寝顔
今日は母よりも早く寝た
いや、いつも母が寝るのは遅い
具体的に何時に寝ているかはわからない
もしかしたら一睡すらしていないのかもしれない
今日も母よりも早く寝た
母の夜は長く、朝は早い
だから僕はいまだに
母の寝顔を見たことがない
今日も母よりも早く寝た
今日も母よりも早く寝た
今日も母よりも早く寝た……
母は僕よりも早く眠りについた
かくして僕は初めて母の寝顔を見た
眉間のシワと
目の下のクマ
いつのまにか侵食していた白髪に
いつのまにか明瞭になっていた首の筋の一本一本
僕は何も言えなくなった
もっと長生きをしてほしかったとか
もっと親孝行をしたかったとか
僕は何も言えなくなった
それを言ってしまうのは
無責任だと思ったからだ
僕は母の寝顔を見た
目に焼き付けるべきだったのだろうが
あいにく目には焼き付かなかった