あれからのことからしばらく先まで。次へのカウントダウン
「よーし、みんなー! いっぱい食っちゃえー! 」
その日の夜、家で働いてもらってる9人と、カイとシズクも呼んで、ブレブの店でパーティーのようなことをした。
正直、5人でくくらず名前で呼んであげたいんだけど、名前を覚えるのは超苦手。
例えば、ここに20代くらいの男がいるとしよう。
「ダイル……だっけ、これからよろしくね! 」
「よろしくお願いします。それと私はタールです」
「え!? あー、そうだっけ? よろしくタール」
「ちなみに俺がダイルだぜ、魔王の兄貴! 」
少し離れた席に座っている、ムキムキっとしたガタイのいい魔族の男が、ダイルが自分だと教えてくれた。
と、このように名前はかろうじて覚えているのだが、複数人同時に覚えようとすると、顔と名前が一致しなくなり、名前が定着する前に忘れるとか、そんな感じなのだ。
「おにぃ。あせらずゆっくり……もぐもぐ……覚えてこー」
こら、もぐもぐしながらしゃべらない。お行儀悪いですぞ。あと、ありがとう。
「がんばれーオウカー! 」
がんばります。
そんなこんなでパーティーは終わり、次の日、またその次の日と時間はいろいろっと過ぎていった。
過ぎてくうちに、名前はゆっくり覚えていったし、一応何があっても大丈夫なように、勇者がきた時の対処法から何まで教えたりとかした。
「あいつらは、魔族の角や尻尾をみた瞬間、切りかかってくる可能性があるので、なるべく人間が対応すること。それと、何かあってもなくても、絶対に僕に連絡すること。わかった? 」
「質問いいですか、魔王様」
「様なんてつけなくていいのに。はいどうぞ」
「勇者ってそんなに怖いんですか? 」
「そりゃもちろん。この前きたやつなんか、魔王城を手当たり次第にぶっ壊した後に暴走してたし、殺しはなしの戦いだ! って言いながら、本気で殺しにくるやつだったよ」
「ヒェ!? 」
なんやかんやで一、二週間くらいたち、そろそろ魔王城で寝泊まりしなくてもいいかなって時になった。
「というわけで、僕は、ここでの寝泊まりはもうしない。みんな、いつかちゃんと一人立ちするんだぞ」
僕は、ダイル、タール、エンラ、メグ、カールの五人にそう告げた。
五人は互いの顔をみて頷くと、代表するようにダイルが一歩前にでた。
「魔王の兄貴。俺たちゃ、あんたにいろんなものを与えられた。三食の飯に、和式布団。それとちょっとした小遣い。そんで思ったのさ。朝と昼にちょっと掃除したからって、こんなにもらっていいのかって」
ふむふむ。ふんふん。ん?
「それで俺たちは話し合って決めたんだ。魔王の兄貴! 俺達はあんたの下に着くぜ! 」
んむ。ん? ん? んんんんんんんんんんん!?
「やっ、ん? ちょっと待てちょっと。下に着く? ってどういう……? 」
「決まってるだろ? 俺達はあんたの部下になるっていってんだい! 」
ほうほう。うんうん。えええええええええええ!?
「え? は? え? なん……え? 自立は? え? 自立してくれないの? 」
「だから言ってるじゃねえか。俺達五人は、自立する変わりに、あんたの部下になって、役に立って見せるって言ってんだ! 」
自立しろよおおおおおお! だいたいなんだよ部下って! 雇ってないよそういうの!
「言っとくが、断ろうったって無駄だ。なんたって、俺達の意思はこの世のどんな鉱石よりも固いんだならな! 」
全員で頷くな! なに勝手に納得するな!
「よかったね。おにぃ」
奥の方から現れたのは我が妹ではないか!
「ってあれ? 学校は? 」
「今日は休み。校長先生が休暇とって、どうせならみんなもって」
校長先生!?
「オウカ、今日が最後って聞いてたから、カイちゃんときちゃった! 」
「シズク? どうやってここに? もしかして歩いてきたの?」
「テレポートの精度はおにぃより、はるかに上。直接ワープなぞどうってことない。ブイ」
そういえば、カイは、僕の何十倍も魔法を使えるんだった。
「それより、おにぃよかったね。手駒が増えて」
「手駒いうな。というか部下として雇う気なんて微塵もないよ!? 」
「そんなこと言わずにさあ、魔王の兄貴! 俺達役にたちますぜ? 」
キラキラしたその目でみるなー!
この後、いろいろあって、五人は親衛隊とか、そういうあれで落ち着いた。普段はちゃんと仕事して、いざって時に駆けつけてくれるらしい。家は、住むとこが決まるまで、魔王城でお世話になるんだとかなんとか。それと、メグがカイの弟子になった。カイ曰く、魔法の才があるとかないとかで、もうテレポートは自在に使えるらしい。
それのせいか、おにぃに魔法の才はない。とか言われてしまった。正直、間違いじゃなさそうなのが、チクッと心に刺さる。ちなみにメグはカイより少し年上の女の子である。
「そういえばオウカ、約束のこと忘れてないよね? 」
「ああ、わかってる。前いた世界の話だろ? 」
「そうそう。炊飯器とホットドッグ以外の話題でお願いね? 」
「そうだなー。あ、どうやって死んだか。とかどう? 」
「くらい話は苦手だなー。他にはないの? 」
正直今のは、自分でもどうかと思った。死んだ時の話で盛り上がれるのは転生者同士の時だけだって。
「他かー。あ、そうだ。画面の奥に広がる夢の世界の話なんてどう? 」
「なにそれ、面白そう! 」
何はともあれ、ちゃんと約束も果たせた。
僕が死んだ時の話は、またいつかするとして、この時の僕は、彼女がまさか、あんな大騒動の中心として巻き込まれてしまうだなんて、知るよしもなかった。
9人とかまとめきれないから、魔王城にきた元奴隷の数を5人に減らしました。
ネル