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2-17 神様フュージョンで異世界救済~自転車操業でハーレムとかやってる暇とかないです~

シン・ウルトラマン観て、王様ランキング観て、サンボマスター聴いて、書いた。滅びの中でも諦めない誰かを応援しようねってことで。

 王国の秘匿された聖域にて、一人の少女を中心に大勢が祈りを捧げていた。

 “唯一神”に向けた信仰を束ねる少女は、王国の第一王女クラリスだ。

 生来より万物の声を聞き、高次元存在である“唯一神”へ信仰を通ずることの出来る破格の才能を持っていた。


 その才能を最高の環境で発揮するべく聖域はあらゆる手段が施されていた。

 外界より隔絶された密室に集められた人々は、いずれも高い信仰心を持つ熟達の修道者である。

 一心不乱に祈りを捧げる事によって、より強い神聖な空間へと聖域を昇華しているのだ。


 “唯一神”の存在する次元へと意図的に高められた空間で、クラリスは極まった神通力を発揮する。


 救済を。甦った“深淵”に蝕われし人界に、再び御身の救済を。


 只管に、それだけを願う。


 いにしえの神話で伝えられる“唯一神”と“深淵”の戦争。

 甦った“深淵”の軍勢に、人類は薄紙の如く領域を蹂躙されている。

 王国の穀倉地帯を奪われた今、破滅の足音は目前へと迫っていた。


 その風前の灯すら、冬に諸共餓死する前に、王都へ向かう“深淵”の軍勢に吹き消されようとしている。


 救済が、必要だった。


 “深淵”に対抗する存在が、かつて神話に謳われたこの世界唯一の神が必要だった。


 クラリスは幼き日より知っていた。

 この世界には自分達を見守る暖かな眼差しが在ることを。

 その眼差しを見つめ返す時、確かな愛情を感じることを。


 例え末世が来ようとも、人類が未だ見捨てられてなどいないということを。

 神話の締め括りにはこう記される。


 “深淵”を封ぜし神は、傷付いた世界を癒す為、自らを礎に捧げた。

 クラリスは真相をこう考えた。

 “深淵”を封じながら世界を支え見守ってきた神は弱っている。


 世界に平和が訪れて現在まで、唯一神への信仰は減少の一途を辿っていた。

 平和と共に人口が増加し、それが人間同士の争いへと繋がった為だ。

 唯一神は人界には干渉せず、ただ見守るだけだった。


 やがて人は自らを救わぬ神への信仰を失っていった。

 実際には日々衰えながらも“深淵”から人類を守り続けていたのだが、信仰を失った人々にそれは解らない。

 力が弱り、封印が緩み、“深淵”を解き放ってしまった。


 人類の現状は恩知らずが招いた自業自得だったのだ。

 それでもなお、クラリスは祈り続けた。

 “唯一神”の存在を、まだ感じている。


 消えていない。微かながら見守られている。

 それを知っている。

 高位の修道者でさえ、最早希薄な繋がりを感じ取ることすら出来ない。


 それほどまでに弱り果てながらも、こちらに応えようとする意志がある。

 だからこそ、クラリスは諦めていなかった。


「“唯一神”ルシファードよ。この身を全て捧げます。貴方様のお力に成れるよう永劫に信仰を捧げます。だからどうか――」


 救いを、と続けようとした言葉が途切れた。

 秘匿は暴かれた。

 閉鎖空間として機能していた聖堂の天井が破壊されたのだ。


 轟音と共に破裂した天井が落石となって幾人かを押し潰した。

 悲鳴は上がらない。

 この場に居る全ての修道者達が、即座に事態を理解した。


 邪悪なる意思、世界を蝕む“深淵”の気配を開け放たれた天井から感じ取ったからだ。

 全員が身構えた。

 己の果たすべき使命を成さんが為、一斉に魔術を投射する。


 天井の穴を更に広げながら高位魔術が殺到する中、一つの影が悠然と侵入してくる。

 艶めかしい光沢を放つ黒い肉肌。蠢く触腕。全身を覆う刺々しい突起。

 攻撃的で冒涜的な生き物のようなナニか。


 それはこの世を滅ぼす“深淵”の使者だった。

 一発が岩を抉り飛ばす威力を持つ高位魔術をまるで意に返さず、使者は聖堂内を一望する。

 その視線が一点で止まる。


 視線の先にはクラリスが居た。

 背後の出来事にも集中を乱さず、一心に祈り続けるクラリスの姿があった。


『大したもんだな。自分が死ぬって時でも神頼みたぁ。筋金入りの狂信者だ』


 不協和音のような声を上げて使者は聖堂の床へと降り立った。

 そこへ修道者の幾人かが仕掛けた。

 三方向より聖別された銀剣を持っての襲撃は、使者の黒肌を貫いた。


 同時に、虫を払うような仕草で振るわれた触腕によって、修道者達は肉片へと変わる。

 怯まずに別の修道者が真正面から全霊の魔術を放つ。

 肌を幾らか焦がしたものの気にした様子もなく、気だるげに触腕で修道者の心臓を串刺した。


『流石に上澄み中の上澄み。傷ついたのは初めてだぜ。それでも悲しいかな。てめえら全員死ぬんだよなあ。それで全部“おしまい”だ』


 使者は降り立ってから一度も動いていなかった。

 愉悦に歪んだ声音で、修道者達の決死の抵抗を嘲るだけだ。

 その過程で何人もの命が散っていく。


 それでもクラリスは祈ることを辞めなかった。

 無残に散っていく修道者達が、事切れる間際に託した信仰を感じていたからだ。

 肉を裂く音に混じるくぐもった声が、苦痛のみならず闘志に震えていたからだ。


 自分を守る盾となり、数秒、あるいは数瞬の時を稼いで死んでいく彼等もまた何一つ諦めていなかった。

 諦めずに、圧倒的な絶望に向かい続けて――


『――悲しいねえ。血染めの肉床で祈る姿にそれでも神は応えねえんだなあ?』


 最後に残ったクラリスに向かって、使者は心底愉しそうに言った。

 抵抗の無くなった聖堂の中を悠然と歩きだす。

 それを止める者はいない。


 触腕が振るわれる。


「ッ!」


 クラリスの左肩が裂けた。

 祈手が解け、左手が垂れる。

 僅かな苦悶が漏れるが、祈りの構えは崩さない。


 鎖骨が砕け、動脈を切られた以上、数分も続かない神への祈り。

 この期に及んでも祈り続けるクラリスを見て、使者は興味深そうに語り掛ける。


『おいおい、もう終わってんだろ。もう間もなく死ぬってのにすることが、そんなことでいいのか?』


 流れ出す血を触腕で拭い、傷口に先端を埋めていく。


「ぅッ!?」

『なあ、教えてくれよお姫様。応えぬ神に祈りを捧げるのがそんなに楽しいのか?』

「アアァッ!!」


 敢えて傷口を広げるように触腕を動かしながら問い掛ける使者。

 激痛に悶え、涙を滲ませながらも、クラリスは震える手で祈りを辞めない。


『ああ、悪いなあ。このまま塞いでてやるから、飽きちまう前に答えてくれよお?』

「ぐ、ぅ、あぁ……!」


 使者は触腕を傷口に食い込ませ、反射的に顔を逸らそうとする顎を抑える。

 祈手を崩さぬままにクラリスは初めて使者へと視線を向けた。


「神は、見ているッ……! 例え、かつての、ようにッ、そのお力を、振るわれなくとも……!」


 吐息を立てながらも、怯まずに言葉を紡ぐ。


「命の営み、人の愚か、さ、かつて在りし者、達の願い……!」


 動かぬはずの左手で、肩に突き立つ触腕を掴み、クラリスは吠えた。


「終わらない……! 終わらせはしない……! 神が、あの方が見捨てていないのなら! 私は諦めないッ!!」


 そう言って、血で濡れた左手が再び落ちた。

 しばらくの間を置いて、触腕が傷口から引き抜かれた。

 その激痛すら反応を見せず、クラリスは朦朧とした意識で祈りを続ける。


『好きにするといいさ。俺の仕事はもう終わってる。アンタが死ぬのを眺めるくらいの余裕はあるからなあ』


 嘲りも、舐めるように頬を撫でる触腕も、認識の外にある。

 暗くなる意識の中で、クラリスは無意識に口ずさんだ。


「……けて、神、さま……」

『ヒヒヒャアアアアアハハハハッ!! おやすみ、哀れで滑稽な――――!』


 使者の嘲笑が途切れた。

 燈台しかない薄暗い聖堂内が、突如閃光に包まれたのだ。


『ナンだと!?』


 閃光は衝撃を伴って、クラリスと使者の間を遮るように発生した。

 その衝撃の強さに使者は初めて己の意思以外で動かされた。

 すぐさま体勢を立て直すと、使者はその現象を視界に収める。


『何が起きやがった!?』


 光だ。

 光源など蝋燭しか無いはずなのに、輝く何かが収束している。

 肉片と成り果てた修道者達から抽出されていくように、光がクラリスの目の前に形を作っていく。


『馬鹿なッ!? オマエは出てこれねえ筈だろッ! 何故今更になって出て――!?』


 光が使者を吹き飛ばした。

 反応速度を超えた一撃に使者は抵抗も出来なかった。

 触腕を地面に突き刺すことで踏み止まりながら、全力で辺り一面を薙ぎ払う。


 聖堂内の輪切りにしながら、触腕は光へと激突した。

 激突して、止まった。

 光は薙ぎ払いを受け止めると、天井に空いた穴へと向かって使者を投擲する。


(なんだこれは!? 出力が違い過ぎる! 俺が、この俺が!! 抵抗も許されないまま……!)


 垂直に凄まじい勢いで天へと昇る。

 急速に遠ざかる景色の中で、使者は見た。

 聖堂から迸る光の奔流を。


『――あーあ、終わってたのは、俺の方だったか』


 奔流に呑まれ消えゆくさなか、深淵の使者は己を嘲るように言った。


 崩壊寸前の聖堂の中、クラリスは徐々に収まっていく光を見ていた。

 それは人の姿をしているように見えたが、最早よく解らない。

 だけど、祈りが通じてくれたのだと、そう思うことにした。


 無駄にならなかったと、思いたかった。

 その事が嬉しくて、最後にそれだけは伝えたい。


「ありがとう……」


 力が抜けていく。

 傾く身体を、誰かが支えた。


「こちらこそ、ありがとう」


 消える意識に何かが聞こえた。

 暖かい声だと思った。

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