喜is悲・劇
ここは……どこ? 私、オウカと買い物してて……それで……。
「こんにちはお嬢さん。気分はいかが? 」
目の前にたつフードを被った男。自分の手足が鎖で繋がれているのをみて、自分は捕らわれてるのだと気づいた。
「お願い! ここからだして! 」
「まあまあ、落ち着いて。これからあなたにする話は、あなたにとっても悪くない話のはずです。結論から言いましょう。復讐、したくないですか? 」
突然の提案に動揺する。
「復讐? 」
「そう、復讐! 自身の恨みを相手にぶつけるあの! 復讐でありますよ! みたところ、そうとうな恨みがたまっているはず! 」
「あなたに対してよ! 」
そうだ。私を誘拐して、拘束して、恨みがたまらないはずがない。
「本当に……本当にそうですかぁ? 」
は?
「吐きどころのない恨み辛みの数々、どう圧し殺せばここまでたまるのか。こんなの復讐するしかないですよねえ? たとえば……身近な魔王さん……とか? 」
「そんなことない! オウカはちゃんと探してくれた! オウカの優しさはちゃんと知ってる! 」
「はあ……。あなたは知らないんですね。魔王がどれだけ邪悪なのかを」
「嘘だ! 」
オウカが邪悪!? そんなことあるわけない! だって、オウカはあんなに!
「彼が魔王を倒したのは、勇者の力というのを手に入れるため。歴代の勇者と同じようにね」
勇者の力?
「勇者の力とは、魔王を倒した時に得られる能力。願った力になるってんだから、誰だって欲しくなっちゃうだろうよ? 」
「そんな人が、あんなこと言えるはずなない! 」
「魔王になったときの、あの言葉のことか? あんなのうーそぜーんぶ嘘。そもそも、アイツが魔王になったのは、そんなことのためじゃない。勇者の力を自分のものにするためだ」
なんでそんなこと……。
「一つしか存在できない勇者の力を独占する方法なんて簡単だ。自分が魔王になればいい。アイツはそれを体現しただけなのさ」
いや……いや! 嘘、そんなの嘘だ。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……。
「いい加減認めろよ。お前が信じた男の言葉は、上っ面だけの虚言なんだよ」
「嘘だ……嘘に決まってる……嘘に……」
嘘だ。嘘だ。嘘、絶対に……。嘘に……オウカがそんなこと……。
「心がゆらいで隙間ができた。これなら簡単にねじ込める。さあ、実験開始だ」
シズクがいなくなった。ブレブにて、一緒に買い物をしていたところ、突然どこかへと消えてしまった。
王様や親衛隊? に話して、探すのを手伝ってもらってる。
意外だったのは、あのイサムも一緒に探してくれているという点だ。一応、この前の詫びだということらしいが、正直、そういうことができるということが意外だった。
そんな時。
「おっと。ごめんよ」
フードを被った男と、すれ違う時にぶつかった。
謝るくらいなら、最初から気をつけてよ。
そんなことを思っていると、イサムを発見。なにか進展があるかもと期待し、イサムの方へと向かう。
「見つかった? 」
「まだだ。そっちは? 」
「こっちも、どこにもいなかった」
進展せず……か。
「ん? お前の背中から見えているそれはなんだ? 」
なんて、突然、不思議そうに聞いてきた。
「なんのこと? 」
「首のところにあるそれだ」
恐る恐る背中を両手でパンパンと、上へと叩いていくと、エリの辺りに、なにか四角いものがあるのがあるのがわかる。
そこから取り出して確認してみると、それはメッセージカードだった。表面には、こんにちは魔王。と書かれている。
「誰がこんなもの……」
思い当たるのは一人しかいない。ぶつかってきたフードの男。だが、何のために?
ひっくり返して裏をみてみる。そこには魔王城で待つ。なんて書かれていた。
「どうした? 何が書いてあった?」
イサムがそう聞くほどに、僕の表情は変わっていたのかもしれない。だが、それに気づかぬほどに、僕は今、この手がかりにすがらずにいられなかった。
「ちょっと、城に戻ってみる」
一瞬おいて、僕はイサムにそう告げた。
「捜索はどうするんだ? 」
「いるかもしれないから、いかなきゃなんだ」
僕はそういって、魔王城へと戻った。
戻ってすぐに気づいたのは、扉が開いていた事だ。僕は出る前に確実に閉めてあるのを確認したはずだ。
恐れず中へと入ると、追ってくださいと言わんばかりの、分かりやすい足跡があった。罠かもしれない。そう、思っても、この先にシズクがいるかもしれないと思うと、進まずには入られなかった。
奥へ、戻って曲がって上がって、ぐるぐる回った挙げ句にたどり着いたのは、魔王の間の前であった。
わずかに開いている扉の隙間から、黒い何かを感じる。
僕は、これの正体を知っているような気がした。前にどこかで見たことがあるようなそんな気がした。
恐れず扉を開いてみせる。
バンという音ともに開くその先にいたのは、紛れもなく、正真正銘、探していたシズク本人であった。
「シズク! 今までどこに!? 」
それを見た瞬間、僕は思わずそう叫んでしまった。
シズクは何もしゃべらない。
はっ、とするように気づく。
「そうだ、ここにいちゃ危ない。詳しい説明は後でするから、とりあえずこここら逃げて」
「どうして? 」
シズクが口を開く。
「突然、背中にこのメッセージカードがあって、もしかしたらここで戦いが起きるかもしれないんだ。だから早く……」
「分かんないよ」
背後に気配が一つ。みればそこには、一つ目の巨人が今まさに、僕を潰さんと、こん棒を振り下ろそうとしているところだった。
「バディール! 」
叫びながら、シズクを庇いながら一撃をかわす。天を砕き、床に突き刺さった剣を引き抜き、飛び上がり、巨人の腕を切る。その瞬間、グオオオオっと声をあげながら、切り落とした腕は光となって消えていく。
「生物じゃない……!? 」
いたがる素振りをみせ、大きく隙を晒した巨人の両膝を切り、足を失い、落ちるところで、胸を貫く。
足も、巨人自身も、光となって消えていく。断言しよう。そんな生き物、少なくともこの世界には存在しない。
「あーあ、切っちゃって。オウカってそんなに酷い人だったのね。なのに、なーんで庇っちゃうか……」
シズク!? なにを……言ってるんだ……?
「あたしがやったのよ。この鈍感」
シズクが、巨人を操った!? なぜ!? 何のために!? いや、それよりも、どうやってやったか、だ。こんな事ができるのは、召喚魔法ぐらいだが、召喚魔法は生き物を召喚し使役する。あんなの召喚できるはずがない。だからわからない。
「あ、もしかして……なんで、こんなことすんのとか思ってるぅ? 」
「何でなのさ! 」
「復讐よ」
!?
「あたしはね、一人殺したの。あなたが遅かったから……あの時見つけてくれなかったから……私は……私は……! 殺さざるをえなかった! 赤黒く染まってしまった。これは、その復讐なの」
激昂し、狂気の表情をする彼女は、僕に対して、恨みの眼を向けている。
「そんな、どうして話してくれなかったんだ! そんな辛い思い出、一人で抱えるなんて、どうして頼ってくれなか……」
「だまれええええ! あなたにわかるわけない。力のために殺すような化物に、あたしの気持ちがわかるものか! 」
遮るように、叫び、言われもない嘘を吐かれ否定される。
そんな僕を潰さんとするため、光が集まり、火を吐く竜へと変貌する。
「そんなことのために殺して、なんになるんだ!」
きっとこれは、自分を侮辱されたことに対する怒りなのだ。心で叫ぶものの正体を、そうであると確信した。
いいところで終わらせるのは悪いと思ってるのだ。でも眠いから明日書くのだ。クシクシ。
ゲームの光でシャイニングなのだ。クシクシ。