0話・序章。
―――ザアアアアアアアアアアァ………
大雨が降りしきる中、俺、最上 親護は交通事故で負った大怪我を庇いながらも、街灯が等間隔に設置されているだけの夜の山道を走り続けていた。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……。 ぐ、ぐぁ!」
―――バシャ!
地面に足を取られてしまった俺は、偶々そこにあった水溜まりに倒れ込んでしまった。
「はぁはぁはぁはぁ……。 車から発生した煙幕を利用して綾香と別れて逃げる事には成功したが、共也を連れたままの状態で逃げ切れたのだろうか……」
大怪我を負いながら雨の中を走っていた理由、それはある人物から逃げているからだった。
そこにタイミング良く、俺の持つ携帯が着信を知らせるバイブ機能が作動した。
―――ブーーーブーーーブーーー
画面には共也を通じて知り合った親友の名が表示されていた。
(防水にしておいて良かった……)
「もしもし……」
電話に出た途端、その親友が捲し立てる様に声を張り上げた。
「親護! お前今何処にいるんだ!? 今ニュースでお前が車で事故ったのに行方不明だってデカデカとテロップが流れているぞ!?」
「そうか、もう情報が大々的に流れているのなら、あいつが共也の命を狙う事は無いだろうな」
「は!? 共也君の命を……狙う? お前何を言ってるんだ……」
「京谷、お前と知り合う事となった河原を覚えているか?」
「今はそんな思い出話しをしている場合じゃ『そこに綾香を向かわせたから保護してやってくれ。 こっちは何とか奴を巻いてみるから、生きのびる事が出来たら……。 また酒を酌み交わそう……。 もし、俺がそこに現れなかったら、共也には事故と説明してくれ……』おい! 親護何を言って!?」
―――ブッ!
「すまん京谷……」
「何だ何だぁ~~? お別れの電話はもう終わりで良いのかぁ?」
「やっぱり追い付いて来ていやがったか……。 どうして俺達の命を狙うのか知らないが、簡単に殺せると思うなよ!」
「は! 俺もそろそろ追いかけっこは飽きたからな。 そろそろ死んどけや!」
綾香、共也!!
===
先程から再度親護の携帯に掛けても、コール音が響くだけで出る気配が無い事に焦りだけが募っていく。
「親護……。 お前に一体何があったんだ……」
大雨の影響で河川の増水が激しい中、きっとここに綾香さんが来ているはずだと確信している私は懐中電灯の小さな灯りを頼りに彼女を探していた。
「あなた、本当に綾香がいるの!? そろそろここも危ないわよ!」
「分かってる。 分かっているが、もう少しだけ……」
水嵩が増してくる河辺で綾香さんを探していると、照らされた光の先に顔は良く見えないが薄ぼんやりと光る4,5歳位の子供が手招きしている姿が浮かび上がった。
「何でこんな大雨が降りしきる中に子供がいるの!? まさか、妖?」
「いや、妖特有の霊圧は感じない……。 どうやら私達を何処かに案内しようとしているようだ……」
「まさか、綾香の所に?」
「…………付いて行ってみよう」
すでに川の水が溢れ出しそうになっている上にこの暗闇の中だ、無暗に探し回った所で人を一人探すのは容易じゃない……。
その少女に付いて行くと、すぐに目的の人物が光の先で座っている姿が照らし出された。
「いた! 綾香さんだ!」
「京谷さん、ここまで案内してくれたあの娘がいないわ」
「本当だ……。 もしかして幻覚だったのか? いや、そんな事より今は綾香さんだ!」
慌てて綾香さんに近寄ると、彼女は気絶してグッタリとしている共也君を愛おしそうに抱きしめていた。
『綾香さん!』『綾香、しっかりして!』
「うっ……、京谷……さん、砂沙美? 良かった……、親護の言う通り……来てくれた……」
「綾香、あなたどうしてこんな所で私達を待つなんて危険な真似をしたのよ!?」
「ごめん……ね。 私達の家も危険だと思ったから、あなた達と親友になれたここなら奴も分からないだろうから……」
「あなたの家が危険って……。 それより共也君を預かるから、一緒に神白神社に行くわよ!?」
気絶している共也君は京谷さんに任せて、私は座り込んで動かない綾香の手を取って立ち上がらせようとしていたが、彼女は力無く地面に座ったまま立とうとしない。
「…………京谷さん、砂沙美。 図々しい願いかもしれないけど共也の事、見守って上げてね……」
「何を縁起の悪い事を言ってるのよ! 立って!」
「ごめん砂沙美。 足に力が入らないの、それに……。 ケホケホ……」
「あなた血を……。 それに腹から覗いているそれは……」
「えぇ、親護には気付かれない様にしていたけど、事故の時に……ね」
良く見ると、背中から突き刺さった大きなガラス片が綾香の腹から覗いていて、雨の降りしきる中なのに地面を赤く染めていた。
「そんな……。 京谷さん、あなたが着ているTシャツを破いて包帯代わりに!」
「あぁ!」
―――ビ、ビィーーー!!
「綾香、共也君の為にもしっかりして! 今から病院に連れて行って上げるから!」
ガラス片が抜けて大出血してしまわない様に固定すると、綾香と共也君を急いで車に乗せると病院まで車を走らせた。
「駄目だ。 親護の奴、何度鳴らしても電話に出ない……」
「彼の事が心配なのも分かるけど、今は綾香を優先しましょう、京谷さん!」
「そうだな……。 綾香さん、気をしっかり持つんだぞ!?」
猛スピードで移動する車の中で、私は街灯が次々に流れて行くのを横になった場所から見ていた……。
(共也、最後まで一緒に居て上げられ無くて、ごめんね……)
「あや……しっ……………して!」
砂沙美達が何かを必死に口にしているが、その声も徐々に遠くなって行く……。
私は隣でシートベルトで固定されている共也の頬を撫でて無事を確認すると、1筋の涙が頬を伝って落ちると同時に意識を失うのだった。
「綾香!? あなた、急いで!」
雨の中を猛スピードで車を走らせている為、警察車両がサイレンを鳴らしながら追いかけて来るが、今はあいつ等に構っている場合じゃない!!
「病院が見えた! 着いたぞ!」
すでに病院に連絡を入れていたお陰で、入り口前には医師や看護師が厳戒態勢で待機してくれていた。
「要救助患者は何処に!?」
「後部座席にいます! お願い、綾香を助けて上げて下さい!」
医師達は、後部座席で横たわる綾香の状態を見て顔を歪めた。
「これは……。 緊急手術の準備! 電気ショックも用意してくれ!」
『はい!』
車の中で横たわって動かない綾香をストレッチャーに乗せた医師達は、急いで手術室に運び入れると『手術中』の赤いランプが灯った。
「綾香さん、助かると良いが……」
「あなた、警察の方はもう良いの?」
「ああ、一応事情聴取されたが、綾香の命に係わる事案だったから緊急回避が適用されてお咎めは無しだ。 それと共也君だが、大した怪我は無いが一応念の為このまま検査入院させる事になりそうだ」
「大した怪我が無いなら良かったわ……」
「綾香さん……。 共也君を1人置いて逝くんじゃないぞ……」
「綾香……」
気絶している上に所々怪我をしている共也君を看護師の人に預けた後、私は綾香の無事を必死に祈ったが、その願いは終ぞ叶う事は無かった……。
翌日、親護が見つかったと警察から連絡が入ったが、とても人に見せられるような状態では無かった為、神白神社主導で2人の葬儀を取り行った。
葬儀や火葬も恙無く終わったが、どうして両親が死んだのか理解出来ていない共也君には、親護の最後の言葉を守り交通事故に巻き込まれて2人が亡くなったと言う嘘を伝えるしか無かった。
この時、最上 共也 8歳。
10年後、周囲の助けもあり、成長した彼も高校の卒業式と言うイベント迄漕ぎつけるのだった。
ちょこちょこ文章などを手直ししていますが、気楽に読んでくれれば幸いです。
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