謁見の間にようこそ(怒)①。
私エリアはシンドリア王国の王であり、父でもあるグランク王の前に立ち、今回の旅で起きた事や見た事を姿勢を正して話し始めた。
「お父様、まず私が密航して共也さんの部屋に忍び込んだ所から始まります。 少々長くなりますがよろしいですか?」
「あぁ…。 ん? ちょっと待て! エリア、お前今共也殿の部屋に忍び込んだと聞こえたが!?」
「え、えぇ。 樽の中に入って密航したのですが、それがどうされました?」
「どうしたのかだと!? 大ありじゃないか! ま、まさか、先程から気になっていたが共也殿の横にいる紫の髪を持つ子は…………儂の……孫?」
「何でそうなるんですか!!」
唐突にぶっ飛んだ事を言い出したグランク様に周に立って話を聞いていた貴族達も呆れてしまい、声に出す事が出来なかった。
〖スパ~~~~~~~~~ン!!!〗
「痛いじゃないかミリア!」
「ふん。 あなたが頭のおかしな事を言い始めるからです!!」
渇いた良い音が響き渡った原因は、玉座の横に立っていたミリア王妃に頭をはたかれたからだった。
「痛いじゃないかミリア! あの紫髪の娘は私達の孫かもしれんのだぞ!!」
「はぁ……。 あのねあなた、あの大きさの娘がエリアの子な訳無いでしょう……? 年月が足りませんよ」
「では、あの娘は何故この場にいるのだ! 共也殿が出発する時には居なかったぞ!?」
グランク様とミリア王妃がマリの事で言い合いを始めてしまった。
あまりにも話が進まないので、エリアもイライラし始めたのかキツイ言い方で2人を諫めるのだった。
「お父様、お母様、マリちゃんの事も含めて今から話そうとしているのですから、少々黙って私の話を聞いてもらっても良いですか?」
「エ、エリア? 私とミリアのちょっとしたスキンシップじゃなか。 落ち着け……。 な?」
「そうよエリアちゃん……。 ちゃんとあなたの話を聞きますから、そんなに睨まないで……ね?」
1度大きく溜息を吐いたエリアは、マリの頭に手を置くと彼女の紹介を始めた。
「この娘はマリちゃん、共也さんをパパと慕っている海龍の娘です」
エリアがマリの事を『海龍の子』と紹介した瞬間、謁見の間が水を打ったように静かになってしまった。
「か、海龍の娘だと! 共也殿、エリアと婚約しているのに先に海龍と子供を作るなど見損なったぞ!?」
「お父様?」
「はい!」
「話が進まないのでいちいち話に割り込まないでくれますか? あなた達が疑問に思った事は後で答えますので」
「だが!『だが?』分かった……。 暫く……黙ってエリアの話しを聞いておく……」
「そうしてください」
グランク様の他者を圧倒する威厳は何処に行ったのか、玉座に座りながら小さくなっているグランク様を見て、隣に立つミリア王妃も額に手を当て上を見上げていた。
「……私達が出航した後はしばらく順調な航海だったのですが、3匹の海龍が現れ船を襲って来た所から話が始まります」
「そこで海龍が出て来るのか。 それで?」
エリアは3匹の海龍に夜襲を受けた事や、逃げ続けた結果あと少しでケントニス港と言う所で凪に遭遇してしまい絶体絶命と言う場面で、竜騎士隊のシグルド隊長に助けられた事などを説明すると、撃退に成功して港に入港した事を説明し終わると、今まで静かに話を聞いていたギード宰相がエリアに疑問をぶつけて来た。
「エリア様、少々疑問に思う事があるのですがよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「海龍と言えば無暗やたらと船を襲うような気性の荒い種族では無かった気がするのですが、何故襲われたのでしょう?」
「その答えは、この娘マリちゃんに繋がります」
「ほほう、先程確かに海龍の娘だとはおっしゃられてましたがどのような関係が?」
「それは……」
海龍は家族をとても大切にする種族である事、そして海龍の卵をケントニス帝国の貴族が私達の乗っていた船の新人船員に金を握らせて密輸の手伝いをさせた事。
その為、海龍の怒りを買い襲われたと答えると、ギード宰相も納得したように頷いた。
「なるほど……。 海龍達は子供の気配を辿り船を強襲したという事ですな。
それでエリア様、ケントニス帝国に着いた。 それは分かりましたが、それで終わりではありませんよね? 港に着いてからどうなったのです?」
そこから俺達がシグルド隊長の指示で、船の積み荷を調べたりしていると海龍の卵が入った小箱を発見、そして船員を脅し密輸を依頼した貴族が現れて捕縛した事などを伝えると、グランク様は少し憤慨している様子だった。
「ハーディめ、自国の貴族くらいちゃんと監視せんか。 今はただでさえ魔族達との戦いの最中だと言うのに……」
「エリア様、その後ハーディ様とお会いになられたのですよね?」
「はい。 ですが、その時に海龍達の襲撃と言う凶報が知らされました」
「海龍……達ですか?」
「えぇ……。 私達を襲撃したけど卵の奪還に失敗して逃げた1匹の海龍が、他の仲間達を引き連れてケントニス帝国の湾を文字通り埋め尽くすほどの大群で封鎖したのです。
そして、海龍達はケントニス中に聞こえる念話で宣言しました。
『水平線に陽がかかるまでに子供を返さなければ、今日をもってケントニス帝国を終わらせる』と」
「なんと……」
その後、何とか密輸した貴族に卵の在り処を吐かせ、何とか卵を指定された時間前に発見する事に成功したが、そこで暗黒教団アポカリプスの教祖グノーシスが現れて卵が入った小箱を奪われた事、そしてシグルド隊長に小箱を投げて寄こすと消えた事。
そして、小箱の中見を確認する為に箱の上部を切り落とすと、箱の裏に魔法陣が書かれていて、蓋が地面に落ちた途端に事件が起きた事を謁見の間に居る人達に伝えた。
「都市全てが幾重もの幾何学模様が描かれた赤い結界に覆われてしまい、大量の魔物達が召喚され始めたんです」
「何だと!?」
今まで黙って聞いていたお父様も、大量の魔物の召喚と聞いて声を荒げてしまったようだ。
「魔物の召喚など、そんな誰も知らない技術を何故奴らの様な一介の宗教団体が知っている……」
「わかりません。 どうしてグノーシスがあれだけの大規模召喚を行えたのかすら、結局私達は分からず仕舞いでしたから。
ですが、確かにあの赤く巨大な魔法陣内で沢山の魔物が召喚され続けていました」
「ふむ……。 その様に大変な事がケントニス帝国で起きたのだな…。
だがエリアよ、お前が生きてここに居ると言う事はその結界を解除出来たのであろう? その結界内では強力な魔物が現れる事は無かったのか?」
「いいえ、お父様。 私達も最初はマーマンやコボルトの下位の魔物ばかり召喚されているのかと思っていましたが、私達の居るから少し離れた場所にゴブリンキングが召喚されてしまいました」
『ゴブリンキングだと!!』
〖ざわざわ!! ざわざわ!!〗
「静まれ!!」
お父様の怒声が部屋に響いた事で貴族達も会話を止めて静かになったが、ゴブリンキングの名を聞いた人達は災厄の存在と明記されている者の出現に狼狽していた。
「エリア……。 ゴブリンキングは討伐されたのだな?」
「はい。 この目で消滅を確認しています」
「そうか……。 ハーディの奴も無事に生還出来たのなら良かった……。
エリア。 ゴブリンロードはやはり強かったのか?」
「はい、ダグラスさんが命を懸けて仕留めてくれなければ、あの場にいた全員の命が危なかったかもしれません。
それとディーネちゃんの説明によると、ゴブリンキングには暗黒神の因子を埋め込まれていた様で、何かを口にする事で能力の上昇を確認しました」
「何かを口にすると能力が上昇するか……。 もしその場で仕留める事が出来なかった場合、どれだけ強くなっていたのか想像も出来んな……」
こうして皆の頑張りもあって何とかゴブリンキングを討伐すると、赤い結界魔法陣は解除されたと伝えると、部屋の中でこの話を聞いていた貴族達や兵士達皆が安堵していた。
「そう…、皆の姿が見えないから心配していたのだけれど、無事に全員生きてるのなら良かったわ」
皆無事にシンドリアに帰還している事を知って、お母様は胸を撫でおろしていた。
「そうして赤い結界魔法陣から解放された私達は海龍達とも和解して卵も返す事が出来たのですが、私達が次の目的地のノグライナ王国へ行く為に飛竜に乗った時でした。
今ここにいるマリちゃんが、私達と別れるのが嫌で命懸けで人化の術を発動させてしまったので、一緒に旅に連れて行く事となったのです」
「あい! パパ達と一緒に居たかったので痛かったですが頑張りました!」
その後、マリちゃんも旅の仲間に加えて竜騎士隊の人達と共にノグライナ王国に向かった事や、晩餐会で親書を手渡した事。
そして次の日に、ノグライナ王国の人達が信仰の対象としている神樹ユグドラシルで神事が行われるとの事だったので参加した事を伝えると、宰相のギードが目を見開いて驚きの声を出した。
「神樹ユグドラシルに案内されたのですか!? 羨ましい、羨ましいですぞ! 私の時は案内されなかったのに! 私も見たかった、こんな事なら私も付いて行けば……ハッ!」
「ギ、ギード、そんなに神樹ユグドラシルを見たいのなら、今度有休を取らせてやるから見て来ると良い……。 お前の苦労を労ってやれずに済まない……。 くっ……」
お父様は目頭を押さえてギードさんに今度休みを与える事を約束した。
「何だか納得いきませんが、まぁ良いでしょう……。 エリア様、話の腰を折ってしまって申し訳ない。
続きをお願いいたします……」
私は気を取り直してユグドラシルに着いてからの話しは、共也さんにバトンタッチする事にした。
「ここから先は共也さんが話してくれます」
俺とエリアは頷き合い、ディーネとシルを強引に剣から呼び出した。
〖ドスン!〗
「痛っっっっった~~~~い!!」
〖ポヨン〗
急に呼び出した事でシルは床にお尻を打ち付けてしまった様で、お尻を押さえながら恨みがましく俺を睨んで来ていた。
「共也君、いきなり呼び出すなんて酷いじゃない! 受け身も取れなかったからお尻がすっごく痛いんだけど!?」
「何も言わずに呼び出して悪かったけど、シル、ディーネ周りを見てくれ」
「そんな事言って誤魔化そうとしても……ってあれ……。 ここって何処?」
シルはようやく自分が沢山の人に見られているのを理解してくれたのだが、大勢の人の視線に晒された事で、慌てて俺の後ろに隠れてしまうのだった。
「俺達が今いるのはシンドリア城の謁見の間で、今は皆に旅の結果報告をしている所なんだ」
「うへぇ……。 ここが何処かってのは分かったけど、何で私とディーネをこんな人が沢山居る場所に呼び出したのよ!」
「シルとディーネがユグドラシルで俺達に話してくれた過去の話を、ここに集まった人達に聞かせてあげたいんだ」
「それは良いんだけど……。 共也君もずっと側に居てくれるわよね?」
「ああ、居るよ」
「…………手も握ってて?」
「え?」
「シルさん?」
「ひ! エリア、ごめんなさい! 調子に乗りました!! だからそんなに無表情で私を見ないで!!」
「ではお願いします。 詳しくお願いしますね?」
「分かったよ……。 じゃあ……。 ん?」
「シル殿……で良かったか? 私の顔を凝視して何かあるのかね?」
シルがグランク様の顔を見た途端に動かなくなり、しばらく首を傾けて何かを思い出そうとしていた。
「あっ! えっ…? 君は……ケイレス!?」
「え!? お父様がケイレスって。 シルさん、ケイレスって昔の話に出て来たあのケイレスさんにお父様がソックリって事ですか?」
「エリアのお父さんって事はケイレスじゃ無いのか? でも雰囲気などが良く似てる……」
(そう言われて見ればケイレスに似てるね)
シルとディーネの2人にいきなりケイレスに似てると言われたグランク様は、頭に疑問符が大量に浮かべていた。
そんなグランク様を見かねて、ギードさんがシルとディーネの為に自己紹介を始めた。
「え~っとシル殿……でよろしかったですかな。 この方はシンドリア国王であるグランク様で、ケイレスと言う方ではありませんよ?」
シルとディーネもマジマジと見ていたグランク様から視線を外すと、姿勢を正して頭を下げた。
「ジロジロ見てごめんなさい。 私が知っている人にそっくりなので、あなたは恐らくあの人の子孫なのでしょうね。
ね、ディーネ、あの人にそっくりだよね?」
(うん。 こうやって改めて見ると本当にそっくり……。 ケイレスとシルビアはきっとこの土地に移住して来て幸せに過ごしたんだろうね……。 良かった)
2人はケイレスの足取りが知れて嬉しそうにしているが、話しに付いて来れていないグランク様は俺達何の事を言っているのか説明を求めて来た。
「待て待て、さっきからケイレスとかシルビアとか一体誰の事を言っているのだ。 私にも分かるように説明してくれ!」
グランク様の言葉に応じて、シルとディーネはそこから自分達が過去で体験した暗黒神が率いる魔物の軍勢との最終決戦での出来事を話してくれた。
2人が話してる間、誰一人として口を挟む者は居らず、部屋にいる人達全てが話しに聞き入っていた。
「そんな大昔にその様な出来事が起きていたとは……。 そして、その戦いに生き延びた者の中にケイレス、私の祖先がいたのだな?」
「えぇ、その後の話しはディーネが詳しいから彼女から詳細が語られると思うわ」
「ん? 今ディーネ殿の事を彼女と言ったのか? スライムは無性のはずじゃ……」
まぁ、当然の疑問だよな……。
その疑問に俺が答えようとしたが、いち早くエリアが話し始めた。
「お父様、その疑問に答える前に、前にお渡しした光る壁片の事を覚えておいでですか?」
「あぁ、ダンジョンの壁と同じく光を発し続けている壁片だな?」
「えぇ…、それを開発したのはここにいるディーネちゃんなのです。
実はディーネちゃんは今はスライムですが、元は人間で攻め込まれた国の王女様だったのです」
「色々と理解出来ない情報が出て来過ぎて処理が追い付かない……。
それに先程暗黒神では無くて、憑依体と表現したがそれは何故だ?」
その疑問にはシルが答える。
「暗黒神はその昔、女神ディアナお母様に負わされた傷の影響で、今も力が完全に回復していなくてこの世界に完全な形で顕現する事が出来ないから、自分と波長の合う人間の体を乗っ取り憑依体として活動するのよ。
私達が戦った憑依体もどこかで平和に暮らしていた1人だったのでしょうね……」
「なるほど……。 その時の話しをもう少し聞かせてもらっても大丈夫かな? 私に似ているケイレスとシルビアのその後の話しも」
「ええ、ユグドラシルで皆に語った物語をここにいる人達に聞いてもらいたいわ。 少し長くなると思うけど構わないかしら?」
「ふむ、長くなりそうなら少し待って貰って良いかな?」
グランク王は玉座から立ち上がると手を打ち鳴らした。
〖パンパン!!〗
「誰か! 皆の者が座る事の出来る椅子と飲み物を用意するのだ!」
その合図と共に沢山の使用人達が椅子を持ち謁見の間に入って来ると、自分達の主の貴族達が座れるように椅子と飲み物を置いて出て行った。
そして居並ぶ貴族達が椅子に座った事を確認したグランク王はシルとディーネに先程の話の続きを促した。
「シルとディーネ待たせて悪かった。 さあ聞かせてくれないだろうか、君達が見て体験した暗黒神の憑依体との戦いを」
「良いわ…。 城門から出た私達が決死の覚悟で憑依達に突撃して行った所から……」
シルは懐かしみながら謁見の間にいる人達に最終決戦の話を聞かせ始めるのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は過去編の話を少しした後は本編に戻るつもりです。
次回は“謁見の間にようこそ(怒)②”の予定です。




