止めるために 向かい 2
「ど……どういうことですか? 」
「俺たちが探していたシズクに殺されかけて、復讐を止めるために先回りするって、何がなんだか……」
「それにシズクさんがくるかも知れないって可能性じゃないですか。それを信じろって言われましても……」
ですよねー。うん。可能性で動くってアホみたいだよね。うん。
「そういえば、エンラとカールは? 」
「揃って実家に帰りました。幼なじみなんですって、あの二人」
魔族の二人って幼なじみだったの!? 奴隷になった経緯が知りたい。
「お金を使わずに遠くに旅行できるって言われて、騙されたらしくて」
アホなのかもしれない。
「まあ、とりあえずいきましょうか」
「行くってどこに? 」
「あなたがヤミノにいきたいって言ったんじゃないですか。私たち、あなたの親衛隊ですもの」
連れてってくれるの!? 助かるさすが親衛隊!
「そういえば、先ほどの情報では、現在可能性があるのはヤミノとブレブ……もしブレブが襲撃された場合は、どうするんですか? 」
至極当然。聞かれない方がおかしい。これはそういう穴だ。しかし問題ない。
「大丈夫。ここには、僕の一番信頼できる先輩がいる。それに、もしそうなったら、テレポートでここに戻ればいい」
ここがヤミノかー。ということで、テレポートでやってきた僕達。
今日のところは宿屋に止まって寝る。使いすぎた魔力を回復させないと。
各々が宿に泊まり、1日が過ぎようとしていた時、コンコンっと、扉を叩く音。
うるさい。僕は、気持ちよく寝ているところを、邪魔されるのが一番嫌いなんだ。
ベッドから出て、開けた先にいたのは、イサムだった。
僕は、彼を見た後にそっと扉を閉めた。
「おい。なぜ閉める? 」
「男と寝る趣味はない」
「そんな目的でここまでくるものか」
「じゃあ何用で? 」
互いに不機嫌な声で言葉をかわす。早く寝たい。
「お前が抱いている危機感はなんだ? それは、人殺しを止めようとしてるだけには思えない」
扉越しに会話を始めるイサム。ぶつけられた疑問に答えるため、ある質問をすることにした。
「チートって言葉に聞き覚えは? 」
「それなら知っている。ゲームでよく聞く悪しき不正行為のことだろう?」
「それは転生前の世界の話だ。この世界……いや、神世界でのチートの意味は大きく異なる」
「知らないな」
つまり、お姉ちゃんは、聞かなきゃ教えてくれないということだ。習得するだけで世界消滅の危機だっていうのに危機感は無いのか?
「それは、創る際に不具合が起こったギフト。強い感情が混じった。単純に強すぎた。原因は様々だが、行き着く先はただ一つ。世界を巻き込む暴走だ」
制御不可能な危険な力。それがギフト。先代魔王は、その力を習得して際に狂人へと変貌し、結果的に世界消滅の危機を引き起こした。
「そんな危険な力を、シズクは習得した。それが無理矢理なのか、進んでなのかはわからない。だが、このままでは世界が滅ぶ」
「なぜ確証が持てる? 」
「変貌。そして、ギフトに匹敵する能力。それだけあれば十分だ」
本来、あれだけ強力な力は転生者にしか与えられない。いや、そもそも能力なんてものは、魔族と転生者の特権だ。ただの人間が習得できるはずがない。
「それでお前は何がしたい? 倒したいのか、それとも……」
「助け出す。そのための力だ」
割り込み話す。倒すなんてするものか。
「もし、犠牲が出るとしても、お前はそれを言えるか? 」
「犠牲は出させない。出させてなるものか」
「どうして、城ごと墓を消し炭にしたヤツにそこまでできるのか、私にはわからないな」
「あの墓には誰もいない。魂だって帰りはしない。形だけなんだ、あれは。だからと言って、許せるものかと聞きたいならば答えてやる。大切な友達だからだ」
命懸けでも助け出す。それがどんなに難しかろうと、絶対にだ。
「死ぬなよ、魔王。お前を倒すのは、この私だと覚えておけ」
足音が離れていく。イサムが部屋へと戻ったのだろう。
「誰が負けるかバーカ」
僕もベッドへと戻り、再び眠ろうとしたその時だった。
コンコンっとまた扉を叩く音が。
今度は誰だ!?
ベッドから飛び出て、扉を勢いよく開ける。
そこにいたのはメグだった。
勢いよく開けたせいか、ビックリしているメグを見て、ごめんっといいながらゆっくり扉を閉め……。
「はっ! いや、閉めないでください! 」
閉じていく扉をガッとつかみ止める。
「な、何!? 」
「トイレ、一緒にトイレに行ってほしいんです」
「なぜに? 」
「オバケ……でるかも知れないし」
それは、めちゃくちゃ可愛い理由だった。
チェチェチェチェイス!
チェチェチェチェイス!