積んである飴を全て持ってこい!!」
「す、全てですか!?」
「そうだ! ディーネ殿に渡すのだ!!」
「わ、分かりました。 少々お待ちを!」
「私の焼き菓子も持って来るのだ! 急げ、他の者に遅れるなよ!!」
他の貴族達もディーネを孫の様に扱い、喜んで貰おうと必死の様子だった。
ディーネが甘い物を食べて喜ぶ姿を目尻を下げて見ている貴族達を見て、この国に召喚されて良かったと思えた。
ラノベでは召喚されて悲惨な目に合うストーリーも沢山あるからな。
俺がレイルさんと少し話していると、謁見の間の扉が開き小姫ちゃんが入って来た。
「ジェーンちゃん! おかえり!」
「小姫ちゃん! ただいまです」
小姫ちゃんとジェーンは手を取り合い再会を喜んでいると、ヒノメが俺の肩に乗り謁見の間で楽しそうにしている人達を見渡すと念話で話しかけて来た。
(お父さん、私はずっと卵の中で過ごして来て人との関りが全くありませんでしたから、この感情をどう言葉にしたらいいか良く分からないのですが……。
この様にお互いを心から心配し合う光景を見るのはとても良いものですね……。 私がこの時代に孵化したのも、きっと何か理由があると思いたい……。 お父さん、必ず世界を守りましょうね)
俺は肩に乗るヒノメの頭を優しく撫でながら謁見の間にいる人達を眺めると、暗黒神の好きな様にさせない為にさらに強くなろうと心の中で決意するのだった。
◇▼◇▼◇
【場所は変わり魔国アーサリス】
「リリス様! リリス様! どこにいらっしゃるのですか!?」
一人の秘書風の衣装を纏い黄土色の髪をショートカットにして眼鏡を掛けた女性が、自身の主である魔王リリスの名を叫びながら魔王城の中を歩き回っていた。
「さっさと出て来ないか脳筋魔王!!!」
少々言葉は汚いが…。
すると近くの扉が開き、中からオーガの男が出て来ると秘書風の女性を窘める。
「クダラ五月蠅いぞ、昼寝が出来ねえじゃねえか……。 ふあぁ……」
「こ、これはシュドルム様申しわけありません……。 リリスのアホ……様に用事が有って探していたのですが見当たら無かったので、つい声を荒げてしまいました……」
「……言い直してもすでに口に出してしまってるから隠しようが無いぞ……。 まぁ、俺もそう思ってるから咎めはしないが本人の前では言うなよ?」
「はい……。 ちなみにシュドルム様はリリスの居場所をご存じでしょうか?」
「今度は呼び捨てかよ!! お前……様くらい付けてやれよ、仮にも主君だぞ!
はぁ……。 まあ良い、因みにクダラ、お前がリリスを探そうとしても無駄だぞ。
彼奴はトーラスと一緒にシンドリア王国に2人で攻めに行ったみたいだぞ?」
「は? 今何と???」
「2人でシンドリア王国に攻めに行った。 と言ったんだが……」
クダラと呼ばれた女性は持っていたペンを廊下に落とした事で乾いた音が響き渡る。
そして少しして再起動したクダラはわなわな震え始めると、右足で廊下を思い切り踏みつけ敷き詰められていた床石が砕け散った。
〖バガーーーーーーン!!〗
「あんのアホリリスが~~~~~!!!!」
「あ~、五月蠅い五月蠅い! あいつらも飽きたら帰って来るだろうから、それまでお茶でもして待ってろ」
「ぐぬぬぬぬぬ……。 帰ってきたら覚えておけよアホリリスめ!!」
「ふあぁ、お前は俺の副官なんだから、さっきみたいな大声を出したりして安眠を妨害するような真似はするなよ~?」
昼寝をするために部屋の扉を閉めようとしたシュドルムだったが、閉まる寸前で扉の隙間から指が生えて来ると、その指の主が扉を強引に開け放った。
そして扉を開け放った人物クダラが血走った目でそこに立っていた。
「うぉぉぉ! 急にどうしたクダラ!!」
「アホリリスの用事はもうどうする事も出来ないので帰って来るのを待つ事にします……。 が、その間にシュドルム様、あなたの花押が必要な書類も沢山持っていますので、そちらを先に済ませてしまいましょう」
眼鏡の先をキラリと光らせたクダラは部屋に入るとどこからか取り出した大量の書類をシュドルムの机に積み上げて行く。
〖ドサ、ドサドサ、ドサササササ〗
「ちょ、ちょっちょ!! クダラ止め止め止め~~い!! 俺これから昼寝したいって伝えたよね? 俺の言葉通じてる???」
「ええ、通じていますよ? この書類を全て片付ける事が出来たのなら、どうぞ存分にお昼寝してください」
「その量の書類を処理したら夜になるだろうが~~~~!!! クソクダラめ……」
「はっ? これでもまだ控えめの量だったのですが。 そうですか、これより多くの書類を積み重ねて欲しいと、そうおっしゃるのですね?」
「ちょっ! それで良いです……仕事をさせていただきます!!」
シュドルムは自分の副官クダラが昼寝をさせる気が無いのを悟り、渋々机に着くとクダラ監視の元、夜までカリカリとペンを動かすのだった。
◇▼◇▼◇
【再びシンドリア王国】
頭に大きなたん瘤を3つも作ったエリアを連れて、ジェーンやマリ達と一緒に俺達はジュリアさんに会いに冒険者ギルドに向かっていた。
「エグッ……、エグッ……。 お父様の馬鹿! 全力で拳骨を落とす事無いじゃない、少しは加減してよ!!」
「まあ、今回はグランク様の怒りも相当な物だった訳だし、甘んじて受け入れた方が後々の事を考えると良かったんじゃないか?」
「それはそうかもしれませんけどぉ……」
そんな涙目で居たがるエリアを見て、俺に抱き抱えられているマリが彼女の頭に出来たタンコブを撫でて慰めていた。
「エリアママの、痛いの痛いの飛んでけ~!」
「マリちゃん、ありがとう!」
そんな俺達は帰って来た街中を散歩していたのだが、いつの間にか占い師のお婆さんが店を開いている露店が立ち並ぶ路地の近くまで来ている事に気付いた。
「ジェーン、ここってカーラお婆さんが店を構えている近くだったよな?」
「そう言えばこの先でしたね。 久しぶりに会いに行ってみます?」
「そうだな、行ってみるか。
エリア、ちょっと知り合いに会いに行きたいんだが、寄り道しても良いか?」
「はい、大丈夫ですよ行きましょう」
俺からマリを奪いとって抱きしめていたエリアが了承してくれたので、路地裏に入りカーラ婆さんが占い屋を開いている場所に行くと、小さな机に水晶玉を置いて怪しい笑顔を浮かべるカーラお婆さんがそこに居た。
「カーラさん、お久しぶりです」
「ふぇっふぇっふぇ、共也とジェーンちゃんか久しぶりじゃないかい。
しかもお姫様であるエリア王女とも一緒とは上客を連れて来てくれたじゃない…………。
危ない共也! ジェーン! エリア王女!」
「え?」
その声と同時にカーラ婆さんは目にも止まらない速度で俺達の背後に移動すると、ピンク色の魔法陣を生成すると、大きな音を響かせて何かの攻撃から守ってくれた。
〖バキン! バキン! バン!!〗
「ちっ! あと少しでゲームの邪魔をしたこいつらをあの世に送る事が出来たのに、このババアめ余計な事をしやがって!」
俺達が振り向くとそこには金色の髪をツインテールにした将来成長すれば美女になりそうな幼女と、痩せすぎな男が両手から魔法陣を出して、俺達に向かって追撃しようと構えている所だった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
謁見の間での会話は終わり、魔王リリスとの邂逅となりました。
次回は“魔王リリスとの邂逅”で書いて行こうかと思います。




