女神は僕のお姉ちゃん。ことの発端と僕の正体
なぜ、人は母に甘えるのか。それは、母という存在が自分を覆ってくれる上位の存在だからである。
だが、母に甘えるのが恥ずかしいと思った人間は、甘える対象を探す。
妹、姉、家族を名乗る不審者など様々だが、僕の場合は、女神である。
今、僕は空の上にいる。正確には、女神が手を叩くと色んな場所に変わる不思議空間なのだが……そんなことより。
「えっとお……それわあ……」
今、目の前で指をつんつんしているのがお姉ちゃんである。
お姉ちゃんは女神である。お姉ちゃんが女神になった。ではなく、女神がお姉ちゃんなのだ。
少し、時を戻そう。
ーーーーー
「ふんふふーん。ふふんふふーん」
女神の鼻歌が聞こえる中、ダン! っと大きな音と共に扉が開く。この場所に入ってこれる者は鍵を持つ者だけ。女神は誰が来たのか気づき、こちらの方を向いて、ぱあっと明るい笑顔を見せる。そして、僕が人を引きずってきたことに気づく。
「オウカ。お姉ちゃんに会いに来てくれて、私はとても嬉しいです。しかし、見知らぬ人間を、ここに連れ込むなんて……」
諭すような口振りが止まる。たぶん気づいてたのだ。連れてきた人間がしっている人物だということに。
「この人が誰なのか分かる? 」
「なんのことですか? 」
「気絶する間際にお姉ちゃんの名前出てきたんだけど」
………………
そして、今である。
「なんてゆうかあ……気づいたら居なくなってたっていうかあ……」
「えぇ……またエンマ? 」
「そうじゃないっていうかあ……うぅ……」
……。お姉ちゃんは、おっほん、と一つ咳払い。お姉ちゃんがシャキッとした顔になった! 女神モードのお姉ちゃんだ!
「オウカ、よく聞きなさい。彼は確かに、私が担当した人間です」
「やっぱり? 」
「話は最後まで聞きなさい。通常通りのカリキュラムを終えた直後のことです」
ーーーーー
「それではイサム。世界を救う覚悟は出来ていますか? 」
「もちろんです女神様。私は必ずや魔王を倒し、平和な世の中にしてみせますとも! 」
「頼もしい限りです。それでは、今から異世界へと門を繋ぎま……」
ぷいんぷえんぷおん。ぷいんぷえんぷおん。
すごくいいところ、これからのところで鳴り響くチャイム。
「すみません。少し席を外します」
空間を二回叩いて、出口への裂け目を作り、そこから部屋を出た。裂け目は勝手に閉じるから心配なし。
そんなことよりも、出口にいそがなくちゃ。
「……んもう!こんなにいいタイミングで鳴らしてくるなんて、いったい誰なのよ! 」
「我輩じゃ」
「ふへぇ! すみません神王様! 」
出口の先に待っていたのは、神王様。ものすごく長い白ひげを生やしたこのおじさんが、ここで一番えらい人である。
「彼の様子を聞きに来たのだが……お邪魔だったかのう? 」
まずいちょっと怒ってる!
「そんなことありません! ただ、担当していた人間がカリキュラムを終え、これから旅立つところでしたので……つい……」
「おお……ついに旅立つ時が来たのじゃな」
よし、話題をそらせた!
「しかし、あの人間をそのまま送り出していいものか……」
「というと? 」
「彼は、とてつもない正義感を持ち合わせている。転生者に選ばれるのも納得だ。しかし、あの正義感には危険な者を感じる。できれば、敗北の一つや二つくらい経験させてからと考えていたんじゃ」
確かに彼には勇者として、必要以上の正義感を持ち合わせている。魔王は確実に倒せるとは思うけど、そのあと何が起こるか想像もつかないし……。
「ですが、人間が今もなお救いを求めているのも事実。それに、もうギフトも与えてしまいましたし……」
「敗北の経験も難しいか……どこかに彼を簡単に負かせる、凄腕の魔王でもいればいいんじゃが……」
「はい……。彼より強くて、生かして帰してくれそうな魔王のなんて……」
……あ。
「いるじゃん」
「いました」
そんな都合のいい魔王いた! 私の弟だ!
「そうと決まれば今すぐに彼に連絡して、ボッコボコのボコにしてもらうんじゃ! 」
「はーい! 」
これで問題解決! オールOK! 裂け目を開いて、中に入ってずんずん進んで、モードチェンジ!
「お待たせいたしました。急遽予定を……」
あれ? あれ? あれれ? イサムは? なんで扉、開いているの? なんで?
うっきうきで戻った部屋の中には、開いた扉だけしか残っていなかった、
あー、これもしかして勝手に入って……。そんな、どうしましょう! あれ? でも確か、世界にはまだ繋いでなかったはず……。
急いで扉の後ろについてる行き先表示を確認する。
行き先は……。あー、えっと。とりあえずオウカに連絡しないと……。
ピコンピコンピコン
ただいま、連絡に出ることが出来ません。ピーッという発信音の後に、お名前とご用件を……
「アバババババババ」
……。とりあえず、おちついて紅茶を飲みましょう。うん、そうしましょう。
ズズズー。はあ。おいし。
ーーーーー
「ということがあったんです」
「お茶のんで落ち着かないでください。僕の城、倒壊してるんですよ? 」
「なおします」
「ならばヨシ」
「うっ……ここは……」
あっ、不審者の目が覚めた。
「女神……様……と、魔王!? なぜここにいる! 女神様から離れろ! 」
目が覚めてすぐに敵意むき出しで剣を向けてくる。怖い。
「嫌だ」
「なぜだ!」
「だってお姉ちゃんだし」
「……は? 」
だってお姉ちゃんだし。
「……は? まさかお前は闇落ちした神だというのか!? 」
「違う」
「……は? 」
僕は神様でも何でもありません。
「な……なら、女神様は、死に別れたお前の姉だとでも……」
「違います」
「僕、転生前に弟しか居なかったし」
「……は? 」
お姉ちゃんと血縁関係はありません。
「ん? 待て、今なんと言った? 」
「え? だから弟しか居なかったって」
「その前だ! 」
「ああ。僕が転生者ってとこ? 」
隠すこともない事実。さらっと言ってしまった。
「……嘘だな」
「嘘ではありませんよ、イサム」
「本当なのですか女神様」
なんで俺の時だけ、完全否定なのさ。
そんなことより、やっぱ女神モードのお姉ちゃんはカッコいいな。
「はい。彼は転生者であり、ただの人間です」
そう、僕は転生者。ちょーっと大変なスタートダッシュを切っただけの、無数に存在する転生者の一人であり、そして……。
「そして、あの世界の先代魔王を打ち倒した現勇者です」
数々の苦難を乗りこえ、世界の危機を救った勇者様でもある。
俺は気づいた。何かに追われてる時じゃないと、たくさん書けないことに……!だけど締め切りだけは、追われてもゲームしてると思うんだよなー。