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君だけに嫉妬しよう

 

 その出来事から私は変わった。心だけではなく、見た目も。


 私は禁断の力によって足を手に入れた。そう、人間の姿を手に入れたのだ。


――私はかつては人間を羨んでいた。今はその人間になる事が出来るようになったが、あくまで目的のためのただの手段にすぎない。


そして、第三王女のティリスはこの世に存在しないものとなった。

 私は、ティリス・セイドリーテ改め、フェール・タラッサという名を手にした。


 さて、準備は整った。


 クオンと私の愛を叶えるための舞台を整えよう。


――もう、誰にも邪魔させない。



 そして、それから12年が経った。

 私は、クオンとの愛を誰にも邪魔させないためならば、どのような行動も厭わなかった。中には人として禁忌とされる非道もたくさん行ってきた。全てはクオンのために……


 そして、遂に王国で一番の力を手に入れた。そして、優秀な部下たちも育て上げた。

 王国では国王派に継ぐ勢力を持っているだろう……だがまだ足りない。王国で誰にも邪魔させないための力を手に入れなければクオンとの幸せはない。


 今日もクオンのために日々勤しんでいる。


 そんな最中、私は、帝国との戦争始まるということを耳にした。さらに名声を高めるためにも、王国軍を率いて参加することにした。


「お嬢、どうせ王国を乗っ取るのに、わざわざ帝国との戦争に協力する必要あるの?」


 私に話しかけてきたのは、部下の一人であるエリザベスだ。


「私が王国を支配する前に、帝国に奪略されたら面倒でしょ? それに他にもメリットある、だからこの戦争に参戦するのよ」


 私の言葉にエリザベスは納得したようだった。


 そして、帝国との戦争が始まった。


 私は三つある戦場のうち、一つの戦場の総大将を任されることになった。


 戦争が始まる前の私の作戦はこうだった。序盤はわざと何も行動せず、王国軍側を帝国に攻めさせる。そして王国軍が壊滅寸前になったら、私の力で帝国軍を全滅させるのだ。そうすれば反乱に邪魔な王国軍も少なくできる、帝国軍を撃退出来る。さらには、誰もが負けを確信する場面で私が王国を勝利に導いたという演出も出来る。メリットばかりの作戦だった。


 しかし、その作戦は変更せざるを得なかった。なぜなら、その戦争には、私の愛するクオンが奴隷兵の一人として参戦しているこということを知ったからだ。


「エリザベス、作戦を変えるわ……クオンを英雄に仕立て上げることにするわ……だから、あなたにも協力してほしいことがあるの」


「了解だよ」


 私は、クオンのために作戦を変更することにした。


 そして、戦争が始まると、エリザベスの肩入れを受けつつ、クオンは自分の力で活躍をしていった。クオンは記憶が無いとはいえども、この9年間で強くなるためにかなりの努力したのだろう……

 ああ、素敵だ。私のために強くなろうとしてくれたんだ、きっと。


 そして、クオンの活躍もあり、戦争は終盤に差し掛かる。私は作戦を実行するためにも、エリザベスに命令を出した。


「作戦会議にクオンを連れてくるようにして頂戴」


 その後、エリザベスの巧みな誘いにより、クオンを作戦会議に連れくることが出来た


 そして、作戦会議が始まる。私があまり戦闘に参加しなかったことを受け、やはり王国軍は劣勢であった。そのため、論議は思うように進まない。


(計画通りね……あとはクオンにこの状況をひっくり返す作戦をこっそりと伝えるだけね)


 私はそう考え、実行しよう考えた。だが、クオンの様子がおかしかった。まるで無能な王国軍を見て、何故こんな簡単な作戦を思いつかないのだろうという顔をしていたのだ。


 それを見て私はクオンの意見を聞くことにした。


 するとどうだろうか、クオンは私の作戦に気付いていたのだ。私が英雄に仕立て上げる必要もなく、クオンは戦争で活躍する知力、劣勢をひっくり返す思考力を兼ね備えていたのだ。その両者とも、9年前のクオンは持っていなかった。つまり、記憶を消されながらも私のために努力を惜しまなかった、ということだろう。


(たとえ記憶を失っても、私のために努力するなんて……ああ、なんて素敵なの、私は幸せよ……)


 それから、クオンが提案した作戦を遂行し、王国軍は帝国軍を撃破した。


 そして、帝国軍を撃破したので私はクオンに会うことにした。


 目の前には私の愛する人がいる。


 純白の魔女ような汚れ一つない白い髪、肌は少しだけ黄色、幼くも見える童顔と、中世的にも見える整った顔。クオンは12年前となにひとつ変わっていなかった。それに比べ、私は当時11歳で今は23歳。随分と変わってしまった。心も体も。


「クオン少佐、いや、クオンと呼んでも良いですか」


 私は我慢しきれずに、クオンに声を掛けた。


「はい、構いません」


 クオンは敬語で答える。やはり私の記憶があるわけではないのだろう。


「ありがとうございます……」


 私は涙が溢れそうになるのを我慢しつつ、話を続ける。


「私のことはティリスと呼んでください」

「……ティリスですか?」


 クオンにはフェール・タラッサという偽りの名前で呼んで欲しくない。だから、私は第三王女だった、クオンと出会った頃の名前で呼んでもらうことにした。


「はい。私の本当の名前です……やはり覚えてませんか?」


 大きな不安を抱えながらも少しの望みを込め、私はクオンにそう聞いた。


「……なんの話ですか? お名前はティリス大将とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


 その言葉を聞いた瞬間、堪えていた私の涙は溢れ出した。感情が止められない、知っていたはずなのに、クオンの記憶が無いことを。


「すみません、何か気に障りましたか?」


 クオンが心配そうな顔をして、聞いてくる。その顔を見て、心配をかけたくないと思い泣き止む。


「いえ、なんでもないです。ただ、ティリスと呼び捨てで構いません」

「でも、公爵家当主の方を呼び捨てにするのは……」


 今の偽りのフェール・タラッサは、第三王女ではなく、公爵だ。奴隷であるクオンが公爵を呼び捨てにするのは難しいだろう。だが、私は知っていることがある。


「ベスは呼び捨てなのに?」


 手助けして貰ったときに、クオンはエリザベスを呼び捨てで呼び合う仲になっていることを、


 私は頬を膨らませながら、クオンに言った。


「では2人きりの時はティリスとお呼び致します」

「敬語も無しです」


 エリザベスとは敬語で話していない。


「わかったよティリス」

「はい、クオン」


 私は12年ぶりにクオンに名前を呼ばれて、照れる。そして、12年ぶりにクオンとふれあいたくなった。


「今から、私がすることは気にしないでください」


 私はクオンに近づき抱きしめる。

 触れ合って分かったが、12年前の筋肉の少ない細身の体と違い、今のクオンはしっかりと筋肉が付いていた。きっとクオンも苦労をしてきたのだろう。

 私は抱きしめる腕に力を入れる。


「……久しぶりクオン……会いたかったよ、あの時は君の方が年上に見えたのに、今は私の方が年上に見えるね……君と別れてからずっと、君だけのために私は頑張ったんだよ……きっと私を思い出させてあげるから、もう少し待ってね」


 記憶の無いクオンは、どうやら混乱しているようだった。その時、後ろから声が掛かけられた。


「……お姉様、私から愛する人(クオン)まで奪おうとするのですか?」


 この声は、モネ・タラッサだろう。私の義妹だ。12年間の間の私行った非道の被害者の一人だ。そして、私の目的のためにその公爵令嬢という身分を奪い取り、平民に落したはずだ。そして、今の名前は確か、ルーイと言ったはずだ。


「別に私は奪う気はないわよ……ただクオンは元から私の大事な人なの、きっと全てを思い出したら私を選んでくれる」

「クオンは私と愛し合ったんです……余計なことはしないでください」


 クオンと愛し合うとはどういうことだ……私はこの女を殺そうと殺気を出した。


「まあ、何があったかわからないが落ち着いてくれ」


 しかしクオンが止めてくる。私は今現在のクオンの気持ちが気になり、質問をした。


「クオンはどっちがいいの?」


「ティリスとは今あったばっかりだし、ルーイの方が大事かな」


 クオンの言葉を聞いて、私は落胆した。世界が終わった気がした。その時、


『今は彼女に譲ってあげればいいのよ……恋は奪い取るほうが楽しいのよ、それにそっちの方が妬けるでしょ?』


 レヴィアタンが声を掛けてくる。レヴィアタンとは私に力を貸してくれた、私の心に住む力の名前だ。その言葉を聞いて確かにそうだ……別に最後にクオンが選んでくれるのが私ならいいかと思い、冷静になる


「絶対に私のものにしてみせる」


 最後にクオンを奪い取るのは私だ……何があってもだ。


――私は嫉妬に狂う。


――私の(嫉妬)をクオンに向けよう。


 それが私の生き方だ。

ここまで、お付き合いいただきありがとうございました。

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