だから誘拐なんてしてないって!
「おにぃ、お帰……え? 」
ギーッと開いた扉の先には、妹がいた。妹は、僕の姿をみるやいなや、固まっている。いったいどうしたというんだろうか。
「もしかして……誘拐? 」
「なぜ、僕がそんなことしなきゃならんのだ」
僕の姿をみたからじゃなく、背中に背負った女性をみたからだった。
「だっておにぃ、人見知りだし」
うぐ。
「話せる仲の女性なんて、王女様と学校の先生と受付のお姉さんと、片手で数えるくらいしかいないし」
うぐぐ。
「おにぃ、ついていってあげるから、出頭しよう?」
「誰が行くか。誘拐なんてしてないし、話せる仲の女性くらい、両手で数えられるくらいにはいる」
あの心配そうに見つめる目が、僕の心を傷つける。
僕は、とりあえずいろいろ説明することから始めることにした。
「別にいい。おにぃが居なくても、全然寂しくない」
なんだろう。心に槍でも刺さってるのかな? 涙が出てきそう。
「で……でも万が一の事があったら大変だし……」
「そんなときが来たら、危ないのはこの人の方」
そういえばこの子めっちゃ強いんだった。
「む……むにゃ……? 」
背中に乗せていたシズクが目を覚ます。
「あ、おはようシズク。よく寝れた? 」
「う……ううん……ん? 女の子? 」
「紹介するよ。この子が例の……」
「もしかして誘拐? 」
「君もか! 妹がいるっていったやろがい! 」
寝ぼけていたとはいえ、二人に同じことを言われるとは……。一応魔王だけど、そんな人さらいみたいなことは、生まれて一度もしたことないと断言できる。
とりあえず、シズクを下ろして、説明をして、やっと信じてもらえた。
「カイちゃんっていうんだ。少しの間だけど、よろしくね」
「おにぃのこと話せる人少ない。寂しくないけど、シズクさんとなら」
なんで手をとりあってるんだこの二人は。なにをわかりあってるんだこの二人。
「じゃあそろそろ、僕は城に戻るから。シズク、カイのことよろしくね」
「わかった。それじゃあまたね」
家を出る時、カイと会えなくなるのを寂しく思い、カイィィと言いながら泣いていたら、キモい早く行けと言われてしまった。
落ち込みながら家を出た後、魔王城へとテレポートした。
キモい……か。こういう時、どういう顔をすればいいのかわからないんだ。
笑えばいいと思いますよ。
天から聞こえてきた気がした。
「あは……あはは……あはははは」
心が傷つき、それを騙すように笑う様は、きっと幽霊とかオバケとか、そういう何かに見えただろう。
もう、嫌われるようなことするの止めよ。
「そういえば、カイちゃんって、オウカとどういう関係なの? 」
突然、そんなことを聞かれた。
「どうして聞くの? 」
「ほら、だってオウカって転生者だーって言ってたし? 」
おにぃがそんなことまで話せるなんて。本当に仲がいい友達なんだ。
「おにぃはおにぃ。それ以上の何でもない」
「そうなんだ」
おにぃはおにぃ。おにぃは、お父さんから私を託された人。そして……。
……。
あれは仕方のないことなんかじゃないし、おにぃの罪は消えたりなんてしない。でも、もうおにぃを恨んだりなんてしていない。
おにぃが優しいのは知ってるし、なにより一番辛かったのは、おにぃのはずだから。
たる。た~る。たるだ!