3ヶ月前のこと。今までのこと。
逃げなきゃ……逃げなくちゃ……
燃える家を背に、森の中を駆ける。はるか遠くに見える城を目指して、泣きながら、叫びを殺し、ただひたすらに。
転んでも、立ち上がって、立ち上がって、立ち上がって、ただひたすらに。
私は……走……って……
「目が覚めたのかい? 」
森で気を失って、気づけば、小屋の中にいた。
「ここは……? 」
「ワシの家の中じゃ。今、食べ物を持ってくる。横になって待ってなさい」
白ひげを生やしたおじいさんは、ベッドの上に横たわる私にそう言って、部屋を出る。
安心しつつも、昨日の事が頭をよぎる。
「お母さん……お父さん……」
涙がブワッと溢れだす。思い出が、二人への愛がより一層、悲しい思いにさせた。
あとでお礼を言って、オウカのところに行こう。そう思っていた時に、ふと、私は匂いに気づく。
いい匂い。私はベッドを出て立ち上がり、部屋の外へと出ようとした。扉を開けた瞬間広がった光景は、私の心を痛めつけた。
血で染まった壁。虚ろな眼をして倒れている老夫婦。指一つ動かない二人をみて、私は昨日の分まで叫び狂った。
私は昨日、本当の恐怖を知った。私は今日、本当の狂気を知った。そして、私は人を殺す感覚を知った。
「お前が三人殺したんだろ? さっさと白状したらどうなんだああ!? 」
「殺したのは一人です……他の二人は知りません」
私は兵士に捕らえられ、冷たい牢の中にいる。仕方なかった。殺さなきゃ、私が殺されていた。気づいたら手が動いてて、おじいさんの首を吹き飛ばしていた。
怖くなって、動けなくなって、捕らえられて、否定して、聞き入れられず三人殺した罰をうけた。
私はそこからも逃げ出して、家なき生活を送った。
独房よりも寒い夜、食べ物すらもろくに食べられない。
「こいつかの有名なお嬢さんじゃね? 捕らえて売っちまおうぜ」
気づけば拐われて、奴隷として売られていた。
他の誰かが売れていくのを見えて、自分も売られてしまうって、そう思い続けて、ただただ怖かった。
私の名前……なんだっけ……
し……しず……しずく……
かすかに聞こえてくる懐かしい声。私の名前……忘れかけていたもの……語りかけるのは誰だろう。
恐ろしくも瞳を開く。
「シズク! よかった……目が覚めて……」
彼女の眼が開いたのを見て、僕は安堵する。
泣きながら話す僕をみて、彼女は口を開く。
「あ、あなたは……? 」
はっきりしない視界に映る彼は泣いていた。言葉から感じる優しさが、私を売り物にした人たちと違うと教えてくれる。
「え……ああ……忘れられて……ちょっとショック」
印象に残らないほどに僕の存在は薄かったのだろうか。
「ううん……違う……けどもう一度、あなたの名前を教えて? 」
ゆっくりと、はっきりとしていく視界に写る彼を、私は知っている。忘れるはずのないその名前。なんど助けてほしいと願っただろうか。その度に、何度彼の名を読んだのだろうか。きっと、いつか助けてくれるって信じてた。
「オウカ……零色オウカ」
願いに答えて、僕は名乗った。それが見つけられなかった僕にできる償いならばと。
「ずっと苦しかった……ずっと悲しかった……」
「ごめん……ごめん……探しても、探しても見つけられなくて……」
「謝らないで……ただ……ただね……ずっごぐごわがっだあ……」
二人は泣いた。ただ泣いた。ただただ泣いて、再開に涙した。
がんだむみりゅ