最終話
事件は呆気なく解決した。
呆気なく、とは言いすぎかもしれない。犯人逃亡を回避するため、抜き打ちで刑務所に乗り込んだところ、受刑者ではなく、中年の刑務官がひとり逃げ出したのだった。
普段は目立たない、無口で真面目な刑務官だ。
逃走を図る途中で確保したところ、その刑務官にあらかじめ指示されていたらしい受刑者達が刑務官を逃がそうと刑務所内で暴れ回り、騎士団のほとんどを動員する大騒動となった。
刑務所内は受刑者と騎士団との攻防が繰り広げられた。
その怒号は、四方八方を塀で囲まれているのにも関わらず、地響きのようにびりびりと首都を揺らした。
ベレンガリアが耳を塞がなくては卒倒する音量だった。
確保された刑務官はエドウィンに似ていた。
エドウィンよりも裕福で、筋肉質ではあったが。
頑として喋ろうとしない刑務官を半ば拷問して声を出させると、ベレンガリアは確信を持って犯人であると断定した。
それからの収拾は早かった。
暴れた受刑者達の多くは、このひとりの刑務官が手配した悪党によって家族に監視を置かれており、いつでも殺せると脅され、従うしかない状況だった。
受刑者達の家族を保護すると、受刑者達はあっという間に沈静化し、事態は落ち着いた。
刑務官は犯罪集団の幹部だった。
騎士団により犯罪集団は解体され、ベレンガリアは逃げも隠れもせずに生活できるようになった。
◇◆◇◆◇◆
「綺麗だよ。──ベル」
「うん、似合ってるー」
ルオーにネクタイを締めてもらい、リーシェにマントを留めてもらう。
すっかり騎士団の正装に身を包んだベレンガリアは、照れくさそうに頬をかいた。
ベレンガリアは騎士団に入隊した。入隊式が今日なのだ。
ベレンガリアが配属されるのはいわゆる索敵といわれる最前線の部隊で、その聴力で早期に敵を発見し、部隊全体を安全に導くという重要な役目を担うことになった。
もちろん、部隊の隊長はルオー。
リーシェはベレンガリアの護衛を続行する。片腕であっても、リーシェに叶う団員がいなかったのだ。
リーシェに負けた団員はさらに厳しい訓練を課せられたという。
正装に身を包んだベレンガリアの顔は溌溂と輝き、自信と期待に満ち溢れていた。
自分の能力を活かせる、それだけで彼女は強くなれた。
守られるだけの彼女ではなくなったのだった。弱虫のベレンガリアはもういない。
そして彼女の左の薬指には輝く指輪が──。
(まあ、いつでも傍にいられるし? 隙があったら奪っちゃうし? 行こうと思えば、ふたりでどこにでも行けるしー)
と、強がるリーシェも義手に慣れてきたところだった。
「──ベル……愛してるよ」
歩き出そうとするベレンガリアの背中にルオーが言うと、ベレンガリアは振り向いて──。
了




