救うためならば、戦える
「彼女が何をしたんだ」
「急に怒鳴り込んでこないでくださいよぉ~。って、かの有名な魔王さんじゃないですか~。そんな魔王さんが何の用で? 」
「シズクが何をしたって聞いてるんだ! 」
ヤミノの刑務所に乗り込んだ僕は、そこの職員に怒鳴りつけた。
この写真の真相を知るために。だが、仕方なくなんて、思っちゃいない。
「シズク……? ああ、脱走犯の。彼女が何をしたってそりゃ殺人ですよ。そこの紙にも書いてあるでしょう? 」
「そんなこと見ればわかる! 僕は、これが本当なのかって聞いている! 」
「嘘なんて書くわけないじゃないですか~。これは、事実です。私も彼女の尋問に参加していたので分かります。彼女は確かに言っていましたよ? 一人殺したって」
一人? 一人だと? だってこの紙には!
「ここをみろ! 三人だ、三人って書いてある! 嘘をついているのはどっちだ! 」
「ヤベっ……まあいいか。とりあえず落ち着いてくださいよ。私はね、その現場だってみたことがあるんです。死体が三つ、切り殺された死体が二つ、そして、首なし死体の前で怯えていたのが彼女だったんですよ? そんなのもう決まりじゃないですか」
「怯える少女に人が切れるか? 」
決まり……? 何が決まりなんだよ……?
「そんなもの誤差ですよ誤差。たいして変わりはしません。一人殺すのも三人殺すのも、同じ殺人ですよ」
「殺したこともないからそういえる! 」
「いいですか魔王さん。私達はね、別に首なし死体の男が犯人だろうと、仲良く死んだ夫婦が犯人だろうとどうでもいいんです。それよりも問題なのは……噂が立つことです」
「……は? 」
言葉を失う。この男は何を言い出すっていうんだ!?
「例の首なし死体、実はちょっと世間を騒がせた殺人鬼のものでしてね。現場に残された証拠と、人殺しの証言で、そうだと分かったんです。が、首無し死体が犯人だなんて言えば、別人じゃないかと噂が立ち、あの森に隠れているだなんて派生し広まれば、誰もあの森に寄り付かなくなり、モンスターの巣窟と化し、私達の仕事が増えてしまう。だから、殺人鬼になってもらうことにした」
何を言ってるんだコイツは。そんなことのためにやったってのか!? 少女に、背負う必要のない罪を着せることになったとしても!
「でも三人ってことしか! 」
「捕まってる間に塗り替える予定だったんですよ。しかし、まさか逃げ出すなんて予想外の出来事がありましたが、よかったですよ。殺人鬼を逃がす愚か者にならなくて」
「自分勝手なことばかり、そんな考えだから! 」
僕は今、怒っている。自分がバカにされた時よりも、強く大きくなっていくのが分かる。あの戦い以来だ。僕はコイツに対して、殺意がわいている。
アーアー、マイクテステス。やっほー、やっほー、聞こえますかー?
この声はシズク? 急いで刑務所の外に出る。
そこにはシズクの姿はなかった。しかし、空に浮かぶ城を見て、そこにいるのだと分かった。
「なんなんですかあれ……」
さきほど、会話をしていた職員も、追って外へと出てきた。
あー、これ聞こえちゃってるじゃんもー。テストのつもりだったのに……まあいいや、とりあえずお昼でこういうのするのは気分がのらないし……夜まで進めちゃおっと!
城から声が聞こえてきた。あの時と同じだ。たぶん、城にスピーカーみたいな機能が備えられているのだろう。
そんなことを考えていると、カチ、カチ、カチ。と、時計の針が進むような音が聞こえる。
カチ、カチ、カチカチ、カチカチカチ。音はなるたび加速していき、それを追うように、太陽は沈んでいく。
沈みきった太陽のせいで、暗くなってしまった夜空を月が照らす、それが城が重なった時、時計の音がカチッ……っと止まる。
「これくらいでいいよね。復讐で、明るい気分になられたらこまるもの。やっぱり、これくらいの深い闇のなかでなきゃだね! 」
嬉しそうな声。今から楽しいことをしようとしているそんな声。
「まず、鳥さんたち! 刑務所のお掃除を任せます。頑張ってきてねー! 」
鳥さん?
城から何かが飛んできているのが分かる。小さく、そして早く落ちてくるそれを見失ったうちに、先程まで話していた職員の腕がちぎれ飛んだ。
「は……へ? 」
思考が追いつかないのか、そんな声を漏らす彼は、その場で動けずにただ、立ち尽くしている。
城から出てきた。次が来る。
僕は、とっさに彼の前に立ち、迎撃するため、職員から剣を奪い、何かを打ち落とそうと、狙って剣で凪払う。
切り落とせるはずだった。曲がったのだ。剣がではない。弾丸のような速さで降るそれは、僕の一撃をかわし、腹に直撃した。
「グブゥ! 」
情けない声をあげ、職員を巻き込みながら、後ろへ吹き飛ばされてしまう。
幸い、耐久力はそれなりな自信があるので、腹を貫通することはなかった。
「なんだよあれ、当てたと思ったのに」
立ち上がろうとしたときに気づく。自身の腹の上に、砕けた石のような物がある。崩れたとはいえ、原型がある程度残っており、それが鳥のような形であったことがわかる。おそらくあれは、生きていたのだ。ぶつかる直前まで、彼女が作り出した生物のように。
「トリツブテ……名づけるならそんなところか。なにが酷いだ。特効なんて、そっちのが酷いじゃん」
「腕があ……腕があ……」
「少し黙ってろ気が散る」
やっと腕がなくなったことに気づいた職員を黙らせようと、言いはなった後、空に浮かぶ城を見上げる。その瞬間見える、迫る脅威。想像できてしまう起こる惨劇。
流星群のように降りそそがんとするトリツブテの群れを止めなければならない。そう感じた瞬間に、僕は結界をはる。
入り込める隙も隙間もない、刑務所を丸ごと守れるドーム状の結界を。
結界は、トリツブテの攻撃を防いでいるも、少しずつヒビが入り始めていることから察するに、現状維持は、ちょっと厳しい。
どこまでも増え続けるトような気さえするほどの猛攻……、避難を優先にした方がよさそうだ。
「へえー。鳥さんの攻撃を防げるほどの結界をあの規模で。複数人でやった気配はないし、そこまでの魔力を持つ者がこの国にいるなんて! いい、いい! 順調にいきすぎても詰まんないし、こうでなくっちゃ! そんなすごいあなたには、レパートリーをプレゼント! 行ってらっしゃい、虫さん! 」
虫? 小さい体を利用して、結界のヒビで生じた、極小サイズの隙間から中に侵入する気か?
それならばと、結界の内側にもう一つ結界をはる。これでしばらく時間が稼げるはず。
僕は急いで、腕をなくした職員に回復魔法をかける。腕が生えてくるわけではないが、ある程度は治るし、血も止まる。応急処置のようなものである。
その間に、建物の中へ避難しろ!っと大声で叫ぶ。
それが聞こえたからなのか、一斉に建物の中へと、避難を始める。
避難が完了したら、テレポートで他の国に送って、ここに戻れば。
「なあ、あれ、溶けているのか? 」
治療中の職員が、天を指さしながらそう言った。
「何を言って」
指さす方を見た僕は、驚愕した。
「違う……、溶けてるんじゃない、虫食いだ!」
溶けるように、無くなっていく結界をみて、彼女の言葉を思い出し、そう結論せざるをえなかった。
虫の許容量をこえたのか、突如起こった無数の爆発により、結界は崩れる。地上への道は今、開かれた。
R15解放! 腕が!腕が!
……はぁ。もともとこんな描写入れるつもり無かったんだけどなぁ。まあ、思い付いちゃったから仕方ないか。




