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2-03 青春なんてしなくていい、って思っていたはずなのに。

 この世界ゲームは、いいものだ。


 幼い頃から体が弱く、友達と心置きなく遊ぶことが出来なかった主人公・倉瀬くらせ雪菜せつなは、ゲームの虜になっていた。


 生活のすべてをゲームに注ぎ込むため、必要以上に余計なことをしないようにしてきた主人公。

 ……だったの、だが。


 学年一のポンコツ美少女・夜月よづき椿つばきに、一目惚れをした。


 初めての恋をした彼は、今まで知りもしなかった胸の高まりに、バグったような思考回路に振り回されてしまう。

 普段からゲームのことで九割九分が埋め尽くされている彼の脳内が彼女に侵食され、恋の厄介さにもがく。


 そんな主人公を幼馴染の海波うみなみ勇人ゆうとと、その彼女の風鈴ふうりんはやては面白がりながらも主人公の背中を押したり押さなかったりする。


 ゲーマーとポンコツが織りなすラブコメが、始まる。

『青春よりゲームを』


 それが高校生活を穏やかに過ごすための、俺のモットーだ。

 ゲームは良い物だ。技術が進むほど、いろんな製作者が生まれるほど、進化していく。

 進化するとどうなるか? 決まってる、楽しいが大きくなる。

 だからこそ、日々進化していくゲームから眼を離せられるわけがない。


「――そう、思ってたんだけどなぁ」


 春風が教室の窓から入り込む。

 おかげで、思いがけず出た言葉はクラスの人たちには聞こえなかったようで……いや、普通にお喋りで聞こえてないだけか。


「よう、ユキ。そんなうなだれてどうした。男らしくないぞ」

勇人ゆうと……。ユキって呼ばれ方してるヤツが、男らしいと思う?」

「男がそんな小さいことを気にするな。それで、どうした? ゲームの攻略で躓いてるとことかあるのか?」

「僕がそんなことするとでも?」

「確かに」


 にかっと悪い顔が笑みになる……んだけど、顔が怖い。

 さすがに小学生の時から付き合いがあるから俺は慣れてるけど、他の人、というかクラスメイトもいまだに怖がってるし。

 いやまぁ、性格がいいから悪い人じゃないのは認知されているからいいけど。


「それで? 何に悩んでるんだ? 相談くらいは乗るぞ?」

「んー、ちょっととある人が気になっちゃってね」

「ほー、気になるって、どんな感じに?」

「端的に言うと、一目惚れ? っていうのをしたんだよね」

「そうかそうか、それは良いことだな」


 はっはっは、と勇人につられて笑い続け――


「――なんだって?」

「近い怖い肩痛い力強すぎ」


 ホントに、肩から変な音が聞こえてるから。


「大丈夫か、熱でもあるのか、病院付きそうか!?」

「あばばばば」


 待って、そんなに揺らさないで視界が滅茶苦茶だし掴まれてる肩が痛い……ていうか外れる! ホントにやめろバカ力!


「……っは! すまない、大丈夫か!?」

「……ダメに決まってるでしょ。気持ち悪いし、肩も痛いからゲームも出来そうもない」


 クラスでも小柄な俺が大柄で、しかも体格も別格な勇人にこんなにされたらこうなるのは火を見るよりも明らかなのに……。あ~、ホントに辛い……。


「いや、本当にすまないと思ってる。それで、あのお前が、誰に夢中になってるんだ? 無いとは思うが、三次元か?」

「俺を何だと思ってるの? ちゃんと三次元だよ……」


 まだくらくらする頭を両手で支えて答える。ホント、マジで気持ち悪い……。


「まぁ、そうだろうな。推しが出来たら語り始めるのがユキだしな」

「その呼び方、そろそろやめない? 女の子っぽいし」

雪菜せつなも大して変わらないだろう? それに、こっちの方が呼び慣れているから今更変えるのもなぁ」


 そう言われると、何も言い返せなくなる。

 事実、俺の本名が倉瀬くらせ雪菜だから、俺のことを知らないヤツは必ずと言ってもいいほど、女の子だと勘違いされる。

 小学生の頃もそれでからかわれてたけど、勇人のおかげでそれもなくなったなぁ。


「んで、その、誰なんだ? お前をそんなに夢中にさせる人って」

「そんな小さい声で話せたんだ、勇人」

「バカ、俺にもデリカシーとか気遣いとか、はやてのために出来るに決まってるだろ」

「惚気を挟むな。リア充は爆発しろ……。別に、今朝ちょっと顔を合わせただけだよ」

「なんだ、相手がどこの誰かもわかってないのか」

「……そうだよ」


 そう、その人が何者かもわかっていない。

 しかも顔に目が惹かれて、それ以外の情報が何もわからない。

 顔だけでこんなにポンコツになってしまった自分が腹立たしい。

 なんで、あの場で他に情報を得ようとしなかったんだ。

 もっと何か情報があれば、探すことも……いや、何を考えてるんだ俺は。青春よりもゲームだろ。なんで青春しようとしている。


「それにしても、そうか。あのお前がな」

「やめろ、そんな温かい目と満面の笑みを向けてくるな」

「そう言うな。昔から誰かに告白されてもゲームが忙しいって断り続けてたじゃないか。その頃のお前と比べると感慨深いもんだ」

「親か。もういいから、さっさと風鈴ふうりんのとこに行きなよ。勇人のこと待ってるでしょ」

「おっと、そうだな。颯といられる時間が無くなっちまう。じゃあな」


 そう言って、交通事故で入院中の風鈴のところに風の如く走り去っていった……先生に注意されてるけど、もう聞こえてないだろうな。風鈴のことになるといつも何よりも優先するし。

 いつだったかな、勇人になんでそんなに風鈴に尽くせるの? って聞いたら、


『颯を笑顔にしたいからに決まってるだろ? 惚れた女なんだから』


 なんて、そんな当たり前のことを聞いてどうした? みたいな顔して言ってたな。

 隣にいた風鈴もそれ聞いて日焼けで少し焦げた顔を真っ赤にさせて、胸焼けしたなぁ。なんであの時の俺はあんなバカなことしたんだろ、バカなのかな?


「はぁ、もうアホらしくなってきた。帰ろ」


 自分の肩掛けのバッグを背負い、教室から出ながら持ち歩きも出来るゲーム機を立ち上げる。

 すれ違う教師もそんな俺の姿を見てもスルーしてくれる。

 どんなに言われようとも、どんなにゲーム機を取り上げられてもゲームを止めることがなかったからとうとう諦められた。努力の勝利だね。

 しばらくゲームしながら昇降口に向かって歩いていると、何故か異様なほど下駄箱に人が集まってるのに気付いた。


「うぇ……。ギッチギチじゃん。どうやって靴取ればいいんだよ……」


 物は試しに、強行突破でもしよう。

 人がいなくなるまで待っててもいいけど、いつまでもゲームのバッテリーが持たないし。さっさと下校させてもらおう。


「……す、すみませっ、通して、ください」


 この人ごみを無理に突っ切ってゲームを壊したら悲しいし、ちゃんとバッグに仕舞ってから進む。……んだけど、周りの人がデカすぎて、いや、俺が小さすぎてなかなか前に進めない。

 けど、ここで諦めたら俺の今日のゲームライフが台無しになる!


「よい、しょ……っと! はぁ、疲れた……」


 体力がごっそりなくなっちゃった……。でも、これでゲームが出来る!


「よし、ゲームの続き――」

「あ、見つけた」


 ……え? 今の声、今朝の――


「よかった、見つかって。今朝はありがとうね、倉瀬雪菜くん?」


 ドクン、と鼓動が強く高鳴った。

 反射的に声のした背後に目を向けて――すぐに出入り口に目を向ける。

 やっぱりそうだ。この声、駅のホームで出会ったあの人だ。

 

「え、と……」 


 ヤバい、顔が熱い。なんだこれ……、ホントにどうしちゃったんだ俺は!?


「あの、なんで俺の名前……」


 なんとか声をひねり出す。

 そう、よくやった。これが一番聞きたいことだ。


「これ、なんだと思う?」

「……あ、俺の学生証。いつの間に」

「駅のホームで私の定期を拾ってくれた後、いきなり走り去っていったでしょう? その時にポケットから落ちたの」


 そう言われてはっとする。

 確かに、改札抜けてすぐのことだったからちゃんと仕舞えてなかった気がする。


「まったく、私の落とし物を拾ってくれたのに今度はキミが落とし物をするなんてね」

「あ、ははは。すみません、ありがとうございます」

「……えっと、どこに手を差し出してるの? こっちを見ないとちゃんと掴めないでしょ?」

「すみません、こっちにも事情があるんです」


 いや、ホントに無理。ずっと出入り口の方を凝視してこの人を見ないようにしてるのに、声だけでもこんなに心臓が痛いんだもん。顔なんて見たら気絶するに決まってる。

 それに今更気付いたけど、さっきからあちこちから視線が集まってすごく痛い! 早く逃げたいからどうにかこの人の方を見ずに取らないと!


「はぁ、仕方ないね」


 ふらふらと当てもなく定期を取ろうと手を振っていると、そっと仄かな温もりに包まれる。

 思わず自分の手を見ると、綺麗な手が俺の手を掴み学生証を渡してくれていた。


「ほら、もうなくさないようにね」


 そして、思わず、視線を上にあげてしまった。

 俺の手を、包んでいる人の顔が見えてしまうくらいに。


「あ、ぁ」


 今朝も思ったけど、やっぱり、綺麗だと思ってしまった。

 優しげに俺を見る目が、少し高く整った鼻が、ほんのりと赤く色づいた頬が、笑みを浮かべている口元が、そして、ハーフアップを施された腰まで伸びた黒髪が。

 その全てが、俺の目を奪う。

 ――あぁ、そっか。


 人は惹かれる人を見ると、気絶するんじゃなくて、こうやって見惚れてしまうんだ。


「……それにしてもキミ、アレだね」

「…………へ?」


 ぽんっ、と頭に何かが乗っかかる。そして、優しく右に左に動く。

 …………え、これ、まさか。


「うちで飼っている犬みたいね。かわいい」


 撫でられている。

 にこりと、綺麗な顔を崩して、今度はかわいらしい顔をしていた。

 

「…………あ」

「あ、ごめんなさい。つい」

「…………あぁ」

「……倉瀬、くん?」


 プツン。と、俺の名前を呼ばれた瞬間、何かが切れた。


「うわ、うわあぁぁぁぁぁぁあああああ!?」

「倉瀬くん!?」


 今朝と同じように、全力疾走でまた逃げた。

 なに、なんなの!? この胸の高まりは! 顔も火が付いたみたいに熱い!

 まさか、ホントに俺が、あの俺が、こんなに動揺するくらい恋を!?


「青春なんてしなくていい、って思ってたはずなのに……!」


 好きが、こんなに厄介だなんて!

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