2日目:謁見の間にて 前編
異世界転移2日目です。
異世界に来てから初めての朝が訪れた。
「ん、朝か……。 起きないと……」
窓から差し込む朝日が顔に掛かった事で目を覚ました俺は体をユックリと起こすと、見慣れない部屋を見渡した。
「そう言えば異世界に来たんだったな」
徐々に覚醒し始めた頭で、自分が異世界に来た事を改めて実感するのだった。
「そうだ。 そろそろ謁見の間に向かう時間か」
まだ向かうには早いかな? と思って部屋を出た俺だったが、他の転移者達も移動を開始していたので早すぎると言う訳では無さそうだ。
「皆様、これから謁見の間にご案内いたしますので、私達に付いて来て下さい!」
兵士達に案内されて大きな門を潜り謁見の間へ入ると、そこにはすでに多くの転移者達が国王の到着を待っていた。
(結構ギリギリの時間だったみたいだな……。)
そう思いながら他の転移者達と共に列に並ぶと、いつの間にか横に来ていたダグラスがニヤニヤと嫌らしい顔をしながら話しかけて来た。
「昨日あれだけ寝坊はしないって断言していた共也が、こんなに時間ギリギリに来るなんてどうしたんだぁ?」
「いや、俺も早く寝入ようとしていたんだけど、少しトラブルに巻き込まれてなかなか寝られ無かったんだよ……」
「ほうほう……。 それは菊流と王女様が、お前の部屋から一緒に出て来た事が関係してるのかな?」
「!?」
「やっぱりか~~。 いや、さすが共也さん、異世界に来て早々にやらかすとはな、しかも相手は一国の王女様と言うじゃないか!」
その一言に慌ててダグラスを見ると、奴は動揺する俺の姿が心底楽しいのか口を押えて笑いを堪えていた。
こいつ、何で俺の部屋から2人が出て行った事を知ってるんだよ……。
「な、何でそれをお前が知って……」
「いや~、たまたまお前の部屋の前から出て来たエリア王女と菊流を見てしまってな。 こりゃ部屋の中では絶対面白い事が……、いやいや大変な事が起きたなと思ってな……。 ぷっ!」
笑いを堪えていたダグラスだったが、とうとう我慢の限界が来たらしく盛大に噴出しやがった!
こいつが俺を揶揄って笑っている顔を見ていると、本気で殴りたくなって来る。
だが、それより早く近衛兵の1人から王の入室を告げる声が部屋の中に響くのだった。
「皆様ご静粛にお願いいたします。 グランク王様のご入場です!!」
その言葉と同時に、玉座が設置されている横幕から護衛役のデリック隊長に連れられて、豪華なマントと王冠を被った40代手前くらいの男性が入室して来た。
彼がこの国の王様か……。
その彼の背後には先日の晩餐会で挨拶したクレア王女が入って来て玉座の前に立つと、兵士達は皆一斉に敬礼をした。
皆そのまま彼が玉座に座ると思っていたが何故か座ろうとしない。
どうしたんだ?
そう皆が疑問に思っていると、彼は急に俺達に対して頭を静かに下げた事で兵士達の間からも騒めきが起きた。 だが、それもすぐに納まりグランク王は頭を上げた。
「私はこの国シンドリアの王【グランク=シンドリア=サーシス】だ。 まずはここに集まってくれた者達に心よりの謝罪を……」
そのグランク王の言葉と同時に、その場に居た全ての兵士、文官、重臣、さらには参列していた貴族達までもが、俺達に対して頭を下げた。
そして、グランク王が姿勢を正し口を開いた。
「此度召喚された者達にも各々の生活があり、家族が居た事は我々も重々承知している。 だが、皆に何故今回の事を行動に起こしたのか、その理由を聞いて欲しい」
グランク王は一呼吸置き、説明を続けた。
「現在、数多くの人種が暮らす【ルイザリア大陸】に存在する国々に対して、魔大陸を治めている魔王が一方的に宣戦布告を行い侵略を開始したのだ……。 いや侵略と言う表現は生温いな……。 あれは蹂躙と言って良い内容だった……」
「お父様……」
当時の事を思い出したのかグランク王が立ち尽くしている姿に、クレア王女が心配して駆け寄ろうとしたが、彼は彼女の行動を手を翳して止めさせた。
そして、彼は続けた。
「何とか、侵略される街や村から逃げ出す事が出来た者もいるが、それもほんのわずかだ……。 だが、我々もこのまま静観しているつもりは無かった。
各国が襲い掛かって来る魔族に対して、英雄クラスの戦力をぶつける事で何とか痛み分けに持ち込む事は出来た……。 だが、元々地力が強い魔族に対抗出来る英雄クラスの者も徐々に討たれて行き少なくなって行った。 そうなると我が国の様に大国なら兎も角、小国に抗う力は残されていなかった……」
グランク王の説明を聞き、この部屋を警護する兵士達の何人かは涙を流していた。
「彼等が泣く姿を見て咎めないでやってくれ。 彼等は小国の王達が自国の最期を悟り、隙を付いて逃がした者達なのだ。 その彼等が預かった手紙にはこう記されていた『我が国が滅ぼうとも、人類の勝利を願っています。 どうか我が国民達の事をよろしくお願いいたします』とな」
「ぐ、くぅ……王よ………」
「その手紙を読んだ我々大国を治める者達は決断した。 非人道的だと将来の者達に非難されようとも、彼等の意思を無駄にしない為にも其方達の力を借りる為に大召喚をしようと。
結果は知っての通りそなた達がこの世界に召喚された訳だが、代わりに新たな異世界の者を召喚する事が出来るスキルを持つ者もいなくなってしまい、我々は本当に後が無くなってしまった……。
其方達には本当に申し訳ないと思う。 勝手に戦場になる世界に召喚した上に、この世界に住む人々の未来を背負わしてしうのだから……。
我々が自分勝手な事を言ってるのも重々承知している。 だが、このルイザリア大陸に住む人々を救う為には、お主達の力が絶対に必要なのだ。 どうかお願いだ、我々に君達の力を貸してくれ! この通りだ!」
『お願いします!』
謁見の間にいた全ての人々が、シンドリア王が頭を下げたと同時に皆が頭を先程より深く下げた。
しばらくの沈黙が続き質問する為に許可を貰おうと手を上げる人物が現れた。
光輝?
「光輝殿……だったか。 何か質問があるのかな?」
「発言失礼します。 もし私達の誰かが、魔王を倒しこの世界に平和を取り戻したとしましょう。 帰還を希望する者がいた場合、あなた達は私達を元の世界に送還する事が出来るのでしょうか?」
「その事か……」
グランク王はしばらく沈黙した後に、光輝の質問に答えた。
「可能と言えば可能だが、今の状況では不可能だ」
『不可能』その言葉に転移者達は一瞬騒めいたが、グランク王は構わず続けた。
「実は送還魔法は人間側で失伝していてな、使える者がすでに存在していないのだ」
「それならば不可能と言えば良いだけでは? いや、先程人間側でと言いましたか?」
「そう、我々人類側はその魔法を失伝してしまった。 だが、魔国側にはまだ継承されている可能性がある。 そのため送還する事の出来る可能性は有るが、今は不可能と言ったのだ」
「なるほど……。 では我々の目標としては魔王討伐を目指しながら、元の世界に戻る為に必要な送還魔法の探索が必須と言う事ですね?」
「あぁ、そう取って貰って構わない」
「……なんだか随分とあなた方に都合の良い内容に少し気になりますが……。 今の僕にあなたが本当の事を言ってるか判断出来ませんので、今は信じる事にしておきます」
「すまぬ……」
(一応帰れる可能性は提示されたけど……。 いや、俺は地球に帰る意味があまり無いし、せっかく憧れの異世界に来れたんだ。 もし世界が平和になったとしても、このまま残って各地を旅するのも良さそうだな)
頭の中で平和になったこの世界を旅する事を考えていた俺だったが、グランク王が玉座に座ると今後の予定を話し始めた。
「今後の予定を話そう。 入って来て貰ってくれ」
「はっ!」
兵士の1人が扉を開くと、そこからは見た覚えのある人物達が謁見の間に入って来ると、各転移者達の横に移動した。
勿論俺の横には、エリア王女がニッコリ微笑みながら立っている。
「今そなた達の横には召喚主が立っているだろう。 その者は、そなた達がこの世界で生きる為の地盤を築くまでの間、教育係として1人1人に付いて貰う事が決定している。
だが自分には必要無い、と思う者は正直に召喚主に告げてくれ。 強制する事は無いので遠慮は無用だ。 性格が合う合わないと言う事もあるのでな」
グランク様の言葉を受けて、召喚主として召集された人と転移者の話し合いが行われた。
「共也さん、昨日の答えをお聞かせ願いしますか? あなたのサポート要員、兼教育係として私をパーティーメンバーの1人に加えて下さいますか?」
「……共生魔法と言う謎に包まれたスキルを得た為に、俺はこれから大変苦労する事になるでしょう……。
もしかしたら、命を落とす場面に遭遇するかもしれません。 それでも俺、いや私とこの旅に付いて来てくれますか?」
「もちろんです! 共也さんと私なら、きっと一緒に世界を救う事が出来ると信じています! 末永くよろしくお願いいたしますね!」
余程嬉しかったのか、向日葵が咲いたような笑みで俺に抱き着いてくるエリア王女だったが、すぐに彼女を引き剝がす存在が現れた。
「エリア王女様、抜け駆けは酷いんじゃないですかね~? 私が居ない間に抱き着くって……」
「こんな感動した行動くらい、寛大な心で許してくれても良いじゃないですかぁ……」
「全く油断も隙も無い……。 で? 共也は何で、すぐエリア王女様から離れ様としなかったの?」
ジロリと言う言葉がピッタリな程、菊流は目を細めて俺を睨んで来た。
あ、この目をしてくる時の菊流は本気でイラついてる……。
昨日のエリア王女ソックリの冷笑を浮かべた菊流が詰め寄って来ると、俺の腕を取った。
「き、急だったから回避行動が遅れたんだよ! だからさ、腕を潰しかねない力で握るのは止めてもらえない……かな?」
「・・・・・」
その言葉に目を細めたまま無言で手を放す菊流だった……。
はぁ……。 このパーティーで、本当に世界を救う事が出来るんだろうか……。
一抹の不安を抱きつつも、俺達3人はパーティーを組む事が決まるのだった。
=◇===
【ダグラス視点】
「あら~ん、逞しいか・ら・だじゃないダグラスちゃん! 私がこれからたっっっっぷりと、この世界の常識を教えて上げるから、これからずっっっっっっと一緒に居ましょうね!!」
「…………。 すぅ~~~~……、嫌に決まってんだろボケ~~~!! 却下だ却下!!」
「ああん! 酷い、ダグラスちゃ~~~ん……」
【金鳴 魅影視点】
「黒髪の綺麗な君を異世界から呼び出す事が出来たのは、きっと君と恋人になれと言う運命だったんだよ。 だから魅影さん、これからも俺と一緒に……」
「遠慮させていただきます。 この世界に召喚してくれた事には感謝いたしますが、私ってチャラ男っぽい人って大っっっ嫌いなんです。 私は私でこの世界の常識を調べて身に付けて行きますので、もう2《・》度と私に関わらないで下さい。 それではご機嫌よう」
「そ、そんな! 魅影さん!!」
【福木 愛璃と上座 室生の視点】
「そこの優男! 愛璃さんは私が召喚したんだから彼女を導いて隣に立つのは僕なんだ! だからお前は一人で行動しろ! ですよね愛璃さん!!」
「いきなり何を口走るのかと思って聞いていれば……。 幼い頃から一緒にいる室生を排除?
あなたの頭の中は大丈夫なのですか? 室生を馬鹿にするようなあなたから教わる事など一つも無いので、私達に話し掛けて来ないで下さいね?」
「そう言う訳だからさっさと何処かに行ってくれ、俺達は俺達で幼馴染達と合流するつもりだからお前なんかに構ってる暇は無いんだ、分かったか?」
「………はい」
【桃原 柚葉視点】
「私は幼馴染達と一緒に行動するので、あなたに色々と教わらなくても大丈夫ですから、いちいち体に触ろうとしないでくれませんか? 正直迷惑です」
「ならこの戦場盤で俺と勝負しろ! 俺が勝ったらお前は俺の女になれ。 良いな?」
(こいつ……。 召喚主と言う事を傘に着て無茶苦茶な事を言いやがって……。 まあ良いわ……ぼっこぼこにして泣かせてやる!!)
「後悔しないで下さいね下衆が!」
【林 鈴の視点】
「ふん! はん! ふん! はん! これから! お前を! 教育する者だ! この後は野外でキャンプで筋トレするから、貴様の華奢な体を徹底的に鍛えてやるぞ!!」
「いや~~~!! ごめんなさい、生理的に受け付けないの~~~!!」
【下平 陸男の視点】
下平の召喚主は2M近くあるガチムチの男で、先程からずっと下平を無言で見下ろしているだけだった。 その為下平は何を話せば良いのか分からず、立ち尽くしていた。
「あ、あの~~」
「……………」
「何か言ってくれると……」
「………………」
「………………」
「………………」
「もう嫌だ~~~~!!!」
沈黙に耐えられなくなった下平は、そのまま何処かに走って行ってしまった……。
やっぱり異世界でも色んな人がいるらしい……。




