表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

エッセイ

投稿する勇気が持てない方へ

作者: 歌池 聡

新しい書き手の方がひとりでも増えてくれることを願って──。



『小説家になろう』を読者としてお楽しみの皆さん。

 皆さんの中には『自分もこんな風な作品を書いてみたい』とか『自分ならもっと面白い作品をかけるかもしれない』と思っている方もいるでしょう。


 でも、どうにも一歩踏み出せない。書いてはみたけど、全く読まれなかったり、批判されるのが怖くて投稿する勇気が持てない──。そんな方も多いのではないでしょうか。






 もったいない。実にもったいないです。

 せっかくこういう小説投稿サイトという場があるのです。やってみたいという気持ちがほんの少しでもあるのなら、やってみなければ損です。自分はそう断言します。

 何故なら──こういう場が無かった時代のことを良く知っていますから。






 自分が見よう見まねで小説を書き始めたのは、今から〇十年前、中学生の頃です(今でこそ歴史物を書いていますが、実は当時はSFを書いていたのです)。

 ──小説投稿サイトどころか、インターネット、いや、パソコンですらろくに普及していなかった時代です。

 そんな時代に、自分の書いた小説を不特定多数の人に読んでもらう方法は2つしかありません。

 

 公募に応募して入選するか、学校の文芸部や一般の文芸サークルに所属して会報に掲載してもらうか、です。


 でも──今はどうかわかりませんが──当時の学校の文芸部というのは、どうしても根暗な集団というイメージがありました。

 あわよくば彼女でも作って楽しい学生生活を送りたいという願望を持つ少年にとって、文芸部に入るというのはかなりリスキーです。


 かといって、学生の身で社会人の多い一般の文芸サークルに所属するというのも、なかなかにハードルが高いです。

 何しろ、今のようにネットでそれぞれのサークルについての情報を得ることなど出来ない時代なのですから。






 そういうわけで、自分は無謀にも、公募への応募にチャレンジし始めました。

 2作ほど応募しましたが、当然のことながら、一次選考にすら引っかかりません。


 もっともっと勉強しなければ駄目だ。

 そう思って、色々な小説入門書を読み漁りました。


 そんななか出会ったのが、日本のスペースオペラの草分け的存在である野田昌宏氏が書いた『スペースオペラの書き方(ハヤカワ文庫JA)』でした。

 その本には、様々な創作する上でのテクニックに関する話の後に、他の入門書にはなかった、小説完成後にやってみるべき()()()()が書いてありました。


 それは──目の前で他人に自作を読んでもらい、どの部分で面白がったか、退屈そうにしていたか、その反応を逐一観察して記録すべし、というものです。


 かなりキツい思いをするから覚悟しておくように、とも前置きしてありましたが……。






 これはねぇ。

 実際にやってみた経験から言わせてもらうと、あまりお勧めはしません。

 心が折れます。それこそ、再起不能なくらいバッキバキに折れます。






 ちょっと想像してみて下さい。


 あなたが、親しい友人から「小説を書いてみたので読んで感想を聞かせて欲しい」と頼まれたとします。まあ、断りませんよね。

 でも、例え読書がどれほど好きな人でも、読みたいタイミングや、その時読みたいジャンルもありますよね。

 素人が書いた、面白いかどうかもわからない作品──おまけに、目の前で作者がじーっとこちらを見ていたら、そりゃ集中して楽しむなんてできませんわな。






 (くだん)の本には、読んでもらう相手は『ちゃんと本の読めるクレバーなタイプの女の子が望ましい』と書いてあります。


 ──当時、自分にはちょっと仲のいい同級生の女子がいました。よく話すだけではなく、本やカセットテープ(⁉)の貸し借りなども頻繁にしていて、趣味も似ています。

 正直、『あれ、これってちょっといい感じなんじゃね?』と思っていたくらいに。


 で、勇気を出してお願いしたところ、すっごいいい笑顔で快諾してくれるわけです。

『え、歌池くん(仮名)、小説書いたの? すごい! うん、読ませて!』






 後日、喫茶店に行き、ちょっとお高いケーキセットなんぞを御馳走してから、いよいよ読んでもらうことにします。

 彼女も、楽しそうに読み始めてくれるわけなんですが──でも、見ているとわかっちゃうんですよね、彼女のテンションが徐々に下がっていくのが。

 かなり力を入れた部分がさらっと読み流されたり、逆にそうでもないところをじっくり読まれたり──。


 それが、中盤にさしかかると、読むペースが一定になってきます。そろそろ退屈し始めたのか、表情も平板なものになっています。終盤辺りでは早く終わらせたいのか読むスピードが上がり、表情には苦痛の色すら浮かんでいます。


 そして、最後の1ページを読み終えた後、彼女は表情を作り直して、少しくたびれた醒めた笑顔でこう言うのです。

『うん、なかなか面白かったよ』


 ──いや、もう途中の表情で全部わかっちゃいましたから。






 あれは本当に心が折れました。それからしばらくは、小説を書くことが出来ませんでしたね。

 たぶん次の作品を書いて読んでもらおうとしても、こちらを傷つけないようにやんわりと、そして絶対に断るんだろうなぁ、というのが見て取れましたから。






 ──さて、おっさんの昔語りはこのくらいにして、本題です。


 批判されるのが怖くて投稿する勇気が持てない、という気持ちは良くわかります。

 自分も批判されるのが全く怖くないわけではありません。


 でも、あれを体験した身としては、こうも思うのです。

『目の前で人間関係にひびが入るのをリアルタイムで感じることに比べれば、どうってことないやん』と。


 ネットで、顔も知らない他人に批判されても別にいいじゃないですか。

 あなたのリアルな人間関係にはまったく影響ないですから。

 この人の意見は聞きたくないと思えば、ブロックやミュート機能を使って関係を断つことも出来ますし。

 しばらくやってみて、どうしても無理! と思うなら読み専に戻るという手もあります。


 でも、中には一所懸命に応援してくれたり、建設的な意見をくれる人もいるのです。

 批判を恐れて、そういう声を聞く機会を始めから放棄してしまうのは、やっぱりもったいないですよ。






 せっかく小説投稿サイトがあるのです。まずは投稿をはじめてみましょう。


 貴方の作品を読む方は、強制されて読む人ではありません。ジャンルに興味があってか、タイトルに惹かれてか──いずれにせよ、自発的に読んでくれる方なのです。

 そういう不特定多数の人に読んでもらうことが出来る──これ、自分の時代にはまずあり得なかった、かなり幸せなことなんですよ。


 ──え? 『自信がない』?


 何を言ってるんですか。自信がある人は、始めから公募にでも応募すればいいんです。


 小説投稿サイトのもう一つの特徴──それは『未完成の作品でも読んでもらえる』ということです。

 連載をしていれば、途中で自分の気づかなかった設定の矛盾点を教えてもらったり、より良くするアドバイスも貰えるかもしれない。


 自信のない初心者こそ、まずはこういうサイトでチャレンジするべきです。


 そして、自信作が出来たと思ったら各種コンテストに応募してみましょう。この『なろう』では手続きも簡単です。タグに指定のキーワードを入れるだけですから。






 もちろん、まずは誰にも読まれなければ話になりません。

 その辺は、初心者向けの創作論や戦略について書かれた諸先輩方のエッセイも多数ありますので、まずはひと通り読んでみて下さい。


 今、ちょうど『エッセイ』ジャンルが地味に盛り上がっています。まずエッセイから投稿してみるというのも手ですよ。読まれる確率は高いです。


 どうしても不安だというのなら、今のその気持ちを恰好つけずに正直に吐露してみて下さい。きっと、面倒見のいい先輩書き手が何かしら反応を返してくれますよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
歌池 聡様。 はじめまして。とても共感できるエッセイでした。 私も知り合いに見てもらうのは気恥ずかしいし、辛いですね(~_~;)。 やはり素人小説は第三者のみ知らぬ人からの評価が一番健全でいいし、後腐…
自分の書いたものが批評されるのは嫌ですが、プロになるためには避けては通れないところですよね(;^_^A 以前出版社に持ち込んだ人から聞いたのですが、編集者さんって目の前で読んでくれるそうです。そしてそ…
 私の場合は活字中毒の娘が、なろうにアップする前に読んでくれるのですが、これ他人なら遠慮して貰えますが、親子だと遠慮会釈が無いので、モロに痛いとこぐさあって刺されたりするので、めちゃくちゃめげます。笑…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ